「【病気について】」カテゴリーアーカイブ

摂食障害と新生児、乳児への影響

摂食障害と新生児、乳児への影響

妊娠をきっかけに摂食障害の治療を始められる方がいます。

母親の栄養は、乳児にとって重要であることは以前から知られています。

母親の摂食障害が、生後1年間に乳児に及ぼす影響を研究した報告があります。

それによると、摂食障害の症状が持続している群の児において、自律神経系の不安定さが報告されました。

また、産後1年目の時点で、摂食障害の既往のある群の児には、健康な対照群に比べて言語発達および運動発達の障害がみられたとの報告があります。

摂食障害は10代の頃から出現しやすい病気です。

摂食障害の方は治療に取り組むのが困難で、自分が摂食障害であることを否認することも多いため、摂食障害が新生児や乳児にもたらすリスクについて知っておくことで、治療開始のきっかけになってほしいものです。

【子供の病気】熱性けいれんとその後【てんかん発症率】

お子さんが熱がでてひきつけを起こしていると、とても心配になります。

「けいれんが今後も続いて、てんかんになったら将来どうしよう」など不安になります。

では、熱性けいれんを起こした後、どのような経過をとるか詳しくみてみましょう。

熱性けいれんとは

熱性けいれんとは乳幼児期に起こる発熱に伴うけいれん発作と定義されています。

ただし、熱性けいれんは乳幼児期だけでなく全ての年齢で見られます。

有病率は諸外国ではおおむね2~5%といわれていますが、日本では7~11%とやや高いようです。

基本的には良性の疾患です。

熱性けいれんを起こした後のてんかんになる可能性は?

熱性けいれんを起こしたことのある小児が、後に誘因のない無熱性けいれんを2回以上くりかえすような熱性けいれん後てんかんの発症率は2.0~7.5%程度であるといわれています。

ちなみに一般人口におけるてんかん発症率は0.5~1%ですので一般発症率よりは高い傾向となりますが、それでも熱性けいれんの90%以上の子供はてんかんを発症しないということです。

熱性けいれんQ&A

Q.熱性けいれんで受診した時に、特に検査をしてもらえませんでした。大丈夫でしょうか。

A.熱性けいれんを起こした場合、すべてのお子さんに検査を行うわけではありません。

ただし、診察した医師の判断により、下記の検査を行う場合があります。

髄液検査

髄膜刺激症状や30分以上意識障害がある場合、また大泉門膨隆など髄膜炎などの中枢神経感染症を疑う所見がある場合は積極的に行われます。

採血

全身状態が良くない場合など重症感染症を疑う場合や、意識障害が続く場合、脱水などを疑う場合に採血検査をされることがあります。

頭部CT、頭部MRI検査

発達の遅れや、発作後麻痺を認める場合は検査されることがあります。

Q.熱性けいれんが起きた後、予防接種はしていいでしょうか。

A.当日の体調に留意すれば、主治医に相談したうえで、すべての予防接種をすみやかに摂取してよいとされています。

Q.熱性けいれんが起きました。今後の再発が不安です。

A.熱性けいれんは基本的には良性の疾患です。熱性けいれんの再発予測因子は以下の4因子といわれています。

1)両親いずれかの熱性けいれんの家族歴がある

2)1歳未満の発症

3)短時間の発熱-発作間隔(概ね1時間以内)

4)発作時体温が39℃以下

再発予測因子がない場合の熱性けいれんの再発率は約15%といわれています。予測因子がある場合は約30%~と言われています。

Q.熱性けいれんから、てんかんを発症するのはどのくらいの確率ですか。

A.熱誠けいれんを起こしたことのある小児が、後に誘因のない無熱性けいれんを2回以上くりかえすような、熱性けいれん後てんかんの発症率は2.0~7.5%程度であるといわれています。

ちなみに一般人口におけるてんかん発症率は0.5~1%ですので一般発症率よりは高い傾向となりますが、熱誠けいれんの90%以上の方はてんかんを発症しません。

Q.熱性けいれん後にてんかんを発症する関連した因子はありますか。

A.熱性けいれん後のてんかん発症関連因子は以下の4つがあります。

1)熱性けいれん発症前の神経学的異常

2)両親・同胞におけるてんかん家族歴

3)複雑型熱誠けいれん(焦点性発作or発作持続が15分以上or一回の発熱の中での再発のいずれか1つ以上)

4)短時間の発熱ー発作間隔(概ね1時間以内)

まとめ

熱性けいれんは諸外国に比べ日本では比較的多くみられ、5歳以下では20~30人に1人はみられる疾患です。

熱性けいれんがみられても90%以上の子供はてんかんを発症することなく良性の疾患といえます。

過度に心配しすぎずに、かかりつけの医師に対応の仕方等を相談しながら経過を見守ることが大切です。

成人期ADHDの治療【心理教育、環境調整編】

成人期ADHDの治療アプローチには様々なものがあります。

精神療法、特に認知行動療法では、機能分析を活用した悪循環の理解、問題解決的技法や思考記録法、認知再構成法、スモールステップの原理などの一般的な認知行動療法の理論や技法を基盤として、順序だてと計画性、注意持続訓練などの成人期ADHDに対する技法を組み合わせます。

成人期ADHD対する精神療法の治療構成について

1)心理教育

心理教育は多くの精神疾患に対する精神療法で重要とされていますが、成人期ADHDに対しても治療上有効です。

心理教育として、ADHD、成人期ADHDの特徴や考え方を理解し、知能検査や性格検査などの諸検査の結果からADHDの症状だけではなく、自分の性格傾向、長所や短所などの特性を理解します。

ADHD特性を踏まえた自己理解を深めることによって、今後のセルフコントロールを高める自信を持つことが重要です。

また、ADHDによる生活への影響を知ることで、これまでの生活のしづらさが自らの性格や怠惰によるものだけではなく、神経生物学的要因が引き起こしていたことを知ることで、回復力を高めることができます。

2)環境調整

成人期ADHDへの治療の一つに環境調整というものがあります。

治療的対応としての、生活環境を工夫することですが、有効な場合は非常に多いです。

環境調整として、職場での職業カウンセラーやジョブコーチなどの関わりや、周囲に症状を理解していただき、配慮をしてもらうことで、本人の作業能力が大きく向上することがあります。

具体的な配慮としては、

・本人がメモをしている時間は待つ

・同時に複数の指示をせず、一つずつ遂行してもらう

・マニュアル化、パターン化した仕事を熟練してもらう

などがあります。

本人の特性や状態に合わせた配慮が必要であり、結果本人にとっても、会社にとってもメリットが大きくなります。

ADHDの方は、注意が移りやすかったり、計画通りに遂行できなかったりするため、「自分勝手」「だらしない」とみられることが多く、たとえ会社がシステム的に対応困難な場合でも、同僚や上司に一人でも本人への理解を示すことができ、相談できる人がいるだけでも本人にとっては大きな意味をなします。

学生の場合は、学校の担当教職員に対して支援計画と本人の特性を理解してもらい、気が散らないように席を前にしてもらう、レポートやテストなどの重要事項を文章で伝達してもらうなどの工夫が有効です。

生活面での環境調整

ADHDの方の忘れっぽさは、認知症のような物忘れではなく、不注意や気が散りやすさからくる「一時的に今やるべきことを忘れてしまう」という状態なのです。

日常生活をパターン化することで、何時に○○をして、○○をしたら△△をするというように、習慣化して失敗を減らすことが重要です。

また、集中しすぎて過労になりやすい人は、長時間の継続的な作業の合間にアラームなどを利用して、定期的にその場を離れて休憩する時間をつくる落ち着ける自分だけの空間や時間を確保することなどオンとオフをきりかえることも重要です。

また、作業中に他のことに気が散る場合も、タイマーや決められた時間までは他の作用をしない自分なりのルールを作ることも有効です。

日常生活での工夫

1)順序だてと計画性

一覧表、やることリストなどを作成利用し、優先順位の高い順に一つずつやるべきことをやっていく。

例えば、やることをA,B,Cを設定して

A:は今日、明日中にやるべき課題

B:長期的に終わらせる、それほど重要でない課題

C:重要性が低い

それぞれの課題の重要性を分類します。

ADHDの方は脳内で優先順位を決定することは苦手なので、紙に書き出して視覚化することで優先順位を決定しやすくなります。

2)オンとオフの切りかえのために自分だけの場所と時間を確保する。

集中力の持続を直接的に延ばすことは困難であるため、退屈な課題を行う時の集中力の持続時間をあらかじめ測定しておいて、その時間に合わせて課題を分割して行うといいでしょう。

例えば、持続できる集中力が10分であれば、10分ごとに数分休憩するか10分別な課題に変えるなどすると課題を完遂しやすくなります。

3)タイマーやスマートフォンアプリなど活用できるものは利用する。

4)定期的な休憩をとりいれて、仕事でもプライベートでもやりすぎに注意する。

5)日常生活をパターン化することでやり残し、失敗をなくしていく。

スケジュール帳やスマートフォンなどの携帯電話機能を活用して、スケジュールを管理し、毎朝必ずスケジュールを確認する時間や工夫を決めておくことで、大切な予定を忘れたり、優先順位を決定するときに失敗が減らせます。

6)自分にあった仕事内容、職場環境を選んでいく。

7)相手がしゃべり終わってからしゃべりだす、他人のことに対してコメントすることは控えるなど社交の場での振る舞い方の工夫をする。

8)感情的になりやすいことを自覚して、自分で制御できない時は一旦その場を離れる。

 

ADHDは「完治」や「治癒」するものではないため、特性として抱えながら生活していくことになります。

そのため、生活上の問題を完全に消失させることが目的ではなく、問題を抱えながらも本人なりの解決法や対処法を考え、本人なりにより良い生活を送ることが目標となります。

現在抱える問題を整理して、成功体験と失敗体験から次の工夫を調整していくために、定期的に相談できる自分に合う医療機関を選んでいかれるといいでしょう。

妄想性パーソナリティ障害とは【妄想性人格障害】

妄想性パーソナリティ障害とは

妄想性パーソナリティ障害の人は、人間全般への長期にわたる邪推と不信感が特徴です。

自分の感情に対して責任をもつことを拒絶して、他人のせいにします。

敵対的でイライラしやすく、怒りっぽく、偏屈的であったり、あら捜しが激しかったり、病的に嫉妬深かったり、訴えたがる好訴的であったりします。

妄想性パーソナリティ障害の疫学

妄想性パーソナリティ障害の有病率は0.5~2.5%ほどといわれています。

妄想性パーソナリティ障害の方は自分から治療を求めることはほとんどなく、自分では苦しんでいる様子は乏しく、病気とも思っていないことも多いのです。

ご家族に統合失調症の方がいる場合、妄想性パーソナリティ障害の発生率が上がるといわれています。

妄想性パーソナリテイィ障害の特徴

妄想性パーソナリティ障害の人の本質的特徴は、他人の言動を故意のある振る舞いで、脅迫的であると偏った解釈をします。

この傾向は成人早期までに始まり、さまざまな状況で現れます。

他人によって何らかの方法で不当に利用されたり、傷つけられると確信しています。

人間関係においても正当な理由もなく、友人や周囲の人の信頼関係に疑いを持ちます。

また、病的に嫉妬深く、理由もなくその配偶者や同棲者の貞節を疑います。

妄想性パーソナリティ障害の人は投影の防衛機制を用います。

すなわち、自分自身で受け入れがたい衝動や思いを他人のせいにします。

妄想性パーソナリティ障害の人は、合理的で客観的に振る舞おうとするが、実際は余裕がなく、権力や階級には心酔し秘やかな敬意を払う一方で、弱者や病人、障害者などには軽蔑を示します。

妄想性パーソナリティ障害の経過と予後

妄想性パーソナリティ障害について、十分な系統的長期研究は行われていません。

一生妄想性パーソナリティ障害のままでいる人もいれば、それが統合失調症の前駆症状である人もいます。

また、成熟やストレスの減少につれて、妄想性の特徴が軽減する人もいます。

しかし、一般には周囲との関係において、職業上や家庭内での問題を抱え続けて行く人が多いようです。

妄想性パーソナリティ障害の治療

精神療法が主体となります。薬物療法は不安や焦燥感を軽減するのに有効であることがあります。

本人が病識がないにしても、日常生活・社会生活における本人が困ることに関して、相談できる主治医との信頼関係が確立できるかが治療上大きな鍵になります。

【摂食障害】なぜ食べ吐きするのか【過食嘔吐】

食べ吐きする人、過食症の心理

過食・嘔吐する多くの方にとって、過食も拒食も一つの連続体であり、過食と拒食は一見逆に見えますが、その基本的な心理は共通しています。

過食に関して、「苦しいので早く治してほしい」という訴えで受診されます。

確かに食べ吐きしている現状はつらいのは事実でしょうが、その時、過食行動が感情や欲求の調整に役立っていた部分は認識できていないことが多いです。

過食・嘔吐を治す場合、”なぜ過食・嘔吐が始まってしまったのか”、”なぜやめられなくなっているのか”がとても重要になります

過食・嘔吐する方の性格傾向

過食・嘔吐をする方は、努力家で、やせていなければならないという社会的な圧力にこたえようとしている方も多くみられます。

その一方で、自分の制御の難しさがあり、行動的で怒りっぽく、衝動的で、依存傾向が強かったりもします。

過食・嘔吐する方は平均以上の痩せを求める傾向があります。

また、人目を気にする理性が勝っている時は極めて少食になります。

しかし、過食時には高カロリー、脂っこいものなどを恐れずに過食できます。

過食・嘔吐する方の多くは、対人関係に敏感で傷つきやすく、人が自分をどう評価しているかがいつも気になっています。

褒められても安心せず、その裏がないかを考えます。

他人が自分に対してどういう意図を持っているかを必死に考えますが、それに答えが出ずに疲れ果てます。

みんなから好かれたいと思いますが、これも叶わない願いであることが多く、苦しみます。

また、過食する人々は、勉強・仕事・趣味・遊びや人付き合いに関して計画を立てないと気が済まない性格傾向であることが多いのですが、細かい計画通りに進まずに苦しみます。

このように、思い通りにいかない混乱と隣り合わせに生活しているのです。

過食・嘔吐する方は、みんなから好かれたい、予想通りの理想の人間関係のある日常、人生にしたいと願っていますが、臨機応変が必要とされる人間関係には向きません。

いつも「こんなはずじゃなかった」という思いにおそわれることになります。

しかし、過食・嘔吐する方はそのような絶望や悲しみを表出することは許しがたいのです。

そのため、残された道は、とにかく他人に合わせ、無理に無理を重ねた人間関係になっていきます。

人に好かれるために、怒り、イライラ、悲しみ、恨み、妬み(ねたみ)といった良くない感情たちを出さないように封じ込めなければならないと考えています。

心が乱れ、嫌な感情が続くことが許せなくなり、早く思い通りの自分にならなければならいと考え、ますます疲れます。

理想に向かって、無理な対人関係、仕事、日常を送っている時は、気が張っており疲れは十分に意識されずに、休憩時間や帰宅時、休日に一気に疲れが自覚されます。

過食・嘔吐の意義

過食・嘔吐はこの苦しい疲れを一瞬に断ち切ってくれます。

頭のことを空っぽにして、無理をしている自分から解放されるのです。

また、過食・嘔吐、下剤乱用といった一連の浄化行動は、苦しさの堂々巡り、悪循環をきれいさっぱりリセットしてくれるような気にさせてくれます。

過食・嘔吐をするから、自分をリセットして安心して眠ることができると錯覚します。

過食することで安らかな眠りを導いてくれると感じています。

過食後の自責感や後悔は、実際出現はしますが、過食・嘔吐によって得られる充足感は、それらの負のマイナス感情をはるかに上回ります。

時に、両親を支配し、操縦する手段として過食、嘔吐が存在している方がいます。

過食は、食料が簡単に手に入る現代社会において、内外のストレスのもっとも手近でもっとも手軽なストレス解消法なのです。

「秘密の快楽」になる過食・嘔吐

また、過食・嘔吐、下剤乱用により強い内臓感覚が引き起こされます。

それにより、自己の存在感覚を実感します。この感覚には自己愛的でマゾヒスティックな官能の快楽が混在していることが多いとされます。

過食・嘔吐が「秘密の快楽」になる時期があるはずで

感情コントロールと過食

強迫的なこだわり、怒り、憎しみ、後悔、恋しさ、寂しさといった感情が先行し、それらの感情から逃れるために過食します。

一般的にも失恋や嫌なことがあれば、食欲が減ることや、やけ酒、やけ食いが出ることはあるでしょう。

ただ、過食・嘔吐する方で病名がつくというのは、これらの食行動の逸脱が高度でかつ常態化しているの場合です。

過食する方でほぼ常に見られやすい重要な感情は、「むなしさ」、内的空虚感なのです。

 

「むなしさ」、内的空虚感はどこからくるのか

人は、様々な人や物と生涯を通じて、情緒的に関わって生きていきます。

それら人や物などといった対象は、心の中にある対象で、「内的対象」と呼びます。

それは愛着してやまない骨董品であったり、自らの勝ち取った栄えある受賞時の光景であったり、物や情景、人といった様々なものが対象となりえます。

しかし、両親に代表される養育者ならびに兄弟、姉妹たちの内的対象の在り様が、心の健康の維持にとっては決定的になります。

養育者の適切でない身体的、言語的・非言語的対応のもとに育った人には、良質で、動揺しにくいしっかりとした内的対象が形成されます。

反対に、養育者から適切な身体的、情緒的、言語的・非言語的対応を受けることが困難な場合や乏しかった場合、もしくは養育者の負の対応に過敏すぎたり、もしくはその両方の場合に、養育者という対象への表象は安定せず、うつろいやすくなります。

負の悪い内的対象に支配される感覚は、耐え難く、その結果内的対象は不自然に美化され、理想化され、悪い養育者のイメージは排除され、他のものに移し替えられたりします。

あるいは、良い内的対象と悪い内的対象がめまぐるしく交替したりすることもあります。

このような不安定な内的対象をもつ人の自我形成は非常に脆弱で、安定した心の基盤を失っています。

そのため、内的対象から見放されたと感じたり、内的対象を失ったと体験したときに「むなしさ」、空虚感が生じます。

空虚感の他に、生きていることの無益さ、慢性の落ち着きのなさ、退屈感、孤独感とそれに打ち勝つだけのゆとりの無さといった感情もしばしばみられます。

退屈を感じることを恐れ、退屈を常に避けようとする努力がみられる人もいます。

過食・嘔吐する人は、食べ物を擬人化していることが多いです。

過食・嘔吐という行動自体が、頼れる相棒のような存在になっています。

つまり、食べ物が人間の代理表象になっているのです。

過食や拒食という手放せないものの向こう側に、自分たちを受け入れ愛してくれるはずの人々のイメージを浮かべ求めているのです。

そのため、心身共に融合し、理解してもらえ、気持ちも一致したと体験される異性が出演した場合、過食が消失することはよくあります。

しかし、そのような幸せも長続きしないことが多いです。

過食、拒食する人の異性関係における問題

自分の欲求の充足をすぐに相手に求めてしまいます。

依存し、支配したくなり、独り占めしようとします。

思い通りにならないと情緒不安定となり、感情的になりやすいです。

相手の状況や立場を配慮する余裕がなくなりやすいです。

親切のつもりが押しつけになっている場合にも認識できにくいです。

一旦嫌になると、相手の欠点ばかりが目につきやすいです。

異性との関係から調子が悪くなる方もいますが、異性関係をもつこと自体は決して悪いことばかりではなく、異性との情緒的交流ののちに成熟する過程をとることができる人もいます。

過食・嘔吐する人はどういう経過をとるのか

過食・嘔吐とそれに伴うさまざまは症状は、長い経過の中で慢性化しているものが多く、簡単に解消するものではありません。

生命にかかわるような飢餓状態が出現する様であれば入院治療になることもあります。

過食・嘔吐することは、基本的には生きていくうえで選択を余儀なくされた、生き方の表現型であることが多く、それぞれの人の生活歴、生活環境、性格傾向、病態水準、社会的生活水準などを考えて各々に必要な治療戦略を考える必要があります。

過食・嘔吐することの裏に隠れている精神的な病気があるのであれば、その病気の治療をすることで比較的速やかに過食・嘔吐の症状が改善する人もいます。

活動期(過活動で軽躁的な時期)

自己愛的で、万能感を伴うような拒食の時期から始まる人は多く、「食べない方が動けるし、健康だし、周りからちやほやされる」といったような体験をしている人が少なくありません。

やや過活動であったり、運動、勉強、仕事などやりすぎる状態がみられることもあります。

その後、過食、自己誘発性の嘔吐、下剤乱用などが始まる過食の時期になることが多いです。

停滞期(過食、ひきこもり、抑うつ気分が目立つ時期)

次第に、自己嫌悪、罪悪感が目立つようになり、抑うつ的な気分が増える停滞期にはいっていきます。

人によっては自傷行為や性的逸脱行動、家庭内暴力がみられる人もいます。

後悔と自暴自棄が出やすい時期です。

学校や仕事での適応がなんとか成立している人と、ひきこもり外出がほとんどできなくなる人と様々です。

現状の苦しみを親や誰かのせいにしている場合は、症状が長引く人が多いです。

抑うつ気分があまり強い時には抗うつ薬が効果を示すこともあります。

回復期

治療を継続しうまくいけば、やがて回復期になります。

親や周囲のせいにしていた知覚がうすれ、自己の柔軟性に乏しい一方的な考え方、認知の仕方が自覚でき、自分の能力の限界もある程度わかるようになり、現実と向きあっていくようになります。

それまで自分は特別だというような思い込みから目が醒めて、幻滅したり絶望感が出る人もいます。

理想と現実の葛藤への処理が必要となります。

回復することで、社会生活と向きあわないといけなくなる不安や恐怖が出てきます。

しかし、そこには体験を通じて乗り越える必要がでてきます。

これらの過程の中で、アルコールや薬物の依存や乱用が出てくる人がいます。

このようなつらい停滞期、回復期を乗り越えた人々は社会生活できるようになります。

医師、看護師、心理士などの医療従事者や、教師、保母などといった愛他的主義的志向の職業を求める人も多くいます。

自分が愛されたいと願う願望の裏返しかもしれません。もちろん、その他にも会社員であったり技術職であったり、芸術家であったり適応している形は様々です。

摂食障害の治療

拒食がひどい方の場合、飢餓状態、脱水などにより生命の危機にさらされている時は入院治療となります。

過食の方が入院治療となることは多くはありませんが、外来治療は長期的になることが多いです。

精神療法

1)認知行動療法

認知行動療法は過食症の方に対して第一選択の治療となります。

認知行動療法の有効性が示されています。

2)力動的精神療法

過食症の精神力動的治療法の有効性も示されており、「取り入れ」と「投影」の防衛機制が用いられることが明らかにされています。

3)薬物療法

抗うつ薬、特にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の有効性が示されています。

最後に

現在摂食障害の治療を得意とする治療者は多くはなく、信頼できる治療者と巡り合えることはとても幸運なことです。

食べ吐きでお困りの方は摂食障害に対応できる医療機関の情報を集めて、受診されてみてはいかがでしょうか。

適応障害とは【症状・予後・治療】

「仕事に行こうとすると吐き気がする。」

「平日の朝どうしても起きれない。休日になると元気なのに。」

「通勤中(通学中)に具合が悪くなり、トイレに行き、職場にたどり着けない。」

「仕事中集中できない。動悸が出る。冷や汗が出る。」

「眠れない。」

このような症状が出ている時、あなたは適応障害かもれしれません。

では、適応障害というものがどのような病気か詳しくみてみましょう。

適応障害とは

適応障害とは、心理社会的ストレス因子に対する短期間の不適応反応のことをいいます。

適応障害は、ストレス因子が消失すれば速やかに症状が改善し、もしストレス因子が持続した場合は新たな適応状態に達するか、症状が増悪しうつ病などを発症する可能性もあります。

適応障害の場合、症状はストレス因子の始まりから3ヶ月以内に出現するとされています。

ストレスの性質や強度は特定されませんが、自然災害や暴力犯罪などの破局的な出来事よりも、転職や異動、失恋、借金などの経済事情の変化といった日常的な事柄がストレス因子になる場合が多いです。

破局的なストレス因子の場合は適応障害とは別にPTSD(心的外傷後ストレス障害)への注意が必要になります。

適応障害はその他の精神疾患の診断基準を満たさず、通常6ヶ月以内に改善しますが、ストレス因子が慢性的である場合や長期間持続した場合はより長引くこともあります。

適応障害の疫学

適応障害の一般人口における有病率は2~8%とされています。

男女比は2:1で、特徴的なのは独身女性が一般的に最も危険性が高いといわれています。

小児期や青年期においては男女差はみられないようです。

青年期では男女を問わずストレス因子となりやすいのは、学校問題、親の拒絶、親の離婚や物質乱用(アルコールや薬物など)などです。

成人期におけるストレス因子として多いのは結婚問題や離婚、異動や転職、転居、経済的問題が多いといわれています。

適応障害は内科や外科の病気で入院している患者に最も多くみられる精神科疾患の一つです。

3年以上入院している患者の5%が適応障害を抱えているとする研究結果があります。

また、明らかな医学的問題やストレス因子に直面している人のうち、50%近くが適応障害と診断されるというように、ごくありふれた病気なのです。

適応障害の病因

適応障害は、1つまたはいくつかのストレス因子によって引き起こされると定義されます。

障害の重症度は、ストレスの強度やストレスそのものによって予測できるとは限りません。

ストレスの強度は程度、量、期間、可逆性、環境、個人的な状況といったものからなる複雑なものです。

例えば、親をなくすことの意味は10歳と40歳では大きく異なります。

人格構造や、文化あるいは集団の価値基準によってもストレス因子に対する反応は違ってきます。

ストレス因子が単一なのか複合しているのか、反復しているのか持続しているのかなどを評価する必要があります。

精神力動的因子

適応障害を考える時に主要な3つの軸があります。

1)ストレス因子の性質

2)ストレス因子の意識的、無意識的意味

3)元来個人に備わっている脆弱性

人格障害や発達障害、器質的障害などを抱えていると適応障害をおこしやすいといわれています。

幼少時に親を亡くした場合や、家庭が機能不全に陥っている場合も適応障害をおこしやすいといわれています。

重要な人物との関係を通して実際に経験される心理的な支えが、ストレスに対する行動や情緒の反応に影響することがあります。

フロイトと適応障害

フロイト(Sigmund Freud)は次の3つのことに興味を持ち続けていました。

1)なぜ日常のストレスで、ある人は病気になり、他の人は病気にならないのか

2)なぜ病気は個別的な形をとるのか

3)なぜある種の経験のみが精神病理的状態をもたらしやすいのか

フロイトは個人の素因を重要視し、それらがその人の人生経験と相互に影響しあって固着を生み出すと考えました。

ウィニコットのGood-enough Motherという概念

ウィニコット(Donald Winnicott)はGood-enough Mother(ほどよい母親)という概念を打ち出し、成長した人がストレスに対して柔軟に反応する能力に関して、母親と養育環境の役割を強調しました。

これは幼児の要求に順応しつつ、成長過程にある子供が人生における葛藤に耐えられるようにするために十分な支持を与える母親を指します。

子供時代の発達を通じて、人はストレスに満ちた出来事に対処するための防衛機制を発達させます。

ひどい外傷経験や、素質的な脆弱性のために、他の子供と比べて防衛機制の発達が遅れる子供もいます。

そういった不利が、大人になってから失敗体験や、離婚や経済的危機などに直面した場合にうまく立ち回れないといったことにつながることがあります。

成熟した防衛機制を発達させた人は、容易に傷つくことはなくストレス因子に出会った時の回復も早いのです。

協力的で愛情に満ちた乳幼児期の親子関係により、外傷的な出来事によって精神的な損傷を受けることから生涯にわたり守られることがある研究によって示唆されています。

家族、遺伝要因

双生児研究では、人生上の出来事とストレス因子は双生児間である程度相関していましたが、一卵性双生児の方が、二卵性双生児と比べて際立った一致を示しました。

その結果、外傷的な人生上の出来事に反応して症状が出現する際には、部分的には遺伝的な関与がありえると結論付けられています。

適応障害の症状

適応障害は定義上ストレス因子に引き続くとされていますが、症状は即座に出現するとは限りません。

ストレス因子と症状の出現の間は3ヶ月かかることもあります。

また、ストレス因子が終結すれば常に症状が消失するとも限りません。

ストレス因子が続く場合は適応障害は慢性化することもあります。

適応障害はどの年齢でも起こりえます。

不安や抑うつなどの多彩な症状がみられますが、成人の場合にはいくつかの症状を併せ持つことが多いです。

攻撃的な行動、無謀な運転、過剰飲酒、法的責任感の欠如、ひきこもり、自律神経症状、不眠などが出現し、稀に自殺行為が出現することもあります。

適応障害の主な症状

1)抑うつや不安

抑うつ気分、意欲の低下、集中困難、不安感、焦燥感、動悸や冷汗、頭痛など神経過敏症状、不眠

2)行為の障害

他者の権利侵害、年齢相応の社会的規範や規則の無視がみられます。

例えば、無断欠勤、破壊行為、無謀運転、けんかなどです。

3)子供の症状

夜尿症、赤ちゃん言葉やゆびしゃぶりなどの退行、腹痛、頭痛、不登校などがみられます。

適応障害の経過と予後

すべての適応障害の予後は、適切な治療が行われれば良好です。

ほとんどの方は3ヶ月以内に以前の機能水準まで回復します。

適応障害の診断を受けた方で、のちに気分障害や物質関連障害になっていく方がいます。

青年期では通常、成人よりも回復に時間がかかるといわれています。

適応障害の治療

精神療法

適応障害に精神療法は有効です。

集団療法は、退職者や休職者、同じ病気で苦しんでいる人のように同様のストレス下におかれている人々に対して特に有効です。

個人精神療法は、ストレス因子がもつ意味を考え、外傷体験を解決するのに有効です。

治療がうまくいくと、適応障害の発病前よりも精神的に強くなり治癒することが一般的です。

精神療法は、ストレス因子が取り除けないかもしくは時間によって解決されない性質のものであっても、そのストレス因子への適応を助け、ストレス因子が緩和していく性質である場合には、予防的介入手段ともなります。

環境調整

ストレス因子が環境要因が大きい場合は環境調整が有効です。

職場における、仕事の内容、仕事量、対人ストレスや、介護問題、学校でのストレス因子等を整理する必要があります。

薬物療法

薬物療法は根本的な治療とはならず、短期間、特定の症状に対してのみ行うことが妥当と考えられています。

適応障害で生じている抑うつ状態や不安に対して薬物療法が効果を示すことはあります。

例えば、パニック症状や不安に対して抗不安薬が効果的であったり、抑うつ気分にSSRIなどの抗うつ薬が効果的であるという研究結果はあります。

しかし、薬物療法はあくまで心理社会的な治療戦略を補う補助的なものとして位置付けておく方が良いとされています。

まとめ

適応障害はストレス因に反応して発症し、日常生活、社会生活に支障をきたす病気です。

症状が出現し、いつもの生活ができなくなっているのであれば、怠けや逃げだと決めつけずに、病気かそうじゃないのかも含めて診てもらうために、まずは受診されることをおすすめします。

【PTSD】トラウマと精神的な病気との関係、治療【うつ病】

トラウマの認知の広がりと理解不足の現状

(トラウマ)心的外傷という言葉は、日常的にもよく使われるようになりました。

精神医学や心理学とは縁がなくても日常生活の中でもしばしば登場します。

ではトラウマが何なのか、トラウマの結果何が生じるのか、どう対処するのが最も適切かなどということについて正しく理解されているのでしょうか。

精神的なショックのことを体験すると、人は「傷つき」ます。

では、日常に体験する「傷つき」と、様々な症状を引き起こす「トラウマ」の違いは何でしょう。

簡単に説明すれば「衝撃(ストレス)を受けたとき、対処できずにできる心の傷」をトラウマと呼びます。

ですから、同じことを体験しても、その人が対処できるかどうかで、トラウマになるかならないかも変わってきます。

(※但し、対処できなかったから「弱い人間だ」、「私に原因がある」とかそういうことではありません。)

トラウマが引き起こす病気

衝撃に対処できない場合は、トラウマになり様々な病気を引き起こします。

その代表的なものがPTSD(心的外傷後ストレス障害)ですが、うつ病や摂食障害なども引き起こします。

うつ病や摂食障害などの場合には、それがトラウマに関連したものであると気づいていない場合も多く、なかなか治らない状態になっています。

「弱いから」「未熟だから」「性格の問題だから」と周囲からも自分自身にも責められ、人間関係、社会生活状況の悪化からさらなるトラウマを引き起こしている場合もあります。

トラウマの治療の必要性

トラウマは治療しなければQOL(生活の質)が著しく下がります。

しかし、トラウマ自体がつらい体験なので、思い出したくない、あえて忘れるように無意識に避けていることもあり、トラウマが原因と気づかれにくいことも多いです。

トラウマとの向き合い方

トラウマは過去の出来事なので、トラウマをなかったことにはできません。

過去を変えられない以上、きっかけとなった体験の受け止め方を変えることが必要なのです。

トラウマの治療

トラウマの治療には、薬物療法(SSRIなどの抗うつ薬)、精神療法、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)などがあげられます。

認知行動療法などで、トラウマ体験そのものに焦点をあてて、トラウマ記憶に暴露させて、受け止め方を変える方法があります。

対人関係療法で、トラウマそのものではなく、トラウマの影響を受けた現在の対人関係に焦点をあてて、現状の生活のQOLを上げることにより、結果としてトラウマの受け止め方を変える方法などもあります。

認知行動療法はトラウマ体験に焦点をあてるため、怖くて耐えられない場合や、独学でやろうとすると、症状を悪化させる場合もあるので、専門の医師、カウンセラーと行うのがよいでしょう。

対人関係療法はそういった危険性が少なく、現在の対人関係に注目し、トラウマから生じている現状の日常の「生きづらさ」を改善させる治療法です。

トラウマが生じる時

ストレスへの対処の仕方は人それぞれです。

ショックな出来事があった後、そのことをくよくよ考える、気分転換をする、早く寝る、親しい人に相談するなどで対処していることが多いのではないでしょうか。

どれも、状況の整理、普段の自分自身の感覚、いつも通りの自分で問題ないという感覚を取り戻すのに有効でしょう。

このようないつもの方法で、普通の感覚を取り戻せているうちは対処できている状態です。

いつもの方法で対処できない、いつもの方法が使えないようなときにトラウマとなります。

ストレスが大きすぎると、「いつも通り」がわからなくなり、感受性も変化し、いつもは助けになっていた他人の言葉も逆につらく、傷ついてしまうこともあります。

小石につまずいて転んでも立ち上がり、声をかけてもらってもとのように歩き出せます。

しかし、地面が割れて落ちてしまったらどうしていいかわからなくなり、それがトラウマとなります。

とっても大切な「なんとかなる」という感覚

健康的に過ごすために大切な感覚が「なんとかなる」という感覚です。

誰もが未来を予知することはできませんので、次になにが起こるかわかりません。

そのようなことを心配し、不安に思いながら生活していては日常が成り立ちません。

私たちが落ち着いて生活できているのは、「なんとかなるだろう」という感覚、「無意識の信頼感」があるからです。

大きなストレスを受けるとこの「無意識の信頼感」が揺らぎ、不安や絶望感が止められなくなります。

トラウマは消せなくても治すことは可能

無意識の信頼感が崩壊していることでトラウマが生じているので、無意識の信頼感を回復することができれば、トラウマから回復できるのです。

トラウマになりやすい出来事の特徴

・出来事自体が生死にかかわる出来事であるか、ひどく恐ろく、残虐、衝撃的であること。
・予測が不可能で突発的であること。
・自分にも何かしらの責任を感じてしまうような状況を含むとき。

対人トラウマについて

人によってもたらされたトラウマを対人トラウマと呼びます。

例えば身近な信頼していた人からの虐待や性被害などです。

家族、親戚、身近な頼りになる人、社会的地位がしっかりしている人などといった、信頼できる基準が根底から崩れることになり、無意識の信頼感が崩壊します。

他人への信頼感の崩壊から、自分にも非があるのではないかと、自分への信頼感も崩壊していきます。

回復には、安全のルールを再確認し、信頼を少しずつ確立していく長い期間の治療を必要とします。

トラウマとPTSD(トラウマが生じやすい人)

同じ出来事を体験しても、トラウマからPTSDを発症する人としない人がいます。

トラウマの後にPTSDを発症するかどうかを予測する要因として、身近な人による支えの有無が大きいといわれています。

身近に相談できるような、質の良い関係性をもてる人物がいつかどうかということです。

このようにトラウマ体験の影響を決めるのは

・ストレス体験の衝撃の大きさ
・ストレスを受ける側の要因
・トラウマ体験後の経過、支援者の有無

ということになります。

子どもとトラウマ

子どものトラウマは大人よりも症状がわかりにくいといわれています。

ストレス体験の後も何事もなかったかのようにふるまっているように見えることもあります。しかし、子供は「無意識の信頼感」を構築する体験が少ないため、大人よりもトラウマを受けやすいといわれています。

ただし、適切に対処すれば、こどもは回復も早いのです。

子どもも大人と同じように症状として「再体験症状」「回避・麻痺症状」「覚醒亢進症状」などが主体となりますが、現れ方が異なる場合も少なくありません。

例えば、交通事故にあったこともが、おもちゃの自動車で衝突を繰り返し再現したりします。

また、無意識ですが、他人への信頼感を確認するために、赤ちゃん返りをしたりします。

他にも、眠れない、学校で成績が下がる、喧嘩などのトラブルを起こす、反抗的になるなど、いつもとは違う様子がみられます。

そのような場合にはまず、そのことを注意するのではなく、なぜそのようなことが起きているかを考えることが大切です。

対人関係療法について

対人関係療法とは1960年代から米国で開発された精神療法のひとつです。

現在でも治療効果を示す科学的根拠のある精神療法として注目されています。

対人関係療法はPTSDだけではなく、うつ病や摂食障害、双極性感情障害(躁うつ病)でも治療法として利用されます。

対人関係療法では病気の原因には焦点をあてません。

PTSDの場合、発症のきっかけはトラウマ体験ですが、トラウマ体験をどのように対人関係で扱い発症につながっているか、現在どのような対人関係から影響を受けているかが重要なのです。

PTSDと対人関係療法

現在の対人関係に焦点を当てて、無意識の信頼感を取り戻していきます。

発症に影響しているのがどの過程の問題によるものかを評価します

人は身近な人の死などのショックな出来事を体験した場合、だいたい同じような心の反応が起きます。

キューブラー・ロスによる死別の受容モデル

「否認」

「何かの間違いだ」「夢じゃないか」と頭でわかっていても、感情的に事実を否認します。

「怒り」

「なぜ自分がこんなつらい思いをするのか」というような怒りが出現します。

「取引」

「○○をするから、少しでも寿命を延ばしてほしい」というような非現実的な願望を取引しようとします。

「抑うつ」

死が逃れられないことを実感し、抑うつ気分、絶望感が出現します。

「受容」

死を拒絶し、回避することができないことを悟り、死を静かにみつめ、受け入れる体制ができます。

死別体験がトラウマになった場合、この死の受容の過程に影響し、複雑化して長引いてしまう場合があります。

そこに最も影響する感情は、「自責」、「後悔」、「罪悪感」です。

「なぜ私は生き残ったのだろう。」

「なぜあの時○○しなかったのだろう。」

「なぜ△△してしまったのだろう。」

このように後悔し、自分を責め続けると、受容のプロセスが複雑化し、長期化します。

また、仕事や家事に追われたり、関係者の対応に追われたり、受容の過程と向き合う暇がないと受容のプロセスがうまくいかなくなります。

死別した人との関係や、死別したときの状況を、安心できる環境で相談しながら、信頼できる身近な人との関わりを大切にすることで、整理していくことが大切です。

自分の気持ちを否定せずに、現在の自分の状態、状況を把握して、自分の役割、必要とされている事実を実感することによって、自分をいつもの感覚を取り戻すことができます

トラウマからの回復で最終的に目指す状態はエンパワーメント(有力化)

トラウマによって「無意識の信頼感」を喪失し、無力化された状態から、再び信頼感の獲得、自分の力を取り戻すことが最終的な治療目標になります。

まずは、専門家に受診するところからはじめてみてはいかがでしょうか。

【双極性感情障害】躁うつ病のうつ状態の治療にはどの抗うつ薬がいいのか?【抗うつ薬】

躁うつ病のうつ状態の薬物療法

躁うつ病(双極性感情障害)は気分が循環する病気であり、躁状態の時期とうつ状態の時期、躁とうつが混ざったような混合状態の時期などが出現します。

双極性うつ病(躁うつ病のうつ状態)における抗うつ薬の使用については治療に関する実証的研究が少なく、意見が分かれています。

抗うつ薬は躁状態を誘発する?!

躁うつ病において、抗うつ薬は約3分の1の頻度で躁状態を誘発し、約4分の1の頻度で急速交代化(躁状態とうつ状態を短期間で繰り返す状態)を促すという報告があります。

その為、躁うつ病への抗うつ薬の使用については慎重になるべきだという意見が一般的です。

あるアメリカの治療ガイドラインでは双極性うつ病の急性期にはリチウムまたはラミクタール®(ラモトリギン)を第一選択としており、重症の場合は抗うつ薬の併用も行われますが、限定的であるべきとされています。

もし抗うつ薬を使用するとしても、SSRIが第一選択になるであろうとの意見が多いようです。

双極性うつ病の治療選択

1)リチウムまたはラミクタール®(ラモトリギン)による治療開始。

2)SSRIの追加、状態によっては増量

3)効果不十分例では抗うつ薬の変更の検討

4)リチウムやラミクタール®、デパケン®(バルプロ酸)などの情動調整薬、抗けいれん薬の追加もしくは調整

などの治療が提案されます。

抗うつ薬の躁転率

双極性うつ病における抗うつ薬の治療において、SSRIの躁転率(約3.7%)はプラセボ(約4.2%)と差がないという報告があります。

その一方で、三環系抗うつ薬投与における躁転率(約11.2%)はSSRIやプラセボより有意に高いと報告されています。

まとめ

現在双極性うつ病における抗うつ薬の使用においては意見が分かれている現状ですが、急性の抑うつエピソードで軽症であれば、リチウムやラミクタール®などの情動調整薬、抗けいれん薬が使用され、中等症から重症の場合にはSSRIと情動調整薬の併用療法が開始されることも多いようです。

自殺の危険性や、妊娠期間中、生命を脅かすほどの食事ができないような状態では電気けいれん療法が推奨されています。

長期的には、情動調整薬を第一選択として、必要に合わせて抗うつ薬の併用を考慮し、症状が改善したら、抗うつ薬は減薬を検討するのがよさそうです。

【産後うつ】出産とうつ病【マタニティブルー】

出産とうつ病

出産と精神的な疾患との関連は古くから報告があります。

周産期精神医学の国際学会は1982年には創設され、女性の精神医学の研究が活発に行われるようになりました。

その後、英米の代表的な精神医学の教科書でも「産後うつ病」や「産褥精神病」が記載されるようになりました。

周産期のうつ病

産後6~8週の時期を産褥(さんじょく)期と言いますが、産褥期のうつ病の発生頻度は非産褥期女性とくらべると有意に高くなります。

また、産褥期以降も含めた、産後のうつ病の出現頻度は10~15%にもなるといわれています。

産後のうつ病の出現リスクは産後3ヶ月頃が最も高く、産後6ヶ月以内は高い状態が続きます。

また、うつ病、躁うつ病、周産期精神疾患などの既往の精神疾患の周産期における再発率が高いといわれています。

産後うつ病の危険因子

1.過去および妊娠中の精神・心理的障害

2.社会支援が低いこと

3.婚姻関係が貧弱であること

4.最近の精神的ストレス負荷、ライフイベント

5.マタニティーブルー

マタニティーブルーとは

出産後数日から1ヶ月以内にみられる、母親の気分の落ち込み、意欲低下、情緒不安定など状態を言います。一般的には2週間前後で自然回復します。

うつ病で治療中で妊娠、出産する場合、薬物中断は慎重に

うつ病で薬物療法を継続している方で、妊娠・出産した方々を対象に調べた調査では、妊娠後治療を中断した場合は約70%近く再発したのに対して、妊娠後も治療継続していた場合は約25%前後と低になったとの報告があります。

うつ病で薬物療法中に妊娠した場合も、単純に薬物を中断すると再発しやすいため、お薬を変えるか、初乳以降はミルクを利用し、薬物療法を再開するなど慎重な対処が必要となります。

周産期のうつ病と子供への影響

出産前後の抑うつ気分や不安と子供の発達障害や注意問題との関連が示唆されています。

しかし、実際は、遺伝的な要因、その他生物学的な要因、環境的な要因が複雑に絡み合っているため、子供の情緒が不安定であることや発達障害であることを、母親の精神的な不調が原因と短絡的に決めつけずに、大切なのは、周産期に安心して、安定した情緒で出産を迎えられるようなサポートや治療が必要であるということです。

あなたがもし出産前後の女性であれば以下の質問に答えてみて下さい

過去1ヶ月の間に、気分が落ち込んだり、元気がなくて、あるいは絶望的になって、しばしば悩まされたことがありますか?

過去1ヶ月の間に、物事をすることに興味あるいは楽しみをほとんどなくして、悩まされたことがありますか?

もし、どちらか一つでもYESとなるようならば、心療内科、精神科に受診するか、周囲へ相談することをおすすめします。

【抗うつ薬】SSRIで乳汁分泌、生理不順は起こるのか?

SSRIで乳汁分泌は起こるか?

乳汁分泌にはプロラクチンというホルモンが関わっています。

下垂体前葉から分泌されるプロラクチンは、視床下部漏斗核にあるドパミン神経細胞からのドパミン分泌によって抑制性に調整されています。

そのため、ドパミン遮断作用をもつ抗精神病薬を服用することによって、プロラクチンの分泌亢進をもたらします。

抗うつ薬でも、イミプラミン(トフラニール®)、アミトリプチリン(トリプタノール®)、クロミプラミン(アナフラニール®)、アモキサピン(アモキサン®)などでは頻度は低いですが、、乳汁分泌がみられることがあります。

では選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)では乳汁分泌は起こるのでしょうか。

結論から言うと、「SSRIで乳汁分泌は起こることがある。」です。

オランダの副作用登録システムや論文においても、SSRIや抗うつ薬での乳汁分泌の報告はあり、抗うつ薬の中でもSRIは乳汁分泌を起こす頻度はやや高めの様です。

乳汁分泌とともに、プロラクチンが高値となる場合もあるようです。

SSRIによるプロラクチン値の亢進の機序

プロラクチン分泌はセロトニン刺激により亢進します。

SSRIによるプロラクチン値の亢進機序としていくつかの可能性が示唆されています。

セロトニンが視床下部のドパミン神経細胞を抑制し、その結果間接的に下垂体からのプロラクチン分泌を刺激すると考えられています。

また、SSRIを慢性的に内服していると、シナプス後部の5-HT2A受容体の感受性が高まり、結果的に刺激に対するプロラクチン分泌が亢進すると考えられてます。

まとめ

抗うつ薬の中でも三環系抗うつ薬などの従来の抗うつ薬に比べ、SSRIは乳汁分泌をきたしやすいようです。

作用機序としては、セロトニン作用を介し視床下部ドパミン神経細胞を抑制し、プロラクチン分泌を亢進するためと考えられています。

SSRIを内服中に、生理不順や乳汁分泌が出現した場合にはすみやかに主治医に相談するのがいいでしょう。