大人で受診することの多い発達障害【ADHD】
ADHDとはattention-deficit/hyperactivity disorderの略で注意欠如・多動症と訳されてます。
ADHDの歴史
ADHDについての記録は、スコットランドのアレクサンダー・クライトンが1798年に出版した本の記述に表記されているとの説があります。
そわそわと落ち着かないこと、小さいころからみられる特徴であること、学業に影響がでることなど、不注意優勢型の子供についての記述がみられます。
1845年に、ハインリヒ・ホフマンが自分の息子に読み聞かせるために書いた絵と文が、絵本として出版され、その中に、椅子をガタガタとゆすってとうとう後ろにひっくり返る、テーブルクロスを引っ張って夕食を台無しにする子供が登場するが、まさに多動・衝動優勢型のADHDの子供の典型例と思われます。
このように200年近く前から、ADHDと思われる子供は普遍的に存在いていたのでしょう。
学術論文としては1902年に英国の小児科教授となったジョージ・スティルが発表した報告が最初と考えられます。
その後、多動傾向について、なんらかの脳損傷が影響しているのではないかとの考えが広まり、複数の研究者が微細脳損傷と多動についての関係性についての研究、報告がみられたが、微細な脳損傷が実際に発見されず、微細脳損傷という用語は次第に使用されなくなりました。
1980年にDSM-IIIで「注意欠陥障害(attention deficit disorder:ADD」という用語が採用されました。
1987年DSM-III-Rでは「注意欠陥多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)という用語となりました。
1994年DSM-IVではそのまま「注意欠陥t同姓障害(ADHD)」というカテゴリで、不注意優勢型、多動・衝動優勢型、混合型の3つの下位分類が設定されました。
日本では2008年日本精神神経学会の用語集で「注意欠如・多動性障害」という訳が使用され、広まっていきました。
2014年DSM-5の訳として「注意欠如・多動症」という言葉が用いられました。
DSM-IV-TR 注意欠如・多動性障害の基準
A.(1)か(2)のどちらか
(1)以下の不注意の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月以上続いたことがあり、その程度は不適応的で、発達の水準に相応しないもの:
<不注意>
(a)学業、仕事、またはその他の活動において、しばしば綿密に注意することができない、または不注意な間違いをする
(b)課題または遊びの活動で注意を持続することがしばしば困難である
(c)直接話しかけられたときにしばしば聞いていないように見える
(d)しばしば指示に従えず、学業、用事、または職場での義務をやり遂げることができない(反抗的な行動、または支持を理解できないためではなく)
(e)課題や活動を順序立てることがしばしば困難である。
(f)(学業や宿題のような)精神的努力の持続を要する課題に従事することをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う。
(g)課題や活動に必要なもの(例えばおもちゃ、学校の宿題、鉛筆、本、または道具)をしばしばなくす。
(h)しばしば外からの刺激によってすぐ気が散ってしまう。
(i)しばしば日々の活動で忘れっぽい。
(2)以下の多動性-衝動性の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月以上持続したことがあり、その程度は不適応的で、発達水準に相応しない:
<多動性>
(a)しばしば手足をそわそわと動かし、または椅子の上でもじもじする。
(b)しばしば教室や、その他、座っていることを要求される状況で席を離れる。
(c)しばしば、不適応な状況で、余計に走り回ったり高い所へ登ったりする(青年または成人では落ち着かない感じの自覚のみに限られるかもしれない)
(d)しばしば静かに遊んだり余暇活動につくことができない。
(e)しばしばじっとできない、またはまるでエンジンで動かされるように行動する。
(f)しばしばしゃべりすぎる
<衝動性>
(g)しばしば質問が終わる前にだし抜けに答え始めてしまう
(h)しばしば順番を待つことが困難である
(i)しばしば人の話をさえぎったり、割り込んだりする(会話やゲーム、遊びなど)
B.多動性-衝動性または不注意の症状のいくつかが7歳未満に存在し、障害を引き起こしている。
C.これらの症状による障害が2つ以上の状況(例えば学校または職場と家庭など)において存在する
D.社会的、学業的または職業的機能において、臨床的に著しい障害が存在するという明確な証拠が存在しなければならない。
E.その症状は広汎性発達障害、統合失調症、またはその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではなく、他の精神疾患(例えば気分障害、不安障害、解離性障害、またはパーソナリテイ障害)ではうまく説明されない
DSM-IV-TRからDSM-5での変更点として
・「7歳以前に」症状が存在する必要性が、「12歳以前に」という記述に変更されています。
・不注意、多動性と衝動性の診断基準となる必要項目数が、「6項目以上該当」が、「5項目以上該当」が必要となっており、1つ減って、診断されやすくなっています。
・広汎性発達障害などの自閉スペクトラム症と、ADHDの併存が認められるようになっています。
・部分寛解が認められるようになり、重症度を3段階で評価するようになっています。
(その他細かい変更点も多々ありますが、割愛します。)
このようにDSM-5になり、青年期・成人期のADHDの診断ができやすいようになっています。
ADHDの症状の一部である「感情のコントロールの困難さ」
衝動性から、ADHDでは感情のコントロールがきかずに、他者とのトラブルが生じる場合があります。
そのため、幼少期には「反抗挑戦性障害」や「素行障害」として問題視されたり、成人してからは「反社会性パーソナリティ障害」や「境界性パーソナリティ障害」と診断されるケースもあります。
またADHDと双極性障害(躁うつ病)との関連性はよく指摘されており、幼少時にはADHDと診断されていた方が、成長して、双極性障害と診断されているケースもあります。
では、実際の幼児期・児童期と成人期のADHDの特徴をみてみましょう。
幼児期・児童期の特徴
(不注意)
・学校の勉強で不注意ミスが多い
・授業中や実習中、注意の持続が困難になる
・人の話を聞いていないと、親や、先生に注意される
・課題、宿題が最後まで達成できない
・いくつかの課題の優先順位を考え、段取りを決めるのが苦手
・課題、宿題を先延ばしにする
・教科書や鉛筆その他の道具をなくす
・授業中でも気が散りやすく、先生の話に集中できていない
・友達の約束を忘れてしまう。
(多動性)
・授業中もじもじ、そわそわしている
・授業中でも席を離れる
・ひどく走り回ったり、高い所によじ登ったりする
・遊びの時、騒ぎすぎる
・動きた多く、落ち着きがない
・しゃべりすぎる
(衝動性)
・先生が話し終える前に答える
・列に並んだり、ゲームなどの順番を待つのが苦手
・他の子供の勉強の邪魔をする。
(感情のコントロールの苦手さ)
・かっとして暴れる、暴力的になる
・突然泣き出す
・親や先生に強く反発する
・非行行為がみられる。
成人期の特徴
(不注意)
・仕事や家事や用事など、日常生活や社会生活で不注意ミスが多い
・仕事での注意・集中の持続が困難である
・「上の空」「話をきいていない」と注意から指摘される
・仕事が最後まで達成できない
・仕事や家事の優先順位を考え、段取りを決めるのが苦手。
・計画を立てるのが苦手。
・しなければいけないことを先延ばしにする
・書類、財布、鍵など大事なものをなくす
・気が散りやすい
・スケジュール管理ができない
(多動性)
・座っている時も、顔や体を触ったりして落ち着かず、貧乏ゆすりなど体を動かす
・仕事中も頻回に席を離れる
・落ち着かない感じで、静かにすごすことができない
・いつも動き回っている。
・おしゃべりといわれる
(衝動性)
・相手が話し終える前に話始める
・順番待ちや、その他待つことが苦手
・よく考えずに発言または行動する。
・他人が傷つくことをつい言ってしまう。
(感情のコントロールの苦手さ)
・怒りっぽい、イライラしやすい傾向
・好訴的傾向
・反社会的行為
・ひどい落ち込みや、強い不安の出現しやすさ
では次回③では診断の流れについて説明します。
事項はこちらです。→【アスペルガー】発達障害について知っておきたいこと【ADHD】③【診断編】