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【睡眠薬】ベルソムラ®/スボレキサントとはどんな薬【オレキシン受容体拮抗薬】

ベルソムラ®/スボレキサントを処方された方へ

一般名

スボレキサント suvorexant

製品名

ベルソムラ

剤型

錠剤 10mg、15mg、20㎎

適応

不眠症

用法・用量

成人には1日1回20㎎を、高齢者には1日1回15㎎を就寝直前に内服します。

1日1回10㎎での使用は、中等度のCYP3A阻害剤との併用時のみ考慮するものとなっています。

使用上の注意(併用注意)

CYP3Aを阻害する薬剤(ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾール等)との併用により、スボレキサントの血中濃度が上昇し、傾眠、疲労、入眠時麻痺、睡眠時随伴症、夢遊病等の副作用が増強される恐れがあるとのことです。

半減期

約10時間

ベルソムラ®/スボレキサントの特徴

2014年に発売され、睡眠薬に分類されますが、これまでの睡眠薬とは全く違う、オレキシン受容体拮抗作用という新しい作用機序を持った睡眠薬です。

不眠症診断において、2014年に睡眠障害国際分類(ICSD)が改訂され、これまでの原発性、二次性で分類するという考え方が見直され、種々の疾患に併存する不眠症として診断されるようになりました。

不眠症の診断カテゴリーも簡素化され、慢性不眠障害(週3回以上3ヶ月以上)、短期不眠障害(3ヶ月未満)、その他の不眠障害の3分類になりました。

不眠症の診断、治療も見直される中で、新しい作用機序を持つベルソムラ®/スボレキサントはどんな特徴で、その特徴をどうのように活用できるでしょうか。

・高齢者にも適している

反跳性不眠、認知機能への悪影響、ふらつき、持ち越し症状、退薬症状のリスクが少ないため、高齢者にも使いやすく適しています。

・自然な入眠感覚

入眠させる力はしっかり持っていますが、眠気は徐々に自然に生じ、お薬で眠らされるというより、自然眠りに近い入眠感覚で効果を得ます。

逆にこれまで、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬などほかの睡眠薬を服薬されていた方には、眠くなるまでに時間がかかるように感じるかもしれません。

・睡眠を維持する力があり、睡眠覚醒リズムを改善する

総睡眠時間の延長、中途覚醒の減少作用があり、睡眠覚醒のリズムを改善します。

・いずれお薬をなくしたい場合に中止しやすい

速やかに強い眠気をもたらすベンゾジアゼピン系の睡眠薬と違い、自然な眠りに近く、反跳性の不眠も出現しにくく、依存が生じにくく、中止しやすいため、減薬中止を目指した調整がしやすいお薬です。

ベルソムラ®/スボレキサントの薬理作用

オレキシン受容体拮抗作用にて、睡眠を改善させます。

オレキシンは、食欲の制御、睡眠と覚醒の制御、自律神経系の制御、内分泌系の調整、報酬系への関与など、さまざまな生理機能に関わっています。

オレキシンの生産量は日内変動を示し、夜行性動物であれば夜間に、昼行性動物であれば日中の活動期にオレキシン量が高まります。

つまり、ベルソムラ®/スボレキサントはオレキシンの受容体に働き、夜間のオレキシンの作用を調整することで、不眠を改善させます。

ベルソムラ®/スボレキサントの副作用

傾眠が約5%、頭痛が約4%、疲労が約2%の報告があります。

まとめ

ベルソムラ®/スボレキサントはオレキシン受容体拮抗作用という新しい作用機序をもった睡眠薬です。

反跳性不眠や認知機能への悪影響や副作用、退薬症状が少なく、依存のリスクも低く、やめやすいという特徴を持っています。

不眠の原因を整理して、基礎疾患や睡眠衛生環境を調整したうえで、まずは4~5週ほど睡眠薬を使用し、症状が改善したら、減薬中止するという治療をしてみて下さい。

他の睡眠薬から切り替える際は、反跳性不眠(お薬をやめることで強まる不眠)の予防に気を付ける必要があります。

【依存】安定剤、睡眠薬、このまま続けていいの?【耐性】

安定剤や睡眠薬の依存や耐性、長期使用について

日本は諸外国と比べて安定剤、睡眠薬を多く使っている

現在日本で処方される安定剤、睡眠薬の多くはベンゾジアゼピン系薬剤という分類に含まれます。

国際麻薬統制委員会という機関が、各国の人口あたりの服薬量を単位化し、比較したデータがあります。

そのデータによると、国民一人当たりのベンゾジアゼピン系睡眠薬の服薬量の多さを比較した場合、ここ数年でも日本は世界で3位以内に入ります。

健康保険の制度の違いはあれど、それだけ日本は安定剤や睡眠薬が使われているという事実はあります。

 

ベンゾジアゼピン系薬剤とは

ベンゾジアゼピンは分子構造からその名称を得ています。

ベンゾジアゼピン受容体と称される受容体において共通の作用を有しており、それを介してγアミノ酪酸(GABA)の作用を調整します。

ベンゾジアゼピン系薬剤の作用

ベンゾジアゼピン系薬剤は急速な抗不安、鎮静作用をももつので、通常は、不眠、急性期の不安、他の精神疾患による興奮や不安の緊急治療に最もよく用いられます。さらに、麻酔薬、抗けいれん薬、筋弛緩薬としても用いられます。

このように、ベンゾジアゼピン系薬剤は医療において必要なお薬なのです。

しかしながら、精神依存と身体依存のリスクがあり、長期使用は、精神療法と並行して行い、代替薬が試され、無効であることが証明されるか、耐容性がきわめて低かった(副作用等で他の薬剤が継続できないなど)場合に行うことになっています。

処方できる薬剤の種類が日本だけ極端に少ないことはないので、日本で処方量が多いのは、処方する医師の意識の問題は少なからず影響していると思われます。

 

ベンゾジアゼピン系薬剤一覧

ベンゾジアゼピン系抗不安薬(商品名:50音順)

アルプラゾラム、コントール、エチゾラム、エリスパン、オキサゾラム、クロチアゼパム、クロルジアゼポキシド、コレミナール、コンスタン、ジアゼパム、ジアパックス、ジメトックス、セニラン、セパゾン、セルシン、セレナール、セレナミン、ソラナックス、デパス、デゾラム、バランス、ホリゾン、メイラックス、メダゼパム、メレックス、メンドン、ランドセン、リーゼ、リボトリール、レキソタン、レスタス、レスミット、ロフラぜプ酸エチル、ロラゼパム、ワイパックス

ベンゾジアゼピン系睡眠薬(商品名:50音順)

エスタゾラム、エバミール、塩酸リルマザホン、クアゼパム、グッドミン、サイレース、ソメリン、ソレントミン、ダルメート、ドラール、トリアゾラム、ニトラゼパム、ネストローム、ネルボン、ノクスタール、ハルシオン、ハルラック、フルニトラゼパム、ブロチゾラム、ベンザリン、ユーロジン、リスミー、レンドルミン、ロヒプノール、ロラメット

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(商品名:50音順)

アモバン、アモバンテス、ゾピクロン、ゾルピデム酒石酸塩、ドパリール、ルネスタ、マイスリー

(非ベンゾジアゼピン系睡眠薬はベンゾジアゼピン系薬剤でありませんが、臨床効果がベンゾジアゼピン受容体と一体化しているGABA受容体複合体の結合ドメインとの相互作用により生じ、ベンゾジアゼピンと同じような鎮静作用を選択的に有しています。なお、ベンゾジアゼピン系薬剤に比べ、筋弛緩、抗けいれん作用が比較的弱く、耐性の発現や、反跳性の不眠を起こしにくい特徴を有しています。)

 

ベンゾジアゼピン系の治療適応

不眠

身体疾患によっても精神疾患によっても不眠はおきますが、大切なのは不眠の原因を徹底的に追及して、必要最小限の使用にとどめておくということです。ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、それぞれ半減期が異なるため、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などのどの睡眠障害かを判別したうえで、薬物を選択することになります。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬や、耐性がほぼ生じないメラトニン受容体作動薬(ロゼレム)、オレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ)から使用する選択肢もあります。

不安障害関連(全般性不安障害、パニック障害、社会恐怖)

ベンゾジアゼピン系薬剤は、不安障害に関連した不安の除去に効果的です。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)も治療選択肢になりますが、ベンゾジアゼピン系薬剤は、即効性と、明らかな性機能障害や体重増加が起きないという副作用の点では優れています。ベンゾジアゼピン系薬剤とSSRIを併用して、急性期の症状を改善させ、ベンゾジアゼピン系薬剤は減量・中止していく意識を持つことが大切です。但し、再発のリスクが高く、慢性化するような状態には長期に維持が必要となる場合もあるので、使用量や種類の調整を主治医としっかり相談して行っていく必要があります。

その他多くの精神疾患

その他、適応障害、神経症、身体表現性障害、うつ病、双極性感情障害、統合失調症など、様々な精神疾患に対して、抗不安、抗不眠、鎮静目的などで使用されます。

 

注意点と有害作用

ベンゾジアゼピン系薬剤で最も頻度が高い有害作用は眠気で、約10%ほどみられます。服用期間中は自動車の運転や危険な機械の使用は制限されます。

また、めまい、ふらつきも出現しやすく、特に高齢者においては転倒の原因になります。アルコールの併用により、有害作用が増加し、著しい眠気や脱抑制、そして時には呼吸抑制も起こしえます。

時には作業能率、集中力の低下につながるような認知障害を起こすこともあります。ベンゾジアゼピン系睡眠薬を内服した後にその後の記憶がなくなる前向健忘が出現することがあります。

耐性、依存性、離脱

ベンゾジアゼピン系薬剤を、中等量で1~2週間使用する場合は重篤な耐性、依存性、離脱症状は一般的には出現することはありません。

ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症候群の出現は、使用期間、投与量、減量の割合、半減期などによって変わってきます。

ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状

ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状としては、不安、神経質、発汗ん、落ち着きのなさ、易刺激性、疲労感、ふらつき、振戦、不眠、脱力感、などがみられます。

特に、半減期の短いベンゾジアゼピン系薬剤を突然中止すると、離脱症状が生じやすくなります。

重篤な症状になると、うつ状態、妄想、せん妄、けいれんが起こることがあります。ただし、重篤な症状は、高用量で長期間使用していた場合に見られることがあり、頻度は多くはありません。

 

ベンゾジアゼピン系薬剤の中止の仕方

投与を中止する際には1週間で25%ずつのゆっくりとした減量が必要です。急な減量や中止は、症状の再発や反跳が起こりやすく、離脱症状が起こることがあります。

 

まとめ

ベンゾジアゼピン系薬剤は治療において、非常に効果的で有効な場面が多く、臨床においては必要なお薬である一方で、長期使用による、依存・耐性を意識して減量中止できる場合はしっかり減量中止していくということが大切です。

不眠症治療。睡眠薬を飲む前に!

不眠症とは

不眠症とは、睡眠の質および、または量が不十分な状態が長時間持続しているものと定義されます。

ちなみに、不眠の診断をする際は、通常正常と考えられる睡眠量から実際どのくらい偏っているかを第一義的に考慮しません。すなわち、不眠は睡眠時間だけで定義されるわけではありません。例えば日常の平均睡眠時間が6時間未満でも不眠を訴えない短時間睡眠者は、4時間睡眠でも日常生活に問題がなければ不眠症にはなりません。逆に日常平均睡眠時間が8時間必要なロングスリーパーは6時間睡眠をしていても不眠症になることがあります。

不眠症の原因

慢性不眠の成り立ちは、3つの因子が背景にあります。

準備因子、結実因子、永続化因子です。

1)準備因子

不眠症の人はもともと不眠をきたしやすい素質をもっています。

些細な出来事や、環境の影響で眠りが悪くなりやすいということです。

これが「準備因子」です。

2)結実因子

一時的なストレス、例えばけがや病気による短期間の入院、受験勉強、経済的な不安などの出来事にさらされると、睡眠が妨げられるのは当然のことですが、このような不眠の契機となる出来事が「結実因子」です。

二次性不眠の5大結実因子

生理学的要因:環境、時差、夜勤、交代勤務など

身体的要因:疼痛、かゆみ、咳、頻尿など

薬理学的要因:薬剤、アルコールなど

心理学的要因:ストレスなど

精神医学的要因:うつ病、不安性障害など

3)永続化因子

普通であれば、ストレスの消失ともに不眠も改善します。

しかし、不眠症の方の場合にはストレスと不眠が持続している間に、「永続化因子」が働いてストレスが去った後も、不眠が長引いてしまいます。

不眠を長引かせる原因、すなわち「永続化因子」は“身体化された緊張”と“学習された睡眠妨害的連想”という2つの要因の相互結果なのです。

不眠症状の初期評価

不眠についてまずは、その症状構造(入眠困難、中途覚醒、熟眠障害、早朝覚醒)とともに、その日中機能への影響(倦怠感、注意集中力の低下など)を把握する必要があります。

逆説的不眠症に注意する

逆説的不眠症とは自分の睡眠を過小評価(誤認)し、一定量以上の睡眠をとっていることが理解できず、眠れないと思い込み、「ほとんど一睡もできない」と考えます。

逆説的不眠症の方は夜間不眠の自覚的な重症感の割に日中機能への影響は少ないことが特徴です。

家族やパートナーから客観的情報を得ないと、治療が誤った方向に行く可能性があります。

ただし、不眠症の長期化、夜間症状の悪化から逆説的不眠症様のパターンを生じてくる場合もあります。

不眠症の鑑別

治療のためには不眠の鑑別診断、タイプ分けが必要です。

環境因による不眠

生活習慣などの睡眠環境に問題がある場合です。

身体因による不眠

痛みや痒みなどによる身体疾患による睡眠妨害がある場合です。

薬剤性不眠

睡眠を障害する可能性のある薬剤を服用している場合です。

睡眠時無呼吸症候群

頻回の中途覚醒、あるいは過眠、睡眠中の窒素感、呼吸停止により中断するいびきがある場合などです。睡眠専門医療機関での終夜睡眠ポリグラフ検査が必要です。

レストレスレッグス症候群

入眠障害、就床時下肢の異常感覚がある場合考えられます。足のむずむず感が目立ちます。

動かさないと気が済まない感じ、安静時に悪化し、運動にて改善し、夜に症状が悪化することが特徴です。

周期性四肢運動障害

入眠障害、さらに中途覚醒、睡眠時の下肢不随意運動の自覚、睡眠中の体動の増加がみられます。

概日リズム睡眠障害、睡眠相後退型

著しい入眠障害と起床困難が目立ちます。睡眠相が後退してしまい、睡眠相が朝方にずれてしまします。

うつ病

中途覚醒、早朝覚醒、抑うつ気分、興味喪失などのうつ症状が目立ち、睡眠薬に反応が乏しく、6か月以上続くことが見られます。

概日リズム睡眠障害、睡眠相前進型(高齢者の早朝覚醒)

早朝覚醒、夕方からの眠気がみられます。高齢者の睡眠相の乱れで多く見られます。

中途覚醒型不眠症

中途覚醒だけが目立ちます。

入眠障害型不眠症、精神生理性不眠

他の疾患が除外されて、残るのが神経質傾向と、過覚醒傾向を主たる特徴とする不眠症の中核群です。入眠障害が目立ちます。

治療選択について

不眠治療の第一歩は、睡眠に関する適切な知識を備え、環境要因や生活習慣を整える必要があります。

不眠症治療のための心得

定期的な運動をする。

なるべく定期的にうんどうしましょう。適度な有酸素運動が効果的です。入眠困難、熟眠障害を改善させます。

寝室環境を整える

快適な就床環境にすることで、夜中の目覚めが減らせます。音対策のために絨毯を敷く、ドアもきっちり閉める、遮光カーテンをつけるなどの対策も有効です。また、寝室の温度、湿度を快適に保ちましょう。

規則正しい食生活

規則正しい食生活をして、空腹のまま寝ないようにしましょう。空腹で寝ると睡眠は妨げられます。睡眠前に軽食(適切量の炭水化物)を取ると睡眠の助けになります。逆に食べ過ぎたり、脂っこいもの、胃もたれする食べ物は避けましょう。

就寝前の水分

就寝前に水分を取りすぎないようにしましょう。夜中のトイレの回数が減ります。

但し、脳梗塞や狭心症などの病気を持っている人は主治医の指示に従って下さい。

就寝前のカフェイン

就寝の4時間前からはカフェインの入ったものはとらないようにしましょう。日中摂取しすぎていても影響がある場合があるので、摂取量を減らしてみてはいかがでしょうか。カフェインの入った飲料や食べ物(日本茶、コーヒー、紅茶、コーラ、チョコレートなど)を取ると、寝付きにくかったり、夜中に目が覚めやすくなったり、睡眠が浅くなります。

就寝前の飲酒

眠るための飲酒は逆効果です。アルコールを飲むと一時的に寝つきが良くなりますが、徐々に効果は弱まり、夜中に目が覚めやすくなります。深い眠りも減ります。

就寝前の喫煙

就寝前は喫煙を避けましょう。ニコチンには神経刺激作用があります。

寝床での考え事

昼間の悩みを寝床にもっていかないようにしましょう。悩み事をしたり、翌日の行動について計画するのは、翌日にしましょう。不安のある状態では、寝付くのが難しくなり、眠りも浅くなります。

薬物療法

比較的血中半減期の短いZ-drug(マイスリーやルネスタ)が第一選択になるでしょう。

睡眠相後退概日リズム睡眠障害などにはロゼレム(ramelteon)が有用でしょう。

また、これまでにない視床下部を中心とした覚醒促進系神経のオレキシン受容体へのアンタゴニストとして世界で初めて睡眠薬として適応取得したベルソムラ(suvorexant)が今後重要な選択肢になるでしょう。

 

不眠症治療のための認知行動療法

身体化された緊張と学習された睡眠妨害的連想の相互強化の解消を目指す治療法です。

別項目で詳しく説明します。