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【摂食障害の治療〜心理的アプローチ〜】

「私は吐くということが恐ろしいから、食べることも恐怖なのです。それはもう保育園の頃からです。でも弱音は吐けません。誰にも心配させたくないからです」

「体重は40kgですが、このお腹の贅肉を手術してでもとりたい」

「食べ出したら止まらなくなり、あるもの全部食べても満足しません」

「毎日下剤を60錠くらい飲まないと気が済みません」

「一日中食べ吐きのことばかり考えてます。食べる前から吐くことを考えてます」

摂食障害の方は、それぞれ症状も違います。

【摂食障害には幼少期の体験が影響している事が多い】

摂食障害の治療においては、まず生育歴が重要になることが多いと考えます。実際、親子の関係が改善して良くなる方がいますし、患者さんが中壮年になって直接親子関係に介入できない場合は、過去の、特に幼少期の傷ついたインナーチャイルド、現在まで続いている子供の頃の思考パターンや習慣を癒し、克服することで改善することが多いのです。

【摂食障害の人に吐くなと言っても意味がない?】

「食事を制限して運動しましょう」

「吐いてはいけない」「下剤は使ってはいけない」

「もっと食べましょう」

摂食障害の方に、こういう事はあまり話しません。摂食障害の方は、食べること、吐くこと、体形、容姿、体重のことにとらわれて、それらの事は熱心に話をしますが、「大事なこと」は、話しません。話しませんというより、本人も気づいていないこともよくあります。これまでの不安感、恐怖心や羞恥心を隠しておることが多いのです。

【摂食障害の治療】

摂食障害の治療とは、患者さんの拒食、過食の原因となっているイライラや不安、恐怖、不満、寂しさ、羞恥心を改善することが大切になります。その心理的な葛藤は過去に隠されています。

【摂食障害を防ぐ子育ての大切さ】

子育てが非常に難しいことは、我が身をもって実感しています。自立の強調、強制や処罰のしつけが全て悪いとは思いませんが、もっと自由に愛して、ほめて育てることを大切にしてほしいと思います。

【摂食障害】なぜ食べ吐きするのか【過食嘔吐】

食べ吐きする人、過食症の心理

過食・嘔吐する多くの方にとって、過食も拒食も一つの連続体であり、過食と拒食は一見逆に見えますが、その基本的な心理は共通しています。

過食に関して、「苦しいので早く治してほしい」という訴えで受診されます。

確かに食べ吐きしている現状はつらいのは事実でしょうが、その時、過食行動が感情や欲求の調整に役立っていた部分は認識できていないことが多いです。

過食・嘔吐を治す場合、”なぜ過食・嘔吐が始まってしまったのか”、”なぜやめられなくなっているのか”がとても重要になります

過食・嘔吐する方の性格傾向

過食・嘔吐をする方は、努力家で、やせていなければならないという社会的な圧力にこたえようとしている方も多くみられます。

その一方で、自分の制御の難しさがあり、行動的で怒りっぽく、衝動的で、依存傾向が強かったりもします。

過食・嘔吐する方は平均以上の痩せを求める傾向があります。

また、人目を気にする理性が勝っている時は極めて少食になります。

しかし、過食時には高カロリー、脂っこいものなどを恐れずに過食できます。

過食・嘔吐する方の多くは、対人関係に敏感で傷つきやすく、人が自分をどう評価しているかがいつも気になっています。

褒められても安心せず、その裏がないかを考えます。

他人が自分に対してどういう意図を持っているかを必死に考えますが、それに答えが出ずに疲れ果てます。

みんなから好かれたいと思いますが、これも叶わない願いであることが多く、苦しみます。

また、過食する人々は、勉強・仕事・趣味・遊びや人付き合いに関して計画を立てないと気が済まない性格傾向であることが多いのですが、細かい計画通りに進まずに苦しみます。

このように、思い通りにいかない混乱と隣り合わせに生活しているのです。

過食・嘔吐する方は、みんなから好かれたい、予想通りの理想の人間関係のある日常、人生にしたいと願っていますが、臨機応変が必要とされる人間関係には向きません。

いつも「こんなはずじゃなかった」という思いにおそわれることになります。

しかし、過食・嘔吐する方はそのような絶望や悲しみを表出することは許しがたいのです。

そのため、残された道は、とにかく他人に合わせ、無理に無理を重ねた人間関係になっていきます。

人に好かれるために、怒り、イライラ、悲しみ、恨み、妬み(ねたみ)といった良くない感情たちを出さないように封じ込めなければならないと考えています。

心が乱れ、嫌な感情が続くことが許せなくなり、早く思い通りの自分にならなければならいと考え、ますます疲れます。

理想に向かって、無理な対人関係、仕事、日常を送っている時は、気が張っており疲れは十分に意識されずに、休憩時間や帰宅時、休日に一気に疲れが自覚されます。

過食・嘔吐の意義

過食・嘔吐はこの苦しい疲れを一瞬に断ち切ってくれます。

頭のことを空っぽにして、無理をしている自分から解放されるのです。

また、過食・嘔吐、下剤乱用といった一連の浄化行動は、苦しさの堂々巡り、悪循環をきれいさっぱりリセットしてくれるような気にさせてくれます。

過食・嘔吐をするから、自分をリセットして安心して眠ることができると錯覚します。

過食することで安らかな眠りを導いてくれると感じています。

過食後の自責感や後悔は、実際出現はしますが、過食・嘔吐によって得られる充足感は、それらの負のマイナス感情をはるかに上回ります。

時に、両親を支配し、操縦する手段として過食、嘔吐が存在している方がいます。

過食は、食料が簡単に手に入る現代社会において、内外のストレスのもっとも手近でもっとも手軽なストレス解消法なのです。

「秘密の快楽」になる過食・嘔吐

また、過食・嘔吐、下剤乱用により強い内臓感覚が引き起こされます。

それにより、自己の存在感覚を実感します。この感覚には自己愛的でマゾヒスティックな官能の快楽が混在していることが多いとされます。

過食・嘔吐が「秘密の快楽」になる時期があるはずで

感情コントロールと過食

強迫的なこだわり、怒り、憎しみ、後悔、恋しさ、寂しさといった感情が先行し、それらの感情から逃れるために過食します。

一般的にも失恋や嫌なことがあれば、食欲が減ることや、やけ酒、やけ食いが出ることはあるでしょう。

ただ、過食・嘔吐する方で病名がつくというのは、これらの食行動の逸脱が高度でかつ常態化しているの場合です。

過食する方でほぼ常に見られやすい重要な感情は、「むなしさ」、内的空虚感なのです。

 

「むなしさ」、内的空虚感はどこからくるのか

人は、様々な人や物と生涯を通じて、情緒的に関わって生きていきます。

それら人や物などといった対象は、心の中にある対象で、「内的対象」と呼びます。

それは愛着してやまない骨董品であったり、自らの勝ち取った栄えある受賞時の光景であったり、物や情景、人といった様々なものが対象となりえます。

しかし、両親に代表される養育者ならびに兄弟、姉妹たちの内的対象の在り様が、心の健康の維持にとっては決定的になります。

養育者の適切でない身体的、言語的・非言語的対応のもとに育った人には、良質で、動揺しにくいしっかりとした内的対象が形成されます。

反対に、養育者から適切な身体的、情緒的、言語的・非言語的対応を受けることが困難な場合や乏しかった場合、もしくは養育者の負の対応に過敏すぎたり、もしくはその両方の場合に、養育者という対象への表象は安定せず、うつろいやすくなります。

負の悪い内的対象に支配される感覚は、耐え難く、その結果内的対象は不自然に美化され、理想化され、悪い養育者のイメージは排除され、他のものに移し替えられたりします。

あるいは、良い内的対象と悪い内的対象がめまぐるしく交替したりすることもあります。

このような不安定な内的対象をもつ人の自我形成は非常に脆弱で、安定した心の基盤を失っています。

そのため、内的対象から見放されたと感じたり、内的対象を失ったと体験したときに「むなしさ」、空虚感が生じます。

空虚感の他に、生きていることの無益さ、慢性の落ち着きのなさ、退屈感、孤独感とそれに打ち勝つだけのゆとりの無さといった感情もしばしばみられます。

退屈を感じることを恐れ、退屈を常に避けようとする努力がみられる人もいます。

過食・嘔吐する人は、食べ物を擬人化していることが多いです。

過食・嘔吐という行動自体が、頼れる相棒のような存在になっています。

つまり、食べ物が人間の代理表象になっているのです。

過食や拒食という手放せないものの向こう側に、自分たちを受け入れ愛してくれるはずの人々のイメージを浮かべ求めているのです。

そのため、心身共に融合し、理解してもらえ、気持ちも一致したと体験される異性が出演した場合、過食が消失することはよくあります。

しかし、そのような幸せも長続きしないことが多いです。

過食、拒食する人の異性関係における問題

自分の欲求の充足をすぐに相手に求めてしまいます。

依存し、支配したくなり、独り占めしようとします。

思い通りにならないと情緒不安定となり、感情的になりやすいです。

相手の状況や立場を配慮する余裕がなくなりやすいです。

親切のつもりが押しつけになっている場合にも認識できにくいです。

一旦嫌になると、相手の欠点ばかりが目につきやすいです。

異性との関係から調子が悪くなる方もいますが、異性関係をもつこと自体は決して悪いことばかりではなく、異性との情緒的交流ののちに成熟する過程をとることができる人もいます。

過食・嘔吐する人はどういう経過をとるのか

過食・嘔吐とそれに伴うさまざまは症状は、長い経過の中で慢性化しているものが多く、簡単に解消するものではありません。

生命にかかわるような飢餓状態が出現する様であれば入院治療になることもあります。

過食・嘔吐することは、基本的には生きていくうえで選択を余儀なくされた、生き方の表現型であることが多く、それぞれの人の生活歴、生活環境、性格傾向、病態水準、社会的生活水準などを考えて各々に必要な治療戦略を考える必要があります。

過食・嘔吐することの裏に隠れている精神的な病気があるのであれば、その病気の治療をすることで比較的速やかに過食・嘔吐の症状が改善する人もいます。

活動期(過活動で軽躁的な時期)

自己愛的で、万能感を伴うような拒食の時期から始まる人は多く、「食べない方が動けるし、健康だし、周りからちやほやされる」といったような体験をしている人が少なくありません。

やや過活動であったり、運動、勉強、仕事などやりすぎる状態がみられることもあります。

その後、過食、自己誘発性の嘔吐、下剤乱用などが始まる過食の時期になることが多いです。

停滞期(過食、ひきこもり、抑うつ気分が目立つ時期)

次第に、自己嫌悪、罪悪感が目立つようになり、抑うつ的な気分が増える停滞期にはいっていきます。

人によっては自傷行為や性的逸脱行動、家庭内暴力がみられる人もいます。

後悔と自暴自棄が出やすい時期です。

学校や仕事での適応がなんとか成立している人と、ひきこもり外出がほとんどできなくなる人と様々です。

現状の苦しみを親や誰かのせいにしている場合は、症状が長引く人が多いです。

抑うつ気分があまり強い時には抗うつ薬が効果を示すこともあります。

回復期

治療を継続しうまくいけば、やがて回復期になります。

親や周囲のせいにしていた知覚がうすれ、自己の柔軟性に乏しい一方的な考え方、認知の仕方が自覚でき、自分の能力の限界もある程度わかるようになり、現実と向きあっていくようになります。

それまで自分は特別だというような思い込みから目が醒めて、幻滅したり絶望感が出る人もいます。

理想と現実の葛藤への処理が必要となります。

回復することで、社会生活と向きあわないといけなくなる不安や恐怖が出てきます。

しかし、そこには体験を通じて乗り越える必要がでてきます。

これらの過程の中で、アルコールや薬物の依存や乱用が出てくる人がいます。

このようなつらい停滞期、回復期を乗り越えた人々は社会生活できるようになります。

医師、看護師、心理士などの医療従事者や、教師、保母などといった愛他的主義的志向の職業を求める人も多くいます。

自分が愛されたいと願う願望の裏返しかもしれません。もちろん、その他にも会社員であったり技術職であったり、芸術家であったり適応している形は様々です。

摂食障害の治療

拒食がひどい方の場合、飢餓状態、脱水などにより生命の危機にさらされている時は入院治療となります。

過食の方が入院治療となることは多くはありませんが、外来治療は長期的になることが多いです。

精神療法

1)認知行動療法

認知行動療法は過食症の方に対して第一選択の治療となります。

認知行動療法の有効性が示されています。

2)力動的精神療法

過食症の精神力動的治療法の有効性も示されており、「取り入れ」と「投影」の防衛機制が用いられることが明らかにされています。

3)薬物療法

抗うつ薬、特にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の有効性が示されています。

最後に

現在摂食障害の治療を得意とする治療者は多くはなく、信頼できる治療者と巡り合えることはとても幸運なことです。

食べ吐きでお困りの方は摂食障害に対応できる医療機関の情報を集めて、受診されてみてはいかがでしょうか。

拒食症を治したい!【神経症性食思不振症】

神経症性食思不振症について

思春期やせ症あるいは拒食症とも呼ばれています。

この病気は若い女性の間で増加しています。

この病気になるといろいろな身体及び精神的な問題を生じ、日常生活に支障をきたします。そして極端な場合は死に至ります。

神経症性食思不振症は治る病気です。

治るためには、まず最初にこの病気についてよく知ることが大切です。

神経症性食思不振症とは

神経性食思不振症とは、精神的な原因より食行動の異常を生じ、極端なやせをきたす病気です。

そして病的にやせているにもかかわらず、やせていると思わず(ボディイメージの障害)、体重増加に対する強い不安、恐怖(肥満恐怖)を示します。

さらにこの状態が病気であることを認めたがらず、治療に無関心か、あるいは治療に抵抗を示します。

しかし、病気が進みますと種々の身体及び精神合併症を生じ、極端な場合は死に至ります。

またこの病気の経過中に自制困難な食べたいという欲求を生じてある一定の時間内に大量の食べ物を食べ(過食)、その後嘔吐(もどす)したり、下剤を用いたりして体重増加を防ぐこともあります。

神経症性食思不振症の原因

神経性食思不振症の原因については、いまだ十分に分かっていません。

心理的ストレス、将来の自立に対する不安(進学、就職、結婚など)、あるいは家庭内不和などにより食欲が低下して食べられなくなったり、「やせてスリムな体型になる」ために過剰なダイエットをしたりして体重が減少します。

これがさらにすすみますと、お腹が空いているにもかかわらず空腹を感じなくなり、少量の食物しか食べれず、さらに体重が減少します。

しかし心の中では何か達成したような気持ちになり、今までの悩みを一時忘れます。

そして毎日体重のこと、食物のカロリーのことで頭の中がいっぱいになり、体重を増えないようにすることが生活上最も重要なこととなります。

そして体重が減れば「成功」したと思い、少しでも増えれば「失敗」したと思うようになります。

その結果、やせや栄養障害により種々の身体的、精神的合併症を生じ、これがさらに食生活に影響を与えるといった悪循環を生じます。

神経性食思不振症の症状

1.食行動の異常(食思不振、不食、節食、かくれ食い、過食、嘔吐など)

2.著しいやせ

3.やせているにもかかわらず、やせているとは思わない。

4.やせているのに少しでも体重が増加すると不安になる。

5.やせているにもかかわらず、体重が増えないように運動する。

6.自信をなくしたり、無気力、抑うつ状態になる。

7.友達や友人から孤立していく。

8.無月経

9.脱毛

10.うぶ毛が濃くなる

11.低体温

12.脈拍が遅くなる(1分間に60回以下)

13.低血圧

拒食症によって生じる身体および精神の合併症

脳萎縮・けいれん・失神

脱毛

低身長

不眠・集中力低下・疲れやすい・ゆううつ気分・いらいら

聴覚過敏

虫歯・味覚障害

うぶ毛の密生・皮膚かんそう

低血圧・徐脈・不整脈

血液障害

肝・膵機能障害

便秘

腰痛

無月経・性欲低下

手が冷える・冷え性・寒がり

歩行困難(筋萎縮)・骨粗鬆症

むくみ(浮腫)・脱水

神経性食思不振症は治る病気です

治療法として精神療法、行動療法、身体療法(薬物、輸液など)をその人の状態により組み合わせて行われます。

治療目標はまず正常な食事パターンと体重の回復とし、これは食事教育プログラムにより、「本人が自分で適切に食事をすることを学んでもらう」ことにより達成してもらいます。

しかし、体重がある程度回復するだけでは十分でなく、次の段階では社会(家族、学校、職場)で不適応を起こした心理的問題の解決と新しく適応することを練習してもらいます。

これらの治療目標を達成するには、まず神経性食思不振症についての正しい知識と理解が必要です。

そして親の食事をめぐる叱責や脅迫めいた説得は、効果がないだけでなく親子間の関係をさらに悪化させますので、しないようにしましょう。

「患者自身が適切に食事をすることを学び実行すること」について、家族の忍耐強い協力と心の成長を温かく見守るという姿勢が必要です。