「摂食障害の認知行動療法」カテゴリーアーカイブ

摂食障害の治療【認知行動療法⑥】

摂食障害の治療【認知行動療法⑥】

第3段階の治療

第3段階の治療目標は今までの治療により得られた改善の維持と、将来の再発する可能性に対処するための準備をすることです。

1)改善の維持

これまでの治療で学んだ技能を繰り返し使います。

規則正しい食習慣を続け、過食や嘔吐をしない状態を持続させ、問題解決訓練法や認知再構成法を自ら実施します。

食生活日誌は摂食行動に対して完全にコントロールできるまで続けます。

そして、空腹感、満腹感が回復し、これによって食行動をコントロールし、決してダイエットをしない状態になれば中止します。

2)将来、問題に直面した時の準備

ストレス下において過食が再発しても、それに対処する技能を学習してきたのであり、いつでもその技能を有している。したがって将来過食を生じても、今まで学んできた技能を駆使し、翌日から正常な食生活に戻れば再発ではないとことを理解しましょう。

再発とは翌日からまた毎日連続して過食して嘔吐する生活のことです。

また過食を生じた時、なぜ生じたのか、如何に防げたのかを考えさせることが、将来の再発を防ぐことにもなります。

過食再発防止対策として、再発の危険性がある時または摂食行動が悪化しそうな場合、再発に関係している事柄を見つけ、それを解決するように具体的な計画を立て、これを実施しましょう。

摂食障害の治療【認知行動療法⑤】

摂食障害の治療【認知行動療法⑤】

第2段階の治療

第1段階の治療をしながら第2段階の治療を挿入していきます。

第2段階の治療には具体的には以下のような治療を行います。

①問題解決訓練法

過食は不愉快な出来事や抑うつ気分が引き金になることが多いため、過食になるような状況や契機を明らかにし、これに対処する技能を高める必要があります。

これには問題解決訓練法が有用です。この技能を用いて問題が解決されるようになると、以前過食に導いた出来事が過食しないですむことになります。

問題解決訓練法

1.過食に導いた出来事を取り出してください

例えば、母親と口論したとか

2.解決方法をできるだけ多く列挙してください

例えば、なぜ口論したのか。母親が悪いからか

何が悪かったのか、自分の考えを主張できたのか

そこに居合わせなかったほうがよかったのか

話題をかえられなかったのか

他のことをすればよかったのか

3.それぞれの問題について、その実行可能性、現実性という点で検討してください

4.最上の方法を選んでください

5.具体的な各段階を検討してください

6.これを実行してください

7.実行した全経過を10点満点で評価してください

過食になる時のきっかけになるような出来事や不快な感情を列挙してください

その1つを取り上げて、問題解決を検討していきましょう

そしてこの問題解決法をできるだけ多く使うようにしましょう

②認知再構成法

異常な摂食行動に導いている体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(肥満恐怖、やせ願望、やせていることは美しいなど)や摂食障害を持続させている思考、信念、信条(完全主義的傾向、二分割思考など)を明らかにし、これを変えていくことです。

1)歪んだ自動思考について

日常生活で過食したい衝動に駆られた時、食事を抜こうとしたとき、食事した時、体重測定の時、容姿について何か言われたときに生じた考えを記録してください。(認知療法トリプルカラム法でも良いです:トリプルカラム法

このようにして患者の歪んだ自動思考を意識化します。

例えば「私は食べ物に対する自制心を失っている。一度食べ出すと止まらない。もうどうでもよいとあきらめる。すぐに吐いてしまわないと太る。」などは摂食障害患者によくみられる自動思考です。

その他「私は太っている。体重を減らさねばならない。ダイエットしなければならない。また同じことをしてしまった。明日から過食を止めよう」なども多く認められます。

1-a)自動思考の意味の明確化

例えば「私が太っている」というのは、体重が重いことなのか、他人の目からみて太っているということなのか、などについて明らかにします。

1-b)その自動思考の妥当性を支持している根拠

例えば体重が少し増加して肥満したと考える場合、過去に体重増加により肥満したことがあることなどが支持する根拠となります。

1-c)その自動思考の妥当性を疑わせる根拠

体重が少し増加したのを太っていると思う場合、実際は少し増えただけで、肥満ではないことが反証となります。

この中で患者の二分割思考、選択的抽出、過度の一般化など、認知の歪みが明らかとなります。

1-d)自動思考に代わる現実的で妥当な結論を得る

現実場面で、今までの経過により得られた結論が、有効に機能することを確認すします。

2)歪んだ信念や価値観について

「やせは美しい、成功を意味する」「太ることは醜い、失敗を意味する」などに対してその意味を明確化して、その妥当性を支持する場合、疑わせる場合の真実と論拠を整理し、その信念や価値観を有している時の利害得失を考えさせ、妥当な結論を引き出します。

これらはスリムを礼賛する社会的風潮下ではなかなか変わり難いものがあります。

しかし繰り返して少しでも和らげることが肝要です。

事項はこちらです。→摂食障害の治療【認知行動療法⑥】

摂食障害の治療【認知行動療法④】

摂食障害の治療【認知行動療法④】

毎回、摂食行動と毎日の課題の達成具合を食生活日誌で吟味します。

できないことが生じれば、それについて議論し、新しい戦略を明らかにしていき、時間単位で改めていきます。

日々の成功については小さなことでも自分自身で誉めましょう。

そして失敗から学び更なる前進をするように激励します。

過食や嘔吐の意味の吟味をする

過食の回数が減り間歇的になれば、過食を持続させる要因について明らかにしていきます。

過食が必ずしも悪い面ばかりもっているのではないのです。

それは嫌な考え方の中断、抑うつ気分の一時的解消、時間つぶし、睡眠導入、激しい摂食制限の一時中断、または自分を罰するためにとか、助けようとする人たちを困らせるために役立っています。

これらが過食のプラス面で過食を持続させてしまいます。

一方、嘔吐は過食後の腹部膨満を解消したり、食物の吸収を減らすために行われます。

また少数の人にとっては緊張やストレスの緩和になることがあります。

なぜ過食や嘔吐をするのか、自ら分かるように努めましょう。

またこれらをうまく妨げた時、その方法を食生活日誌に書きましょう。

家族の協力を得る

家族(親や配偶者)に本人の摂食行動という秘密を家族に明らかにさせ、治療内容をオープンにしましょう。

これは秘密にしているとか、欺いていることに伴う罪の意識を減少させてくれます。

家族の協力は本人自身が食生活の改善に向かって努力できる環境を作ることですが、家族を過度に巻き込まないように注意しましょう。あくまでも本人自らが変わらなければならないのです。

以上第1段階の治療になります。

第1段階の治療でうまくいかない場合、例えば過食の頻度は減少しているが、1日1回はしているなどの状態であっても、治療開始時より過食と嘔吐の回数の減少が持続している場合は第2段階の治療も導入します。

第2段階の体型や体重に対する認知の歪みを改める治療を適宜挿入し、第1段階の治療も継続します。

そして本人の日常生活に支障をきたさない程度に減少するまで継続します。

この関わりは数か月~数年に及ぶことも少なくありません。

この間、本人の試行錯誤を許容し、心の発達と成長を温かく見守ってもらえる環境が必要です。

事項はこちらです。→摂食障害の治療【認知行動療法⑤】

摂食障害の治療【認知行動療法③】

摂食障害の治療【認知行動療法③】

食生活日誌を吟味します。

昼食をとばした理由などを詳しく聞いたり、過食を生じた時の情況の記録を見ながら、さらに詳しく振り返ります。

食生活日誌が後日書かず、その直後に正確に書かれることが大切です。食後に正確に記載していきましょう。

小さな達成(成功)を誉める

課題(例えば3回の食事を規則正しくとり、過食を1日2回から1回に減らすなど)をどの程度実施できたかについて食生活日誌にて検討します。

そして1週間に1日でもそれが達成できていれば賞賛しましょう。

この積み重ねが本人の無能感の改善につながります。

毎日の課題達成度を10点満点で評価しましょう。

これは本人の「全か無か」思考を打破するのにも良いでしょう。

というのは本人は1回過食したら2回も3回も同じだと考える傾向があります。

しかし1回でも過食を減らせばその分だけ体に対する害やそれに費やしたお金も節約できます。

この場合これを実感してもらうために、その分を貯金するといいでしょう。

このように食生活日誌にて課題の達成度を検討した後、また次の達成可能な課題を設定しましょう。

目標を高くしすぎると達成できないので、必ず達成可能な課題を与えることが大切です。

そして以下の情報を忘れないようにしましょう。

過食や排泄行動による身体合併症

目標体重は標準体重の85%以上で、極端なダイエットをしないで維持できる範囲にします。

ダイエット、飢餓や低体重が過食の引き金になります。

実際には、規則正しい食生活と過食がある程度コントロールできるまで、維持する体重範囲を決めないでおくのが良いでしょう。

身体合併症については、前回の項をご参照ください。http://lala-mentalclinic.com/kashokusyou/

体重調整としての排泄行動の無効性

嘔吐しても食べた物をすべて出せないこと、下剤や利尿剤の使用は水分を減らすだけで脂肪を減らさないこと、嘔吐は過食の効果を帳消しにし、次の過食の準備段階を形成し、嘔吐をやめない限り過食は止まらないことを理解しましょう。

規則正しい食生活の確立

毎日の生活の中で規則正しい食生活を確立することが最も重要な課題とし、1日3回か4回の食事、間食は1~2回として、決った時刻に食べる習慣をつけます。

時間が来れば空腹感の有無に関係無く食べましょう。

満腹感がないので食物の量はある程度(家族の食べている量を参考)を決めておきましょう。

また1回でも食事を抜くとそれが過食につながることを理解しましょう。

食生活の乱れがひどい場合、例えば1日に1食など、とりあえず2回にするというように段階的に行いやすい条件から規則的な食生活を導入しましょう。

この場合本人は太ると主張するでしょう。しかし過食の回数を減らすことが1日の総摂取カロリーを減らすことにつながることを理解しましょう。

過食しそうな状況や契機を如何に防ぐか

刺激統制法と代替行動に示すように刺激統制法により、過食を引き起こしそうになる食べ物、食事や状況を日頃からコントロールします。

また過食しそうになった時、これを避けるための対策として代替行動を行うようにします。

過食を防ぐ食べ方として、いろいろな工夫があります。

過食を防ぐ食べ方

例えばゆっくり噛んで食べる、噛んでいる間は箸を置く、飲み込むまで次の食べ物に箸をつけない、味を楽しむように食べさせる、食事の間大量の飲み物をとらない、一定の間隔で休ませ、早く食べ終わらない、などです。

嘔吐について、過食の効果を帳消しにするために行われる場合、嘔吐を止めない限り過食は続きます。

このため吐きやすい食べ物を避け、水分摂取を減らします(嘔吐するために大量の飲水をしているからです)。

食後すぐにトイレや洗面所に行かず、10分、20分、30分、1時間と徐々に嘔吐する時間を遅延させましょう。

下剤又は利尿剤については少しずつ減らしていきます。

事項はこちらです。→摂食障害の治療【認知行動療法④】

摂食障害の治療【認知行動療法②】

摂食障害の治療【認知行動療法②】

食生活日誌の記録をつける

食行動の自己観察記録である食生活日誌を毎日記録しましょう。

これは自分自身の食行動の実際を知り、過食に陥りやすい状況を把握するために行います。

実際起こっていることを記録することは問題を明確にし、これを克服していくための第1歩です。

体重測定は週1回行いましょう。

体重測定時の本人の態度で、体重に対する過剰な関心や肥満恐怖の程度が推定できます。

食生活日誌の例

 月 日( )  月 日( )  月 日( )  月 日( )  月 日( )  月 日( )  月 日( )
空腹感
満腹感
間食または
過食の内容
過食の回数(回)
過食の時間
( 時から 分間)
過食前の感情と思考
または過食のきっかけ
嘔吐(回)
下剤(錠)
便回数
睡眠時間
生理
身体のことで
気になること
過食に対する対処
手段と今日1日の
反省

食生活日誌の記載の仕方

これは、あなたの日々の食生活を詳しく知り、治療上役立てるために行うものです。

はじめは面倒に思いますが、すぐに慣れ、役立つことが分かります。

1.最初に食べたり、飲んだりした時刻を記入してください。

2.次に食事や過食中に食べた物や飲んだ物の内容をそのとど記入してください。あとでまとめて書かないようにしてください。

3.摂取カロリーは記載しなくても良いですが、数量についてはおおよそでよいですから記入してください。

4.食べたり飲んだりした場所についても記入して下さい。

5.嘔吐したときや下剤を使用したときには、これを記入してください。

6.あなたの過食のきっかけになったと思うことをできるだけ記入してください。

例えば母親と口論したとか、その他些細なことでもできるだけ記入してください。

そのときの自分の気分についても記入してください。

7.体重を測定したときは、それを記入してください。

事項はこちらです。→摂食障害の治療【認知行動療法③】

摂食障害の治療【認知行動療法①】

摂食障害の治療【認知行動療法①】

最初に断っておきますが、この摂食障害の認知行動療法を行うのは、過食症の人が対象となります。

(過食症と拒食症で対応が異なるので、今回は過食症の人が対象となります。)

まずは第1段階である「摂食行動の正常化」を行い、過食と嘔吐の改善を目指します。

しかし、摂食障害患者の体型や体重に関する過剰な関心や認知の歪みを変えることは容易ではなく、これらは心の発達や成長と密接に絡む為、治療には長期間(年単位)を必要とすることが多いです。

そのため、第1段階の「食行動の正常化」の治療を中心に長期間にわたり実施しながら、その間第2段階の体型や体重に関する歪んだ信念や価値観の修正を行う治療を適宜挿入していくこととなります。

認知行動療法の考え方

神経性過食症の人は、低い自己評価により体型や体重に関して過剰な関心や歪んだ信念や価値観(認知の歪み)を有し、これが肥満恐怖や痩せ願望となり、その結果極端なダイエット、自己誘発性嘔吐、下剤や利尿剤の乱用に至るという「認知行動モデル」仮説に基づいています。

そして過食は極端な食事制限の反動として生じると考えられています。

したがって体型や体重に関する過剰な関心や歪んだ信念や価値観の修正を行うことが、摂食行動異常を改善することになります。

治療目標と構造

治療目標は、摂食行動の正常化と体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(認知の歪み)を改めることにあります。

治療構造は3段階からなり、第1段階は過食や嘔吐などの摂食行動異常の正常化を、第2段階は体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(認知の歪み)の修正を、第3段階はこれらの変化を持続、強化することを目標として施行されます。

治療を行っていく際に信頼できる主治医の存在は治療経過に大きく作用します。

主治医との信頼関係を基盤として、本人と治療者が過食に打ち勝って正常な食生活を回復するという共通の目的に向かって、共同戦線を張る必要があります。

そして本人が努力して自分自身を変革していく過程において、主治医が情報を与え、提案し、支持を与え、くじけそうになっても激励、勇気づけてもらえる環境があると予後が良くなります。

治療の手順

1)第1段階

病気についての教育と治療に対する動機付けを行い、過食と自己誘発性嘔吐、下剤乱用などの摂食行動異常の改善が目標となります。

本人の症状や徴候を明らかにし、現在の症状を評価します。

そして「治った状態とは」通常の意味での治癒(根治)ではなく、長い間過食がとまっていても、ストレス状況下で再び過食を生じる可能性があること、しかしその場合翌日から正常な食生活に戻れば「治った状態」であることを理解しましょう。この段階で納得しない場合は、この治療法には適していないと判断した方がいいかもしれません。

具体的な摂食行動上の問題を、本人と協力して解決していくというスタイルをとり、達成可能な課題を設定する(例えば1日3回の過食を2回に減らそう、毎日1回なら週に1回過食をしない日をつくるなど)。

そして本人が課題を達成したら、それを誉めましょう。

認知行動療法は、本人が治療に主体的に参加し、その努力の程度に応じてその成果も得られること、全力を傾注すれば必ずよくなることを保証されるとうまくいきます。

また「何度も失敗してしまう。分かっているけどやめられない。」といった心理状態にある場合、「『人生、七転び八起き』、何回挫折してもそれから立ち直ることが重要であること。失敗すること自体は問題ではなく、問題なのはそれから立ち直ろうとしないことであること。立ち直る練習をし、そうする努力を重ねているうちに必ず報われ、自己変革できること。」を理解していきましょう。

くじけそうな本人を常に励まし、勇気づけていく、そして本人は選手で治療者はコーチ、親は応援者のような存在であることもよく理解しておきましょう。

事項はこちらです。→摂食障害の治療【認知行動療法②】