不眠症とは
不眠症とは、睡眠の質および、または量が不十分な状態が長時間持続しているものと定義されます。
ちなみに、不眠の診断をする際は、通常正常と考えられる睡眠量から実際どのくらい偏っているかを第一義的に考慮しません。すなわち、不眠は睡眠時間だけで定義されるわけではありません。例えば日常の平均睡眠時間が6時間未満でも不眠を訴えない短時間睡眠者は、4時間睡眠でも日常生活に問題がなければ不眠症にはなりません。逆に日常平均睡眠時間が8時間必要なロングスリーパーは6時間睡眠をしていても不眠症になることがあります。
不眠症の原因
慢性不眠の成り立ちは、3つの因子が背景にあります。
準備因子、結実因子、永続化因子です。
1)準備因子
不眠症の人はもともと不眠をきたしやすい素質をもっています。
些細な出来事や、環境の影響で眠りが悪くなりやすいということです。
これが「準備因子」です。
2)結実因子
一時的なストレス、例えばけがや病気による短期間の入院、受験勉強、経済的な不安などの出来事にさらされると、睡眠が妨げられるのは当然のことですが、このような不眠の契機となる出来事が「結実因子」です。
二次性不眠の5大結実因子
生理学的要因:環境、時差、夜勤、交代勤務など
身体的要因:疼痛、かゆみ、咳、頻尿など
薬理学的要因:薬剤、アルコールなど
心理学的要因:ストレスなど
精神医学的要因:うつ病、不安性障害など
3)永続化因子
普通であれば、ストレスの消失ともに不眠も改善します。
しかし、不眠症の方の場合にはストレスと不眠が持続している間に、「永続化因子」が働いてストレスが去った後も、不眠が長引いてしまいます。
不眠を長引かせる原因、すなわち「永続化因子」は“身体化された緊張”と“学習された睡眠妨害的連想”という2つの要因の相互結果なのです。
不眠症状の初期評価
不眠についてまずは、その症状構造(入眠困難、中途覚醒、熟眠障害、早朝覚醒)とともに、その日中機能への影響(倦怠感、注意集中力の低下など)を把握する必要があります。
逆説的不眠症に注意する
逆説的不眠症とは自分の睡眠を過小評価(誤認)し、一定量以上の睡眠をとっていることが理解できず、眠れないと思い込み、「ほとんど一睡もできない」と考えます。
逆説的不眠症の方は夜間不眠の自覚的な重症感の割に日中機能への影響は少ないことが特徴です。
家族やパートナーから客観的情報を得ないと、治療が誤った方向に行く可能性があります。
ただし、不眠症の長期化、夜間症状の悪化から逆説的不眠症様のパターンを生じてくる場合もあります。
不眠症の鑑別
治療のためには不眠の鑑別診断、タイプ分けが必要です。
環境因による不眠
生活習慣などの睡眠環境に問題がある場合です。
身体因による不眠
痛みや痒みなどによる身体疾患による睡眠妨害がある場合です。
薬剤性不眠
睡眠を障害する可能性のある薬剤を服用している場合です。
睡眠時無呼吸症候群
頻回の中途覚醒、あるいは過眠、睡眠中の窒素感、呼吸停止により中断するいびきがある場合などです。睡眠専門医療機関での終夜睡眠ポリグラフ検査が必要です。
レストレスレッグス症候群
入眠障害、就床時下肢の異常感覚がある場合考えられます。足のむずむず感が目立ちます。
動かさないと気が済まない感じ、安静時に悪化し、運動にて改善し、夜に症状が悪化することが特徴です。
周期性四肢運動障害
入眠障害、さらに中途覚醒、睡眠時の下肢不随意運動の自覚、睡眠中の体動の増加がみられます。
概日リズム睡眠障害、睡眠相後退型
著しい入眠障害と起床困難が目立ちます。睡眠相が後退してしまい、睡眠相が朝方にずれてしまします。
うつ病
中途覚醒、早朝覚醒、抑うつ気分、興味喪失などのうつ症状が目立ち、睡眠薬に反応が乏しく、6か月以上続くことが見られます。
概日リズム睡眠障害、睡眠相前進型(高齢者の早朝覚醒)
早朝覚醒、夕方からの眠気がみられます。高齢者の睡眠相の乱れで多く見られます。
中途覚醒型不眠症
中途覚醒だけが目立ちます。
入眠障害型不眠症、精神生理性不眠
他の疾患が除外されて、残るのが神経質傾向と、過覚醒傾向を主たる特徴とする不眠症の中核群です。入眠障害が目立ちます。
治療選択について
不眠治療の第一歩は、睡眠に関する適切な知識を備え、環境要因や生活習慣を整える必要があります。
不眠症治療のための心得
定期的な運動をする。
なるべく定期的にうんどうしましょう。適度な有酸素運動が効果的です。入眠困難、熟眠障害を改善させます。
寝室環境を整える
快適な就床環境にすることで、夜中の目覚めが減らせます。音対策のために絨毯を敷く、ドアもきっちり閉める、遮光カーテンをつけるなどの対策も有効です。また、寝室の温度、湿度を快適に保ちましょう。
規則正しい食生活
規則正しい食生活をして、空腹のまま寝ないようにしましょう。空腹で寝ると睡眠は妨げられます。睡眠前に軽食(適切量の炭水化物)を取ると睡眠の助けになります。逆に食べ過ぎたり、脂っこいもの、胃もたれする食べ物は避けましょう。
就寝前の水分
就寝前に水分を取りすぎないようにしましょう。夜中のトイレの回数が減ります。
但し、脳梗塞や狭心症などの病気を持っている人は主治医の指示に従って下さい。
就寝前のカフェイン
就寝の4時間前からはカフェインの入ったものはとらないようにしましょう。日中摂取しすぎていても影響がある場合があるので、摂取量を減らしてみてはいかがでしょうか。カフェインの入った飲料や食べ物(日本茶、コーヒー、紅茶、コーラ、チョコレートなど)を取ると、寝付きにくかったり、夜中に目が覚めやすくなったり、睡眠が浅くなります。
就寝前の飲酒
眠るための飲酒は逆効果です。アルコールを飲むと一時的に寝つきが良くなりますが、徐々に効果は弱まり、夜中に目が覚めやすくなります。深い眠りも減ります。
就寝前の喫煙
就寝前は喫煙を避けましょう。ニコチンには神経刺激作用があります。
寝床での考え事
昼間の悩みを寝床にもっていかないようにしましょう。悩み事をしたり、翌日の行動について計画するのは、翌日にしましょう。不安のある状態では、寝付くのが難しくなり、眠りも浅くなります。
薬物療法
比較的血中半減期の短いZ-drug(マイスリーやルネスタ)が第一選択になるでしょう。
睡眠相後退概日リズム睡眠障害などにはロゼレム(ramelteon)が有用でしょう。
また、これまでにない視床下部を中心とした覚醒促進系神経のオレキシン受容体へのアンタゴニストとして世界で初めて睡眠薬として適応取得したベルソムラ(suvorexant)が今後重要な選択肢になるでしょう。
不眠症治療のための認知行動療法
身体化された緊張と学習された睡眠妨害的連想の相互強化の解消を目指す治療法です。
別項目で詳しく説明します。