大人で受診することの多い発達障害【診断編】
自閉症スペクトラム障害の有症率
自閉症児及びその周辺の状態も含め、1960年代は有症率は小児の0.04~0.05%と言われていました。
しかし、その後診断概念も広がり、報告される有症率が高くなってきています。
2009年の英国の学校ベースでの大規模調査では、自閉症スペクトラム障害の有症率は1.57%と推測されています。
2011年のイェール大学が協力した韓国の子供数万人対象とした調査では、2.64%と報告されています。
米国の疾病管理予防センター(CDC)は2008年の時点で、8歳児の自閉症スペクトラム障害の推定有症率は1.13%と報告されています。
このような研究報告から、現在自閉症スペクトラム障害の有症率は約1%前後と推定されています。
青年期・成人期の自閉症スペクトラム障害の有症率については英国の研究で0.98%との報告があり、幼児期と大きな違いはなさそうです。
ADHDの有症率
児童思春期のADHDの有症率は約5%との報告があります。
また成人まで半数以上は診断可能の状態として残るという推測がなされています。
よって成人のADHDの有症率は約3~4%と推測されます。
2006年から2010年の米国の研究ではADHDが約7.9%との報告があります。
そう考えると10人に1人はなんらかのADHD、発達障害をもつ子供がいるということになります。
2012年の文部科学省の調査では、通常学級の生徒の約6.5%が、なんらかの発達障害の傾向を有することが示されています。
自閉症スペクトラム障害とADHDの鑑別、違い
自閉症スペクトラム障害とADHDは非常に併存しやすいことが分かってきています。
主体となる診断がどちらかということは、対応において必要になりますが、鑑別が難しい状態もあります。
例えば、同じ「空気が読めない」という状態でも自閉症スペクトラム症とADHDでは背景にある特性に違いを考える必要があります。
自閉症スペクトラム症では、社会的常識感覚の質的変化、共感性のなさなどの社会性の問題から、「空気が読めない」という状態が生じます。
ADHDの場合は社会性は保たれていても、衝動性があるために、衝動的に発言、行動してしまい、社会性がないと判断され、本人は反省しますが、衝動性をコントロールできずに繰り返します。
自閉症スペクトラム障害は指摘されても理解しにくく、ADHDの場合は分かっているけどやってしまうという自己嫌悪が生じているのです。
人の話を理解できない、ぼーとしている、キレやすいなどに関しても、自閉症スペクトラム障害の持つ特性の社会性の問題や、コミュニケーションの問題、こだわの強さによる問題なのか、ADHDによる不注意、衝動性、感情コントロールの苦手さの特性によるものかを鑑別する必要があります。
診断の流れ
病院やクリニックによって、診断方法は異なりますが、一般的な流れとしては、診察を複数回行い、出生から発達、成育の状況、幼少期からの経過、現在の社会生活、日常生活のでの困ってい主訴等を確認し、母子健康手帳や、通知表などを参考とし、自己記入式評価診断ツール、心理検査等の結果を合わせて、総合的に診断されていきます。
母子健康手帳、通知表だけでなく、幼少時に描いた絵や作文、写真を持参して頂くこともあります。
家族に同じようなことで困っているか、似たような人がいるかも情報として重要です。
状況や相手がかわると、表出される症状も変わってくるため、複数回医師が診察を繰り返しながら、臨床心理士による面談、検査等を行うことで、診断としての信頼性が高まります。
情報が少ない場合は、自己記入式質問紙を利用し、知能検査(WAIS-IIIなど)、心理検査(自閉症スペクトラム指数、DSM-IVの基準によるADHD診断ツールなど)を行い、診断の信頼性、精度を高めます。
必要であれば、器質的な他の疾患を除外するために、採血や頭部MRI、脳波などの検査を行い、原因がないかを調べることもあります。
発達障害の良い部分
診断がつき、今後の方向性を考えていくことになりますが、自閉症スペクトラム障害・ADHDの良い点も知っておきましょう。
自閉症スペクトラム障害の良い部分
<社会性>
・自分で大切と思うルールをきちんと守るまじめさ
・人に流されることなく、自分の意志と通すことができる
・ユニークで常識にとらわれない発想ができる
<コミュニケーション>
・自分の得意な分野の話題は豊富で、詳しい話ができる
<想像力>
・自分が関心のあるものへの取り組みは熱心で、こだわりの中で良質なものを生み出す力が発揮できる
自閉スペクトラム症の可能性が考えられている著名人
アルバート・アインシュタイン
ビル・ゲイツ
レオナルド・ダ・ヴィンチ
ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン
フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ
また、トム・クルーズ、スティーヴン・スピルバークは読字障害をカミングアウトしています。
ADHDの良い部分
<注意集中>
好きなことには人一倍集中できる
<多動性>
活動的で、積極的である。雄弁である。
<衝動性>
ひらめき・創造性がある。実行力・行動力がある。アイデアがどんどん生み出せる。
ADHDの可能性が考えられる著名人
織田信長
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
坂本龍馬
トーマス・エジソン
ジョン・F・ケネディ
自閉症スペクトラム障害・ADHDについて知っておいてほしいこと
・生まれつきの神経発達のかたよりであるため、子育ての仕方の問題や、その人の人間性や知能の問題ではないこと
・社会的にうまくいき、成功している人もいるため、自分の特徴を知り、それを生かせるように工夫、調整することが大切であること
次回は④は治療と支援についてです。
事項はこちらです。→【アスペルガー】発達障害について知っておきたいこと【ADHD】④【治療、支援編】