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【安定剤】ワイパックス®/ロラゼパムとはどんな薬【抗不安薬】

ワイパックス/ロラゼパム を処方された方へ

一般名

ロラゼパム lorazepam

製品名

ワイパックス

剤型

錠剤 0.5mg、1mg

後発品

ロラゼパム 錠剤 0.5mg、1mg

適応

①神経症における不安・緊張・抑うつ

②心身症(高血圧症、消化器疾患、自律神経失調症)における身体症候・不安・緊張・抑うつ

用法・用量

1日1~3mg(1日2回~3回に分けて)

禁忌

急性狭隅角緑内障、重症筋無力症

半減期

10~20時間

ワイパックス®/ロラゼパムの特徴

ベンゾジアゼピン系抗不安薬に分類される、いわゆる安定剤です。

最高血中濃度は約2時間後であり、作用発現速度は中等度です。

血中半減期は10~20時間で、作用時間は短時間(中間型)に分類されます。

抗不安作用の力としては強い方の高力価に分類され、高力価短時間作用型です。

排泄半減期は約10時間と短めですが、分布蓄積量が少ないため、1回の投与で長く作用します。

緊急時、例えば不安時や不穏時の屯用での内服利用でも長めに効果が持続します。

反復投与をしても高濃度に達しないという特徴を持っています。

肝臓ミクロソーム酵素での代謝がなく、グルクロン酸抱合されるので、活性代謝物はないため、加齢や肝障害の影響をあまり受けません。

強力な抗不安作用をもち、鎮静作用、筋弛緩作用、抗痙攣作用も中等度有しています、

そのため、躁病や精神病による興奮状態に対する鎮静にも効果的です。

ワイパックス®/ロラゼパムの薬理作用

作用機序は、抑制性のGABAニューロンのシナプス後膜のベンゾジアゼピン受容体に、作動薬として高い親和性で結合し、GABA親和性増大によりGABAニューロンの作用を特異的に増強するものと考えられます。

ワイパックス®/ロラゼパムの有効率

神経症、自律神経失調症、心臓神経症に約50~60%の有効率が報告されています。

ワイパックス®/ロラゼパムの副作用

副作用は約11%で、眠気、めまい、ふらつき、頭重感、口渇、悪心・嘔吐が出現するとの報告がありますが少なめです。

まとめ

ワイパックス®/ロラゼパムは安定剤としての効果は強く、不安症状によく効きます。

鎮静効果も期待できます。

また、加齢や肝障害の影響を受けにくいため、高齢者や肝機能障害がある方にも調整しやすいお薬です。

その反面、依存に注意が必要であることと、お薬が切れる時にでる反跳性の不安の出現に注意する必要があります。

【安定剤】メイラックス®/ロフラゼプ酸エチルとはどんな薬【抗不安薬】

メイラックス®/ロフラゼプ酸エチルを処方された方へ

一般名

ロフラゼプ酸エチル ethyl loflazepate

製品名

メイラックス

剤型

錠剤 1mg、2mg

後発品

ジメトックス、ロフラゼプ酸エチル 錠剤:1mg、2mg、細粒1%

適応

①神経症における不安・緊張・抑うつ・睡眠障害

②心身症(胃・十二指腸潰瘍、慢性胃炎、過敏性腸症候群、自律神経失調症)における不安・緊張・抑うつ・睡眠障害

用法・用量

1日2mg (1日1~2回)

禁忌

急性狭隅角緑内障、重症筋無力症

半減期

約60~300時間

メイラックス®/ロフラゼプ酸エチルの特徴

ベンゾジアゼピン系抗不安薬に分類される、いわゆる安定剤です。

最高血中濃度は1~2時間後であり、作用発現速度は中等度です。

血中半減期は60~300時間で、超長時間作用型ですので、1日1回の内服で効果が持続します。

連続で内服した場合、1~3週間で定常状態になり、蓄積性は認められません。

お薬がきれる時の反跳性の不安や離脱作用が起きにくい安定剤です。

他の抗力価短時間作用型のベンゾジアゼピン系をなかなか減薬できない時に、一旦メイラックスに置換して、減薬していく方法もあります。

メイラックス®/ロフラゼプ酸エチルの薬理作用

抗不安作用は中等度で、抗痙攣作用は強いです。

鎮静作用や意識水準低下作用、筋弛緩作用は弱いです。

経口内服後、速やかに吸収され、消化管通過時や肝臓による初回通過効果を受けて、活性代謝物となり、その後持続性代謝物に変化し、効果が持続します。

メイラックス®/ロフラゼプ酸エチルの有効率

神経症で約60%、心身症で約70%(胃十二指腸潰瘍で約90%、慢性胃炎で約75%、過敏性大腸炎で約70%、自律神経失調症で約65%)の有効率が報告されています。

メイラックス®/ロフラゼプ酸エチルの副作用

眠気が約10%、めまいが1%、ふらつき1%ほどの報告があります。

長期投与継続中に、減少し消失することが多いです。

アルコールとの併用で相互に作用が増強しますので、併用はやめましょう。

まとめ

メイラックス/ロフラゼプ酸エチルは抗不安作用としての効果は中等度あり、効果の持続時間が長いため、1日1回の投与で継続的な効果を得られます。

また、中止時の反跳性不眠や離脱症状も起きにくく、他のベンゾジアゼピン系薬剤と比べると依存のリスクの少ないお薬と考えていいでしょう。

【安定剤】レキソタン®、セニラン®/ブロマゼパムとはどんな薬【抗不安薬】

レキソタン®、セニラン®/ブロマゼパムを処方された方へ

一般名

ブロマゼパム bromazepam

製品名

レキソタン®、セニラン®

剤型

レキソタン 細粒1%、錠剤 1mg、2mg、5mg

セニラン 坐剤3mg

後発品

セニラン 細粒1%、錠剤1mg、2mg、3mg、5mg、

適応

①神経症における不安・緊張・抑うつ・強迫・恐怖

②うつ病における不安・緊張

③心身症(高血圧症、消化器疾患、自律神経失調症)における身体症候・不安・緊張・抑うつ・睡眠障害

④麻酔前投薬

用法・用量

①神経症、うつ病には1日6~15mg(1日2回~3回に分けて)

②心身症には1日3~6mg(1日2回~3回に分けて)

③麻酔前投薬には就寝前・手術前に5mg

禁忌

急性狭隅角緑内障、重症筋無力症

半減期

6~20時間

レキソタン®、セニラン®/ブロマゼパムの特徴

ベンゾジアゼピン系抗不安薬に分類される、いわゆる安定剤です。

最高血中濃度は1時間後であり、作用発現速度は中等度です。

血中半減期は6~20時間で、作用時間は短時間(中間型)に分類されます。

抗不安作用の力としては強い方の高力価に分類されます。

抗不安作用、静穏作用は強力で、催眠作用、筋弛緩作用、抗痙攣作用も強力です。

他のベンゾジアゼピン系抗不安薬に比べて気分が落ち着く、集中できる、気分が大きくなるといったmood elevating effect、beneficial effectが見られています。

レキソタン®、セニラン®/ブロマゼパムの薬理作用

作用機序は、抑制性のGABAニューロンのシナプス後膜のベンゾジアゼピン受容体に、作動薬として高い親和性で結合し、GABA親和性増大によりGABAニューロンの作用を特異的に増強するものと考えられます。

アルプラゾラムの有効率

神経症、うつ病、心身症の約50~60%に有効という報告があります。

強迫や恐怖症状に有効である報告も多く、パニック発作のような強度の不安にも効果的です。

身体合併症のある方、例えば臓器障害をきたしているような著名な高血圧や重症不整脈を合併されている方の情動ストレス軽減や、不眠に対しても使用されます。

アルプラゾラムの副作用

眠気が約15%、ふらつき約8%、疲労感は約6%ほどの報告があります。

まとめ

レキソタン、セニラン/ブロマゼパムは効果が強く、強迫性不安や、パニック性の不安をはじめ、不安症状によく効きます。

その反面、依存に注意が必要であることと、お薬が切れる時にでる反跳性の不安の出現に注意する必要があります。

【安定剤】ソラナックス®、コンスタン®/アルプラゾラムとはどんな薬【抗不安薬】

ソラナックス®、コンスタン®/アルプラゾラムを処方された方へ

一般名

アルプラゾラム alprazolam

製品名

ソラナックス、コンスタン

剤型

0.4mg、0.8mg

適応

心身症(胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、自律神経失調症)における身体症候・不安・緊張・抑うつ・睡眠障害

用法・用量

成人1日1.2mgを3回に分け、最高1日2.4mg

高齢者では1回0.4mgから開始、最高1日1.2mg

禁忌

急性狭隅角緑内障、重症筋無力症

半減期

6~20時間

薬物動態

CYP3Aで代謝

ソラナックス®、コンスタン®/アルプラゾラムの特徴

ベンゾジアゼピン系抗不安薬に分類される、いわゆる安定剤です。

最高血中濃度は2時間後であり、作用発現速度は中等度です。

血中半減期は6~20時間であり、作用時間は短時間(中間型)に分類されます。

抗不安作用の力としては強い、高力価に分類されます。

アルプラゾラムは他のベンゾジアゼピン系と異なり、抗うつ作用の報告があります。

但し、抗うつ作用といっても抗うつ薬ほどの作用まではありません。

パニック障害での不安発作や予期不安への有効性が確立されています。

社会恐怖の動悸、口渇、振戦等の自律神経症状に対しての効果が期待できます。

全般性不安障害に対しては、高力価短時間作用型であるがゆえに、依存を生じやすくなることと、服薬間に起きる反跳性不安のリスクもあり、第一選択とはなりません。

アルプラゾラムの薬理作用

作用機序は、視床下部・扁桃核を含む大脳辺縁系に対する抑制と考えられています。

鎮静作用、抗痙攣作用は強い方ですが、筋弛緩作用は中等度です。

抗不安作用も中等度に分類されます。

アルプラゾラムの有効率

心身症および自律神経失調症に伴う不安・緊張・睡眠障害は80%以上、抑うつ症状には77%の有効率を示しています。

適応症別では、胃十二指腸潰瘍、自律神経失調症で70%、過敏性大腸炎では57%の有効率を示しています。

アルプラゾラムの副作用

眠気が約10%、めまい、ふらつき、脱力・倦怠感は約6%、口渇、悪心、嘔吐は約1%ほどの報告があります。

まとめ

ソラナックス®、コンスタン®/アルプラゾラムは効果が強く、不安症状によく効きます。

その反面、依存に注意が必要であることと、短時間作用型であるため、お薬が切れる時にでる反跳性の不安の出現に注意する必要があります。

【パニック障害】漢方治療:柴朴湯【不安発作】

パニック障害とは

日常に出現する不安とは明らかに区別される、急峻な不安発作(パニック発作)が繰り返されるのが特徴で、「頭がおかしくなる」「死んでしまう」などただならぬ状態、死への恐怖がみられます。一度発作が起きると、再び同じ恐怖を体験するのではないかという不安(予期不安)が出現し、乗り物(電車、バス、飛行機など、)や特定の場所(歯医者、映画館、トンネルなど)を避けたり、外出が困難になったりします。

パニック障害の治療

パニック障害の治療は薬物療法が中心で、安定剤や抗うつ薬のSSRIを中心に処方されます。

薬物療法で症状は改善しますが、いつまで治療すればいいのかということになります。

安定した状態が続けば減薬を目指しますが、治療の終結に向けて、認知行動療法の導入や漢方への置換が再発予防、スムーズな減薬をサポートする役割を果たしてくれます。

パニック障害におすすめな漢方:柴朴湯(サイボクトウ)とは

柴朴湯は、小柴胡湯と半夏厚朴湯の合方で、内科領域ではアレルギー疾患に良く用いられています。

柴胡、半夏、人参、生姜等の中枢神経作用、厚朴、甘草、蘇葉等の鎮静作用が不安を改善させてくれます。

柴朴湯(サイボクトウ)の構成生薬

柴胡(サイコ)

セリ科ミシマサイコの根です。

中枢抑制作用(鎮静、鎮咳、鎮痛、解熱など)、抗消化性潰瘍、肝障害改善、抗炎症・抗アレルギー、ステロイド剤副作用防止、脂質代謝改善、抗ストレス、インターフェロン誘起作用などがあります。

大棗(タイソウ)

クロウメモドキ科ナツメの果実です。

抗アレルギー、抗消化性潰瘍、抗ストレス、血液凝固抑制、鎮静、腎障害改善作用などがあります。

半夏(ハンゲ)

サトイモ科カラスビシャクのコルク層を除いた塊茎です。

抗ストレス、鎮静、鎮痛、鎮吐、唾液分泌亢進、抗アレルギー、抗消化性潰瘍、腸管内輸送促進、抗ウイルス、血圧降下、免疫賦活作用等があります。

茯苓(ブクリョウ)

サルノコシカケ科マツホドの菌核です。

利尿、抗腫瘍、免疫賦活、抗炎症、腎障害改善、抗潰瘍、血液凝固抑制作用等があります。

人参(ニンジン)

ウコギ科オタネニンジンの根です。

中枢興奮、中枢抑制、抗ストレス、抗疲労、強壮、男性ホルモン増強、脳血流量増加、抗炎症、血圧降下、血糖降下、脂質代謝改善、抗腫瘍、抗潰瘍、抗老化、免疫賦活、肝障害抑制、向精神作用等があります。

甘草(カンゾウ)

マメ科カンゾウなどの根です。

鎮静・鎮痙、鎮咳、抗消化性潰瘍、利胆、肝機能改善、肝保護、抗炎症、抗アレルギー、抗糖尿病、抗動脈硬化作用等があります。

黄芩(オウゴン)

シソ科コガネバネの周りの皮を除いた根です。

中枢抑制作用(鎮痛・鎮静・運動抑制)、体温調整、血圧降下、毛細血管強化、抗動脈硬化、脂質代謝改善、肝障害予防、抗消化性潰瘍、抗炎症・抗アレルギー作用などがあります。

蘇葉(ソヨウ)

シソ科シソ・チリメンジソの葉および枝先です。

鎮静、免疫賦活、抗アレルギー、TNF産生抑制、抗菌作用などがあります。

厚朴(コウボク)

モクレン科ホオノキなどの樹皮です。

筋弛緩・抗痙攣、鎮静、抗消化性潰瘍、抗炎症・抗アレルギー、血圧降下、鎮吐、抗菌、抗腫瘍作用などがあります。

生姜(ショウキョウ)

ショウガ科ショウガの根茎です。睡眠延長、解熱・鎮痛、抗けいれん、鎮咳、鎮吐、血圧降下、強心、唾液分泌亢進、抗潰瘍、肝障害予防・改善作用等があります。

証(虚実)

中間証~虚証

柴朴湯の適応

柴朴湯はパニック発作だけでなく、不安感や落ち込み、全身倦怠感などの精神的や症状と、喉のつまった感じである咽頭異物感、咳嗽、めまい、動悸、嘔気などの自律神経失調症状も改善してくれる効果をもっています。

 

妄想を話されたときはどうすればいいのか【妄想への対応】

身近な人が、事実と異なる思い込みを話しだしたらどうしましょうか。

しばらくは、そのことが事実か妄想か分からないことも多いと思います。

では、話していることが事実と異なる本人の思い込みや妄想である場合はどういう対応をとったらいいのでしょうか。

妄想を話されたときの対応について説明します。

妄想を話されたときの対応の仕方

では、具体的な内容をみてみましょう。

20代後半の男性会社員の方です。

「5年前にあるマンションに引っ越しました。なれない職場の仕事で、当時は結構ストレスが多い日々でした。」

「しばらくして、私の留守中に誰かが部屋に侵入して、盗聴器を仕掛けたようでした。

そしていつも私のことを盗聴します。

そのうち、職場でも同僚がひそひそと私のこと噂するようになり会社の外部の人までもが私の悪口を言うようになりました。

私しか知らないはずのことまで言われます。

私が考えていることを言葉にして言ってくることもあります。

また数人で私のことをあれこれ話し合ったりしています。

ときには電波を送ってきて体をしびれさせたりもします。

これはきっと誰かに狙われている・・・・と思いました。」

「上司にいくら訴えても、「そんなことはあり得ないよ」と信じてもらえません。」

「私は仕方なくメンタルクリニックを受診したのですが、そこで”統合失調症の可能性が考えられる”と言われました。

その時はショックで愕然としましたが、医師の「きちんと薬を飲めば、よくなります」という言葉を信じて、通院しています。」

「薬を飲み始めてから、勝手に頭に聞こえてくる声、幻聴が聞こえるということもなくなってきました。」

思考と妄想

思考(thinking)とは、近く、記憶された材料を統合して、判断や推理を行う精神活動ですが、妄想とは考えの中身、思考内容の異常を言います。

認知症や知識・教育不足から生じた誤解、偏見、特定の文化・思想・宗教集団における迷信や判断の誤りは妄想とは呼びません。

例えば「内容の薄い書物でも立派な表紙をつければ売れるだろう」という出版社社長のアイデアや、はるか昔に「海の端は滝になっていて落ちていく」という考えは妄想とは言いません。

妄想とは(delusion)

妄想は、「異常な確信に支えられた訂正不能の考え」と定義されています。

妄想は以下の4つの特徴を持っています。

1)自己関係付け

自分に結びいていること

2)内容の不合理

事実無根の内容であること

3)主観的な確信

ひとりで思い込んでしまうこと

4)訂正不能

どのような反証にも決して屈しないこと

妄想の種類

一次妄想と二次妄想

一次妄想とは「原発性」で発生機序が心理学的背景から了解不能な妄想です。

分かりやすく言うと、どうしてそういう思考になるのかさっぱりわからない、勝手に発生した根拠のない妄想です。

一次妄想には妄想気分や、妄想知覚、妄想着想などが含まれます。

妄想気分

「とてつもなく大きな事件がおこりそうだ」というような妄想です。

「光や音が強くなる、タバコの匂いが気になり、音が耳に突き刺さる」といった聴覚過敏、「外界がきな臭く、空気の密度が濃くなる」といった知覚変容、「地球が破壊される」「戦争が勃発し原子爆弾がおちる」といった世界没落体験といった状態も見られることが多いです。

具体例をみてみましょう。

30代後半の男性。

「妻との離婚問題や、仕事の多忙さなどから緊張感や過敏な状態にありました。

旅先の駅で、騒がしく吠える野良犬が、自分が近づくと急におとなしくなりました。

その時この犬は、自分がよそ者であることを本能的に伝えようとしたのだと感じました。

牧場で跳ね回っていた野生の子馬が、すぐに慣れて近寄ってきたので、自分には動物を鎮める力があることに気がついて感動しました。

腰の曲がった老夫婦に出会った時、たちまち直感で相手の性格をつかむことができ、その人柄に感銘を受け、いつの日かドライブをする約束をしました。

いまいる場所に故郷をしのばせる雰囲気が広がり、人々は純真、親切で自然に親しみ、まるで故郷にいるかのような幸福感にみたされました。

歩きながら両親との暮らしや、若いころの思い出が蘇った。

空腹にも関わらず、昼食のサンドイッチを小川に投げ込み、自然に捧げ物をしたことに喜びを覚えました。」

妄想知覚

机の消しゴムを見て「出版社の社長が自分を殺しに来る」という妄想が出現するような、知覚刺激から出現する妄想。

妄想着想

「自分は悪魔の生まれ変わりだ」というような妄想

二次妄想

二次妄想とは「続発性」で発生機序を心理学的背景から了解可能なことが多い妄想です。

例えば、アルコール依存症の方が、妻に嫌われているという感情と、アルコール性性機能障害から「妻が浮気をしている」と嫉妬妄想が出現するというような妄想です。

妄想の主題、内容

妄想はその主題、内容からいくつかの群に分けられます。

1)被害妄想群

他人から危害を加えられると確信する妄想です。

被害(迫害)妄想:「他人から嫌がらせをされる」

追跡妄想:「行く先々で変な人につきまとわれる」

被毒妄想:「食べ物に毒を入れられる」

注察妄想:「周囲から監視されている」

嫉妬妄想:「配偶者が浮気をしている」

もの盗られ妄想:「持ち物を盗まれる」

2)微小妄想群

自己の価値や能力を低いと確信する妄想です

貧困妄想:「財産を失った。明日食べていくお金もない」

罪業妄想:「重大な過失を犯してしまった」

心気妄想:「もう健康な身体じゃない」

疾病妄想:「不治の病にかかってしまった」

虚無妄想:「自分の心臓がない」

3)誇大妄想群

自分の能力や価値を過大評価する妄想です。

血統妄想:「高貴な家柄の子孫である」

恋愛妄想:「あの有名芸能人から愛されている」

発明妄想:「世界的な発見・発明をした」

啓示妄想:「神のお告げを聞いた、天啓をさずかった」

預言者妄想、選民妄想:「私は選ばれし預言者である」

4)被影響妄想

外から干渉され支配されているという妄想です。

物理的被害妄想:「体に電気を流されている」

性的被影響体験:「恥部をさわられている」

憑依妄想:「憑りつかれている」

変身妄想:「自分が他の何かにかわる」

生まれ変わり妄想:「自分は誰かの生まれ変わりだ」

妄想が出現しやすい病気

妄想が出現しやすい病気としては、統合失調症、うつ病、躁うつ病、認知症、妄想性障害、心気障害、身体醜形障害等があげられます。

妄想出現しやすい病気と有病率、性差

精神疾患 一般人口有病率 性差
統合失調症 1~1.5% 性差無し
うつ病 女:10~25%、男:5~12% 女>男
躁うつ病 0.4~1.6% 性差無し
認知症 65歳以上:5%、85歳以上:15~20% 女(2倍)>男
妄想性障害 0.7~3% やや女性
心気症、身体醜形障害 0.1~0.5% 女(5倍)>男

妄想への対応

幻覚、妄想、その他の病的体験には否定も肯定もしない態度で臨むことが大切です。

現実の出来事として体験しているため、彼らにとっては症状としての”事実”なので、これを否定することは、不信感や絶縁につながり、関係を断ってしまうことになりかねません。

相談されて「どう思うか」と意見や真偽のほどを尋ねられることもあるでしょうが、この場合でも慎重に言葉を選び、結論はだせなければ出さずに、受診につなげる誘導をしていくことが大切です。

例えば統合失調症の方の妄想で「狙われている、盗聴器を仕掛けられている。」といって部屋から出てこない状態がつづいているとします。

ここで、放置したり、何を言ってるんだと責してはいけないのです。

「眠れていないようだから、せめて眠れるように受診して先生に相談してみましょう」

「頭が痛いなら心配だから検査だけでもしておいた方がいいよ」

「そんなに不思議なことばかり起きて、あなた一人でなんとかしようとしていたらノイローゼになってしまうじゃない。ゆっくり眠ることや、気持ちを休めることに関してだけでもいいから相談に行ってみましょう。」

など、本人の気持ちに寄り添い、困っている事柄から受診へつなげる誘導を試みましょう。

それでもどうしていいか分からない場合は、保健所に電話して、精神保健相談員に相談してみてください。

暴力をふるったり、家族でも危害を加えるなど、自傷や他害の危険性がみられる時は警察に通報しましょう。

 

PTSD【心的外傷後ストレス障害】への治療アプローチ

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは

阪神・淡路大震災以後、PTSDという病気が注目されるようになりました。

PTSD、すなわちPost-Traumatic Stress Disorder(心的外傷後ストレス障害)とは、戦争や大災害など生命の脅威にさらされた人に、のちのち起こってくるストレス障害です。

心的外傷体験は、抑うつ状態、不安障害、人格乖離、乖離的同一性障害(いわゆる多重人格)や心身症状の起因にもなります。

PTSDは、1980年に改訂されたDSM-IIIから、独立した精神科疾患となりました。

ベトナム帰還兵の戦争神経症に対する保険診療の必要性が社会的に高まったことが契機となり、ホロウィッツのストレス反応症候群に関する先行研究を下敷きに概念化されたものです。

1994年に発表されたDSM-IVは、PTSDの診断基準として以下の5領域をあげました。

PTSD診断基準

A.生命に危険をもたらすような予測不能・コントロール不能な災害体験

B.外傷的な出来事の再体験反応

C.外傷的な出来事の持続的否認や心的マヒ症状

D.身体的覚醒亢進

E.上記の症状が1ヶ月以上続くこと

F.心理的苦痛や社会的・職業的機能障害の持続

の以上5点です。

PTSDの方は、往々にして感情障害、気分変調、アルコールや薬物依存、不安障害、人格障害などとも診断されることがあります。

このような診断名がついた方々のなかに含まれるPTSD層も考慮にいれた、全米規模の罹患率調査(1996年)によれば、PTSD発症率は通常の災害事故の場合に男性で5%、女性で10%であると推定されています。

しかしながらレイプなどの性的犯罪被害者で、その後事情聴取や喚問など、非受容的・非治療的な環境で体験の陳述を強制された場合には、出現頻度が23%にも高まったといいます。

また、災害事態の予測不能性とコントロール不能性が極度に高まった場合(例えば、戦争、強制収容所、拷問、人質など)、ほとんどの被災者に発症するという報告もあります。

PTSD発症のメカニズムについては、心理社会的・疫学的・神経生理学的アプローチがあります。

心理社会的アプローチは、PTSD症状を「異常な事態に対する身体の正常な反応」と見なします。

1970年代後半から顕在化し始めたベトナム帰還兵の適応障害を、アメリカ社会の中でノーマライズするうえで心理社会的陣営が果たした役割は大きいといえます。

しかし、1980年代以降の疫学的研究により、PTSDが必ずしも生命の脅威にさらされたものすべてに生じるわけではなく、とりわけ3年以上も症状が持続する慢性PTSDはきわめて低率であることが明らかになりました。

さらに1990年代には、PTSD特有の感覚の鋭敏化現象が、「なぜある特定の人たちだけに生じるのか」を大脳生理学的に解明する研究が盛んになりました。

疫学的・神経生理学的陣営は、犯罪や事故、災害などの民事訴訟において、補償額をつりあげるための安易な口実としてPTSDが利用されかねない現実に歯止めをかける役割を果たしています。

日本でも、雲仙普賢岳・北海道南西沖地震での実践が先行的研究として知られていますが、実践的な研究が本格化したのは阪神・淡路大震災以降です。

その成果としてストレスケアモデルが生まれ、1997年初夏に起こった須磨区児童殺害事件では、同区内の小学校における児童保護者やケア提供者に対するディブリーフィング活動として組織的な活用が試みられました。

心的外傷後ストレス支援の原則

大災害に出合ったものが全員PTSDになるわけではありません。

しかし、被災者の方ほぼ全員に、体験・否認あるいは心的マヒ・覚醒亢進という災害特有の心的外傷後ストレス反応が起きます。

被災者の方のなかには、被災体験から1ヶ月以上たっても、再体験と否認や心的マヒという二相症状を交互に繰り返し、さらに覚醒亢進が持続するために、正常な社会生活に支障をきたす方がみられます。

これが精神科疾患としてのPTSDですが、対策は予防・教育が基本になります。

PTSD対策:予防・教育に関しての3原則

1)症状のノーマライゼーションの原則

心的外傷後に生じる特有のストレス症状により、災害被害者の方は「自分は普通ではなくなった」という強い不安感をもつようになります。

この場合支援者は「生命が脅かされるほどショッキングな事件に遭遇したときに、生物としてのヒトはもっとも原始的な適応反応を示します。それが今あなたに起こっていることです。こうしたストレス反応のおかげで、人類は現在まで種を保存することができたのです」と伝えます。

ストレス反応が今ここで生じている事実こそ、正常な癒やしのプロセスがすでに始まっている証拠であるむねを伝え、現在の状況の意味や今後の展開について見通しを与えることが大切です。

2)協働とエンパワーメントの原則

心的外傷後ストレスからの回復の過程で被災者の方は、再体験、回避、覚醒亢進、罪障感といった特有の反応を示します。

この最良の癒やし手は、被災者自らであり、さらには被災者と日常接する非専門的な支援者たちです。

一方、専門家は症状を明快に記述し、説明し、癒やしへと至る時間の流れのなかに現在を位置づけます。

両者はそれぞれの役割を自覚し、被災者自らの力を高め、尊厳や有能感を回復するという共通の課題のために協働することが大切なのです。

3)個別化の原則

心的外傷から回復する過程は個人により千差万別であることをあらかじめ知っておくことが重要です。

それと同時に、他者との違いは価値あることとして認める態度が必要です。

支援者は、一般的な方向や起こしやすい間違いについては意識するものの、被災者個人の固有の道筋をとともに歩みながら、常に新しい改善の変化を発見する姿勢が大切なのです。

その他のさまざまなアプローチ

心的外傷を負ったものは、自らを病んだものと見なす専門治療的関係を望みません。

被災地域の住民に、悩みや心配事はどのような人に相談したのかをたずねた大規模サンプリング調査の結果では、精神科医やカウンセラーに相談したと答えた住民は、回答者の3%程度という報告があります。

大多数の被災者の方々は、家族、親せき、友人といった支援者に自然に悩みを相談していたのです。

支援者と被災者との関係は、個人の精神内界の限界や病理性に目を向ける医師・患者型のセラピー(カウンセリング)モデルではなく、被災者の自我の健康な部分に依拠する協働型のストレスケアモデルに基づくべきなのです。

ストレスケアの代表的な技法であるディブリーフィング(Debriefing)

ディブリーフィングは個人でも小集団でも実施できますが、受容的・共感的な場のなかで事実・思考・感情と順をおって体験を聴取し、続けてストレスマネジメントをテーマとした心理教育を行います。

ディブリーフィングの目的は、自身の尊厳や世界に対する信頼や安全感を失った被災者の方が、

(1)症状をノーマライズし、

(2)内外の対処資源に気づき、状況に対して打てる手だてがあると力づけし、

(3)それぞれの道筋を通りながら状況を意味あるものと再評価し、見通しを持てるようにすることにあります。

被災者が活力を取り戻すことができるストレス対処資源として、次に述べる6つの領域を想定し、それぞれの頭文字をとってBASIC-Phモデルというものがあります。

心的外傷後ストレス反応や障害へのさまざまな支援法は、これら6つの領域のどこをより重視するかによって分類することが可能になります。

BASIC-Phモデル

1)信念(Belief)

広島の被爆者やホロコーストの生存者への面接調査から、災害被災者は自らの被災体験の意味について実存的な問いを発することが分かりました。

自らもホロコースト体験者であるビクトール・フランクルは、実存的な意味の希求にもがく生存者に向けてこう語っています。

「私たちが人生に何を求めるのか、それは大した問題ではありません。むしろ人生が私たちに何を求めるか、それが問題なのです。人生の意味について考えるのは止めましょう。その代わりに、毎日、毎時間、人生から絶えず問われている存在として自らを考えることにしましょう。生きるということが究極的に意味するのは、人生が私たちに何を求めているのかについて正しい答えを見つけ、人生が私たち一人一人に対して課し続ける課題を満たしてゆく、そのことに責任を取ることなのです。」と。

この言葉は、信念や被災体験の実存的な意味づけが被災者を力づけることを雄弁に物語っています。

2)感情(Affect)

非指示的・受容的・許容的な雰囲気の中で、内面の感情を表出することにより被災者は力を取り戻していきます。

支援者は、被災者の感情が妥当であり、自然のものであると保証する姿勢が求められます。

この場合に支援者に求められるのは来談者中心的な、傾聴するカウンセリング・マインドです。

3)社会的サポート(Social Support)

心的外傷後ストレスに対して、被災者は家族や親せき、知人・友人の支援ネットワークを活用します。

これらとの密接なつながりによって自らを守ろうとするのです。

先述の調査が示すように、大震災時でもこの資源性がほとんどの被災者によって活用されていました。

社会的ネットワークの活性化のためにはソーシャルワーク的介入が有効です。

4)想像力(Imagination)

ストレスが高じたときに、楽しかった旅行の風景をイメージしたり、音楽や読書に没頭したり、遊びやユーモアによりエンパワーされる被災者も多いのです。

大震災の体験は、多くの被災者自らの手になる音楽や文学、絵画作品を生みだします。

これらは、想像力を羽ばたかせるアートの持つ癒やしの力を物語るものです。

5)認知(Cognition)

現在の状況に対する見通しや打てる手だてに関する情報により、被災者のストレスは低減されます。

心理教育的なアプローチが重視するのが、この被災者の認知的側面です。

ディブリーフィング活動にくわえて、マスメディアでの広報やパンフレットなども貴重なストレス対処資源となります。

6)身体・生理反応(Physical)

適度な運動や入浴によりリラクセーションが得られます。

また、仕事や家事に打ち込むこともストレスの緩和策になります。

あるいは、栄養指導やアルコール制限なども有効な身体・生理レベルの対処策です。

一方、系統的脱感作(Systematic Desensitization)やEMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)などの技法もこのカテゴリーに入れられます。

強迫性障害の治療の実際【認知行動療法】

強迫性障害は完治が難しく、良くなったり悪くなったり、治療がなかなかうまくいかないことが多い病気です。

実際の良くなる人はどのような治療や経過をとっているかを見て、そこからあなたが利用できる良くなる可能性を見出してみてはいかがでしょうか。

「こんな風に良くなることができるのか」というイメージを持つことは、治療において非常に大切です。

では、実際の治療経過の一例からあなたが良くなるヒントを見つけましょう。

(症例に関しては個人が特定できないように改変されてあります。)

強迫性障害の治療経過の実際

「私は30代の女性です。夫と幼稚園に通う長女と3人暮らしです。

専門学校を卒業し、スーパーに正社員として勤務していました。

勤務して数年ほどたったのち結婚し、そのまま退職しました。その後は主婦として生活し、長女を出産しました。

小さいころから心配性で、忘れ物がないか何回も確認することはよくありました。」

「最初に症状がでたのは25歳の時でした。」

「きっかけはインフルエンザにかかってしまい、みんなにうつしてはいけないと心配していたのですが、自分がインフルエンザのウイルスをばらまいているんじゃないかと思うようになって、その考えがどんどん膨らんで不安になりました。

自分がウイルスをばらまいている不安を打ち消すために、両手を10回ずつ洗うというルールができたというか、そうしないと気が済まなくなりました。

次第に、泥棒が入ったら困るという不安から、戸締りを何回も確認するようになり、火事になったらどうしようという不安から、ガスの元栓や家電製品のスイッチがちゃんとoffになっているかどうか何回も確認するようになりました。

車を運転していても、誰かひいたんじゃないかとずっと考えてしまい、来た道をまた引き返して確認しにいかないと気が済まなくなりました。

駐車場では自分の持っていたバックが、他の人の車を傷つけてしまい、その車の持ち主が怖い人で、付きまとわれるかもと、勝手に怖い物語を想像するようになりました。

そんな生活のせいで、身も心も疲れて、外出するのも嫌になって、ずっと寝ていたいと思うようになりました。

家事もできなくなりました。でも確認はしてしまうんです。

目が覚めるとまた、やりたくないけど、不安だから確認しなきゃいけないんです。

食欲もなくなって、半年で10㎏ほど体重が減りました。

夫も両親もそんな私を心配し、診療内科に受診することになりました。」

強迫性障害とは

強迫性障害とは、反復する強迫観念(強迫思考)と強迫行為が基本的病像となります。

強迫観念とは

強迫観念とは、反復的、持続的な思考、衝動、または心像であり、侵入的で不適切なものとして体験され、強い不安や苦痛を引き起こすものです。

強迫行為とは

強迫行為とは、反復的な行動または心の中の行為であり、その目的は不安や苦痛を防いだり、軽減したりすることにあります。

強迫性障害とは

強迫性障害は、繰り返し生じる「強迫観念」と、無意味だと気付いても止めることのできない「強迫行為」によって日常生活に支障をきたす病気です。

強迫性障害の有病率

一般人口における強迫性障害の生涯有病率は2~3%といわれています。

発症好発年齢は、男性が6~15歳、女性が20~29歳くらいといわれています。

強迫観念の内容

強迫観念の内容については以下の内容とその出現割合が報告されています。

・汚染や感染に関するもの(37.8%)

・暴力に関するもの(23.6%)

・秩序やシンメトリー(対称性)に関するもの(10.0%)

・宗教(あるいは良心)に関係したもの(5.9%)

・性的な事柄に関するもの(5.5%)

・貯蔵・所蔵に関するもの(4.8%)

・反復儀式に関するもの

・無意味な疑いとしての強迫観念

・迷信に対する不安

強迫行為の内容

強迫行為の内容については以下の内容とその出現割合が報告されています

・確認行為(28.2%)

・洗浄や清掃に関する強迫行為(26.6%)

・儀式的行為(11.1%)

・心の中で行われる強迫行為(10.9%)

・整理整頓行為(5.7%)

・貯蔵や収集行為(3.5%)

・ものを数える行為(2.1%)

強迫観念が獲得される段階

ocd

「外出先でバイ菌がついたという侵入思考を経験して不安になる」ことと「帰宅する」ことが同時に体験され、レスポンデント条件付けされ、帰宅とばい菌がついたという侵入思考からの不安が結びつき、帰宅するとばい菌への不安が強迫観念として出現するようになります。

強迫観念から強迫行為の悪循環

ocd2上記に強迫観念と強迫行為の悪循環の図を示します。

では、実際に強迫性障害の認知行動療法をはじめましょう

エクスポージャー法に加え、強迫行為を止めるという反応妨害を加えた暴露反応妨害法が有効です。

暴露妨害反応法を行うと、60~80%で大幅な強迫症状の改善が認められています。

脳機能画像の所見なども変化・改善することが確認されています。

治療するために明確にすること

治療を始めるにあたり、次の項目を明確にする必要があります。

1)強迫行為の明確化(うつ病やその他の合併症も評価します)

2)自動思考の明確化

3)強迫観念の明確化

4)強迫スキーマの明確化

ひとつづず細かく見ていきましょう。

1)強迫行為の明確化

あなたの困っている行動について整理しましょう。

・「人とすれ違った後ぶつかっていなかったか不安になり、その人の容貌や状況を一生懸命思い出し、再現しようとします」

・「車の駐車や乗降車の時、他の車を傷つけていないか確認します。後で絵にかいたりして大丈夫だったか何回も確認します」

・「玄関や窓の戸締りに1時間、ガスの元栓に30分、その他電化製品のスイッチにそれぞれ20回づつくらい確認行為をしてしまいます」

(この段階でうつ状態、うつ病の合併があれば、先にうつ状態、うつ病の治療を開始します。)

2)自動思考の明確化

あなたのおっしゃる困ったことになるとは具体的にどうなってしまうことでしょう。

・「人にぶつかってたら、その人が後でつけまわしてきて、家を調べられるかもしれない」

・「車を傷つけたかもしれないし、もし傷つけていたら調べられて、多額のお金を請求されるかもしれない」

・「誰かが泥棒に入ってきてしまうかもしれない」

・「ガス漏れや漏電して火事になってしまう。家族だけでなく、隣や近所の人にまで迷惑をかけてしまう。」

3)強迫観念の明確化

どう思ったとき、どのような時に、困ったことになると思うのでしょう。

・「人相の怖い人や、雰囲気の怖そうな人を見たときに、事件になっていくイメージが出てきます」

・「車の傷を、持ち主が見つけて、怒って犯人を捜しているイメージがでてきます」

・「泥棒が入ってくるイメージや、家事になるイメージがでてきます」

4)強迫スキーマの明確化

その考えが度を過ぎていると思うのに、なぜ何回も確認するのでしょう。

・「今いろいろな事件があって怖いじゃないですか。人相や雰囲気とかもそうですけど、予感ってあるじゃないですか。」

・「チリやほこりからでも簡単に火事になってしまうし、泥棒が入って殺害れてしまう事件も多いですよね」

*強迫スキーマ

今回の場合、強迫スキーマは以下のようになります。

*この物騒な世の中では、簡単に事件に巻き込まれてしまう

*ちょっとした不注意で泥棒に入られたり、火事になってしまう

強迫観念と強迫行為の整理

ocd3図式に、整理された内容を当てはめてみましょう。

ocd4強迫観念、強迫行為が続くと、回避するようになり、生活における苦痛や障害が強まります。場合によってはうつ状態が出現することもあります。

治療目標を設定します

本人の希望に沿って、現実的な目標を話し合います。

短期目標:長女の幼稚園の送り迎えを、気楽にできるようにする

中期目標:日常生活が以前の心配性のレベルの生活に戻るようにする。ちょっと遠くのスーパーまで買い物に行く。

長期目標:家族で旅行に行く。

アセスメント、リベースライン

実際の臨床場面では、ここで病名告知、病気の説明、治療の見通し、希望づけ、動機づけが行われます。

大切なのは「治りそうな気がする。治療を頑張ってやってみたい」と思えることです。

薬物療法、認知行動療法を開始すること、及びそれに伴うノート等の記録するための道具、宿題等があることの説明を受けます。

(*実際の臨床現場では認知行動療法を診察だけで行うのは困難であり、ごくまれで、薬物療法を主体とした治療を診察で行い、認知行動療法についてはカウンセリングを利用することが一般的です。しかし、強迫性障害の専門外来をもっている病院や、クリニックでは診療場面で、薬物療法も、認知行動療法も行っているところもあります。)

治療の流れ

次のような流れで治療が進みます。

1)セルフ・モニタリング(自己観察記録)

2)自動思考変容

3)スキーマワーク

4)不安階層表の作成

5)暴露反応妨害法

1)セルフ・モニタリング(自己観察記録)

ノートにどのような場面でどのような強迫観念と強迫行為が出現したのかを記録してもらいます。

2)自動思考変容のための根拠探し表

問題となる自動思考:ガスの元栓を閉め忘れたらガス漏れする
この自動思考を支持する根拠 この自動思考を支持しない根拠
・ガスが漏れてしまうような気がするから ・ガスの元栓を閉め忘れても、コンロを使っていなければ簡単にガス漏れしない

・ガス漏れしても探知機が知らせてくれる

合理的なスキーマ:ガスは簡単には漏れないし、漏れても警報がなる

スキーマの得する面と、損する面を書き出すスキーマワーク

問題となるスキーマ:自分の不注意で簡単にトラブルや事件に巻き込まれる
そう考えた場合に得すること そう考えた場合に損すること
・トラブルや事件に巻き込まれないように気を付けることができる。 ・些細なことでもすぐに事件になっていまうのではないかと心配し、疲れる

・心配しすぎて歩く場所や、行くところも限定されて悲しくなる

・その考えが浮かんでくると不安になり、落ち込んでしまう

いつもびくびくしてストレスがたまる

合理的なスキーマ:家族や警察に相談したり、話し合うことで解決できることも多く、みんながそんなに極悪人じゃない

不安階層表をつくる

主観的障害単位(SUD:subjective units of disturbance)を使って不安を数値化します。

100が最も不安、苦痛を感じる状態を示します。

1.外出先の駐車場で車を停め、降りてくる(SUD 100)

2.寝る前の戸締りの回数を2回までにする(SUD 80)

3.ガスの元栓の確認を2回までにする(SUD60)

4.お米の水の量の確認を2回までにする(SUD 20)

などとなります。

ホームワークでの暴露反応妨害法の記録

下記の暴露反応妨害法の記録表を利用します。

ocd5

不安階層表でSUDが低いものから、強迫観念が出現する状況をつくりだし、その後の強迫行為を我慢します。

そこで出現した不安が時間とともに減っていくか確認します。

例えば0分後不安が100%であったとして、10分後、20分後と時間がたつにつれて、不安が80%や60%と減ってくるはずです。

治療経過

半年間治療を続けた彼女の声を聴いてみましょう。

「これまでは外出するのに確認行為で1時間以上かかっていたんですけど、今は10分で済んでます。近くのショッピングモールにも行けるようになりました。今度はもう少し遠出できるように頑張りたいです。」

「初めの頃の日記を読み返すと、可哀想な私だなと思います。」

おわりに

強迫性障害の認知行動療法の治療プロトコルを実施すると、強迫性障害の方の86%において十分な治療効果が得られたという報告があります。

強迫性障害の方は、きちんとトレーニングした治療者から認知行動療法が受けられる機会は乏しく、治療期間、薬物療法の効果、本人の治療意欲等でも予後が大きく変わり、かなりの割合で症状が改善せず、生活上の障害が残ることが指摘されています。

お困りの方は、まずは強迫性障害の専門外来への受診をご検討下さい。

 

不眠症になる前に、不眠対策を

不眠症になる前に、不眠対策について具体的な方法をお伝えします

不眠の多くは不適切な生活習慣によって引き起こされます。

不適切な生活習慣とは

・就寝前のカフェイン摂取

・就寝前の喫煙

・アルコール摂取

・眠りを妨げる寝室環境(騒音や周囲の生活音、気温、湿度、照明器具、寝具など)

・パソコン操作などの交感神経活動を亢進させる要因や行為

・長時間の昼寝

・夕方の過眠

・眠くならないうちから床に就く

このような睡眠衛生が関係している不眠には、薬物療法だけではうまくいきません。

「不眠」と「不眠症」について

「不眠」は症状で、「不眠症」は治療すべき睡眠障害となります。

不眠と睡眠量は無関係です

長時間睡眠をとっても寝た気がしない人、短時間睡眠でも不眠を自覚しない人、睡眠ポリグラフという検査で客観的な睡眠指標の悪化がなくても不眠を訴える人、人によって様々です。

「不眠」とは

「不眠」とは主観的な症状で、眠りたいのに眠れず苦痛を感じている場合、日常の睡眠で休養できていないと感じている場合を不眠と呼びます。

頭痛や、湿疹と同じように、原因を検討せずにむやみにお薬を使い始めるのは危険です。

「不眠症」とは

不眠症とは主観的な不眠に、不眠による日中の倦怠感、意欲低下、集中困難、不安、社会的機能の低下などの生活機能障害が加わったものです。

不適切な睡眠習慣が慢性不眠症につながります。

不適切な睡眠習慣とは

長すぎる床上時間(ショウジョウジカン)

睡眠時間を上回って眠ることは不可能です。それにも関わらず、もっと寝たいという気持ちで布団の上で過ごし、それを眠れない、不眠と勘違いするのです。

必要な睡眠時間、床上時間は

10代後半から壮年期(40~65歳ころまで)の必要な床上時間は7~7.5時間です。

高齢者は6~7時間程度ですが、中途覚醒(夜中途中で起きること)が増えるため、床上時間は7~7.5時間になります。

加齢によって短縮します。また、睡眠不足によって増加します。

早すぎる入床時間・服薬時刻

一般的に、普段入眠している時間の2~4時間前は1日の中でもっとも入眠しにくい時間です。

そのため、その時間に寝付くのは困難ですが、その寝付けないことを不眠だと勘違いするのです。

床上時間が伸びたり、入床時刻・服薬時刻が早まる原因は

以下のことが原因で床上時間が伸びたり、入床時刻、服薬時刻が早まります。

・子供の独立や退職により、時間的余裕の発生

・健康のため、不眠への関心・気になりの増加

・入院や施設入所での消灯時間が早い生活リズムへの変化

睡眠衛生改善のために気を付けること

・アルコール、カフェイン、喫煙の三大嗜好品はすべて不眠の原因になります。寝酒や多量の晩酌はやめましょう。

・夕方以降のカフェイン摂取はやめましょう。

・夜遅くになってからの喫煙や、夜中途中起きた時の喫煙はやめましょう。

・寝室環境は自分が快適と思う環境にしましょう。

・冷暖房を適切に使用しましょう。

・夜遅くなってからの激しい運動や、熱いお風呂、ゲーム、インターネットなど、交感神経の亢進を刺激するようなことは控えましょう。

・不眠を自覚する場合は床上時間を最大7.5時間と設定し、これ以上長くしないようにしましょう。

・早くからお布団に入るのはやめましょう。だいたい決まった眠くなる時間に入床するようにしましょう。

・日々の適度な運動、運動習慣は不眠の改善に効果的です。

まとめ

睡眠衛生の改善をしないまま、睡眠薬に頼りすぎると、不眠に薬物乱用、薬物依存の問題まで加わる可能性があります。

正しい睡眠衛生の知識と、環境調整があって、初めて睡眠薬が適切に効果を発揮し、不眠が改善するのです。

【痛み】漢方治療:牛車腎気丸【しびれ】

痛みやしびれにおすすめな漢方:牛車腎気丸とは

牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)は古くから腰痛、下肢痛、しびれ、頻尿や排尿困難などに用いられ、近年では、糖尿病性神経障害、抗がん剤による末梢神経障害などや神経障害性疼痛にも応用されています。

では、痛み、しびれに効果的な牛車腎気丸について詳しくみてみましょう。

牛車腎気丸の構成生薬

地黄(ジオウ)

ゴマノハグサ科アカヤジオウ・カイケイジオウの根です。

利尿、緩下(マイルドな下剤)、血糖降下、血流増加、血圧降下、免疫調整、抗腫瘍などの作用があります。

牛膝(ゴシツ)

ヒユ科ヒナタイノコズチなどの根です。

抗アレルギー、抗腫瘍などの作用があります。

山茱萸(サンシュユ)

ミズキ科サンシュユの偽果の果肉です。

抗糖尿病、抗アレルギー、免疫賦活、肝障害改善、抗腫瘍、抗ウイルスなどの作用があります。

山薬(サンヤク)

ヤマノイモ科ヤマノイモまたはナガイモの周皮を除いた根茎です。

放射線障害防護、血糖降下、男性ホルモン増強などの作用があります。

車前子(シャゼンシ)

オオバコ科オオバコの種子です。

腸管血流増加、利胆、免疫賦活、血糖降下、インターフェロン誘起などの作用があります。

沢瀉(タクシャ)

オモダカ科サジオモダカの塊茎です。

利尿、血圧降下、血管収縮、心臓の冠状動脈血流量増加、血液凝固抑制、抗脂肪肝、コレステロール血症の改善、免疫賦活、尿路結石予防などの作用があります。

茯苓(ブクリョウ)

サルノコシカケ科マツホドの菌核です。

利尿、抗腫瘍、免疫賦活、抗炎症、腎障害改善、抗潰瘍、血液凝固抑制作用等があります。

牡丹皮(ボタンピ)

ボタン科ボタンの根皮です。

中枢抑制(自発運動抑制・鎮痛・解熱・抗けいれんなど)、抗炎症、抗アレルギー、免疫賦活、脂肪分解抑制、血小板凝集抑制、子宮収縮抑制、月経困難症改善などの作用があります。

桂皮(ケイヒ)

クスノキ科ケイの樹皮です。

発汗解熱、鎮静、鎮痙、末梢血管拡張、血圧降下、抗血栓、放射線障害防護、抗炎症、抗アレルギー、抗菌、水分代謝調整、消化吸収抑制などの作用があります。

附子(ブシ)

キンポウゲ科ハナトリカブト・オクトリカブトの塊根です。加工して弱毒化してあります。

強心・昇圧・心拍数亢進、鎮痛、抗炎症、血糖降下、血管拡張、肝機能増進、抗ストレス潰瘍などの作用があります。

虚証~中間証

西洋医学では解決できない症状にも効果が期待できる

牛車腎気丸の作用には中枢神経系への作用と、末梢神経系への作用が報告されています。

中枢神経系に対する作用

牛車腎気丸の中枢神経系に対する主な作用は、ダイノルフィンの放出促進とグリア細胞の1つであるアストロサイトの活性化抑制の2つと言われています。

ダイノルフィンの放出が促進され、ダイノルフィンがκ受容体を介して鎮痛作用を示します。

それには附子の作用が主にかかわっていますが、附子以外の成分も関与しています。

アストロサイトは、TNF-α、IL-1β、IL-6を産生し、これらの炎症性サイトカインが1次求心性神経に作用して痛みを増強するため、牛車腎気丸がこの過程を阻害することで強い鎮痛効果を示します。

末梢神経系への作用

牛車腎気丸の末梢神経系に対する主な作用は、cyclic GMP増加を介したNO産生促進による血流増加といわれています。

血流増加によって神経が十分な栄養や保護分子を受け取り、神経保護作用につながるといわれています。

また、痛みや刺激を感知する1次求心性神経のTPRチャネルの活性化を抑制することで、疼痛やしびれの改善作用も報告されています。

利尿作用

附子による利尿作用もみられ、抗利尿ホルモン抑制作用もあり、むくみ・浮腫の改善にも効果が期待できます。

牛車腎気丸がオススメな人

牛車腎気丸は痛みやしびれを改善するのに効果的です。

特に、痛み止めの効果が乏しい、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアの方の痛みやしびれ、原因のはっきりしない非特異的腰痛、抗がん剤による末梢神経障害からくる痛みやしびれ、閉塞性動脈硬化症(ASO)や糖尿病などによる、神経障害性疼痛やしびれに効果的です。