ストラテラ®/アトモキセチン塩酸塩を処方された方へ
一般名
アトモキセチン塩酸塩 atomoxetine hydrochloride
製品名
ストラテラ
剤型
カプセル 5mg、10mg、25mg、40mg
内用液 0.4%
適応
注意欠如多動性障害(AHDH)
用法・用量
18歳以上:1日40mgより開始し、1週間以上あけて1日80㎎まで増量後、2週間以上間隔をあけて1日80~120㎎で維持します。1日1~2回分服。1日最大量は120㎎です。
18歳未満:1日0.5mg/kgより開始し、その後1日0.8mg/kgとし、さらに1日1.2㎎/kgまで増量後、1日1.2~1.8mg/kgで維持します。増量は1週間以上間隔をあけます。1日2回分服。1日最大量は1.8㎎/kg又は120㎎のいずれか少ない量です。
半減期
約3.5時間
ストラテラ®(アトモキセチン)の特徴
ストラテラ®(アトモキセチン)は、日本において2009年に小児(6~18歳)の注意欠如・多動性障害(Attention Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)に対する治療薬として承認されたお薬で、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬です。
2010年には18歳までにADHDと診断され、ストラテラ®を用いた薬物治療が開始された場合に限り、18歳以降も継続して使用することが認められました。
2012年には18歳以上の成人のADHDに対する治療薬として承認されました。
ADHDとは
ADHDは、不注意、多動性、衝動性といった行動上の特性によって特徴づけられる発達障害です。
様々な生物学的要因を基盤に、心理的要因や環境要因、さらに行動統制を要求される現在の生活環境などが複雑に絡み合って、症状が惹起されたり、悪循環するといわれています。
有病率は、学童期の子供の3~7%程度と言われており、青年期から成人期にかけて症状は減弱するといわれていましたが、成人期でも5%程度の有病率の報告があります。
性差はタイプにより異なりますが、男性のほうが2~9倍多いとされ、成人期では性差は少なくなるといわれています。
ADHDと他の病気の合併
ADHDは様々な他の精神疾患と併存することが知られており、反抗挑戦性障害が約50%程度、うつ病や躁うつ病などの気分障害が約20~37%、強迫性障害や不安障害が約25~50%、アルコールやシンナーなどの有機溶剤、違法薬物などの物質使用障害が約30~50%、パーソナリティ障害が約10~30%にみられるといわれています。
ストラテラ®(アトモキセチン)の薬理作用
ADHDにはカテコールアミン、特にドパミンニューロンの機能不全が指摘されています。
ドパミンはADHDの方が苦手な注意の持続における精神的な活動で重要な働きをするとみなされています。
ノルアドレナリン系の神経もまた、注意を必要とする課題を行う過程に関与しており、感覚刺激に反応するために、重要な役割を担っていることが分かっています。
ストラテラ®はノルアドレナリントランスポーターに対して強い親和性を持っています。
セロトントランスポーターへの親和性は中等度に留まり、ドパミントランスポーターに対してはほとんど親和性がありません。
ヒトの前頭前野ではドパミントランスポーターの密度が低く、主としてノルアドレナリントランスポーターがドパミン、ノルアドレナリンの再取り込みを担っており、ノルアドレナリントランスポータの再取り込み阻害による前頭前野の細胞外ノルアドレナリン、ドパミン濃度の上昇がストラテラ®の主な作用と考えられています。
また、ストラテラ®は前頭前野ではドパミンは増加させますが、線条体や側坐核ではドパミンを増加させないため、いままでADHDに使われていたメチルフェニデートなどの中枢刺激役に比べて薬物依存・乱用を起こしにくいといわれています。
ストラテラ®(アトモキセチン)の有効性
小児ADHDにおける有効性
7~18歳のADHDの方へ比較試験では、アトモキセチン群はプラセボ群と比較して、ADHD評価スケール、臨床全般改善度(CGI)などで有意な改善を認めています。
併存障害を有する小児ADHDに対するアトモキセチンの有効性や安全性も、複数のプラセボ対照二重盲検比較試験によって比較されています。
反抗挑戦性障害、チック障害、不安障害、うつ病性障害を併存したADHDについての検討では、アトモキセチンが併存障害を悪化させることなく、ADHD症状を改善することが示されています。
成人ADHDにおける有効性
米国の大規模な二重盲検比較試験では、CAARSを用いてADHDの評価を行い、アトモキセチン群とプラセボ群では、アトモキセチン群で有意な改善が認められました。
有害自傷に関しては、口渇、不眠、食欲減退、性機能障害等がみられたようです。
ストラテラ®(アトモキセチン)の有害自事象、副作用
主な副作用は頭痛(約21.6%)、食欲減退(約15.5%)、傾眠(14.0%)、腹痛(11.2%)、悪心(約9.7%)が報告されています。
しかし、副作用のために使用中止した例は少ないようです。
消化器系の副作用やめまい、疲労感などの一部の副作用は、多くが服薬開始初期に発言しますが、食事とともにアトモキセチンを服用したり、ゆっくりと増薬することによった配慮で軽減できる可能性があります。
アトモキセチンはノルアドレナリンを上昇させる作用があるため、交感神経作用があると考えられており、血圧や脈拍数の増加が報告されています。
心臓の病気や、高血圧などの病歴がある方は主治医に相談しておく必要があります。
成長遅延がアトモキセチン服薬開始初期にみられることがありますが、アトモキセチンによる治療を受けた6~17歳のADHDの子供を5年間追跡した研究では、少なくとも体重や身長に関しては、服薬により一時的には成長遅延が起こる可能性がありますが、長期的にみると、体重、身長ともに期待される値になると報告されています。
まとめ
ADHDの症状に対し、アトモキセチンの有効性は認められています。
しかし、ADHD治療において薬物治療が第一選択ではないことは知っておく必要があります。
ADHD治療において重要なことは、本人がADHDの特性を受け入れたうえで、日常生活や対人関係における工夫を行えるようになることを支え、周囲の理解者や協力者をより多く作り、協力体制を強化することにあるのです。