防衛機制とは
行動というのは欲求を満たすためのものです。
欲求が満たされると、欲求に伴う緊張状態が解除され行動が終結しますが、欲求がうまく満たされない時、すなわち欲求不満の状態では、緊張状態と強い不快感情が持続し、これは欲求が何らかの形で満足されるまで続きます。
そこで欲求不満状態を解消する為に種々の心的機制が必要になります。
環境からのストレス因子にも対応し、自己の欲求が生じても、はなはだしい葛藤や不安を生じることなく生活することを適応といいます。
そして、欲求不満状態、葛藤に由来する不安などの解消をめざし、適応を可能にするための精神作用を防衛機制(適応機制)といいます。
この機制は不安によって生じる自我の崩壊を防ぐ為のものであり、無意識の心的作用ということになります。
防衛機制の種類
抑圧
自己が承認しにくい欲求や、自己を破局に導く欲求を、無意識のうちに抑えつけ心の底に閉じ込めてしまおうとする心的機制です。
性的欲求、攻撃傾向、子供っぽい幼稚な欲求などが抑圧されやすいですが、欲求のエネルギーは解消されないまま抑えつけられるので不安の原因にやりやすいのです。
もっとも単純な適応機制ですが、効率はよくありません。
欲求を意識的に抑えること、がまんすることは禁圧といいます。
補償
劣等意識を克服するため、それとは反対方向の価値を実現したり、弱点そのものを克服したりすることです。
前者はたとえば病弱という弱点を学問で成果を上げることによって克服するものです。
後者は病弱を身体鍛錬によって直接に克服する場合などです。
置き換え
自分自身や他者に承認されにくい感情を、対象を別のものに移すことによって解消することです。
たとえば隣家の人を攻撃したいがそれができないので、攻撃しやすい対象である隣家のネコをいじめる(八つ当たり)といった例です。
昇華
性欲、権勢欲などの基本的欲求を、スポーツ、芸術、宗教など社会的に容認される方向に転化させて解消することです。
神経症の治癒過程や正常者でも見られます。
投射(投影)
自己の感情や欲求を他人や物に向けかえる心的機制です。
自己の弱点、欠点などを他人の中に見出して、その人を非難、攻撃する場合や、自分が他人に敵意を持っているとき、相手が自分に敵意を持っているように考えて、相手を憎み、警戒し、攻撃する場合などがあり、これによって自分の劣等感や罪責感を防衛します。
反動形成
欲求が満たせない時、その欲求と正反対の欲求を発展させ、心的平衡を保つことです。
たとえば「負け犬の遠吠え」といわれるように、小心な者がかえって虚勢を張る場合などです。
合理化
欲求が満たされないとき、耐え難い感情を理屈付けして理知的に処理し、自己を正当化することによって解消しようとすることです。
例えば、大学入試に失敗した時、「あれはつまらない大学だから合格しないでよかった」と自己を正当化する場合などで、やせがまん、自己満足ともいわれる状態です。
空想(幻想)
現実には満たされない欲求を空想のなかで満足することです。
白昼夢なども含まれます。
退行
低い発達段階に戻って未分化、未発達な行動をとることにより当面の困難を回避するものです。
子供返りなどが含まれます。
取り入れ、同一化(同一視)
自分にとって好ましい人、理想とする人の特性、たとえば、思考、態度、行動、筆跡、くせなどを自分に取り入れてまね、それによって自己の欲求の満足を図る無意識の心的機制です。
自我の発達に大きな役割を果たします。
ある人(A)のなかにほかの特定の人(B)の特性と同一のものを見出し、特定の人(B)に対する愛情や憎しみなどを前者(A)に対して抱くことを同一化といいます。
例えば精神療法の過程で主治医を父親と同一化し、主治医に対して依存や攻撃を向ける場合などです。
分離
本来は強い情動を伴った観念や行動から感情だけが切り離されて、観念や行動が実感を伴わぬものになることです。
強迫神経症の強迫観念、強迫行動がこれに相当します。
否認
自己が容認したくない欲求、体験、現実などを実際に存在しなかったものと考え、そのようにふるまうものです。
打ち消し(復元)
現実的あるいは空想の中で行われた行為や思考に伴う情動、とくに反道徳的行為・思考などに伴う罪悪感や恥などの情動を、これと正反対の情動的意味を持つ行為や思考を行うことによって打ち消そうとすることです。
償い、やり直しなどに相当します。
例えば宗教的戒律に反した行為をして、あとで償いの祈りや苦行をする場合などです。
強迫神経症の強迫行為(洗浄強迫、儀礼行為など)も打ち消し行為とされます。
反動形成もこれに似ていますが、人間の全体的態度をさし、打消しは個々の行為について表します。
知性化
自分を直視することを避け、知性の世界や、観念的な世界に逃避してしまうことです。
専門用語を乱発したり、やたらに難しい言葉を使ったり、言い訳的な言説に終始したりします。一見ものごとを理解しているように見えたりしますが、本質的なことは理解していないことも多いです。
最後に
行動に駆り立てる衝動とは、実に卑近な感情でしかなのです。
自己分析においては、この卑近な感情を見つめる必要があります。
そして、語るべき言葉は、心の底から絞り出された、感情によって裏打ちされたものでなければなりません。
悲しみや、怒り、嫉妬、羨望、食い意地、独占欲、軽蔑、陰険な復讐願望など心の底にはこういった諸々の感情が眠っています。
こういう感情を見つめ、知的な言葉ではなく、自分自身の言葉で語らなければなりません。
そういう自分が許し難い自己と向き合うことが自己統制をしていくための最初の一歩になります。