うつ病性障害の治療適応と目標
うつ病エピソード(ICD-10)、または大うつ病エピソード(DSM-IV)の診断基準を満たす方は、抗うつ剤による治療が必要になります。
軽症のうつ病の場合には、個人の特質や、その人の希望によって抗うつ薬による治療が選択されるかもしれませんが、心理社会療法的なアプローチのみで十分な場合もあるでしょう。
どちらにせよ、うつ病が疑わしい場合やそれに近い体調不良がある場合は状態の評価とその治療のための受診をお勧めします。
受診してうつ病という診断になった場合、どのように抗うつ薬が選ばれるかを説明します。
抗うつ薬の選択の仕方
抗うつ薬の開発が、大うつ病の治療に貢献していますが、1957年の最初の三環系抗うつ薬(TCA)以来、多くの異なるタイプの抗うつ薬が開発されており、抗うつ薬の使い方が非常に重要となります。
より新しい抗うつ薬は、副作用を減らすこおを主な目的として開発されていますが、作用機序の異なるお薬の登場が、これまで効果が乏しかった方にも効くことも見られます。
但し全体的な抗うつ薬の効果を総合的にみると、どの抗うつ薬も抗うつ効果は同じくらいであり、治療反応率は50~75%となります。
そのため、それぞれの特定の抗うつ薬の選択は、下記のようなことを考慮したうえで、選択することになります。
・過去の薬物の使用歴
これまでに使用して、良い反応をした薬物とそうでない薬物から判断します。
・選択された抗うつ薬によって悪化する可能性のある身体合併症
たとえば肥満や、糖尿病などの方には太りやすいお薬を避けるということなどです。
・好ましくない、潜在的に有害な薬物相互作用に至りうる薬の併用
ワーファリンや抗不整脈薬、高血圧の薬などさまざまな薬との相互作用を考える必要があります。
・薬剤による短・長期の副作用
健康の質に影響を及ぼす副作用は、内服する人の満足度と継続率を低下させます。
たとえば、内服開始時の吐き気や、長期てきな性機能障害などです。
・医師の経験
処方する医師の経験が薬剤の選択肢に影響します。
・内服する人のこれまでの服薬管理の経歴
飲み忘れが多い人は1日1回で済む薬剤を選択することなどを考えます。
・薬物に反応した第一度近親者(親、子、兄弟姉妹)の家族歴
近親者に効果のあった薬剤は、同じように効果が出現しやすいでしょう。
・コスト
薬剤での薬価、値段が違います。
世界基準、ガイドライン
WFSBP(生物学的精神医学会世界連合)は下記のような推奨をしています。
・軽症のうつ病に対していは、中東症から重症のうつ病に対して有効な心理教育または精神療法が、抗うつ薬に代わる治療選択肢となる。
・薬剤は用いられる(患者の希望/好みによる、以前に薬剤に反応した正の治療歴がある、過去に中等症から重症のエピソードがある、初期に非薬理学的治療に反応しなかった)場合には、SSRIとその他のより新しい抗うつ薬が第一選択薬となりなす。
・中等症のうつ病ではSSRIとその他のより新しい抗うつ薬が第一選択薬となります。
・重症のうつ病では、TCA、SSRI、SNRIが推奨されます。
適切な治療による有益性の程度は、うつ病が重症になればなるほど高まります。
軽症のうつ病では、薬物療法に頼りすぎず、教育、支持、問題解決も抗うつ薬に代わる治療効果を期待できるということです。
しかし、重症度が増すにつれて、抗うつ薬の使用がより適切となります。
うつ病の種類とその治療
うつ病と一言でいっても、様々な異なるサブタイプがあり、それぞれのクラスの抗うつ薬に対して異なる反応をします。
メランコリー型うつ病の特徴と入院適応となるうつ病
メランコリー型うつ病の特徴は、ほとんどすべての活動における喜びの喪失、ふだん快適である刺激に対する反応の消失、早朝覚醒、朝に悪化すること、有意な体重減少、精神運動遅滞、焦燥感、抑うつ気分などがあります。
入院治療が必要な方はメランコリー型の特徴を呈していることが多いです。
SSRIはプラセボよりも効果的であり、三環系抗うつ薬と同等の効果を期待できます。
精神病性うつ病
大うつ病性障害では、時に妄想や幻覚の出現も見られます。そういった精神病性うつ病の方には抗うつ薬と抗精神病薬を併用することで、いずれか単独の治療よりも、かなり高い反応率を示す場合があります。
ここで注意するのは、うつ病に投与される抗精神病薬の用量は、統合失調症に用いられる用量よりも少ない量で有効であることが多いことです。
非定型の特徴を伴ううつ病
非定型の特徴とは、イベントに反応して気分が明るくなる、過眠、体重増加、強い疲労感、四肢の鉛様の麻痺、パーソナリティ特性としての拒絶に対する敏感性などです。
特に非定型の特徴を伴ううつ病の方に対しては、薬物療法の効果が乏しい事も多く、精神療法などの心理的アプローチや環境調整が奏功することがあります。
双極性感情障害(躁うつ病)のうつ病
双極性感情障害のうつ病では情動調整薬と呼ばれる薬剤(ラモトリギン、炭酸リチウム、バルプロ酸など)や少量の抗精神病薬(アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピンなど)が使用されます。抗うつ剤単剤での治療は推奨されておらず、使用するとしても情動調整薬や抗精神病薬と併用することが多いでしょう。
これまで、躁状態がみられていなくても、うつ病として抗うつ薬を内服し始めて、気分が高まり、浪費、多弁、過活動が出現するようなときは躁うつ病を疑います。
うつ病と自殺
自殺は、大うつ病ではリスクとして考えておかなければならず、希死念慮が急激に高まった時は、入院での治療が必要です。
自殺のリスクが高まりやすい因子としては、
・気分の波が激しい
・衝動制御性が乏しい
・落胆と絶望感が強い
・年齢と性別(男性では20歳~30歳と50歳以上、女性では40~60歳)
・自殺未遂の既往歴
・自殺企図の家族歴
・早期発症の感情障害の家族歴
・アルコールなどの物質乱用
・婚姻状況(独身、離婚など)
・社会経済状況の急激な変化(失業、経済的問題、望まない退職)
・支持者の欠如
などがあげられます。
うつ病の治療目標
うつ病の治療を行う際には、急性期、中期、長期の目標をたて、それぞれの時期での急性期治療、継続期治療、維持期治療を行っていきます。
急性期治療
急性期治療は、治療開始から寛解までの期間を網羅するものであり、治療の第1ゴールです。寛解の基準は2つの条件、つまり1つ目の無症状(障害の診断基準を満たさず、残遺症状がないか、あったとしても最低限であること)であることとと、2つ目に心理社会的にも職業的にも機能が改善することです。
継続期治療
継続期の治療は、寛解を維持し、安定するために、急性期に続けて行う、うつ病の再発予防のための治療延長期間です。
継続治療の期間中に抑うつ性の症状群が再発した場合は、同一エピソードの再発が起きたと考えます。残念ながら、治療中の状態では、再発と反復(新しいエピソード)とを区別できません。
それゆえ、実際にどこまでが継続期治療なのかを正しく定義することが難しいのです。
原理的に、回復は、薬剤中止後の抑うつ性症状の持続的な欠如によって確かめられます。
回復は、病気の個々のエピソードのみに適応されるものであり、今後も再発しないということを意味するものではありません。
維持期治療
維持期(予防)治療は、うつ病の反復および自殺を防止するとともに、機能を全面的、持続的に回復させることを目的とします。
まとめ
このようにうつ病といっても個々人により様々な病態を示すため、それぞれの人にあった治療を経過に合わせて調整していくことが必要となります。
かかりつけの信頼できる医師と連携をとっていくことがとても大切です。