ベンゾジアゼピン系薬剤について詳しく説明します
ベンゾジアゼピンは、分子構造からのその名称がつけられています。
ベンゾジアゼピンは、ベンゾジアゼピン受容体と称される受容体において共通の作用を有しています。
ベンゾジアゼピン受容体を介して、γアミノ酪酸n(GABA)の作用を調整します。
ベンゾジアゼピン系薬剤の特徴
ベンゾジアゼピン系薬剤は、急速な抗不安・鎮静作用をもつので、通常は、不眠、急性期の不安、他の精神疾患による興奮や不安の緊急治療によく用いられます。
麻酔薬、抗けいれん薬、筋弛緩薬としても用いられます。
精神依存と身体依存の危険性があるので、長期使用は避け、精神療法を併用し、代替薬の検討も必要です。
ベンゾジアゼピン系の薬理学的作用①
メンドン®(クロラゼプ酸)を除くすべてのベンゾジアゼピン系薬剤は、未変化体のままで胃腸管より完全に吸収されます。
吸収、最高血中濃度への到達、作用発現はセルシン、ホリゾン®(ジアゼパム)、ワイパックス®(ロラゼパム)、ソラナックス®、コンスタン®(アルプラゾラム)、ハルシオン®(トリアゾラム)、ユーロジン®(エスタゾラム)で最も速く、不安発作に対して、または入眠困難に対して、効果が発揮しやすく、単剤頓服で使用するような方は特に考慮すべきことです。
セルシン®、ホリゾン®(ジアゼパム)、ランドセン®、リボトリール®(クロナゼパム)、メンドン®(クロラゼプ酸)、ダルメート®、ベノジール®(フルラゼパム)、ドラール®(クアゼパム)の血漿半減期は30~100時間あり、最も長い作用時間をもつベンゾジアゼピン系薬剤です。
遺伝的に代謝能の低い人は、こららの薬剤の血漿半減期が200時間以上に及ぶこともあります。
これら薬剤は、血中濃度が定常状態に達するのに約2週間かかるため、至適治療域と思われる投与量で治療を開始してから7~10日後になってようやく中毒症状や徴候が見られることがあります。
ワイパックス®(ロラゼパム)、ユーロジン®(エスタゾラム)の半減期は8~30時間と短く、ソラナックス®(アルプラゾラム)の半減期は10~15時間、ハルシオン®(トリアゾラム)の半減期はベンゾジアゼピン系薬剤の中で最も短い2~3時間です。
半減期の長さの違いによる利点と欠点
半減期の長い薬剤の利点
投与回数が少ないこと
血中濃度の変化が少ないこと
離脱現象が重篤でないこと
半減期の長い薬剤の欠点は
薬剤の蓄積
日中の精神運動障害のリスクの増大
日中の鎮静の増加
半減期の短い薬剤の利点
薬剤の蓄積がないこと
日中の鎮静が少ないこと
半減期の短い薬剤の欠点
頻回投与を必要とすること
より早期に重篤な離脱症候群が起こることがある
反跳性の不眠や前向健忘が起こりやすい
ベンゾジアゼピン系の薬理学的作用②
非ベンゾジアゼピン系であるマイスリー®(ゾルピデム)、ルネスタ®(エスゾピクロン)、アモバン®(ゾピクロン)は、構造的に別なものであり、GABA受容体サブユニットへの結合の仕方も異なります。
ベンゾジアゼピン系薬剤は、クロールチャンネルを開き、神経や筋肉の発火を減少させます。
GABAA受容体の全部で3つの特定のGABA-ベンゾジアゼピン結合部位を活性化します。
非ベンゾジアゼピン系は、GABA受容体の特定のサブユニットにのみ選択性をもち、鎮静作用を選択的に有し、筋弛緩、抗痙攣作用は比較的弱くなっています。
マイスリー®(ゾルピデム)、ルネスタ®(エスゾピクロン)、アモバン®(ゾピクロン)は経口摂取後に速やかに吸収されますが、食事と一緒に摂取すると、1時間ほど吸収がおくれることがあります。
マイスリー®(ゾルピデム)の血中濃度は約1.6時間でピークに達し、半減期は2.6時間です。
マイスリー®(ゾルピデム)、ルネスタ®(エスゾピクロン)、アモバン®(ゾピクロン)は、急速に代謝され、活性代謝物も持たないため、血中濃度の蓄積が起こりにくい薬剤です。
ベンゾジアゼピン系薬剤の治療適応
不眠
不眠は、身体疾患によっても精神疾患によっても起きますが、まず不眠の原因を追究したうえで、必要な場合に睡眠薬を選択することになります。マイスリー®(ゾルピデム)、ルネスタ®(エスゾピクロン)、アモバン®(ゾピクロン)などの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、通常短期間の使用では、中止しても反跳性の不眠をきたしにくい薬剤です。
入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒など不眠のタイプに合わせて、半減期の長さを考慮して薬物選択していきます。
不安障害
全般性不安障害
ベンゾジアゼピン系薬剤は、全般性不安障害に関連した不安の改善に非常に効果的です。
全般性不安障害は再発のリスクが高い慢性疾患であり、依存や耐性を考慮しながら、長期の維持療法が必要になることもあります。
パニック障害
ソラナックス®、コンスタン®(アルプラゾラム)とリボトリール®、ランドセン®(クロナゼパム)などの高力価のベンゾジアゼピン系薬剤は、広場恐怖の有無にかかわらず、パニック障害の治療に効果的です。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)も適応となりますが、ベンゾピアゼピン系薬剤は即効性と、明らかな性機能障害や体重増加が起こらないという点で優れています。
急性期のパニック症状にはベンゾジアゼピン系薬剤とSSRIを併用して、SSRIの作用が発現して3~4週後にはベンゾジアゼピン系薬剤は減量・中止することが望ましいでしょう
社会恐怖
リボトリール®、ランドセン®(クロナゼパム)は社会恐怖の治療に効果的です。
さらに、セルシン®、ホリゾン®(ジアゼパム)などの他のベンゾジアゼピン系薬剤も効果的です。
他の不安障害
ベンゾピアゼピン系薬剤は、不安を伴う適応障害、事故後や死別反応などライフイベントに関連した病的不安、強迫性障害、外傷後ストレス障害などの治療にも用いられています。
ベンゾジアゼピン系の注意点と有害作用
ベンゾピアゼピン系薬剤の最も頻度の高い有害作用は眠気で、約10%にみられます。
そのため、服用期間中には自動車の運転や危険な機械の使用に注意する必要があります。
ふらつきなどの運動失調や、めまいが1~2%ほどで出現する報告があります。
特に高齢者では転倒・骨折の原因となるため、注意が必要です。
アルコールのような鎮静性の他の物質との同時に摂取した場合、著しい眠気や脱抑制、そして時に呼吸抑制を起こすことがあります。
内服した後のことを覚えていない前向健忘はハルシオン®(トリアゾラム)などの特に高力価のベンゾジアゼピン系薬剤や、マイスリー®(ゾルピデム)などで生じやすいといわれています。
過量服薬等をした際のベンゾジアゼピン系薬剤の中毒症状は、錯乱や呂律が回らないように言語が不明瞭になる、強いふらつきなどの運動失調、嗜眠、呼吸困難、反射低下などがあります。
肝機能が低下しているような肝疾患を持つような方や、高齢者の場合では、繰り返しまたは高用量で投与した場合に、肝性昏睡などのベンゾジアゼピン系薬剤の有害作用が出現しやすいため、用量調整に注意が必要です。
ベンゾジアゼピン系薬剤は妊娠中は可能であれば使用を中止するのが望ましく、出産前に継続内服している場合は、新生児に離脱症状が出現する場合があります。
母乳中にも分泌されるため、授乳時に無呼吸、徐脈、嗜眠を起こすことがあるため、授乳中の内服は避けましょう。
ベンゾジアゼピン系薬剤の耐性、依存症、離脱
ベンゾジアゼピン系薬剤を、中等量かつ1~2週間の短期間で使用する場合は、通常は重篤な耐性、依存性、離脱症状が出現することはありません。ただし、高力価の短時間作用型ベンゾジアゼピン系薬剤では、頓服で使用した翌日に不安が増強されるような症状が出現することがあります。
ベンゾジアゼピン系薬剤を使用し続けることで、抗不安作用が減弱する、耐性が生じ、鎮静作用を維持するために、薬剤の増量が余儀なくされることがあります。
ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症候群(中止後症候群)の出現は使用期間、投与量、減量の割合、半減期などに影響されます。
離脱症候群では不安、神経過敏、発汗、落ち着かなさ、易刺激性、疲労感、ふらつき、振戦、不眠、脱力感などが見られることがあります。
ベンゾジアゼピン系薬剤を中止する際には、1週間に25%づつ、ゆっくりと減薬する必要があります。
ベンゾジアゼピン系薬物の他の薬物との相互作用
ベンゾジアゼピン系薬剤を、アルコール、バルビツレート、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、ドパミン受容体拮抗薬、アヘン類、抗ヒスタミン薬などの、他の中秋神経抑制薬と併用した場合、過鎮静や呼吸抑制に注意が必要です。
ふらつきなどの運動失調や、呂律の回らない構音障害は、リチウムや抗精神病薬を併用すると出現しやすくなることがあります。
カルバマゼピンはベンゾジアゼピン系薬剤の血中濃度を低下させることがあります。
制酸薬や食物はベンゾジアゼピン系薬剤の血中濃度を低下させます。
喫煙はベンゾジアゼピンの代謝を増加させます。