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【抜毛症の経過、予後、治療】

【抜毛症とは】

抜毛症は繰り返し毛髪を抜き、その結果、他人からも分かるような様々な程度の脱毛状態に至る慢性疾患です。

抜毛症はフランスの皮膚科医が1889年に報告したものが最初と言われています。抜毛症は稀な病気と考えられていたため、記述もあまりありませんでした。

現在では、抜毛症それほど珍しくないと考えられています。

強迫症や衝動制御の障害と類似しており、抜毛を抜くまでの緊張感の高まりと、抜毛後の開放感と満足感が特徴です。

【抜毛症の疫学】

抜毛症の有病率は、患者さんが隠したがることもあり、実際より少なく評価されている可能性があると言われています。

抜毛症の診断は発生率、重症度、発症年齢、男女比によって大きく2つのカテゴリーに分けられますが、その他のカテゴリーも存在します。

  • 青年期の抜毛症

最も重症化、慢性化しやすいタイプは、青年期初期から中期に発症する型です。

生涯有病率は一般人口の0.6〜3.4%で、男女比は1:10で女性の割合が多いといわれています。しかし、男性は女性より抜毛を隠すことが多く、実際は男性ももっと多い可能性があります。

抜毛症一人っ子や、長子(兄弟、姉妹で1番上)に多いとされています。

  • 小児期の抜毛症

小児期の抜毛症は男女ともに同じ割合で見られます。また、青年期や成人期にみられる抜毛症に比べ発生率は高いですが、心理学的にも皮膚科学的にも軽症が多いといわれています。

  • 飲み込む抜毛症

抜毛症の35〜40%の人が引き抜いた抜毛を噛んだり、飲み込んだりします。このような行為が見られる約3分の1の方は、胃や腸などの消化管に毛玉が蓄積して危険な結石になります。

【抜毛症の併存症】

抜毛症の併存症としては強迫症、不安症、トゥレット症、うつ病、摂食障害、パーソナリティ障害があります。

物質依存との併存は少なく、病的賭博、窃盗症や他の衝動制御症との併存に比べても少ないといわれています。

【抜毛症の原因】

抜毛症には様々な要因が関わっていると考えられ、4分の1以上はストレス状況と関係しています。

  • 母子関係の障害
  • 1人で残される恐怖
  • 対象の喪失

などが発症のきっかけになる事が多いです。

抜毛症の家族にはしばしばチック、衝動制御障害、強迫症状が認められ、遺伝的素因を存在する可能性が示唆されています。

抜毛症と神経生物学的、遺伝学的研究】

抜毛症では左側被殻と左側レンズ核領域体積減少が指摘されています。

遺伝学的研究では抜毛症とセロトニン2A受容体遺伝子多型との関連が指摘されています。

【抜毛症の臨床像】

抜毛症の臨床像には2つの型があります。

  • 1つは、衝動や身体の感覚、あるいは思考を制御するために意図的に行われる無意識の脱毛です。
  • もう1つは、上記とは対照的に、座って何かをしている時などに行われる無意識の抜毛です。

抜毛症の方のほとんどは、この2つが組み合わさっています。

抜毛症の経過と予後】

抜毛症の平均発症年齢は10代前半で、しばしば17歳以前ですが、より年長での発症も報告されています。

慢性化するタイプと寛解するタイプがあります。

6歳以前の早期の発症例は指示や援助、行動療法に反応しやすく、寛解に至ることが多いといわれています。

13歳以降の遅い発症では慢性化の経過をとりやすく、早期発症例に比べて予後は良くないといわれています。

【抜毛症の治療】

実は医学的に抜毛症の最も良い治療法に関しての意見は一致していません。治療に関しては、精神科医と皮膚科医の連携が必要となる事も多いです。

精神薬理学的治療法としては、局所のステロイド、水酸化塩酸塩、抗ヒスタミン特性をもつ抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬があります。

抜毛症の初期の症例報告では、選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI)が有効であったとの報告があります。

SSSRIに反応が乏しい場合にはピモジド(オーラップ)などのドパミン受容体拮抗薬の追加で改善する可能性があります。

有効性が報告されている薬物は、フルボキサミン(ルボックス)、シタロプラム(Celexa)、ベンラファキシン(イフェクサーSR)、リチウム(リーマス)、クロナゼパム(リボトリール)、トラゾドン(デジレル)などがあります。

【摂食障害】なぜ食べ吐きするのか【過食嘔吐】

食べ吐きする人、過食症の心理

過食・嘔吐する多くの方にとって、過食も拒食も一つの連続体であり、過食と拒食は一見逆に見えますが、その基本的な心理は共通しています。

過食に関して、「苦しいので早く治してほしい」という訴えで受診されます。

確かに食べ吐きしている現状はつらいのは事実でしょうが、その時、過食行動が感情や欲求の調整に役立っていた部分は認識できていないことが多いです。

過食・嘔吐を治す場合、”なぜ過食・嘔吐が始まってしまったのか”、”なぜやめられなくなっているのか”がとても重要になります

過食・嘔吐する方の性格傾向

過食・嘔吐をする方は、努力家で、やせていなければならないという社会的な圧力にこたえようとしている方も多くみられます。

その一方で、自分の制御の難しさがあり、行動的で怒りっぽく、衝動的で、依存傾向が強かったりもします。

過食・嘔吐する方は平均以上の痩せを求める傾向があります。

また、人目を気にする理性が勝っている時は極めて少食になります。

しかし、過食時には高カロリー、脂っこいものなどを恐れずに過食できます。

過食・嘔吐する方の多くは、対人関係に敏感で傷つきやすく、人が自分をどう評価しているかがいつも気になっています。

褒められても安心せず、その裏がないかを考えます。

他人が自分に対してどういう意図を持っているかを必死に考えますが、それに答えが出ずに疲れ果てます。

みんなから好かれたいと思いますが、これも叶わない願いであることが多く、苦しみます。

また、過食する人々は、勉強・仕事・趣味・遊びや人付き合いに関して計画を立てないと気が済まない性格傾向であることが多いのですが、細かい計画通りに進まずに苦しみます。

このように、思い通りにいかない混乱と隣り合わせに生活しているのです。

過食・嘔吐する方は、みんなから好かれたい、予想通りの理想の人間関係のある日常、人生にしたいと願っていますが、臨機応変が必要とされる人間関係には向きません。

いつも「こんなはずじゃなかった」という思いにおそわれることになります。

しかし、過食・嘔吐する方はそのような絶望や悲しみを表出することは許しがたいのです。

そのため、残された道は、とにかく他人に合わせ、無理に無理を重ねた人間関係になっていきます。

人に好かれるために、怒り、イライラ、悲しみ、恨み、妬み(ねたみ)といった良くない感情たちを出さないように封じ込めなければならないと考えています。

心が乱れ、嫌な感情が続くことが許せなくなり、早く思い通りの自分にならなければならいと考え、ますます疲れます。

理想に向かって、無理な対人関係、仕事、日常を送っている時は、気が張っており疲れは十分に意識されずに、休憩時間や帰宅時、休日に一気に疲れが自覚されます。

過食・嘔吐の意義

過食・嘔吐はこの苦しい疲れを一瞬に断ち切ってくれます。

頭のことを空っぽにして、無理をしている自分から解放されるのです。

また、過食・嘔吐、下剤乱用といった一連の浄化行動は、苦しさの堂々巡り、悪循環をきれいさっぱりリセットしてくれるような気にさせてくれます。

過食・嘔吐をするから、自分をリセットして安心して眠ることができると錯覚します。

過食することで安らかな眠りを導いてくれると感じています。

過食後の自責感や後悔は、実際出現はしますが、過食・嘔吐によって得られる充足感は、それらの負のマイナス感情をはるかに上回ります。

時に、両親を支配し、操縦する手段として過食、嘔吐が存在している方がいます。

過食は、食料が簡単に手に入る現代社会において、内外のストレスのもっとも手近でもっとも手軽なストレス解消法なのです。

「秘密の快楽」になる過食・嘔吐

また、過食・嘔吐、下剤乱用により強い内臓感覚が引き起こされます。

それにより、自己の存在感覚を実感します。この感覚には自己愛的でマゾヒスティックな官能の快楽が混在していることが多いとされます。

過食・嘔吐が「秘密の快楽」になる時期があるはずで

感情コントロールと過食

強迫的なこだわり、怒り、憎しみ、後悔、恋しさ、寂しさといった感情が先行し、それらの感情から逃れるために過食します。

一般的にも失恋や嫌なことがあれば、食欲が減ることや、やけ酒、やけ食いが出ることはあるでしょう。

ただ、過食・嘔吐する方で病名がつくというのは、これらの食行動の逸脱が高度でかつ常態化しているの場合です。

過食する方でほぼ常に見られやすい重要な感情は、「むなしさ」、内的空虚感なのです。

 

「むなしさ」、内的空虚感はどこからくるのか

人は、様々な人や物と生涯を通じて、情緒的に関わって生きていきます。

それら人や物などといった対象は、心の中にある対象で、「内的対象」と呼びます。

それは愛着してやまない骨董品であったり、自らの勝ち取った栄えある受賞時の光景であったり、物や情景、人といった様々なものが対象となりえます。

しかし、両親に代表される養育者ならびに兄弟、姉妹たちの内的対象の在り様が、心の健康の維持にとっては決定的になります。

養育者の適切でない身体的、言語的・非言語的対応のもとに育った人には、良質で、動揺しにくいしっかりとした内的対象が形成されます。

反対に、養育者から適切な身体的、情緒的、言語的・非言語的対応を受けることが困難な場合や乏しかった場合、もしくは養育者の負の対応に過敏すぎたり、もしくはその両方の場合に、養育者という対象への表象は安定せず、うつろいやすくなります。

負の悪い内的対象に支配される感覚は、耐え難く、その結果内的対象は不自然に美化され、理想化され、悪い養育者のイメージは排除され、他のものに移し替えられたりします。

あるいは、良い内的対象と悪い内的対象がめまぐるしく交替したりすることもあります。

このような不安定な内的対象をもつ人の自我形成は非常に脆弱で、安定した心の基盤を失っています。

そのため、内的対象から見放されたと感じたり、内的対象を失ったと体験したときに「むなしさ」、空虚感が生じます。

空虚感の他に、生きていることの無益さ、慢性の落ち着きのなさ、退屈感、孤独感とそれに打ち勝つだけのゆとりの無さといった感情もしばしばみられます。

退屈を感じることを恐れ、退屈を常に避けようとする努力がみられる人もいます。

過食・嘔吐する人は、食べ物を擬人化していることが多いです。

過食・嘔吐という行動自体が、頼れる相棒のような存在になっています。

つまり、食べ物が人間の代理表象になっているのです。

過食や拒食という手放せないものの向こう側に、自分たちを受け入れ愛してくれるはずの人々のイメージを浮かべ求めているのです。

そのため、心身共に融合し、理解してもらえ、気持ちも一致したと体験される異性が出演した場合、過食が消失することはよくあります。

しかし、そのような幸せも長続きしないことが多いです。

過食、拒食する人の異性関係における問題

自分の欲求の充足をすぐに相手に求めてしまいます。

依存し、支配したくなり、独り占めしようとします。

思い通りにならないと情緒不安定となり、感情的になりやすいです。

相手の状況や立場を配慮する余裕がなくなりやすいです。

親切のつもりが押しつけになっている場合にも認識できにくいです。

一旦嫌になると、相手の欠点ばかりが目につきやすいです。

異性との関係から調子が悪くなる方もいますが、異性関係をもつこと自体は決して悪いことばかりではなく、異性との情緒的交流ののちに成熟する過程をとることができる人もいます。

過食・嘔吐する人はどういう経過をとるのか

過食・嘔吐とそれに伴うさまざまは症状は、長い経過の中で慢性化しているものが多く、簡単に解消するものではありません。

生命にかかわるような飢餓状態が出現する様であれば入院治療になることもあります。

過食・嘔吐することは、基本的には生きていくうえで選択を余儀なくされた、生き方の表現型であることが多く、それぞれの人の生活歴、生活環境、性格傾向、病態水準、社会的生活水準などを考えて各々に必要な治療戦略を考える必要があります。

過食・嘔吐することの裏に隠れている精神的な病気があるのであれば、その病気の治療をすることで比較的速やかに過食・嘔吐の症状が改善する人もいます。

活動期(過活動で軽躁的な時期)

自己愛的で、万能感を伴うような拒食の時期から始まる人は多く、「食べない方が動けるし、健康だし、周りからちやほやされる」といったような体験をしている人が少なくありません。

やや過活動であったり、運動、勉強、仕事などやりすぎる状態がみられることもあります。

その後、過食、自己誘発性の嘔吐、下剤乱用などが始まる過食の時期になることが多いです。

停滞期(過食、ひきこもり、抑うつ気分が目立つ時期)

次第に、自己嫌悪、罪悪感が目立つようになり、抑うつ的な気分が増える停滞期にはいっていきます。

人によっては自傷行為や性的逸脱行動、家庭内暴力がみられる人もいます。

後悔と自暴自棄が出やすい時期です。

学校や仕事での適応がなんとか成立している人と、ひきこもり外出がほとんどできなくなる人と様々です。

現状の苦しみを親や誰かのせいにしている場合は、症状が長引く人が多いです。

抑うつ気分があまり強い時には抗うつ薬が効果を示すこともあります。

回復期

治療を継続しうまくいけば、やがて回復期になります。

親や周囲のせいにしていた知覚がうすれ、自己の柔軟性に乏しい一方的な考え方、認知の仕方が自覚でき、自分の能力の限界もある程度わかるようになり、現実と向きあっていくようになります。

それまで自分は特別だというような思い込みから目が醒めて、幻滅したり絶望感が出る人もいます。

理想と現実の葛藤への処理が必要となります。

回復することで、社会生活と向きあわないといけなくなる不安や恐怖が出てきます。

しかし、そこには体験を通じて乗り越える必要がでてきます。

これらの過程の中で、アルコールや薬物の依存や乱用が出てくる人がいます。

このようなつらい停滞期、回復期を乗り越えた人々は社会生活できるようになります。

医師、看護師、心理士などの医療従事者や、教師、保母などといった愛他的主義的志向の職業を求める人も多くいます。

自分が愛されたいと願う願望の裏返しかもしれません。もちろん、その他にも会社員であったり技術職であったり、芸術家であったり適応している形は様々です。

摂食障害の治療

拒食がひどい方の場合、飢餓状態、脱水などにより生命の危機にさらされている時は入院治療となります。

過食の方が入院治療となることは多くはありませんが、外来治療は長期的になることが多いです。

精神療法

1)認知行動療法

認知行動療法は過食症の方に対して第一選択の治療となります。

認知行動療法の有効性が示されています。

2)力動的精神療法

過食症の精神力動的治療法の有効性も示されており、「取り入れ」と「投影」の防衛機制が用いられることが明らかにされています。

3)薬物療法

抗うつ薬、特にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の有効性が示されています。

最後に

現在摂食障害の治療を得意とする治療者は多くはなく、信頼できる治療者と巡り合えることはとても幸運なことです。

食べ吐きでお困りの方は摂食障害に対応できる医療機関の情報を集めて、受診されてみてはいかがでしょうか。

【SSRI】パキシル®(パロキセチン)で太るのか?【体重増加】

抗うつ薬を飲み始めて太ったと言われる方がいます。

では果たしてパキシル®(パロキセチン)を開始して体重増加が生じるのでしょうか?

パキシル®(パロキセチン)内服開始後の体重増加に関してはいくつかの報告があります。

SSRIであるパキシル®(パロキセチン)と三環系抗うつ薬であるトフラニール®(イミプラミン)を内服中のうつ病の方で効果と副作用を検討した研究があります。

その研究ではパキシル®(パロキセチン)内服中の方のうち約30%で1~4㎏の体重増加がみられたとの報告があります。

その他にもいくつか体重増加が見られたとの報告が散見されます。

300名近くの大うつ病の方にSSRIであるパキシル®(パロキセチン)とジェイゾロフト®(セルトラリン)とフルオキセチン(日本未承認薬)を投与して体重変化を比較した研究があります。

その結果パキシル®は投与前と投与終了後の平均体重変化率が+3.6%と有意な増加が見られました。

ちなみにジェイゾロフト®は+1.0%、フルオキセチンは-0.2%という結果です。

また、平均体重の変化率が+7%以上の極端な体重増加率を示した方の割合は、パキシル®で約26%、ジェイゾロフト®で約4%、フルオキセチンで約6.8%でした。

このような極端な体重増加は男性(約13%)より女性(約39%)に多かったようです。

さらに、極端な体重増加を示したパキシル®を内服した方のうち約92%の方が内服前のBMI(body mass index)が20(kg/m2)以上でした。

一方で、体重変化が認められなかった、特定の群で体重が減少したとする報告もみられます。

SSRIによる体重増加が生じる機序の可能性

1)うつ状態の改善によるもの

うつ状態では症状による食思不振、食欲低下、体重減少が多くみられます。

よって、うつ状態の改善に伴い、食欲が回復することで、体重が元の体重に戻る時に、増える場合があります。

しかし、それは太ったのではなく、元の体重に戻ったということであり、薬剤性の体重増加ととらえる必要はないでしょう。

2)食欲増加あるいは炭水化物摂取の増加

SSRI内服開始後に食欲が増える場合があり、食事摂取量が増え体重が増えることがあります。

また、うつ状態で休職したり、療養する過程で食事をゆっくりとる場面が増えたり、いろいろなストレスに対し「食べる」という行為でストレスを解消しようとする場合は体重が増えます。

そういう場合は、ご飯、パン、麺、お菓子などの炭水化物の摂取が増えていることが多いです。

3)セロトニン5-HT2c受容体活性化による影響

薬理学的な作用としてセロトニン5-HT2c受容体活性化が体重増加に影響しているとの指摘があります。

 

但し、SSRIを内服している人がみな体重増加しているわけではなく、また、SSRIの中でも体重が増えやすいお薬とそうでないお薬があるというのが実際の印象です。

まとめ

パキシル®(パロキセチン)による体重変化の報告は、依然として一致した見解には至っていませんが、体重が増加するという報告が比較的多くみられ、臨床現場でも実際体重が増える方がいるのは事実です。

特に女性の方や、内服前からBMIが高めの方は注意が必要です。

しかし、病気の改善による食欲の回復が影響している場合や、生活、食事、運動の変化等が影響している部分も大きく、一概に体重増加を薬物が原因と考え有用な薬物陽法の機会を逃すことも注意が必要だと思います。

【SSRI】抗うつ薬をやめられない【離脱症状】

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)としては日本初のお薬であるルボックス®、デプロメール®(フルボキサミンマレイン酸)が1999年に承認され、それ以降、パキシル®(パロキセチン)、ジェイゾロフト®(セルトラリン)、レクサプロ®(エスシタロプラム)と使用できるSSRIの選択肢が増えています。

現在SSRIはうつ病、パニック障害、社交不安障害、強迫性障害などの疾患に対して幅広く用いられています。

SSRIを他の薬に切り替える場合や、漸減中止をしようとした際に、睡眠障害やふらつきなどの離脱症状が出現することがあります。

抗うつ薬の離脱症状について

SSRIよりも以前から使用されていた三環系抗うつ薬においては離脱症状が出現することが知られており、問題とされてきましたが、SSRIの減量・中止の際にも離脱症状が出現することがあります。

離脱症状の主な症状

主な症状には、ふらふらする感じ、めまいや失神するような感じ、感覚異常、不安、下痢、倦怠感、運動失調、頭痛、不眠、イライラ、嘔気、振戦などがあります。

離脱症状はSSRIを1ヶ月またはそれ以上内服した方において、SSRIの中止あるいは減量後3日以内に出現することが多く、場合によっては数週間持続することがあります。

SSRIの中でも離脱の出やすさに差があり、パキシル(パロキセチン)は他のSSRIよりも離脱症状の頻度が多いという報告があります。

パキシル(パロキセチン)が離脱症状が出やすい理由

1)薬物動態的特徴によるもの

パキシルの薬物動態学的特徴が関係しています。

パキシルは他のSSRIと違い活性代謝物をもたず、また、血中濃度が内服用量増加に伴い非線形の上昇を示します。

そのため、中断や減量の際に、他のSSRIよりも血中濃度が急激に低下することが推測されます。

2)セロトニン選択制の高さによるもの

パキシルのセロトニン選択性の高さが関係しています。

長期間のSSRI内服により、後シナプスにおけるセロトニン受容体の脱感作が生じるため、SSRIの急激な中断や減量によりシナプス間隙でのセロトニン欠乏をきたした際に離脱症状が出現しやすいと推測されます。

また、前シナプスにおける自己受容体であるセロトニン1A受容体の脱感作が生じているために、セロトニン神経の活動亢進が起きにくいという報告もあります。

離脱症状の判断

実際の臨床では、離脱症状であることが正確に判断されることが重要です。

SSRIを中止した際に、抑うつ症状や不安症状の再燃なのか、薬剤切り替えを行った場合は新しい薬剤の副作用なのか、離脱症状なのかを判断する必要があります。

SSRI離脱症候群の診断基準

A)少なくとも1ヶ月間の使用期間後におけるSSRIの中断なるいは減量がなされている。

B)中断あるいは減量後の1~7日以内に出現する以下の症状が2つ以上

1)ふらつき、ふらふらする感じ、めまいまたは失神する感じ

2)嘔気、嘔吐

3)頭痛

4)振戦

5)倦怠感

6)不安

7)ショック様の感覚または感覚異常

8)不眠

9)焦燥感

10)下痢

11)不安定歩行

12)視覚障害

C)上記の症状が、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

これらの症状が一般身体疾患によるものではなく、SSRIが処方された精神障害の再燃、もしくは同時に行った他の精神活性を持つ物質の中断あるいは減量ではうまく説明されない場合。

離脱症状への対処法

離脱症状が出現した場合、もっとも安易な対処法は中止・減量した薬剤を再開することです。

この場合速やかな症状改善がきたいできますが、再び減量を行った場合には、同様の症状が出現する可能性が高いので、減量中止の仕方に中止が必要です。

離脱症状への具体的な対策としては、減量する薬剤量と減量する間隔を長くするという方法があります。

特に少量になればなるほど離脱症状が出現しやすく、やめる時が最も出現しやすいと言われています。

そのため、パキシルを1日40㎎内服している場合は、2週間以上あけて5~10㎎/日づつ減量し、10~20㎎/日以下に減量する場合は、2.5㎎~5㎎/日で減量していくことで離脱症状を軽減できる可能性があります。

但し、それでもうまくいかない場合は離脱症状の出現しにくいレクサプロ(エスシタロプラム)に一旦置換してレクサプロで減量中止していくとうまくいくことがあります。

【三環系抗うつ薬】ノリトレン®/ノルトリプチリン塩酸塩とはどんな薬?

ノリトレ®/ノルトリプチリン塩酸塩を処方された方へ

一般名

ノルトリプチリン塩酸塩 nortriptyline hydrochloride

製品名

ノリトレン

剤型

錠剤 10mg、25mg

適応

うつ病・うつ状態

用法・用量

1日に30~75mgを初期用量として、2~3回に分け内服し、必要に応じて最大1日150㎎まで漸増します。

半減期

約27時間

ノリトレン®/ノルトリプチリン塩酸塩の特徴

ノリトレン®/ノルトリプチリンは、デンマークのH.ルンドベック社によりジベンゾシクロヘプタジエン系構造を有する三環系抗うつ薬の一つです。

日本では1971年より発売されています。

ノリトレン®/ノルトリプチリンはトリプタノール®/アミトリプチリンが脱メチル化された化学構造を有します。

ノリトレン®/ノルトリプチリン塩酸塩の薬理作用、薬物動態

Tmax(最高血中濃度到達時間)は4~5時間で、半減期は約27時間です。

ノリトレン®/ノルトリプチリンは、ノルアドレナリン再取り込みを阻害することにより、シナプス間隙におけるノルアドレナリン濃度を増加させ抗うつ効果を発揮します。

ノリトレン®/ノルトリプチリンは生化学的には抗コリン作用、α受容体遮断作用、抗ヒスタミン作用がトリプタノール®/アミトリプチリンより弱く、起立性低血圧などの副作用も比較的出現しにくいといわれています。

ノリトレン®/ノルトリプチリン塩酸塩の適応症に対する効果

ノリトレン®/ノルトリプチリンの適応症として厚生労働省が認可しているのは、うつ病、うつ状態です。

抑うつ感そのものの改善よりも精神運動抑制の改善に効果が高く、うつ病に伴う不眠に奏功します。

ノリトレン®/ノルトリプチリン塩酸塩の意点、副作用

ノリトレン®/ノルトリプチリを含めた抗うつ薬において、服用開始後に抗うつ効果を発現する前に副作用が出現することもあります。

特に三環系抗うつ薬は抗うつ薬の中で、作用も強いのですが、副作用も出現しやすいお薬です。

低血圧、頻脈、口渇、便秘、排尿困難、めまい、倦怠感、眠気、振戦等が見られやすい副作用です。

また、内服後、不安感や焦燥感、パニック、興奮、不眠、イライラ、攻撃性、衝動性、アカシジア等が見られる場合にはすぐに主治医に相談して下さい。

ノリトレン®/ノルトリプチリン塩酸塩の薬物相互作用

ノリトレン®/ノルトリプチリンはモノアミン酸化酵素阻害薬との併用は禁忌となっています。

抗コリン作用を有する薬剤と併用すると、それぞれの作用が増強されます。

アドレナリン作動薬、中枢神経抑制薬、全身麻酔薬、キニジン、メチルフェニデート、黄体・卵胞ホルモン製剤、シメチジン、フェノチアジン系薬剤、抗不安薬、飲酒の効果を増強させます。

降圧薬の効果を減弱することがあります。

インスリン製剤、SU剤との併用では過度の低血糖を生じさせることがあり注意が必要です。

クマリン系抗凝血薬の血中半減期を延長させます。

バルビツール酸誘導体やフェニトインなどの肝薬物代謝酵素誘導作用を有する薬物はノリトレン®の作用を低下させます。

まとめ

ノリトレン®/ノルトリプチリンは、三環系抗うつ薬に分類される抗うつ薬です。

抗うつ作用は強いのですが、副作用も出現しやすく、現在第一選択で使用されることは少なくなっているお薬です。

しかし、有用な場面もあり処方されることもありますので、内服し、副作用が気になるようならすぐに主治医に相談して、効果と副作用のバランスのとれた服薬量を調整してもらうのがいいでしょう。

【双極性感情障害】躁うつ病のうつ状態の治療にはどの抗うつ薬がいいのか?【抗うつ薬】

躁うつ病のうつ状態の薬物療法

躁うつ病(双極性感情障害)は気分が循環する病気であり、躁状態の時期とうつ状態の時期、躁とうつが混ざったような混合状態の時期などが出現します。

双極性うつ病(躁うつ病のうつ状態)における抗うつ薬の使用については治療に関する実証的研究が少なく、意見が分かれています。

抗うつ薬は躁状態を誘発する?!

躁うつ病において、抗うつ薬は約3分の1の頻度で躁状態を誘発し、約4分の1の頻度で急速交代化(躁状態とうつ状態を短期間で繰り返す状態)を促すという報告があります。

その為、躁うつ病への抗うつ薬の使用については慎重になるべきだという意見が一般的です。

あるアメリカの治療ガイドラインでは双極性うつ病の急性期にはリチウムまたはラミクタール®(ラモトリギン)を第一選択としており、重症の場合は抗うつ薬の併用も行われますが、限定的であるべきとされています。

もし抗うつ薬を使用するとしても、SSRIが第一選択になるであろうとの意見が多いようです。

双極性うつ病の治療選択

1)リチウムまたはラミクタール®(ラモトリギン)による治療開始。

2)SSRIの追加、状態によっては増量

3)効果不十分例では抗うつ薬の変更の検討

4)リチウムやラミクタール®、デパケン®(バルプロ酸)などの情動調整薬、抗けいれん薬の追加もしくは調整

などの治療が提案されます。

抗うつ薬の躁転率

双極性うつ病における抗うつ薬の治療において、SSRIの躁転率(約3.7%)はプラセボ(約4.2%)と差がないという報告があります。

その一方で、三環系抗うつ薬投与における躁転率(約11.2%)はSSRIやプラセボより有意に高いと報告されています。

まとめ

現在双極性うつ病における抗うつ薬の使用においては意見が分かれている現状ですが、急性の抑うつエピソードで軽症であれば、リチウムやラミクタール®などの情動調整薬、抗けいれん薬が使用され、中等症から重症の場合にはSSRIと情動調整薬の併用療法が開始されることも多いようです。

自殺の危険性や、妊娠期間中、生命を脅かすほどの食事ができないような状態では電気けいれん療法が推奨されています。

長期的には、情動調整薬を第一選択として、必要に合わせて抗うつ薬の併用を考慮し、症状が改善したら、抗うつ薬は減薬を検討するのがよさそうです。

【三環系抗うつ薬】トリプタノール®/アミトリプチリン塩酸塩とはどんな薬?

トリプタノール®/アミトリプチリン塩酸塩を処方された方へ

一般名

アミトリプチリン塩酸塩 amitriptyline hydrochloride

製品名

トリプタノール

剤型

錠剤 10mg、25mg

適応

①うつ病・うつ状態

②夜尿症

③末梢神経障害性疼痛

用法・用量

①うつ病・うつ状態:1日に30~75mgを初期用量として、1日150mgまで増量し、分割内服します。場合によっては300mgまで増量します。

②夜尿症:1日10~30mgを練る前に内服します。小児の場合は1日量1mg/kg、3回分服を3日間、その後1日1.5mg/kgまで増量します。

③1日10㎎から内服開始し、1日最大150㎎まで増量することもあります。

半減期

約20~40時間

トリプタノール®/アミトリプチリン塩酸塩の特徴

トリプタノール®/アミトリプチリンは、アメリカのメルク社によりジベンゾシクロヘプタジエン系構造を有する三環系抗うつ薬の一つです。

日本では1961年より発売されています。

トリプタノール®/アミトリプチリンはトフラニール®/イミプラミンに比較して、鎮静作用が強く、不安・緊張・焦燥感に強い方に有効です。

その為、神経症や心身症を含め、各種の抑うつ状態に広く用いられます。

ただし、効果も強いですが、副作用も出現しやすいので注意が必要です。

トリプタノール®/アミトリプチリン塩酸塩の薬理作用、薬物動態

Tmax(最高血中濃度到達時間)は約4.5時間で、半減期は約20~40時間です。

トリプタノール®/アミトリプチリンは、セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込みを阻害することにより、シナプス間隙におけるモノアミン濃度を増加させます。

トリプタノール®/アミトリプチリン塩酸塩の適応症に対する効果

鎮静作用が強く、不安・緊張・焦燥感に強い方に有効で、神経症や心身症を含め、各種の抑うつ状態に広く用いられます。

4歳以上の児童にみられる夜尿症で器質的変化によらない機能性の原因によるものが抗うつ薬の治療治療対象になりえます。

慢性疼痛症への鎮痛作用、慢性の頭痛、片頭痛、腰痛、関節痛、糖尿病性の神経痛、三叉神経痛などにも効果が報告されています。

トリプタノール®/アミトリプチリン塩酸塩の意点、副作用

トリプタノール®/アミトリプチリンをはじめとする抗うつ薬において、服用開始後に抗うつ効果を発現する前に副作用が出現することもあります。特に三環系抗うつ薬は抗うつ薬の中で、作用も強いのですが、副作用も出現しやすいお薬です。

低血圧、頻脈、口渇、便秘、排尿困難、めまい、倦怠感、眠気、振戦等が見られやすい副作用です。

また、内服後、不安感や焦燥感、パニック、興奮、不眠、イライラ、攻撃性、衝動性、アカシジア等が見られる場合にはすぐに主治医に相談して下さい。

中枢性の抗コリン作用が強く、高齢者では認知機能の障害やせん妄が起こることがあり、注意が必要です。

また、稀に顔・舌部の浮腫、味覚異常、四肢の知覚異常が出ることがあります。

トリプタノール®/アミトリプチリン塩酸塩の薬物相互作用

トリプタノール®/アミトリプチリン塩酸塩はモノアミン酸化酵素阻害薬との併用は禁忌となっています。

抗コリン作用を有する薬剤と併用すると、それぞれの作用が増強されます。

アドレナリン作動薬、中枢神経抑制薬、全身麻酔薬、キニジン、メチルフェニデート、黄体・卵胞ホルモン製剤、シメチジン、フェノチアジン系薬剤、抗不安薬、飲酒の効果を増強させます。

降圧薬の効果を減弱することがあります。

インスリン製剤、SU剤との併用では過度の低血糖を生じさせることがあり注意が必要です。

バルビツール酸誘導体やフェニトインなどの肝薬物代謝酵素誘導作用を有する薬物はトリプタノール®/アミトリプチリンの作用を低下させることがあります。

まとめ

トリプタノール®/アミトリプチリンは三環系抗うつ薬に分類される抗うつ薬です。

抗うつ作用は強いのですが、副作用も出現しやすく、現在第一選択で使用されることは少なくなっているお薬です。

しかし、有用な場面もあり処方されることもありますので、内服し、副作用が気になるようならすぐに主治医に相談して、効果と副作用のバランスのとれた服薬量を調整してもらうのがいいでしょう。

【三環系抗うつ薬】プロチアデン®/ドスレピン塩酸塩とはどんな薬?

プロチアデン®/ドスレピンを処方された方へ

一般名

ドスレピン塩酸塩 dosulepin hydrochloride

製品名

プロチアデン

剤型

錠 25mg

適応

うつ病・うつ状態

用法・用量

1日75~150mgを2~3回に分けて内服します。増減は可能です。

半減期

約11時間

プロチアデン®/ドスレピンの特徴

プロチアデン®/ドスレピンはSPOFA社において開発されたジベンゾチエピン骨格を有する抗うつ薬です。

各種のタイプのうつ病、うつ状態に対して優れた効果を有します。

また心機能への影響は少なく、比較的安全性が高いお薬です。

ただし、SSRIやSNRIなどの抗うつ薬に比べると、眠気や便秘などの副作用を感じやすい人は多いかもしれません。

プロチアデン®/ドスレピンの薬理作用、薬物動態、適応症に対する効果

Tmax(最高血中濃度到達時間)は約4時間で、半減期は約11時間です。

作用機序は主にモノアミン(セロトニン、ノルエピネフリン、ドパミン)の再取り込み阻害によります。

抗うつ作用はトフラニール®(イミプラミン)より強く、トリプタノール®(アミトリプチリン)より弱いと報告されています。

うつ病、うつ状態に効果的で、優れた抗不安作用も持っています。

プロチアデン®/ドスレピンの意点、副作用

プロチアデン®/ドスレピンをはじめとする抗うつ薬において、服用開始後に抗うつ効果を発現する前に副作用が出現することもあります。

特に三環系抗うつ薬は抗うつ薬の中で、作用が強く、副作用も出現しやすいお薬ですが、プロチアデン®/ドスレピンはその中でも比較的副作用の発生頻度は低い方です。

口渇、めまい、便秘、眠気、不眠、発疹、排尿困難、パーキンソン病様症状、躁転、頻脈、倦怠感などの報告があります。

しかし、抗コリン作用及び、血圧降下などの心循環系への影響はトリプタノール®(アミトリプチリン)より弱いです。

プロチアデン®/ドスレピンの薬物相互作用

抗コリン作用を有する薬剤、アドレナリン作動薬、バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制薬、シメチジン、アルコールと併用すると作用が増強されることがあります。

降圧薬の作用を減弱させることがあります。

まとめ

プロチアデン®/ドスレピンは効果の強いとされる三環系抗うつ薬に分類される抗うつ薬です。

三環系抗うつ薬の中では比較的副作用が軽減しており、抗うつ作用をはじめ、不安への効果も期待できるお薬です。

【抗うつ薬】SSRIは耐性ができるのか?

SSRIは内服し続ければ耐性ができるのか

安定剤や睡眠薬などのベンゾジアゼピン系のお薬について、依存・耐性の問題が取りざたされています。

では抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を長期間内服し続けた場合、耐性が生じるのでしょうか。

薬物耐性とは

まず、ここでいう薬物耐性とは、同じ量の薬物を継続して内服した場合に、経過に伴い徐々にそのお薬の作用が弱くなっていく現象のことです。

お薬の作用には効果(主作用)と副作用があります。

SSRIの副作用として、内服開始時の吐き気がありますが、これは1週間もすれば軽減されることが多く、副作用に関して耐性ができたと表現できます。

では、SSRIの作用である、抗うつ効果、抗不安効果などに耐性は生じるのでしょうか。

SSRIの耐性について

結論から言うと、SSRIの耐性を評価できうる条件がそろいにくいため、十分な検討に至っていません。

SSRIに限らず、抗うつ薬の耐性を証明するためには最低でも以下の条件がそろう必要があります。

1)適切な量の抗うつ薬で、十分な期間維持療法を行い、完全寛解状態にある方が、薬物継続しているにもかかわらず再燃した状態で

2)抗うつ薬の用量を増やす、もしくは他の抗うつ薬に変更することで、再燃したうつ状態が消失し、

3)その寛解状態が長期的に持続する。

しかし、これらの条件がそろうことは難しく、十分な検討がなされておりません。

また、再発が生じやすいうつ病の特性上、お薬への耐性から再燃したのか、耐性とは異なる様々な要因からの再燃、病態の悪化が混在している可能性があり、評価が困難となるのです。

ただし、抗うつ薬の処方継続によって、脳内において、樹状突起にある5-HT1A受容体の感受性低下が推測される研究があり、一部耐性の可能性は示唆されています。

まとめ

SSRIの耐性については、可能性を示唆する研究はありますが、うつ病の再発によるうつ状態の出現と、耐性が生じたことによるうつ状態の出現との区別がつきにくいため、十分な検討が困難なので結論がでていません。

ただし、はっきりしない耐性について不安になるより、安定した状態の維持を優先し、再発予防のための十分量の薬物療法と、精神療法や心理療法、環境調整をしっかり継続することが大切です。

【トリアゾロピリジン系抗うつ薬】デジレル®、レスリン®/トラゾドン塩酸塩とはどんな薬?

デジレル®、レスリン®/トラゾドン塩酸塩を処方された方へ

一般名

トラゾドン塩酸塩  trazodone hydrochloride

製品名

デジレル、レスリン

剤型

錠剤 25mg、50mg

後発品

トラゾドン塩酸塩

適応

うつ病・うつ状態

用法・用量

1日75~100mgを初期用量として1日1~数回で内服します。1日200mgまで増量できます。

半減期

約6~7時間

デジレル®、レスリン®/トラゾドンの特徴

デジレル®、レスリン®/トラゾドンは1971年にイタリアのアンジェリーナ社で開発され、日本では1991年に発売された抗うつ薬です。

トリアゾロピリジン誘導体に属し、従来の三環系・四環系と異なった構造及び薬理作用を示します。

ノルアドレナリンに対するよりも、セロトニン取り込みに対する選択的な阻害作用を有します。

精神賦活作用よりも抗不安・鎮静作用が強く、不安・焦燥、睡眠障害の強いうつ状態に有効です。

抗コリン性の副作用および心循環器への影響が少なく、安全性に優れ、世界では40か国以上で使用されています。

デジレル®、レスリン®/トラゾドンの薬理作用、薬物動態

Tmax(最高血中濃度到達時間)は3~4時間で、半減期は約6~7時間です。

血漿血中濃度は内服を継続して、約2日で定常状態に達します。

長期連続投与においても蓄積性は見られませんでした。

主に小腸から速やかに吸収され、消失も速やかで、約40%が尿中へ排泄され、一部腸肝循環するようです。

セロトニンに対する選択的な取り込み阻害作用および長期投与によるセロトニン・ノルアドレナリン受容体の感受性低下作用によりうつ病、うつ状態を改善させます。

従来の三環系抗うつ薬と異なり、抗レセルピン作用やメタンフェタミン作用増強効果はもちません。

抗コリン作用もほとんど認められていません。

α遮断作用により低用量から血圧を下降させることがありますが、心臓におけるノルアドレナリン取り込み阻害作用はほとんどなく、心機能への影響は少ないお薬です。

その他抗ヒスタミン作用や、セロトニンによる気管支及び腸管の収縮抑制を示します。

デジレル®、レスリン®/トラゾドンは特に抗不安・鎮静作用および睡眠改善作用に優れています。

睡眠脳波では、睡眠率の上昇、睡眠潜時の短縮、REM睡眠潜時の延長、深睡眠の比率の増加を認めます。

デジレル®、レスリン®/トラゾドンの効果

うつ病、うつ状態における臨床試験では、中等度改善の有効率は約52%で、抑うつ気分、不安だけでなく、睡眠障害や身体症状に対しても改善効果がみられます。

3ヶ月以上の長期投与では中等度改善率は約91%と高い結果が見られています。

デジレル®、レスリン®/トラゾドの副作用

眠気約5%、めまい・ふらつき約5%、口渇約4%、便秘約2%等みられたという報告があります。

デジレル®、レスリン®/トラゾドンの薬物相互作用

アルコールや中枢神経抑制薬との併用で相互に作用が増強することがあります。

降圧薬、フェノチアジン系薬剤との併用で血圧低下がみられることがあります。

ワルファリンとの併用でプロトロンビン時間短縮がみられることがあります。

カルバマゼピンとの併用でデジレル®、レスリン®/トラゾドンの作用が減弱する可能性があります。

まとめ

デジレル®、レスリン®/トラゾドンは他の三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬とは全く異なる作用機序で、セロトニン取り込みに対する選択的な阻害作用によって抗うつ効果を発揮する抗うつ薬です。

抗不安・鎮静作用が強く、不安・焦燥、睡眠障害の強いうつ状態に有効であり、睡眠改善に使われることも多いお薬です。