それでは、治療はどうするのでしょう。
精神的な病気の治療について
会社やプライベートで、嫌なことやつらいことがあった場合は、誰でも落ち込みます。嫌なことがあった日は、食事がとれなかったり、眠れなかったりします。しかし、人間の体はもとの状態に戻そうとする力があるので、次の日もしくは数日後には、良くなることも多いでしょう。そのような一時的な落ち込みや不眠、体調不良は厳密には病気ではありません。
「治療しないといけないの?」の項を思い出してください。
まずは病気かどうかを知ること
精神科の病気は、脳内の変化が起きていることが多く、そうなると自力で治すのはなかなか困難です。精神科の病気の場合は症状の増悪に伴って、判断力や問題解決能力も低下するため、一旦悪くなると、休んでいるだけでは改善するのは難しくなります。そのため、早めに受診して、経過をみているだけでいいのか、どういう治療が最適なのか、を知ることが大切です。
病気の場合、病気のタイプを知ること
その症状や状態が、生まれながらにあるものなのか、ストレスなどに反応して突然出現したものか、じわじわ出現したものかによって治療が変わり、尚且つその変化が持続するものなのか、一時的なものなのか、進行していくようなものかで治療が変わってきます。
休養や身近な信頼できる人に相談したり、話をすることで改善することもあります。
但し、風邪をこじらせて肺炎になったり、実は喘息など他の病気だったりすることがあります。つまり、初めの予想していた病気から悪化したり、違う病気だったと分かることがあるのです。そうなった場合は状態の見直しが必要です。
このように、状態から見通しをつけて、治療法を選ぶのです。但し、病気によって、どの治療法を主体にするのかが重要になってきます。休養を主体にしていれば治るタイプもあれば、お薬による治療をしっかりしないと治らず、むしろ悪化するタイプもあります。他にもストレスの対処法や、考え方の工夫をすることが治療の主体になるタイプもあるのです。
治療の選択肢を間違わないこと
これは重要なことですが、治療法が間違えば症状は良くならず、悪化することも多いのです。お薬が主体じゃない病気にお薬を使いすぎると、副作用から症状が悪化しているように見えます。それは症状が悪化した訳ではなく、元の症状に、お薬の副作用という別の問題が生じていることになります。そのような場合は、まずお薬を減らすことが治療の第一段階になります。なので、病気の評価、見通しは非常に大切です。
心療内科、精神科の病気も”風邪”のように受診せずに少し休養したり、ストレス発散することで良くなることもあります。しかし、風邪などの病気などと違う点は、日常の社会生活の中に原因が潜んでいることが多く、何かしらの対策をしないとどんどん状態が悪化していくということです。風邪や細菌が蔓延している空間で風邪を治そうとしても治らないですよね。糖尿病になっているのに気づかず暴飲、暴食を続けていると、受診した時にはすぐ入院が必要となる場合があるように、心療内科、精神科もひどくなれば入院が必要となる場合があります。
そうなる前に、早めに受診をして、今病気の状態かどうか見てもらうことが必要です。
適切な治療のバランスを知る
下の図を見てください。
それぞれの病気、それぞれの個々人によって治療内容が違うのです。
なぜなら、それぞれの個人で、生物学的な脳の変化の度合い、心理学的な影響、個人の特性、ストレスへの対処能力、環境的な要素、影響が大きく違うためです。
例えば①のようなお薬の治療が主体となって、治っていく病気もあれば、②のように考え方の工夫や対処などの認知行動療法や精神療法、カウンセリングが主体となる病気もあります。③のように生活の中の環境的なストレス要素が多い場合は、環境調整が症状の改善に大きく影響することもあります。
薬物療法が主体とならない人が、お薬をいくら増やしても治らないでしょうし。逆にお薬が必要な人が、お薬が嫌いで、考え方の工夫や、カウンセリングだけで頑張っても、良くなりきれないこともあります。
それと大切なことですが、治療の経過の中で、それぞれの役割の度合いが変わってきます。どういうことかというと、最初はお薬の力をかりて、症状を軽減させることが主体であっても、次第にストレス対処能力やストレス耐性が向上してくるとお薬に頼る部分が減らせることがあるということです。
自分自身の症状、性格傾向、思考の癖、生活環境等を把握してもらい、自分に適切な治療方向性を示してくれる、相性のあった主治医が見つかることは治療において非常に重要かつ幸運なことなのです。
では、タイプごとにどのような治療になるか、おおまかに見ておきましょう。
病気のタイプ別の治療の選択肢
①持続タイプ
持続タイプとは、生まれながらに持っている特性、もしくは成長過程で形成、強化された性格傾向など、特性や性格傾向が生活のしにくさ、生きづらさに影響しているような疾患があてはまります。
例えば、発達障害、アスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害(ADHD)、精神遅滞などや、情緒不安定性パーソナリティ障害、回避性パーソナリティ障害などが当てはまります。
治療としてはカウンセリング、認知行動療法など、お薬を使わない治療が主体となります。注意欠陥多動性障害(ADHD)など特定の病気に対してはお薬の治療も大きな役割を果たすことがありますが、基本的には自分のことを理解すること、生活の工夫、ストレス対処のスキルを上げることが治療の主体になります。
②一過性、反復性タイプ
一過性、反復性タイプとは大きなストレスの後や特に誘因がなくても、一過性もしくは反復性に病気の状態が出現しますが、その状態以外の時は概ね普通の状態で過ごせるというタイプです。
例えば、適応障害、うつ状態、パニック障害、急性一過性精神病性障害などです。
症状がひどいときには、しっかりとした休養と薬物療法を主体とします。しかし、症状が改善してきたら、薬物療法は維持したまま、カウンセリング、認知行動療法などの精神療法を平行して行っていきます。お薬とお薬以外の治療が半々くらいになり、長期的にはお薬以外の治療を主体として、お薬を減らしていく方向となります。
③進行、変動タイプ
進行、変動タイプとは病気を発症した場合、その後症状が進行したり、変動して持続するタイプの病気です。
例えば、統合失調症、躁うつ病、強迫性障害、社交不安障害、妄想性障害などです。
進行、変動タイプにおいてはお薬が主体となり、お薬も長期的に内服していく必要があることが多いです。特に統合失調症などの病気は長期的にお薬が必要であり、内服タイプだけじゃなく、月1回注射するタイプなど薬も工夫がなされています。
それぞれのタイプの中の病気でも、また同じ病気でも状態、時期で主体にする治療方法が変わるため、大まかな見通しとして理解するようにして下さい。
病気のタイプが2種類以上重複することがある。
また、それぞれのタイプの病気が複合的に存在することがあります。その時はまず、一過性タイプの治療を行いながら、併存している病気のタイプを評価して、他のタイプの病気にも治療を開始します。
例えば発達障害にうつ状態が合併している場合、うつ状態をある程度改善させてから発達障害の評価、治療アプローチを開始します。うつ状態では、病状から様々な能力が低下し、考え方も変わってしまっているため、本来の状態の評価ができないからです。高齢の方で物忘れがひどくなり、認知症と思っていたが、実際はうつ病で、治療により物忘れがなくなったということはしばしばあります。
治療には段階がある。
例えば、骨折したらまず骨がつくまで休養して、そのあと少しずつ負荷をかけてリハビリします。
それと同じように心療内科、精神科の病気にも、治療に段階があります。休養がひつようなのか、どのくらいひつようなのか、次のステップはどうすればいいのか。負荷(ストレス)はどの状態からかけていいのか、などなど、症状や経過によって治療が変わってくるのが一般的です。ただし、それぞれのタイプで治療の進め方がが違ってきます。同じく薬をずっと飲み続けるのではなく、治療のゴールを主治医と共有しておくのが大切です。そのゴールも病気のタイプやそれぞれ個々の状況によってかわってきますので、信頼できる主治医と相談していくのがとても大切です。