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【PTSD】トラウマと精神的な病気との関係、治療【うつ病】

トラウマの認知の広がりと理解不足の現状

(トラウマ)心的外傷という言葉は、日常的にもよく使われるようになりました。

精神医学や心理学とは縁がなくても日常生活の中でもしばしば登場します。

ではトラウマが何なのか、トラウマの結果何が生じるのか、どう対処するのが最も適切かなどということについて正しく理解されているのでしょうか。

精神的なショックのことを体験すると、人は「傷つき」ます。

では、日常に体験する「傷つき」と、様々な症状を引き起こす「トラウマ」の違いは何でしょう。

簡単に説明すれば「衝撃(ストレス)を受けたとき、対処できずにできる心の傷」をトラウマと呼びます。

ですから、同じことを体験しても、その人が対処できるかどうかで、トラウマになるかならないかも変わってきます。

(※但し、対処できなかったから「弱い人間だ」、「私に原因がある」とかそういうことではありません。)

トラウマが引き起こす病気

衝撃に対処できない場合は、トラウマになり様々な病気を引き起こします。

その代表的なものがPTSD(心的外傷後ストレス障害)ですが、うつ病や摂食障害なども引き起こします。

うつ病や摂食障害などの場合には、それがトラウマに関連したものであると気づいていない場合も多く、なかなか治らない状態になっています。

「弱いから」「未熟だから」「性格の問題だから」と周囲からも自分自身にも責められ、人間関係、社会生活状況の悪化からさらなるトラウマを引き起こしている場合もあります。

トラウマの治療の必要性

トラウマは治療しなければQOL(生活の質)が著しく下がります。

しかし、トラウマ自体がつらい体験なので、思い出したくない、あえて忘れるように無意識に避けていることもあり、トラウマが原因と気づかれにくいことも多いです。

トラウマとの向き合い方

トラウマは過去の出来事なので、トラウマをなかったことにはできません。

過去を変えられない以上、きっかけとなった体験の受け止め方を変えることが必要なのです。

トラウマの治療

トラウマの治療には、薬物療法(SSRIなどの抗うつ薬)、精神療法、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)などがあげられます。

認知行動療法などで、トラウマ体験そのものに焦点をあてて、トラウマ記憶に暴露させて、受け止め方を変える方法があります。

対人関係療法で、トラウマそのものではなく、トラウマの影響を受けた現在の対人関係に焦点をあてて、現状の生活のQOLを上げることにより、結果としてトラウマの受け止め方を変える方法などもあります。

認知行動療法はトラウマ体験に焦点をあてるため、怖くて耐えられない場合や、独学でやろうとすると、症状を悪化させる場合もあるので、専門の医師、カウンセラーと行うのがよいでしょう。

対人関係療法はそういった危険性が少なく、現在の対人関係に注目し、トラウマから生じている現状の日常の「生きづらさ」を改善させる治療法です。

トラウマが生じる時

ストレスへの対処の仕方は人それぞれです。

ショックな出来事があった後、そのことをくよくよ考える、気分転換をする、早く寝る、親しい人に相談するなどで対処していることが多いのではないでしょうか。

どれも、状況の整理、普段の自分自身の感覚、いつも通りの自分で問題ないという感覚を取り戻すのに有効でしょう。

このようないつもの方法で、普通の感覚を取り戻せているうちは対処できている状態です。

いつもの方法で対処できない、いつもの方法が使えないようなときにトラウマとなります。

ストレスが大きすぎると、「いつも通り」がわからなくなり、感受性も変化し、いつもは助けになっていた他人の言葉も逆につらく、傷ついてしまうこともあります。

小石につまずいて転んでも立ち上がり、声をかけてもらってもとのように歩き出せます。

しかし、地面が割れて落ちてしまったらどうしていいかわからなくなり、それがトラウマとなります。

とっても大切な「なんとかなる」という感覚

健康的に過ごすために大切な感覚が「なんとかなる」という感覚です。

誰もが未来を予知することはできませんので、次になにが起こるかわかりません。

そのようなことを心配し、不安に思いながら生活していては日常が成り立ちません。

私たちが落ち着いて生活できているのは、「なんとかなるだろう」という感覚、「無意識の信頼感」があるからです。

大きなストレスを受けるとこの「無意識の信頼感」が揺らぎ、不安や絶望感が止められなくなります。

トラウマは消せなくても治すことは可能

無意識の信頼感が崩壊していることでトラウマが生じているので、無意識の信頼感を回復することができれば、トラウマから回復できるのです。

トラウマになりやすい出来事の特徴

・出来事自体が生死にかかわる出来事であるか、ひどく恐ろく、残虐、衝撃的であること。
・予測が不可能で突発的であること。
・自分にも何かしらの責任を感じてしまうような状況を含むとき。

対人トラウマについて

人によってもたらされたトラウマを対人トラウマと呼びます。

例えば身近な信頼していた人からの虐待や性被害などです。

家族、親戚、身近な頼りになる人、社会的地位がしっかりしている人などといった、信頼できる基準が根底から崩れることになり、無意識の信頼感が崩壊します。

他人への信頼感の崩壊から、自分にも非があるのではないかと、自分への信頼感も崩壊していきます。

回復には、安全のルールを再確認し、信頼を少しずつ確立していく長い期間の治療を必要とします。

トラウマとPTSD(トラウマが生じやすい人)

同じ出来事を体験しても、トラウマからPTSDを発症する人としない人がいます。

トラウマの後にPTSDを発症するかどうかを予測する要因として、身近な人による支えの有無が大きいといわれています。

身近に相談できるような、質の良い関係性をもてる人物がいつかどうかということです。

このようにトラウマ体験の影響を決めるのは

・ストレス体験の衝撃の大きさ
・ストレスを受ける側の要因
・トラウマ体験後の経過、支援者の有無

ということになります。

子どもとトラウマ

子どものトラウマは大人よりも症状がわかりにくいといわれています。

ストレス体験の後も何事もなかったかのようにふるまっているように見えることもあります。しかし、子供は「無意識の信頼感」を構築する体験が少ないため、大人よりもトラウマを受けやすいといわれています。

ただし、適切に対処すれば、こどもは回復も早いのです。

子どもも大人と同じように症状として「再体験症状」「回避・麻痺症状」「覚醒亢進症状」などが主体となりますが、現れ方が異なる場合も少なくありません。

例えば、交通事故にあったこともが、おもちゃの自動車で衝突を繰り返し再現したりします。

また、無意識ですが、他人への信頼感を確認するために、赤ちゃん返りをしたりします。

他にも、眠れない、学校で成績が下がる、喧嘩などのトラブルを起こす、反抗的になるなど、いつもとは違う様子がみられます。

そのような場合にはまず、そのことを注意するのではなく、なぜそのようなことが起きているかを考えることが大切です。

対人関係療法について

対人関係療法とは1960年代から米国で開発された精神療法のひとつです。

現在でも治療効果を示す科学的根拠のある精神療法として注目されています。

対人関係療法はPTSDだけではなく、うつ病や摂食障害、双極性感情障害(躁うつ病)でも治療法として利用されます。

対人関係療法では病気の原因には焦点をあてません。

PTSDの場合、発症のきっかけはトラウマ体験ですが、トラウマ体験をどのように対人関係で扱い発症につながっているか、現在どのような対人関係から影響を受けているかが重要なのです。

PTSDと対人関係療法

現在の対人関係に焦点を当てて、無意識の信頼感を取り戻していきます。

発症に影響しているのがどの過程の問題によるものかを評価します

人は身近な人の死などのショックな出来事を体験した場合、だいたい同じような心の反応が起きます。

キューブラー・ロスによる死別の受容モデル

「否認」

「何かの間違いだ」「夢じゃないか」と頭でわかっていても、感情的に事実を否認します。

「怒り」

「なぜ自分がこんなつらい思いをするのか」というような怒りが出現します。

「取引」

「○○をするから、少しでも寿命を延ばしてほしい」というような非現実的な願望を取引しようとします。

「抑うつ」

死が逃れられないことを実感し、抑うつ気分、絶望感が出現します。

「受容」

死を拒絶し、回避することができないことを悟り、死を静かにみつめ、受け入れる体制ができます。

死別体験がトラウマになった場合、この死の受容の過程に影響し、複雑化して長引いてしまう場合があります。

そこに最も影響する感情は、「自責」、「後悔」、「罪悪感」です。

「なぜ私は生き残ったのだろう。」

「なぜあの時○○しなかったのだろう。」

「なぜ△△してしまったのだろう。」

このように後悔し、自分を責め続けると、受容のプロセスが複雑化し、長期化します。

また、仕事や家事に追われたり、関係者の対応に追われたり、受容の過程と向き合う暇がないと受容のプロセスがうまくいかなくなります。

死別した人との関係や、死別したときの状況を、安心できる環境で相談しながら、信頼できる身近な人との関わりを大切にすることで、整理していくことが大切です。

自分の気持ちを否定せずに、現在の自分の状態、状況を把握して、自分の役割、必要とされている事実を実感することによって、自分をいつもの感覚を取り戻すことができます

トラウマからの回復で最終的に目指す状態はエンパワーメント(有力化)

トラウマによって「無意識の信頼感」を喪失し、無力化された状態から、再び信頼感の獲得、自分の力を取り戻すことが最終的な治療目標になります。

まずは、専門家に受診するところからはじめてみてはいかがでしょうか。

【ADHD】発達障害とトラウマ【PTSD】

発達障害の方で、発達障害の症状だけではなく、複雑性PTSDの症状が絡み合い、生活に支障をきたし受診される方が少なくありません。

発達障害の方で、診断されることなく介入がないままでいる場合、家庭内、学校生活、社会生活において、心的外傷を招きやすい傾向があります。

発達障害の子供に虐待やトラウマ体験が重なると多彩な症状が出現、増悪します。

その一方で、発達障害のない子供に虐待があった場合、その後遺症として生じる愛着障害の状態は、発達障害の姿に似た状態となり、鑑別が難しくなることがあります。

発達障害と子供の虐待とが、世代間での連鎖が生じ、繰り返されやすくなることがあります。

社会性や共感性の障害であるアスペルガー症候群などの発達障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、複雑性PTSDなどが絡み合い、それが親子共にみられるとき治療がなかなかうまくいかない場面がみられます。

複雑性PTSDとは

Complex Post-Traumatic Stress Disorder のことで、C-PTSD、複雑型PTSDと表現されることもあります。

原因

幼少期からの性的虐待、家庭内暴力、DV、いじめ体験などの心的外傷体験が、長期的、反復的に持続することが原因になりやすく、そのような体験を受けたすぐ後に発症することもあれば、数年後に発症することもあります。

症状

喜怒哀楽の感情がなくなったような感情鈍麻、絶望感、虚無感、生への執着のなさ、自己破壊的行動、衝動行為、攻撃性や敵意、対人不安からの対人関係の不安定さ、うつ状態、解離状態、引きこもり等の症状がみられます。

幼少期からの心的外傷体験がある場合にはパーソナリティ障害、人格障害と診断されるような状態が出現することもあります。

複雑性PTSDの症状である気分の浮き沈みを躁うつ病と診断されている場合もあります。

時には世間でいう多重人格のような、解離性同一性障害もみられます。

被虐待の体験がある親の元での、虐待を受けている子供の親子関係では、フラッシュバックがしばしばみられ、暴力、破壊行為などへ発展することもみられます。

複雑性PTSDのトラウマ処理

複雑性PTSDの治療にはトラウマ処理が必要になることがあります。

複雑性PTSDの治療において、興奮や易怒性から大暴れするような状態を、一時的に薬物療法を利用して、症状を軽減させることはできるかもしれませんが、基本的には薬物療法は最小限、少量利用していきながら、トラウマの処理を図る方向性を考えていきます。

ただし、トラウマの処理を行おうとすることでフラッシュバックが増悪し、さらに症状が複雑化してしまう場合があるので専門家のもとで、慎重に治療を行っていく必要があります。

トラウマとして、非常に多くみられるのは母子関係のトラウマです。

治療

具体的な治療としてはカウンセリングや精神療法、環境調整が主体となりますが、EMDRなどを併用されることもあります。