精神的な病気になるということ
「私は精神的な病気なのだろうか?」
誰しも、病気にはなりたくありません。
しかし、「いつもの私とは違う不調を自覚しているし、日に日に悪くなっているかもしれない。その反面、精神的な病気と言われたら、果たして自分はそのことを受け入れられるのだろうか・・・・・」
精神的な不調は、外見から分かりにくく、人によってあらわれ方もさまざまで、正常と病気の線引きがはっきりしないことも多く、判断が難しいのです。
「これは病気なのか、怠けているだけなのか、気の持ちようなのか、自分が弱いからなのか・・・・」
考えても、答えが出てこない状態から抜け出していきましょう。
そもそも精神的な病気とは、どういうことか考えてみましょう。
例えば、血糖値が基準値より高ければ、”糖尿病”という診断がつきます。
血圧が基準値より高ければ、”高血圧症”という診断がつきます。がん細胞を顕微鏡で確認できれば、”がん”という診断がつきます。
ざっくりと表現しましたが、内科や外科の診断は病気の基準が分かりやすいものも多く、納得もしやすいでしょう。
では、心療内科や精神科、メンタルクリニックはどうやって病気の診断をつけるのでしょうか。
結果から言うと、”医師が診察及び検査をもとに総合的に評価、判断し確定診断する”ということになります。
もちろん、内科、外科、その他の科も”医師が診察及び検査をもとに総合的に評価、判断し確定診断する”ということにおいては、同じなのですが、”診察及び検査”のうち、”診察”による判断材料が、”検査”による判断材料よりも、非常に大きな比重を占めるという点に、違いがあります。
”検査”で診断が確定していくというより、”診察”で診断が確定していくという感じです。
精神的な病気についても、診断をつける際に、国際的な診断基準というものが存在します。
数値化できる心理検査もあります。
みなさんもインターネット上で、”うつ病の自己記入式テスト”や”ADHDの自己記入式テスト”などをやったことがあるかも知れません。
そのテストをやるとだいたい”うつ病”や”ADHD”の診断がついてしまうでしょう。
しかし、実際はその点数だけで”うつ病”や”ADHD”という診断にはなりません。
そのテスト結果は、診断する医師にとっては参考資料程度です。
下の図を見てください。
縦軸に「症状のひどさ」、横軸を「時間」としています。例えば”うつ状態”のような、症状が出現し、時間とともに症状が変化する病気を考えてみましょう。
症状のひどさから「病名がつくであろう状態(診断基準を満たす状態)」を赤いエリア、「病名がつかないであろう状態(診断基準を満たさない状態)」を青いエリアとし、それぞれが交わるエリアもあります。
交わるエリアは、症状のひどさの自覚的個人差、医師の判断で見立てが変わる部分として考えてください。
下の図を見てください。Aの時、Bの時、Cの時、Dの時それぞれの状態を見てみましょう。
受診の時期による違い
●Aの時は、日常生活、社会生活に特に大きな問題はでていませんが、軽い不眠や動悸等がでているような状態です。このような時に受診した場合は、「今の状態では特に診断はつきませんが経過を見てみましょう」というように、予防的に経過を見ます。場合によっては、不眠や不安に効く漢方や安定剤、睡眠薬等が処方されたりすることがあるかもしれません。
●Bの時は、明らかに症状がでており、仕事に行けなかったり、家事ができない状態が出現している時です。おおよその診断がつき、治療が始まります。状態によっては仕事を休職するように診断書がでるかもしれません。食事もとれない状態であれば、入院になることもあります。但し、本人の意思にかかわらず、入院になる場合(いわゆる強制入院、正式には医療保護入院、措置入院といいます)は精神疾患によって、自分や他人に生命の危険性が生じるような時なので、そう簡単に入院させられることはありません。基本的には入院を勧められた場合、自分の意思で入院治療をするかどうかを決定します。
●Cの時は、Bの時ほど悪くはないですが、症状のせいで、仕事に行けたり行けなかったり、家事もできたりできなかったりしている状態で診断はつくでしょう。休職になる場合もあるかもしれません。入院治療を選択する可能性は少ないでしょうが、治療を開始することが望ましく、経過観察していくことになるでしょう。
●Dの時は診断はつかないかもしれませんが、過去の症状を話し、過去の状態について精神疾患の可能性を聞くことができ、今後の治療について相談することになると思います。一時的なもので、特に心配ないのか、薬を内服して予防をしていった方がいいのか、予後について等の説明を聞くことができるでしょう。
受診するタイミングはいつでもいいのですが、受診時の状態で診断がついたり、経過を見ることになったりします。
初めて受診して、その日のうちに診断がつくこともありますが、通院を継続してようやく確定診断がつくこともあります。
悪化させないためには、できるだけ早めに、例えばAの段階でも受診するのがオススメです。
(今回の例は、時間経過で良くなっているパターンですが、実際はBのような状態で良くならずに悪い状態が継続していることも多いでしょう。なのでやはり早めの受診をお勧めします。)
精神科の診断名や疾病基準は、時代とともに現在も変化し続けており、医師によって精神疾患の概念や表現が完全には統一していないことがあります。
診断書に書かれる内容においても、暫定的状態で、確定診断でない場合もあります。
精神的な不調がある場合に、病名告知による精神的ショックを受けることも多いため、あえて病名告知を控えることもあります。但し、病名告知がなくても状態の説明、治療、対策、今後の見通しを教えてもらえるでしょう。
同じ病名でも治療内容は違ってくる
精神科の疾患は同じような病名でもそれぞれの病名、それぞれ個人の状態、状況で治療が変わってきます。
例えば・・・・・・”適応障害のうつ状態”、”うつ病”、”非定型うつ病”、”躁うつ病のうつ病相”
どれも”うつ”という言葉がつきますが、治療のアプローチがそれぞれ異なります。
処方される薬だけみると、どれも”抗うつ薬”があるかもしれませんが、主体となる薬、薬物での改善を期待できる割合、良くなる過程、再発予防のために気を付けないといけないこと、などそれぞれの病気によって違ってきます。
さらに個々人の生活環境や、支援体制、性格傾向など、個人の特性、おかれている環境が治療に影響しますので、同じ病名でも治療が少しずつ変わってきます。
なかなか診断がつかないことも?!
複数の症状や病状が混在している場合に、なかなか診断がつかないこともあります。
後医は名医と言いますが、後で診察した医師の方が、それまでの経過における情報があるため、的確な診断をつけることができることも多く、診断名が変わることもあります。
極端な話ですが、あるクリニックではうつ病と言われ、ある病院では統合失調症と言われ、あるクリニックでは発達障害と言われるということもあり得る話です。
どういうことかというと、発達障害はもともと生まれ持った特性であり、その特性が社会生活での適応を困難とし、そのストレスからうつ状態を発症し、そこで受診をするとうつ病と言われ、うつ状態が悪くなると幻聴や妄想が出現し、その症状や様子から、統合失調症と診断されてしまうということがあるかもしれませんということです。
但し、それは誤診というより、その経過における、病態を操作的に診断をつけれるとすれば、診断基準を満たし、その病名がつきうるのです。実際発達障害に統合失調症が合併することもありうるのです。
大切なことは、現在の病像と、どの治療法が有効かを評価、判断してもらい、適切な治療で早期改善及び、長期的な安定した社会生活の維持を成しえるかなのです。
現在の心療内科、精神科、メンタルクリニックの診療の質や相性は、それぞれの施設、医師によって差が大きいため、自分で選んでいくしかありません。
その反面、疑問を感じたり、相性が合わないときの主治医交替や転院も比較的しやすくなっているとは思います。
では、今、自分が何に不安を感じているか自覚できていますか?
自分の状態を言葉や文章でまとめてみる。
まずは自分の状態をできるだけ把握し、相手に伝わるようにまとめてみて、受診を考えていきまましょう。だるい、悲しい、眠れない、苦しい等、ありのままの自分なりの表現でいいのです。
では、受診をするかしないかの基準、病気について、どのようなとらえ方をすればいいのでしょうか。
受診を「するか」「しないか」の基準
いつもの自分じゃない状態、内科やほかの科で説明がつかない調子の悪さが数週間以上続いている、仕事や学校などに支障がでている、家事や日常生活に支障がでている、などがあればすぐに受診しましょう。
精神科、心療内科、メンタルクリニックに受診したこと自体で、会社をクビになったり、今後の就職活動に不利になったり、どこかに情報が漏れたりはしませんので、安心してください。
では、治療しないといけないのか?
次回はそのことについてお話しします。
事項はこちらです。→【精神科/心療内科】本当に治療しないといけないの?【発症】説明書②