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成人期ADHDの治療【心理教育、環境調整編】

成人期ADHDの治療アプローチには様々なものがあります。

精神療法、特に認知行動療法では、機能分析を活用した悪循環の理解、問題解決的技法や思考記録法、認知再構成法、スモールステップの原理などの一般的な認知行動療法の理論や技法を基盤として、順序だてと計画性、注意持続訓練などの成人期ADHDに対する技法を組み合わせます。

成人期ADHD対する精神療法の治療構成について

1)心理教育

心理教育は多くの精神疾患に対する精神療法で重要とされていますが、成人期ADHDに対しても治療上有効です。

心理教育として、ADHD、成人期ADHDの特徴や考え方を理解し、知能検査や性格検査などの諸検査の結果からADHDの症状だけではなく、自分の性格傾向、長所や短所などの特性を理解します。

ADHD特性を踏まえた自己理解を深めることによって、今後のセルフコントロールを高める自信を持つことが重要です。

また、ADHDによる生活への影響を知ることで、これまでの生活のしづらさが自らの性格や怠惰によるものだけではなく、神経生物学的要因が引き起こしていたことを知ることで、回復力を高めることができます。

2)環境調整

成人期ADHDへの治療の一つに環境調整というものがあります。

治療的対応としての、生活環境を工夫することですが、有効な場合は非常に多いです。

環境調整として、職場での職業カウンセラーやジョブコーチなどの関わりや、周囲に症状を理解していただき、配慮をしてもらうことで、本人の作業能力が大きく向上することがあります。

具体的な配慮としては、

・本人がメモをしている時間は待つ

・同時に複数の指示をせず、一つずつ遂行してもらう

・マニュアル化、パターン化した仕事を熟練してもらう

などがあります。

本人の特性や状態に合わせた配慮が必要であり、結果本人にとっても、会社にとってもメリットが大きくなります。

ADHDの方は、注意が移りやすかったり、計画通りに遂行できなかったりするため、「自分勝手」「だらしない」とみられることが多く、たとえ会社がシステム的に対応困難な場合でも、同僚や上司に一人でも本人への理解を示すことができ、相談できる人がいるだけでも本人にとっては大きな意味をなします。

学生の場合は、学校の担当教職員に対して支援計画と本人の特性を理解してもらい、気が散らないように席を前にしてもらう、レポートやテストなどの重要事項を文章で伝達してもらうなどの工夫が有効です。

生活面での環境調整

ADHDの方の忘れっぽさは、認知症のような物忘れではなく、不注意や気が散りやすさからくる「一時的に今やるべきことを忘れてしまう」という状態なのです。

日常生活をパターン化することで、何時に○○をして、○○をしたら△△をするというように、習慣化して失敗を減らすことが重要です。

また、集中しすぎて過労になりやすい人は、長時間の継続的な作業の合間にアラームなどを利用して、定期的にその場を離れて休憩する時間をつくる落ち着ける自分だけの空間や時間を確保することなどオンとオフをきりかえることも重要です。

また、作業中に他のことに気が散る場合も、タイマーや決められた時間までは他の作用をしない自分なりのルールを作ることも有効です。

日常生活での工夫

1)順序だてと計画性

一覧表、やることリストなどを作成利用し、優先順位の高い順に一つずつやるべきことをやっていく。

例えば、やることをA,B,Cを設定して

A:は今日、明日中にやるべき課題

B:長期的に終わらせる、それほど重要でない課題

C:重要性が低い

それぞれの課題の重要性を分類します。

ADHDの方は脳内で優先順位を決定することは苦手なので、紙に書き出して視覚化することで優先順位を決定しやすくなります。

2)オンとオフの切りかえのために自分だけの場所と時間を確保する。

集中力の持続を直接的に延ばすことは困難であるため、退屈な課題を行う時の集中力の持続時間をあらかじめ測定しておいて、その時間に合わせて課題を分割して行うといいでしょう。

例えば、持続できる集中力が10分であれば、10分ごとに数分休憩するか10分別な課題に変えるなどすると課題を完遂しやすくなります。

3)タイマーやスマートフォンアプリなど活用できるものは利用する。

4)定期的な休憩をとりいれて、仕事でもプライベートでもやりすぎに注意する。

5)日常生活をパターン化することでやり残し、失敗をなくしていく。

スケジュール帳やスマートフォンなどの携帯電話機能を活用して、スケジュールを管理し、毎朝必ずスケジュールを確認する時間や工夫を決めておくことで、大切な予定を忘れたり、優先順位を決定するときに失敗が減らせます。

6)自分にあった仕事内容、職場環境を選んでいく。

7)相手がしゃべり終わってからしゃべりだす、他人のことに対してコメントすることは控えるなど社交の場での振る舞い方の工夫をする。

8)感情的になりやすいことを自覚して、自分で制御できない時は一旦その場を離れる。

 

ADHDは「完治」や「治癒」するものではないため、特性として抱えながら生活していくことになります。

そのため、生活上の問題を完全に消失させることが目的ではなく、問題を抱えながらも本人なりの解決法や対処法を考え、本人なりにより良い生活を送ることが目標となります。

現在抱える問題を整理して、成功体験と失敗体験から次の工夫を調整していくために、定期的に相談できる自分に合う医療機関を選んでいかれるといいでしょう。