パニック障害の原因、症状、治療、経過のまとめ
パニック障害を含む不安障害は、最も高率にみられる精神疾患です。
不安障害は遺伝的因子と経験的因子の絶妙な相互作用によって引き起こされるといわれています。
病的な不安状態になりやすさに、外傷的な生活上の出来事やストレスが重なり引き起こされるとされています。
不安の歴史
西暦1800年代の終わりにフロイトが不安神経症(anxiety neurosis)という用語を提唱しました。
フロイトは生物学的基盤に、リビドーの阻害に関連して高まった不安状態として、神経衰弱、心気症、不安神経症等が出現すると説明しました。
不安と恐怖の関係
不安(anxiety)は警告を促すサインであり、目の前に迫った危険を知らせ、人が脅威に対処するための対策を講じられるようにします。
恐怖(fear)は同様の警告のサインですが、、不安とは区別が必要です。
恐怖は既に知っている、外界に存在する、はっきりと限定された脅威に対する反応です。
例えば、山道を歩いていて、突然目の前にクマが現れたら「恐怖」を感じます。
しかし、暗い山道を歩いている時の漠然と出てくる感情は「不安」なのです。
その不安は適切かどうか
不安は外界や内界の脅威への警告ですので、自分の生命を守るのに必要です。
身体の損傷、痛み、絶望、起こりうる不幸な出来事、社会的・身体的欲求不満、信頼する・愛する相手からの分離、成功や地位への脅威などに注意を喚起します。
不安は人に、恐怖に備えることや不利な結果にならないように必要な手段をとることを促します。
例えば、試験に落ちないように勉強したり、通勤電車に間に合うように走ったりすることなど、不安は人に警告して、傷つくのを防ぐのです。
不安の症状
下痢、めまい、息苦しさ、しびれ、浮動感、血圧上昇、動悸、散瞳、歩き回り落ち着かないような不穏状態、失神、頻脈、振戦、胃部不快感、頻尿などがみられます。
不安障害の疫学
不安障害は精神疾患の中で最もよく見られるものです。
年間有病率は約18%と言われています。
女性は男性よりも不安障害になりやすく、女性の生涯有病率は30.5%、男性の生涯有病率は19.2%と言われています。
病的不安の原因
生じている病的な不安の原因を、発育中の出来事と結び付けて考えることが改善する手掛かりになります。
不安はさまざまな発達的段階における多彩な葛藤に関係していることが多いからです。
不安障害では生物学的要因が見いだされることがあります。
不安障害に関連する主な神経伝達物質としてはセロトニン、ノルエピネフリン、GABA(γアミノ酪酸)などがあります。
生物学的変化が、心理学的葛藤の結果を反映しているのか、生理学的変化が心理学的葛藤に先行しているのかについては、それぞれの人によってどちらの場合もありえます。
ただし、不安障害の方は、結果的には生物学的基盤と、生物学的変化の両方がほぼみられます。
パニック障害
パニック障害は、自然発生的に突発的に予期できないパニック発作を特徴とします。
パニック発作の頻度は1日数回から1年に2.3回と、人によって様々です。
パニック障害はしばしば広場恐怖を伴います。
広場恐怖とは
広場恐怖とは、飛行機や新幹線、高速道路での車内、映画館など公の場所、特にパニック発作が起こった際にそこからすぐに出られないような場所にいることに対する恐怖です。
パニック障害の疫学
パニック障害の生涯有病率は1.5~5%です。
女性は男性よりも2~3倍多いとされています。
人種間の差は小さいと言われています。
パニック障害を引き起こす社会的要因としましては、離婚、別離が報告されています。
発症平均年齢は約25歳と言われていますが、あらゆる年齢で発症する可能性はあります。
パニック障害の原因
生物学的要因
パニック発作は脳の構造や、機能の生物学的異常によって発生するという解釈があります。
自律神経系において、交感神経系の緊張の亢進、刺激への順応の遅さ、過剰な反応性などの報告があります。
しかし、神経内分泌学的研究も一致した結果をだせてはいません。
セロトニン系機能障害はパニック障害においては関連は明らかになっています。
基底側扁桃核、中脳、視床下部における局所的な抑制系GABA作動性伝達の減衰が不安に似た生理学的反応を呈することが確認されています。
また、パニック障害の方は、脳幹の青斑核の発火が起きやすいとの報告もあります。
遺伝要因
特定の染色体の位置や遺伝様式などがはっきりと同定されてはいませんが、遺伝的要素はあるとする報告があります。
パニック障害のある親から生まれた子は、パニック障害の発生率が4~8倍になるとの報告があります。
パニック障害の症状
動悸、心悸亢進、発汗、ふるえ、息苦しさ、窒息感、胸痛や胸部不快感、嘔気、気が遠くなる感じ、現実でない感覚・自分が自分でない感覚、コントロールできない気が狂いそうになる恐怖、死への恐怖、感覚麻痺やうずくような異常な感覚、冷感、熱感
パニック障害の経過と予後
パニック障害は通常、青年期後期、成人早期に発症しますが、小児期や青年期早期あるいは中年期に発症することもあります。
パニック障害の発症に心理社会的ストレス因子の増加が関係しているとする報告もありますが、ほとんどの症例では自然発生的に生じ、ストレス因子が確認できないことが多いのです。
パニック障害は一般には慢性的に経過しますが、その経過は人によって様々です。
治療により、30~40%の方では長期間無症状になるまで改善するという報告もあります。
また、約50%の方は、症状が軽度になり生活の支障にならなくなるという経過、約10~20%の方で著名な症状が持続したという報告もあります。
カフェインやニコチンを摂取しすぎると症状は増悪します。
パニック障害の方の約40~80%のでうつ病が重なり、症状が複雑化するといわれています。
アルコールや他の物質依存は予後を悪化させます。
発症前の社会生活への適応が良く、症状が存在する期間が短い方は予後が良いとされています。
パニック障害の治療
パニック障害は治療により、ほとんどの方で劇的に改善します。
最も有効な治療は薬物療法と認知行動療法です。
パニック障害は症状が持続する期間が短い方が予後が良くなるため、早めに受診し、治療することが大切です。