「漢方薬による治療」カテゴリーアーカイブ

小児のストレス症状と漢方治療

小児のストレス症状と漢方治療

漢方医学における病気の原因

漢方医学からみた、病気の原因は3つあります。

・「外因」という気象ストレス

・「内因」という精神ストレス

・「不内外因」という食事・生活ストレス

小児のストレスによって生じる疾患について、漢方医学では、カウンセリングなど精神心理的なアプローチの時間が十分に取れない場合でも、精神身体的な治療を優先し、身体を元気にすることで、健全な精神を育み、やがて健全な精神が身体バランスをコントロールして健康にするという考え方が根底にあります。

小児のストレスの特徴

小児は両親や周囲に依存して生きていかざるをえないため、ストレス環境を自らコントロールすることが困難であり、過去から学び未来を予測することも困難なので、不安や恐怖を抱きやすくなりストレスに弱いという特徴があります。

両親が心身ともに安定し、愛情のこもった養育ができる状況であれば、適切なストレスは小児を成長させる糧となりますが、両親や家庭環境そのものがストレスの場合や、親からの適切な養育や教育的指導が受けられない場合には、ストレスをうまく処理できず、自責的にとらえて、不安や緊張が潜在的に持続し、精神発達に影響して、ストレス症状が慢性的に出現するという特徴を持っています。

さらに小児は、不安や恐怖を言語化し難いために、泣いたり易怒性が高まったり、感情が不安定になるだけでなく、さまざまな身体症状で表現しやすい傾向があります。

具体的には、食思不振、嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、便秘、頭痛、口渇、発汗、めまい、頻尿、動悸、過呼吸、全身のふるえ等の症状があります。

年齢ごとのストレスによって生じる症状の特徴

乳幼児期

物音に過敏になり、夜泣きがひどくなる、退行(赤ちゃん返り)、繰り返す同じ質問などがみられます。

学童期

頭痛、嘔気、下痢、便秘、腹痛、ひきこもりなどがみられます。

思春期

自尊心が傷つきやすく、羞恥心も強くなり、ストレス症状を隠そうとし、成績低下、不登校、非行などがみられます。

ストレスの病態生理

肉体的、精神的、なストレスにより、大脳辺縁系、間脳下垂体・副腎系や自律神経系が反応して、呼吸や心拍を増加させ、ストレスホルモン分泌を促進して、交感神経優位となり、さらに抗ストレスホルモンであるステロイドホルモン分泌を促進して副腎肥大となります。

免疫系では胸腺萎縮、リンパ球減少をきたします。

ストレス反応のステージの特徴

警告反応期

ストレスに反応して交感神経優位となる時期です。

抵抗期

抗ストレスホルモンによってバランスを取り安定しようとする時期です

疲憊(ひはい)期

ストレスが解消せずに長引くことで、生体の防御機構が破綻しリンパ球が減少し、免疫低下をおこす時期です。

その後、ストレスホルモン過剰の状態が続くと、全身的に疲労困憊するだけでなく、精神神経医学的にも、脳の神経細胞が萎縮し、初期に認められた闘争・逃避反応が減少して、不安がつのり、無力感、感情鈍麻、抑うつ状態となります。

ストレスに対する漢方治療

芍薬や甘草を含む漢方薬により、ストレスホルモン分泌を抑制する神経系の活動を高める作用が期待できます。

小建中湯や、桂枝加芍薬湯、四逆散などの漢方薬は、交感神経の過緊張をといて、熟眠効果を期待できます。

また、甘草のステロイド作用持続効果より、抗不安作用を期待できます。ストレス反応期の抵抗期を長く維持し、ストレスを長引かせる不安を改善する作用を期待できます。

小児の漢方治療

小児は漢方医学的にみると、肝と心が元気で、脾(消化器系)と肺、腎が未熟で脆弱な状態にあると考えます。

ストレス反応によりバランスが破綻した疲憊期の症状は、疲労と意欲低下が脾虚、不安は恐怖は腎虚、免疫力低下は肺虚とみます。

基本は小建中湯

小建中湯には補脾、補肺、補肝陰の作用があるため、ストレス反応の初期から認められる交感神経系の過緊張である肝気亢進を緩和しながら、補脾によって疲労を改善して意欲を高める効果が期待できます。

その他、桂枝加芍薬湯、四逆散、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、補中益気湯なども効果が期待できます。

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かぜ、インフルエンザの漢方治療

漢方で治す、かぜ、インフルエンザ

かぜもインフルエンザもウイルス感染による上気道を主体とした感染症ですが、かぜ、インフルエンザにおける漢方治療について説明します。

かぜ、インフルエンザの漢方治療法

かぜ、インフルエンザの漢方治療は、かぜをひき始めた時から、回復するまでの間、どの期間なのかという「病期」でお薬を調整します。

病期について

一般的には「太陽病」(2~3日)から「少陽病」(7日前後)に移り、その後「陽明病」、「太陰病」を経て、やがて「少陰病」、そして「厥陰病(ケツインビョウ)」となります。

病期ごとの漢方治療

漢方治療の大筋の流れは、太陰病期では発汗して治療し、少陽病期では抵抗力・回復力と病邪・病毒とを和解し、陽明病では清熱することで治癒を目指します。陰病期では温補法といい、身体を温めながら体力や抵抗力を補い、新陳代謝を高め、自然治癒力を鼓舞します。

太陽病期の治療

太陽病とは、悪寒発熱といって、悪寒と熱感が入り交じった感覚がして、熱感がでてきます。また、頭痛や首の凝り、関節痛なども出てきて、脈が浮きます。

太陽病期で発汗が無ければ実証、あれば虚証と判定します。

太陽病実証の漢方治療

太陽病実証には麻黄湯(高熱、咳、関節痛や腰痛)、葛根湯(後頭部の凝り・頭痛が目立つ)、小青竜湯などを用います。

太陽病虚証の漢方治療

太陽病虚証では桂枝湯(自然発汗あり)、香蘇散(抑うつ気味・胃腸虚弱)などを用います。

太陽病期から微熱が続いた入り、弛張熱(1日の体温変動が1℃以上あり、平熱まで下がらない熱)のパターンになり、咳やたんなどの気管支炎症や、胸や脇の苦しさ、胃の痛みや吐き気などの上部消化器症状が出現する少陽病期になります。

少陽病期の治療

少陽病期には胸や脇の苦しい症状の強さを虚実判定に加味します。体格が良く筋肉質でがっしりした体型で、活動的で力強い声の実証の方、弱々しい患者でやせ気味な体型、肥えていても水太りで体力のない、声の小さいおとなしい感じで、疲れやすく神経質な虚証の方で処方を変えます。

少陽病期実証の漢方治療

少陽病期実証には大柴胡湯などを用います。

少陽病期実証の漢方治療

少陽病期虚証には柴胡桂枝湯や柴胡桂枝乾姜湯、補中益気湯などを用います。

少陽病期までの漢方治療で改善しない場合は、内科に受診することをお勧めします。もちろんかぜの引き始めから受診されるのもいいですし、インフルエンザに関しては治療薬がありますので、インフルエンザのシーズンは無理をせず、疑ったら早めに受診されることをお勧めします。

【めまい】漢方治療:釣藤散【頭痛】

頭痛やめまいにおすすめな漢方:釣藤散とは

釣藤散は中国宋時代、12世紀に発明された処方です。

「肝に十分な気血が巡っていない状態のめまいを治し、頭痛を治す」働きをもっています。

東洋医学における「肝」は、西洋医学的な「肝臓」の働きである、体内の化学物質の代謝・解毒、タンパク質や糖の合成、胆汁を生成して消化を助ける等だけではなく、ストレスや感情をもつかさどる機能も兼ね備えていると考えられています。

肝に十分な気血が巡らないとストレスをうまく処理できなくなり、結果感情が不安定になったり、めまいや頭痛などの症状が出現するのです。

釣藤散はそのような病態を改善させる効果があります。

釣藤散の構成生薬

石膏

天然の含水硫酸カルシウムです。

止渇作用、利尿作用等があります。

釣藤鈎

アカネ科カギカズラなどの鈎棘です。

血圧降下、腸管血流増加、認知機能改善、末梢神経改善、脂質酸化抑制作用等があります。

陳皮

ミカン科ウンショウミカンンなどの成熟果皮です。

体温下降、抗けいれん、抗アレルギー、肝機能改善、健胃作用等があります。

麦門冬

ユリ科ジャノヒゲの根の膨大部です。

鎮咳、血糖降下、抗炎症、抗アレルギー、抗腫瘍作用等があります。

半夏

サトイモ科カラスビシャクのコルク層を除いた塊茎です。

抗ストレス、鎮静、鎮痛、鎮吐、唾液分泌亢進、抗アレルギー、抗消化性潰瘍、腸管内輸送促進、抗ウイルス、血圧降下、免疫賦活作用等があります。

茯苓(ブクリョウ)

サルノコシカケ科マツホドの菌核です。

利尿、抗腫瘍、免疫賦活、抗炎症、腎障害改善、抗潰瘍、血液凝固抑制作用等があります。

菊花

キク科キクなどの頭花です。

中枢抑制、解熱、好中球貪食亢進、毛細血管抵抗性増強作用等があります。

人参

ウコギ科オタネニンジンの根です。

中枢興奮、中枢抑制、抗ストレス、抗疲労、強壮、男性ホルモン増強、脳血流量増加、抗炎症、血圧降下、血糖降下、脂質代謝改善、抗腫瘍、抗潰瘍、抗老化、免疫賦活、肝障害抑制、向精神作用等があります。

防風

セリ科ボウフウの根及び根茎です。

抗炎症、血圧降下、中枢抑制、抗潰瘍、免疫賦活作用等があります。

甘草

マメ科カンゾウなどの根です。

鎮静・鎮痙、鎮咳、抗消化性潰瘍、利胆、肝機能改善、肝保護、抗炎症、抗アレルギー、抗糖尿病、抗動脈硬化作用等があります。

生姜

ショウガ科ショウガの根茎です。

睡眠延長、解熱・鎮痛、抗けいれん、鎮咳、鎮吐、血圧降下、強心、唾液分泌亢進、抗潰瘍、肝障害予防・改善作用等があります。

証(虚実)

中間証~虚証

 

陳皮・半夏・茯苓・人参・甘草・生姜の6種類は「六君子湯」にも含まれる生薬で、胃腸の虚弱の方にも優しい漢方です。

「肝」の機能異常と釣藤散の効果

釣藤散の名前の由来の生薬”釣藤鈎(カギカズラ)”は鈎の形をした生薬で、「肝」の働きを正常化してストレスを和らげ、感情を穏やかにする働きがあります。

「肝」の機能異常

肝の機能が異常を起こすと、怒りの感情がわきやすくなります。怒りは「頭に血がのぼる」「逆上する」などと表現されるように、強い感情を伴うストレス反応では、気血が上半身に鬱滞することが多く、頭痛や耳鳴り、目の充血や肩こりなど、体の上部の疼痛や炎症を引き起こします。

釣藤散の効果

釣藤散に含まれる生薬のうち、菊花は上半身にのぼった気血を下に降ろす作用があり、石膏や防風は、上半身の炎症を治める働きがあります。

釣藤散がオススメな人

釣藤散は脳血管障害や認知症に対する効果も明らかにされています。

具体的には血管拡張作用であったり、グルタミン酸や酸化窒素放出分子で誘発される神経毒性に対する神経保護作用などがあります。また、大脳皮質や海馬における、カタラーゼ活性の高まりから、活性酸素による神経細胞死を抑制する可能性も示唆されています。

脳血管性認知症の方の精神神経症状や生活機能の改善も報告されています。

よって、釣藤散は

高血圧や糖尿病などの血管リスクがあり、胃腸虚弱、やせて、怒りっぽい傾向のある高齢の方で、頭痛やめまい・肩こり、などの「上半身」の症状に効果的です。

不眠に使う漢方薬。睡眠薬を使う前に。

不眠に使う漢方薬

人間の三大欲求の一つである睡眠欲。その睡眠には人間にとって大切な役割があります。

例えば、脳機能の維持のための脳の休息、ホルモン分泌の調整、免疫機能の増強、記憶の再編成などの役割を持っています。

不眠症とは、その睡眠の質や量が不十分な状態がかなり長期間持続しているものと定義されています。

ストレスや加齢、カフェインやアルコール、ブルーライト、気温、気圧など様々な要因が関与します。

摂取物や環境調整を行っても、なかなか不眠が改善しない場合も多いのが実際です。

そこで薬物を使用する選択肢になりますが、今は薬局でも睡眠補助薬という眠気を誘うようなお薬もでていますが、まずは漢方を試してみてはいかがでしょうか。

それでは、不眠に使用する漢方を紹介します。

①抑肝散

神経が過敏で興奮しやすく、怒りっぽい、イライラする不眠に効果的です。

②抑肝散加陳皮半夏

抑肝散に比べると、より体力低下がみられ、症状が慢性化している不眠に効果的です。

③酸棗仁湯

夜間に目がさえて眠れなくなる、疲れてて弱っているのに眠れない不眠に効果的です。

④加味帰脾湯

虚弱体質で、顔色も悪く、微熱や不安がある不眠に効果的です。
使い分けとしては、一般的には抑肝散を服用されて効果を見られるといいと思われます。

ただ、漢方の味が苦手とか胃腸が弱い方は抑肝散加陳皮半夏を服用されてみるといいでしょう。

高齢者の方で、内科的にずっと治療している病気があるような、体力が低下している状態の方は酸棗仁湯を服用されるのもお勧めです。

高血圧で治療中の人は、頻度は少ないですが、血圧が上がることがあるので内服に関して主治医に伝えておく方がいいでしょう。

漢方が特にお勧めな症状

疲れやすい、頭痛や肩こりが続く。眠れない。めまいやふらつき、発汗。季節や天気の影響で具合の悪さを感じる。
自律神経失調症と言われている。

こういう方々は、抗うつ薬や安定剤を使う前に、漢方薬を服薬してみるのもいいと思います。

漢方薬のメリット

眠気や鎮静の副作用がない。

さまざまな症状に効果がでる。

短期間で改善することが多い。

自分で減らしたり、突然やめても大きな支障がない。

漢方服用の注意点

ただ注意点もあります。
同じ症状でも、同じように効くとは限らない。実や虚など証の概念など、西洋医学な知識が必要になる場合があります。

また、頻尿や体内のイオンバランスが崩れる場合があるので定期的な健康診断はしておいた方がいいでしょう。

慢性的な症状に悩んでおられる方は、一見がっちりしたように見えても、体力の落ちている虚証であることが多く、迷ったら虚証の漢方から服用されると良いでしょう。

 

漢方薬を選ぶ。【虚証】あなたはどっち?【実証】

あなたは虚証か実証か?

漢方を選択する際に、最低限かつ一番重要な知識として「虚実・陰陽」についてごくごく簡単にお話しします。

簡単に言うと「虚とは体力、自然治癒力、復元力を意味しており、実はその反対」です。

虚実、つまり虚証か実証かだけでも知っておくことでずっと選択しやすくなります。

陰とは、暗い影の部分、隠れ潜んでいる状態、つまり、症状がはっきり表れにくい状態で、陽とはその逆です。

日本人は陰・虚タイプが多いように思います。
西洋薬は実証向きの薬が多いため、虚証の日本人が内服すると、胃が悪くなったり、副作用が出やすかったりします。
(薬理学的に言うと、代謝酵素における人種的差、遺伝的要素もあったり、単純な話ではないのかもしれませんが・・)

まずはあなたの証を大まかに見ておくといいと思います。
下のチェック項目をやってみてください。大雑把にですが、自分が虚証よりか、実証よりかは分かると思います。

あなたは虚証か、実証かチェック

①声が力強い
はい(8点) どちらでもない(4点) いいえ(0点)

②行動的で、行動に余裕がある
はい(8点) どちらでもない(4点) いいえ(0点)

③お腹に弾力性があり、緊張がある。
はい(8点) どちらでもない(4点) いいえ(0点)

④食べ過ぎても、体調不良にならない
はい、問題ない(8点) どちらでもない(4点) いいえ、具合が悪くなる(0点)

⑤寝汗はかかない
はい、かかない(8点) どちらでもない(4点) いいえ、寝汗をかく(0点)

⑥筋肉質な体質である
はい(6点) どちらでもない(3点) いいえ(0点)

⑦かた太りである (身長に比べて体重は多いが、体脂肪が少ない状態、スポーツをしている人に多い)
はい(6点) どちらでもない(3点) いいえ(0点)

⑧皮膚につやがある
はい(6点) どちらでもない(3点) いいえ(0点)

⑨食事を食べるのが速い
はい(6点) どちらでもない(3点) いいえ(0点)

⑩1日でも便秘になると気持ち悪く不快になる
はい(6点) どちらでもない(3点) いいえ(0点)

⑪暑さや寒さ、気温の変化には強い
はい(6点) どちらでもない(3点) いいえ(0点)

⑫手足の冷えは目立たない
はい(6点) どちらでもない(3点) いいえ(0点)

⑬日々活動的に動ける
はい(6点) どちらでもない(3点) いいえ(0点)

⑭疲れにくい
はい(6点) どちらでもない(3点) いいえ(0点)

⑮胃薬は苦い方が飲みやすく、苦みは問題ない
はい(6点) どちらでもない(3点) いいえ(0点)

それぞれの回答の点数を合計してください。

 

 

 

 

その合計点が、

0~30点の人は<虚証

31~60点の人は<中間証

61~100点の人は<実証

となります。

漢方の種類によって虚証の人向け、実証の人向け等ありますので、参考にしてみてください。