大人で受診することの多い発達障害【治療、支援編】
発達障害の治療・支援の基本は、それぞれ本人の症状、特性の理解と、その人のあった個別の支援・教育プログラム(社会参加プログラム)を作っていくことです。
薬物療法は、ADHDにおける症状改善のため使用できるものはありますが、薬物療法が全てを解決してくれることはありません。
もちろん、発達要害の方がうつ状態や躁うつ病、パニック、社会不安を合併していれば、薬物療法も含めてそれぞれの治療を行います。
支援については、子供の発達障害に使用されている方法をもとに、成人にも工夫して適応利用していきます。
発達障害の方への支援、環境調整
物理的構造化
目的別に場所を区切ります(食べるところ、勉強(仕事)するところ)。
色別のカーペットやマット、テープやついたてによる区画、カーテンなどを利用します。引き出しや棚、トレイにラベルを付けます。
スケジュール管理
時間の区切りを明確にします。
絵や色、写真など視覚的な情報を利用することもあります。
ワークシステム
仕事の手順を明確にします。
手順表、予定表、課題に必要なものを1つの場所に集めておきます。
フィニッシュボックスを使用します。
ルーチンとして、いつも同じ手順で行うようにします(例えば右から左、上から下など)。
その他の視覚的構造化
課題の手順を視覚化します。
重要な情報は視覚的な強調(色を利用)をしたり、材料を別のボックスに分けるなど
ペアレントトレーニング
親が子供にとって最良の治療者になるという考え方に基づきます。
子供の行動で好ましいものを「緑」、好ましくないもの「黄色」、危険なもの「赤」に色分けして視覚的な明瞭化を行います。
・緑の行動に対してはすぐに評価し、褒めます。まずはこの緑の強化を増やします。
・黄色の行動に対しては、強化せず、注目しません。
・赤の行動に対してはしっかり止めます。
ソーシャルストーリー、コミック
ソーシャルストーリーは、自己理解、物事の手順、社会のルールなどをストーリーとして当事者に読んでもらうことで、視覚的に物事の理解を深める方法です。
コミックは会話の流れと状況・場面を可視化することで、その状況の理解をサポートします。
しかし、視覚的な情報は効果が大きい反面、自閉症スペクトラム障害の方はネガティブな認知が入力されるとそれが残りやすいので、注意は必要です。
感情コントロールのための認知行動療法
感情を視覚化、数値化するような教材を利用したりして、感情のコントロールを主体とした認知行動療法を行います。
その他精神療法
成人の方の精神療法は、認知行動療法が主体となり、高い効果を示しますが、ストレス・マネジメント、自己コントロ―ル法(呼吸法、自律訓練法)、問題解決技法、アンガーコントロールトレーニング等も活用できます。
社会生活における具体的な対策
主に自閉症スペクトラム障害でみられる症状への対策
<社会的スキル不足、場面の理解、常識のづれの問題>
・相手の目が見れない
相手の目を直接見るのではなく、鼻や口をみましょう。
・失敗して謝ることができなかった
その場で謝ることができなかった場合は、後でフォローのメールを送るなどの対応でカバーしましょう。
・社会的な常識の部分的欠落や場面理解が困難な場合
ソーシャルストーリーやコミック教材を用いて、社会的な常識や場面の理解を少しずつ深めていきます。
実際あった、トラブルや出来事を話し合い、常識的理解の部分的欠落がないか確認し、確認できたことを一行でメモをしてもらいます(例えば、「相手の反応をまってから、返答する」など)。
プリントアウトしたり、携帯の待ち受けにしたりして、何度も目を通し、達成度合いを確認してもらいます。
<社会的コミュニケーションの問題>
・相手の意図が読み取れず、言いたいことが伝わらず、もどかしく感じ、ひどい時は不安や恐怖、パニックになることがあります
具体的にやりとりが分かっている場合には、会話のサンプリングを行い、会話のやり取りの例を書き出します。
職場の休み時間になかなか会話に入れない場合にも、会話例を書き出しておいて、職場で使用していきます。
まずは挨拶、天気、スポーツ、テレビ番組、その他趣味の話題など、話題を具体的に書いてみて、それを実際に使っていきます。
可能であれば、カウンセラーや理解のある家族とロールプレイを行います。
・表情トレーニング
表情が画一的になりやすく、不適切になりやすい場合には、誤解されることがあるため、鏡をみて表情を作るトレーニングをすることもあります。
笑顔をつくというのが具体的にどうするか分からない場合も多いのです。そういう方には、具体的に口角を少し上げること、眉間のしわを広げるように少し眉を上げるなど、図示しながら説明すると有効的です。
ただ、自分の外見を極端に気にする方は、自己評価をさらに低くしてしまう場合があるので、注意が必要で無理して行わなくてもよろしいでしょう。
<こだわりの強さ、先読みの苦手さ、変化に弱い>
・社会的なイマジネーションが難しく、こだわりが強い場合はそれを生かすことができないかの調整を考えます
たとえば、時間の正確さや、細かいところにこだわる方は、その特性を上司に理解してもらい、それをプラスに生かせる仕事への調整を試みます。
ちょっとした変化がパニックを引き起こすことがありますが、予見できないことが不安を増加させるため、1日のスケジュールをプリントアウトして、必要であればそこに変化したことを書き込み、予定を整理してから仕事にとりかかるようにしましょう。
また、進行状況をチェックしながら、印をつけることで、どこまで仕事が進行しているか確認しながら過ごすと不安を減らせます。
主にADHDでみられる症状への対策
<不注意・実行機能の問題>
・手帳の活用、仕事の自己マネジメントをする
手帳を有効に活用することで、不注意や実行機能障害に対して有効な方法となります。
スケジュールの部分、雑記帳の部分、ToDoリスト(やることリスト)の部分に分けて活用します。
普段の生活の中で、雑記帳の部分に書き込んだことを、1日に1度スケジュールやToDoリストに書き込んでいきます。
仕事の締め切りが日時に間に合わない人は、締め切り日より前に、自分の締め切り日を設定し、スケジュールを立てます。
仕事を先延ばしにする方も、スケジュールに、自分のスケジュールを何回か組み込んで、自分に意識させ、取り組ませます。
また、実際に作業を行う日時を時間までスケジュールに組み込み、実行できるようにします。
ただし、自分一人でやってもなかなかうまくいかないことが多いので、カウンセラーや家族のサポートを得ることで、習慣化できうまくいくことが多いのです。
iPhoneなどのスマートフォンを使って管理することもお勧めです。その場合にも、メモ帳は持ち歩き、必要なことをその都度メモして、1日1回メモの内容をスマートフォンに移すことを習慣化させましょう。
スケジュール管理にはアラームやリマインダーを使うとさらに有効活用できます。
・仕事上のミスをなくす
その都度覚えておいて実行するということが苦手な方が多いため、頭で考えるよりも目で見て、視覚的に確認できるようにしましょう。
仕事上の予定や指示も、文章やメール、付箋などを利用し、後で確認できるようにしておきましょう。自分のメモにその都度記載することも有効ですが、そのメモを整理する時間も予定に入れておきましょう。
ミスが起きた場合や、ミスが起きる一歩手前で確認できた場合は、その「内容」と「今後の対策」として文章にまとめましょう。そのまとめをファイリングしていつも確認できるようにしておきましょう。
休憩しながらそのファイルを見るなど、しばしば確認して同じミスを繰り返さないように意識づけをしましょう。
・仕事のマニュアル化
仕事は可能な限り、自分でマニュアル化して、一つ一つの仕事に手順書をつくり、目で見て確認できる状態をつくりましょう。
スマートフォンなどを利用して上司のお手本を動画として残しておくことも有効です(ただし、それには職場の理解と上司の承諾、協力が必要です)。
<多動性・衝動性の問題>
成人のADHDでは、落ち着かないため、余計な時間があるとついお金を浪費したり、食事やアルコール、タバコの量が増えたりしてしまう方がいます。そのため、スケジュールに仕事の後の時間や、休日の過ごし方も書き込み、余計な時間を作らないようにすることで、行動をコントロールしやすくなります。
衝動的な発言が多い方には、発言をする前に一呼吸おいて、場合によっては発言内容を紙に書いて視覚化して、吟味してから発言する習慣づけを行います。カウンセラーや家族との会話で、一呼吸おくトレーニングすることも有効です。
ADHDの方は、不注意・実行機能、多動性・衝動性に対して、対策、正しい習慣づけを行うことで、本来の能力を発揮できる状態になることが多いのです。
感覚の問題
聴覚過敏への対策
職場や家庭での生活音や車の音などに過剰に反応するケースがみられます。
また、苦手なタイプの人の話し声や、その人の立てる物音など、音の大きさに関わらず、情緒的な反応を引き起こす音が問題となることがあります。
このような場合は、耳栓や携帯音楽プレーヤー、ノイズキャンセリングヘッドホンなどを利用することが効果的です。
職場でそのようなツールの使用が困難な場合は、席替えなどを相談したり、本棚やボードなどを利用して、視覚的刺激を減らすなどの対策が有効な場合があります。
触覚への対策
服の素材が苦手であったり、他者から触れられることが苦手な場合があります。
握手やちょっとしたスキンシップが極端に負担となる場合もあります。
このような場合には周囲への理解を求め、必要ないスキンシップを避けるようにする必要があります。
視覚への対策
光への過敏性が極端に強いタイプの方もいますが、刺激を軽減してくれるような色付き眼鏡を利用することがあります。また、周囲の視覚的刺激で落ち着かなくなるような場合は、ついたてや本棚、ボードなどで仕切りをつくることで、視覚的刺激を軽減することが有効です。
味覚や口腔内感覚
学童期の給食の時間に困ることが目立つことが多く、成人ではずいぶん工夫ができるようになっている方も多いです。
集団で食事に行く際に、食べられる物がない店で困ることがあります。
そのような場合は、事前に周囲に食べられないものを認識してもらっておくのがいいでしょう。
寒暖の調整への対策
暑さ寒さの感覚の問題は重要で、我慢できる閾値が低いことも多く、室内作業ができなくなる場合もあります。
暑さに対しては、個人用の扇風機や、冷やしたハンドタオルなどを利用します。
寒さに対しては、個人用のヒーターやカイロなどを利用します。
感覚の問題は我慢するのではなく、利用できる可能な対策を見出して、解決法を考えることが大切です。
感情・行動のコントロールへの対策
感情を安定した状態で保つために、ストレスコントロールの手法を取り入れます。
<静穏系>
・リラクゼーション
ゆっくりと息を吸い、息を吐き出すときに全身の力を抜く腹式呼吸による、呼吸法などを練習します。
温泉や、岩盤浴などの自分にあうリラックスできるものを利用します。
自宅でゆっくりと入浴したり、心地の良い姿勢を探したり、自分の生活環境にあった無理のないリラクゼーションを考えましょう。
また、自分なりのリラックスできる刺激がある方はそれを利用するのもありでしょう。
光や回転するものであったり、特定のぬいぐるみや毛布などであったり様々です。
触覚においても、やわらかいもの、チクチクするものなど感覚グッズが売ってあるので、その人にあった感覚グッズを利用しましょう。
・趣味
自分の趣味やペットなど動物とのふれあいが、気持ちを落ち着かせてくれる方も多いです。
ただし、インターネットやゲームなどの趣味に没頭しすぎると、逆に疲労がたまったり、不調が出てくるので、1時間後とに休憩するなどのタイマーを利用した、調整が必要です。
ペットに関しては見ること、触れ合うことで癒される人は多く、、動画をみるだけで癒される人もいます。
・話を聞いてもらう
日常的な不満や愚痴を言える相手が身近にいることはストレスコントロールにおいて重要です。
一般的には家族が相手になることが多いのですが、インターネットの掲示板や、ソーシャルネットワークを利用する方もいます。
しかしインターネットでは、見知らぬ不特定多数との人間関係で、攻撃されたり、攻撃したりする場面が出現しやすく、注意が必要です。
<発散系>
・エクササイズ
軽いエクササイズで普段から体調を整えることで、ストレス耐性は高まります。
有酸素運動で脳に酸素を供給することで、うつ病などほかの精神疾患への効果も指摘されています。
ウォーキングなどの、20~30分程度で、毎日続けられるような負荷の低い有酸素運動がお勧めです。
・体を動かす、声を出す
気持ちが落ち込んだり、イライラした時は、一時的に発散できる方法があると比較的短期間で回復しやすいです。
やわらかいボールを投げたり、新聞紙を丸めて投げたり、クッションや枕など怪我しないようなものを叩くなども有効です。
カラオケなどで大きな声を出すのも発散法の一つです。
時間を気にせずに自分の趣味の時間に没頭するのも発散になります。
・余暇にスケジュールを入れて、有効に活用する
休日に無計画に過ごすと、浪費したり、疲労感がたまるなど、逆にストレスがたまることも多く、また仕事のことをずっと考えて切り替えができないことも多いのです。
あらかじめ、休日、余暇のスケジュールを立てて、計画的に過ごすことにより、疲労の蓄積を防ぎ、週明けにリフレッシュできるようになります。
次回は発達障害への薬物療法についてです。
事項はこちらです。→【アスペルガー】発達障害について知っておきたいこと【ADHD】⑤【薬物療法編⑤】