慢性便秘の漢方治療
日本では10人に1人、全人口の約10%の人が便秘と言われています。
便秘は排便のない状態だけでなく、腹部膨満感や、腹痛、排便困難などにより生活の質を低下させます。
慢性便秘に対して、漢方治療を考えてみましょう。
便秘について
便秘は60歳を過ぎると年齢を重ねるごとに増加します。
加齢に伴うもの以外にも、抗精神病薬、抗うつ薬、安定剤などによる薬剤性の便秘もあります。
排便習慣が確立していない小児であったり、妊婦など様々な場面で便秘はみられます。
西洋医学において便秘の治療が困難となる場面は多く、漢方薬が注目されています。
実は韓国や中国では1つの医師資格で西洋薬と漢方の両方を使うことができないのです。
日本は西洋薬と漢方薬の両方が保険適応で使用できる恵まれた環境にあるのです。
便秘の原因
器質性疾患による便秘
腫瘍などがあることで便秘になっているものを、器質性疾患による便秘といいます。
50歳以上で血便、貧血、癌の家族歴がある方で、体重減少や夜間の持続する腹痛がある方は、便潜血、内視鏡検査等の詳しい検査が必要となることが多いです。
内科や消化器内科に受診しましょう。
薬剤性の便秘
がんの緩和治療に使われるオピオイドや、高血圧症で使用される降圧剤のカルシウム拮抗薬、その他抗精神病薬、抗うつ薬、安定剤などによる便秘は、薬剤性の便秘です。
薬物量や薬物の種類、内容の調整を主治医に相談しましょう。
症候性の便秘
甲状腺機能低下症やパーキンソン病などに伴っておこる便秘もあり、そのような便秘は症候性の便秘といいます。
その他の便秘
他には、原発性の便秘、過敏性腸症候群の便秘型、機能性便秘などがあります。
便秘の治療目標
便秘は排便回数の減少に注目されがちですが、排便回数の是正以外にも、便性状の正常化、排便困難症の改善、便秘周辺症状の改善を目指します。
便秘治療の薬物治療のアプローチ
腸管の水分調整による便の軟化
西洋薬:酸化マグネシウムやルビプロストンなどのお薬が使われます。
漢方薬:芒硝(ボウショウ)、膠飴(コウイ)などを含む漢方薬を使用します。
腸管の蠕動の亢進
西洋薬:センノシドなどの大腸刺激性下剤などのお薬が使われます。
漢方薬:センナ、大黄、山椒(サンショウ)などを含む漢方薬を使用します。
腸管の過収縮の抑制
西洋薬が苦手とする部分です
漢方薬:芍薬、甘草などを含む漢方薬を使用します。
便秘に使用する漢方薬
大黄甘草湯
大黄含量:4g
タイプ:大腸刺激性
特徴:常習便秘によく処方されます。
桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)
大黄含量:3g
タイプ:大腸刺激性、塩類下剤
特徴:比較的体力があり、のぼせやイライラを伴う便秘の方に効果的です。
防風通聖散
大黄含量:1.5g
タイプ:大腸刺激性、塩類下剤
特徴:体力は比較的あり、肥満を伴う便秘の方に効果的です。
潤腸湯
大黄含量:3g
タイプ:クロライドチャンネル刺激
特徴:体力の低下した高齢者の便秘、硬い便の方に効果的です。
麻子仁丸
大黄含量:4g
タイプ:軟便化作用
特徴:脂肪油・精油による軟便化作用が期待され、さらに大黄の大腸刺激性の排便誘発が期待されます。腸管過緊張などに伴うコロコロとした乾燥便などがみられる方にお勧めです。甘草を含まず、偽アルドステロン症のリスクが少ないです。
桂枝加芍薬大黄湯
大黄含量:2g
タイプ:整腸作用、腹痛改善作用
特徴:体力が比較的低下した過敏性腸症候群の痛みの症状の軽減と排便を改善させます。
桂枝加芍薬湯
大黄含量:0g
タイプ:整腸作用、腹痛改善作用
特徴:痛みを伴う過敏性腸症候群に効果的です。
大建中湯
大黄含量:0g
タイプ:消化管運動亢進、血流増加、腹痛・腹部膨満感改善作用
特徴:腹部膨満を改善する効果が期待できます。大腸感覚閾値を下げ、便秘を感じやすくさせる効果が期待できます。
茯苓飲合半夏厚朴湯
大黄含量:0g
タイプ:消化管運動亢進、腹部膨満感改善作用
特徴:喉のつまりなど神経症を伴う上腹部膨満感などに効果が期待できます。
漢方治療の注意点
腹部膨満感の改善など、漢方薬は西洋薬にない効果が期待できます。
ただし、注意点もあります。
甘草を含む漢方薬による偽アルドステロン症は注意が必要です。
高齢者の場合は特に薬が効きすぎることも多く、漢方薬といえども1剤でコントロールするのが望ましいです。
大黄は大腸刺激性下剤であるため、通便のコントロールができたら、休薬するなどして、急長期連用は避けた方がいいです。また、大黄は子宮の収縮作用があり流産の可能性があるため、特に妊娠初期には投与しない方が望ましいです。
防風通聖散などに含まれる麻黄は、交感神経を刺激するため、量が増えたり、高齢者が長期間使用する時は、不眠や食思不振などの出現に注意が必要です。