強迫性障害の治療の実際【認知行動療法】

強迫性障害は完治が難しく、良くなったり悪くなったり、治療がなかなかうまくいかないことが多い病気です。

実際の良くなる人はどのような治療や経過をとっているかを見て、そこからあなたが利用できる良くなる可能性を見出してみてはいかがでしょうか。

「こんな風に良くなることができるのか」というイメージを持つことは、治療において非常に大切です。

では、実際の治療経過の一例からあなたが良くなるヒントを見つけましょう。

(症例に関しては個人が特定できないように改変されてあります。)

強迫性障害の治療経過の実際

「私は30代の女性です。夫と幼稚園に通う長女と3人暮らしです。

専門学校を卒業し、スーパーに正社員として勤務していました。

勤務して数年ほどたったのち結婚し、そのまま退職しました。その後は主婦として生活し、長女を出産しました。

小さいころから心配性で、忘れ物がないか何回も確認することはよくありました。」

「最初に症状がでたのは25歳の時でした。」

「きっかけはインフルエンザにかかってしまい、みんなにうつしてはいけないと心配していたのですが、自分がインフルエンザのウイルスをばらまいているんじゃないかと思うようになって、その考えがどんどん膨らんで不安になりました。

自分がウイルスをばらまいている不安を打ち消すために、両手を10回ずつ洗うというルールができたというか、そうしないと気が済まなくなりました。

次第に、泥棒が入ったら困るという不安から、戸締りを何回も確認するようになり、火事になったらどうしようという不安から、ガスの元栓や家電製品のスイッチがちゃんとoffになっているかどうか何回も確認するようになりました。

車を運転していても、誰かひいたんじゃないかとずっと考えてしまい、来た道をまた引き返して確認しにいかないと気が済まなくなりました。

駐車場では自分の持っていたバックが、他の人の車を傷つけてしまい、その車の持ち主が怖い人で、付きまとわれるかもと、勝手に怖い物語を想像するようになりました。

そんな生活のせいで、身も心も疲れて、外出するのも嫌になって、ずっと寝ていたいと思うようになりました。

家事もできなくなりました。でも確認はしてしまうんです。

目が覚めるとまた、やりたくないけど、不安だから確認しなきゃいけないんです。

食欲もなくなって、半年で10㎏ほど体重が減りました。

夫も両親もそんな私を心配し、診療内科に受診することになりました。」

強迫性障害とは

強迫性障害とは、反復する強迫観念(強迫思考)と強迫行為が基本的病像となります。

強迫観念とは

強迫観念とは、反復的、持続的な思考、衝動、または心像であり、侵入的で不適切なものとして体験され、強い不安や苦痛を引き起こすものです。

強迫行為とは

強迫行為とは、反復的な行動または心の中の行為であり、その目的は不安や苦痛を防いだり、軽減したりすることにあります。

強迫性障害とは

強迫性障害は、繰り返し生じる「強迫観念」と、無意味だと気付いても止めることのできない「強迫行為」によって日常生活に支障をきたす病気です。

強迫性障害の有病率

一般人口における強迫性障害の生涯有病率は2~3%といわれています。

発症好発年齢は、男性が6~15歳、女性が20~29歳くらいといわれています。

強迫観念の内容

強迫観念の内容については以下の内容とその出現割合が報告されています。

・汚染や感染に関するもの(37.8%)

・暴力に関するもの(23.6%)

・秩序やシンメトリー(対称性)に関するもの(10.0%)

・宗教(あるいは良心)に関係したもの(5.9%)

・性的な事柄に関するもの(5.5%)

・貯蔵・所蔵に関するもの(4.8%)

・反復儀式に関するもの

・無意味な疑いとしての強迫観念

・迷信に対する不安

強迫行為の内容

強迫行為の内容については以下の内容とその出現割合が報告されています

・確認行為(28.2%)

・洗浄や清掃に関する強迫行為(26.6%)

・儀式的行為(11.1%)

・心の中で行われる強迫行為(10.9%)

・整理整頓行為(5.7%)

・貯蔵や収集行為(3.5%)

・ものを数える行為(2.1%)

強迫観念が獲得される段階

ocd

「外出先でバイ菌がついたという侵入思考を経験して不安になる」ことと「帰宅する」ことが同時に体験され、レスポンデント条件付けされ、帰宅とばい菌がついたという侵入思考からの不安が結びつき、帰宅するとばい菌への不安が強迫観念として出現するようになります。

強迫観念から強迫行為の悪循環

ocd2上記に強迫観念と強迫行為の悪循環の図を示します。

では、実際に強迫性障害の認知行動療法をはじめましょう

エクスポージャー法に加え、強迫行為を止めるという反応妨害を加えた暴露反応妨害法が有効です。

暴露妨害反応法を行うと、60~80%で大幅な強迫症状の改善が認められています。

脳機能画像の所見なども変化・改善することが確認されています。

治療するために明確にすること

治療を始めるにあたり、次の項目を明確にする必要があります。

1)強迫行為の明確化(うつ病やその他の合併症も評価します)

2)自動思考の明確化

3)強迫観念の明確化

4)強迫スキーマの明確化

ひとつづず細かく見ていきましょう。

1)強迫行為の明確化

あなたの困っている行動について整理しましょう。

・「人とすれ違った後ぶつかっていなかったか不安になり、その人の容貌や状況を一生懸命思い出し、再現しようとします」

・「車の駐車や乗降車の時、他の車を傷つけていないか確認します。後で絵にかいたりして大丈夫だったか何回も確認します」

・「玄関や窓の戸締りに1時間、ガスの元栓に30分、その他電化製品のスイッチにそれぞれ20回づつくらい確認行為をしてしまいます」

(この段階でうつ状態、うつ病の合併があれば、先にうつ状態、うつ病の治療を開始します。)

2)自動思考の明確化

あなたのおっしゃる困ったことになるとは具体的にどうなってしまうことでしょう。

・「人にぶつかってたら、その人が後でつけまわしてきて、家を調べられるかもしれない」

・「車を傷つけたかもしれないし、もし傷つけていたら調べられて、多額のお金を請求されるかもしれない」

・「誰かが泥棒に入ってきてしまうかもしれない」

・「ガス漏れや漏電して火事になってしまう。家族だけでなく、隣や近所の人にまで迷惑をかけてしまう。」

3)強迫観念の明確化

どう思ったとき、どのような時に、困ったことになると思うのでしょう。

・「人相の怖い人や、雰囲気の怖そうな人を見たときに、事件になっていくイメージが出てきます」

・「車の傷を、持ち主が見つけて、怒って犯人を捜しているイメージがでてきます」

・「泥棒が入ってくるイメージや、家事になるイメージがでてきます」

4)強迫スキーマの明確化

その考えが度を過ぎていると思うのに、なぜ何回も確認するのでしょう。

・「今いろいろな事件があって怖いじゃないですか。人相や雰囲気とかもそうですけど、予感ってあるじゃないですか。」

・「チリやほこりからでも簡単に火事になってしまうし、泥棒が入って殺害れてしまう事件も多いですよね」

*強迫スキーマ

今回の場合、強迫スキーマは以下のようになります。

*この物騒な世の中では、簡単に事件に巻き込まれてしまう

*ちょっとした不注意で泥棒に入られたり、火事になってしまう

強迫観念と強迫行為の整理

ocd3図式に、整理された内容を当てはめてみましょう。

ocd4強迫観念、強迫行為が続くと、回避するようになり、生活における苦痛や障害が強まります。場合によってはうつ状態が出現することもあります。

治療目標を設定します

本人の希望に沿って、現実的な目標を話し合います。

短期目標:長女の幼稚園の送り迎えを、気楽にできるようにする

中期目標:日常生活が以前の心配性のレベルの生活に戻るようにする。ちょっと遠くのスーパーまで買い物に行く。

長期目標:家族で旅行に行く。

アセスメント、リベースライン

実際の臨床場面では、ここで病名告知、病気の説明、治療の見通し、希望づけ、動機づけが行われます。

大切なのは「治りそうな気がする。治療を頑張ってやってみたい」と思えることです。

薬物療法、認知行動療法を開始すること、及びそれに伴うノート等の記録するための道具、宿題等があることの説明を受けます。

(*実際の臨床現場では認知行動療法を診察だけで行うのは困難であり、ごくまれで、薬物療法を主体とした治療を診察で行い、認知行動療法についてはカウンセリングを利用することが一般的です。しかし、強迫性障害の専門外来をもっている病院や、クリニックでは診療場面で、薬物療法も、認知行動療法も行っているところもあります。)

治療の流れ

次のような流れで治療が進みます。

1)セルフ・モニタリング(自己観察記録)

2)自動思考変容

3)スキーマワーク

4)不安階層表の作成

5)暴露反応妨害法

1)セルフ・モニタリング(自己観察記録)

ノートにどのような場面でどのような強迫観念と強迫行為が出現したのかを記録してもらいます。

2)自動思考変容のための根拠探し表

問題となる自動思考:ガスの元栓を閉め忘れたらガス漏れする
この自動思考を支持する根拠 この自動思考を支持しない根拠
・ガスが漏れてしまうような気がするから ・ガスの元栓を閉め忘れても、コンロを使っていなければ簡単にガス漏れしない

・ガス漏れしても探知機が知らせてくれる

合理的なスキーマ:ガスは簡単には漏れないし、漏れても警報がなる

スキーマの得する面と、損する面を書き出すスキーマワーク

問題となるスキーマ:自分の不注意で簡単にトラブルや事件に巻き込まれる
そう考えた場合に得すること そう考えた場合に損すること
・トラブルや事件に巻き込まれないように気を付けることができる。 ・些細なことでもすぐに事件になっていまうのではないかと心配し、疲れる

・心配しすぎて歩く場所や、行くところも限定されて悲しくなる

・その考えが浮かんでくると不安になり、落ち込んでしまう

いつもびくびくしてストレスがたまる

合理的なスキーマ:家族や警察に相談したり、話し合うことで解決できることも多く、みんながそんなに極悪人じゃない

不安階層表をつくる

主観的障害単位(SUD:subjective units of disturbance)を使って不安を数値化します。

100が最も不安、苦痛を感じる状態を示します。

1.外出先の駐車場で車を停め、降りてくる(SUD 100)

2.寝る前の戸締りの回数を2回までにする(SUD 80)

3.ガスの元栓の確認を2回までにする(SUD60)

4.お米の水の量の確認を2回までにする(SUD 20)

などとなります。

ホームワークでの暴露反応妨害法の記録

下記の暴露反応妨害法の記録表を利用します。

ocd5

不安階層表でSUDが低いものから、強迫観念が出現する状況をつくりだし、その後の強迫行為を我慢します。

そこで出現した不安が時間とともに減っていくか確認します。

例えば0分後不安が100%であったとして、10分後、20分後と時間がたつにつれて、不安が80%や60%と減ってくるはずです。

治療経過

半年間治療を続けた彼女の声を聴いてみましょう。

「これまでは外出するのに確認行為で1時間以上かかっていたんですけど、今は10分で済んでます。近くのショッピングモールにも行けるようになりました。今度はもう少し遠出できるように頑張りたいです。」

「初めの頃の日記を読み返すと、可哀想な私だなと思います。」

おわりに

強迫性障害の認知行動療法の治療プロトコルを実施すると、強迫性障害の方の86%において十分な治療効果が得られたという報告があります。

強迫性障害の方は、きちんとトレーニングした治療者から認知行動療法が受けられる機会は乏しく、治療期間、薬物療法の効果、本人の治療意欲等でも予後が大きく変わり、かなりの割合で症状が改善せず、生活上の障害が残ることが指摘されています。

お困りの方は、まずは強迫性障害の専門外来への受診をご検討下さい。

 

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