「【病気について】」カテゴリーアーカイブ

【チックの拮抗反応トレーニング】

チックを治療するにあたり、まず本人が気付いて認識する必要があります。

チックに気付き、記述して、先行する感覚や行動を認識して、チックの出現を認識出来るようにします。

拮抗反応は、チックの前駆衝動が出現するか、または、チックが始まった直後に患者さんが取り入れる一つの動作です。チックや前駆衝動が起きたらすぐに実施します。

【拮抗反応のトレーニングの効果仮説】

  • チックと大脳基底核の回路における顕在化の競合
  • 拮抗反応による患者さんの前駆衝動への慣れの発生

【拮抗反応のトレーニング】

拮抗反応はそれぞれのチックの前駆症状に基づいて行い、最低1分か、前駆症状が消えるまでか、いずれか長い方の時間保持します。

拮抗反応を選択し、拮抗反応と正しい実施をデモンストレーションし、練習します。

拮抗反応として使用する動作は下記を目安に選択します。

  • 標的とするチックと物理的に両立できないもの
  • もとのチックよりリラックスした、自然で品があるもの
  • 最低1分間、または前駆症状が明らかに減少するまで、保持できる最適化されたもの
  • 社会的に目立たないもの

【運動チックの拮抗反応の例】

  • [瞬き]意識して瞬きする。真っ直ぐ前を見る。物体に焦点をあてる。
  • [顔をしかめる]優しく唇を結ぶ。
  • [眉の動き]ゆっくりコントロールした瞬きをする。
  • [首を回す]顎を軽く下に引きながら首の筋肉を緊張させる。
  • [唾を吐く]唇を強く閉じ、腹式呼吸をする。
  • [舌打ち]舌を口の中で上顎に押し付け、口を閉じて、息をする。

【抜毛症の経過、予後、治療】

【抜毛症とは】

抜毛症は繰り返し毛髪を抜き、その結果、他人からも分かるような様々な程度の脱毛状態に至る慢性疾患です。

抜毛症はフランスの皮膚科医が1889年に報告したものが最初と言われています。抜毛症は稀な病気と考えられていたため、記述もあまりありませんでした。

現在では、抜毛症それほど珍しくないと考えられています。

強迫症や衝動制御の障害と類似しており、抜毛を抜くまでの緊張感の高まりと、抜毛後の開放感と満足感が特徴です。

【抜毛症の疫学】

抜毛症の有病率は、患者さんが隠したがることもあり、実際より少なく評価されている可能性があると言われています。

抜毛症の診断は発生率、重症度、発症年齢、男女比によって大きく2つのカテゴリーに分けられますが、その他のカテゴリーも存在します。

  • 青年期の抜毛症

最も重症化、慢性化しやすいタイプは、青年期初期から中期に発症する型です。

生涯有病率は一般人口の0.6〜3.4%で、男女比は1:10で女性の割合が多いといわれています。しかし、男性は女性より抜毛を隠すことが多く、実際は男性ももっと多い可能性があります。

抜毛症一人っ子や、長子(兄弟、姉妹で1番上)に多いとされています。

  • 小児期の抜毛症

小児期の抜毛症は男女ともに同じ割合で見られます。また、青年期や成人期にみられる抜毛症に比べ発生率は高いですが、心理学的にも皮膚科学的にも軽症が多いといわれています。

  • 飲み込む抜毛症

抜毛症の35〜40%の人が引き抜いた抜毛を噛んだり、飲み込んだりします。このような行為が見られる約3分の1の方は、胃や腸などの消化管に毛玉が蓄積して危険な結石になります。

【抜毛症の併存症】

抜毛症の併存症としては強迫症、不安症、トゥレット症、うつ病、摂食障害、パーソナリティ障害があります。

物質依存との併存は少なく、病的賭博、窃盗症や他の衝動制御症との併存に比べても少ないといわれています。

【抜毛症の原因】

抜毛症には様々な要因が関わっていると考えられ、4分の1以上はストレス状況と関係しています。

  • 母子関係の障害
  • 1人で残される恐怖
  • 対象の喪失

などが発症のきっかけになる事が多いです。

抜毛症の家族にはしばしばチック、衝動制御障害、強迫症状が認められ、遺伝的素因を存在する可能性が示唆されています。

抜毛症と神経生物学的、遺伝学的研究】

抜毛症では左側被殻と左側レンズ核領域体積減少が指摘されています。

遺伝学的研究では抜毛症とセロトニン2A受容体遺伝子多型との関連が指摘されています。

【抜毛症の臨床像】

抜毛症の臨床像には2つの型があります。

  • 1つは、衝動や身体の感覚、あるいは思考を制御するために意図的に行われる無意識の脱毛です。
  • もう1つは、上記とは対照的に、座って何かをしている時などに行われる無意識の抜毛です。

抜毛症の方のほとんどは、この2つが組み合わさっています。

抜毛症の経過と予後】

抜毛症の平均発症年齢は10代前半で、しばしば17歳以前ですが、より年長での発症も報告されています。

慢性化するタイプと寛解するタイプがあります。

6歳以前の早期の発症例は指示や援助、行動療法に反応しやすく、寛解に至ることが多いといわれています。

13歳以降の遅い発症では慢性化の経過をとりやすく、早期発症例に比べて予後は良くないといわれています。

【抜毛症の治療】

実は医学的に抜毛症の最も良い治療法に関しての意見は一致していません。治療に関しては、精神科医と皮膚科医の連携が必要となる事も多いです。

精神薬理学的治療法としては、局所のステロイド、水酸化塩酸塩、抗ヒスタミン特性をもつ抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬があります。

抜毛症の初期の症例報告では、選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI)が有効であったとの報告があります。

SSSRIに反応が乏しい場合にはピモジド(オーラップ)などのドパミン受容体拮抗薬の追加で改善する可能性があります。

有効性が報告されている薬物は、フルボキサミン(ルボックス)、シタロプラム(Celexa)、ベンラファキシン(イフェクサーSR)、リチウム(リーマス)、クロナゼパム(リボトリール)、トラゾドン(デジレル)などがあります。

【日照時間とうつ病、躁うつ病の関係】

最近は、日中に屋外で日光を浴びることが少なく、夜間はスマートフォンやPCなどの使用で遅くまでブルーライトの光に暴露されるような環境で過ごす人が増えています。日中の光を浴びる量(光暴露量)の低下と夜間の光暴露量の増加は、人体にどのような影響を及ぼすのか説明します。

【光暴露環境の影響力】

光暴露環境はうつ症状、メラトニン分泌異常、肥満、動脈硬化などに影響を及ぼしていると言われています。

【うつ症状への高照度光療法】

光暴露とうつ症状の研究は多く、日中光暴露の増加はうつ症状を改善すると言われています。

高照度光療法は、通常午前中に30分から1時間程度、5,000から10,000ルクスの光をあびる治療法です。

【夜間光暴露の増加の健康への影響】

夜間光暴露量の増加は、メラトニン分泌を抑制し、睡眠の質の悪化、体内時計(概日リズム)の乱れを引き起こします。特に、躁うつ病の方は躁状態を悪化させる可能性があります。

【日照時間と自殺の関係】

夏と冬の間の日照時間の差が大きいことが、躁うつ病の方の自殺未遂の頻度と関係しているという報告があります。

【うつ状態の時は日中の日光浴は大切】

このように、日光浴がうつ状態を改善する報告がありますので、朝、日光を浴びるのはとても大切です。

私は飼っている犬に毎朝起こされて、朝5時半に散歩に連れて行きますが、冬はまだ暗いですね。

【摂食障害の治療〜心理的アプローチ〜】

「私は吐くということが恐ろしいから、食べることも恐怖なのです。それはもう保育園の頃からです。でも弱音は吐けません。誰にも心配させたくないからです」

「体重は40kgですが、このお腹の贅肉を手術してでもとりたい」

「食べ出したら止まらなくなり、あるもの全部食べても満足しません」

「毎日下剤を60錠くらい飲まないと気が済みません」

「一日中食べ吐きのことばかり考えてます。食べる前から吐くことを考えてます」

摂食障害の方は、それぞれ症状も違います。

【摂食障害には幼少期の体験が影響している事が多い】

摂食障害の治療においては、まず生育歴が重要になることが多いと考えます。実際、親子の関係が改善して良くなる方がいますし、患者さんが中壮年になって直接親子関係に介入できない場合は、過去の、特に幼少期の傷ついたインナーチャイルド、現在まで続いている子供の頃の思考パターンや習慣を癒し、克服することで改善することが多いのです。

【摂食障害の人に吐くなと言っても意味がない?】

「食事を制限して運動しましょう」

「吐いてはいけない」「下剤は使ってはいけない」

「もっと食べましょう」

摂食障害の方に、こういう事はあまり話しません。摂食障害の方は、食べること、吐くこと、体形、容姿、体重のことにとらわれて、それらの事は熱心に話をしますが、「大事なこと」は、話しません。話しませんというより、本人も気づいていないこともよくあります。これまでの不安感、恐怖心や羞恥心を隠しておることが多いのです。

【摂食障害の治療】

摂食障害の治療とは、患者さんの拒食、過食の原因となっているイライラや不安、恐怖、不満、寂しさ、羞恥心を改善することが大切になります。その心理的な葛藤は過去に隠されています。

【摂食障害を防ぐ子育ての大切さ】

子育てが非常に難しいことは、我が身をもって実感しています。自立の強調、強制や処罰のしつけが全て悪いとは思いませんが、もっと自由に愛して、ほめて育てることを大切にしてほしいと思います。

【パニック障害とカフェイン】

電車やバスなどの公共交通機関、歯医者や美容室や映画館などで息苦しさや動悸、冷や汗などの軽いパニック症状が出ている方は、カフェイン(コーヒーや紅茶、エナジードリンクなど)をやめるだけで症状が軽減する人が多いです。不安感と不眠が見られる方に、カフェイン摂取が多い方がしばしば見られます。夜中に過呼吸が起きて目覚めるようなら早めに精神科、心療内科の受診をお勧めします。

【芸能人の適応障害について】

深田恭子氏が適応障害との報道がありましたが、きちんと治療すれば完全に回復する可能性の高い病気ですので、治療に専念されて無理せず回復される事を祈ります。

【適応障害とうつ病の診断

実は臨床現場でも、適応障害、うつ状態、うつ病と診察する医師により診断名が異なる場合があります。正式な診断名というのは、国際疾病分類(ICD)という、異なる国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録、分析、解釈及び比較を行うため、世界保健機関憲章に基づき、世界保健機関(WHO)が作成した分類基準に基づいて医師が診察し診断します。

【臨床現場ではどういう判断をしている】

適応障害でもうつ状態は見られますし、その後、うつ病の診断に変わることもあります。では、どの様に適応障害とうつ病の診断をつけているのでしょうか。先程出てきたICDや米国精神医学会(APA)より刊行されたDSMという診断基準のチェックリススト様なものや、うつ状態を評価する心理検査があり、それらを参考にして、最終的には診察によって総合的に判断します。しかし、適応障害でもうつ状態が見られるとうつ病の診断基準を満たしてしまう事があり、そのため医師によって診断が変わる事があるのです。例えば、極端な話ですが、失恋して落ち込み、死にたい気持ちが続き、2週間以上仕事にも行けなくなって受診した場合、適応障害、うつ状態、うつ病かその他病名について医師によって判断が異なる場合があるという事です。

【診断名と症状名】

適応障害とうつ病は診断名で、うつ状態は状態を表現している症状名です。例えば、今、血圧を測定して高血圧の数値が出ても、それだけでは高血圧症という診断名がつくわけではありません。脳梗塞を発症して高血圧なのか、ただ緊張してて一時的に高血圧なのか、実際高血圧症という病気なのか調べて診断する必要があります。このように「うつ状態」、「高血圧の状態」とは、あくまでその時の状態で、原因となる診断名がすぐに分からない事も多く検査するなどして調べた結果、診断名が決まっていきます。うつ病の人はほぼうつ状態が見られますが、反対に「うつ状態」がある人が全てうつ病の診断になるわけではないという事です。

適応障害、うつ病の違い〜私はどう判断しているか

適応障害とうつ病の鑑別の判断基準として、個人的にはその時点での、発症要因と生活歴、家族歴を含めたその人の基質的素因、これまでの経過と現在の症状から内因的脳内伝達物質の機能障害の重症度を診察で評価して、検査も含め総合的に判断しています。それにより、そに人にとって薬物療法や精神療法、環境調整のどの治療法の有効性が高いかを予測し、どのくらいの経過でどの様に良くなっていくかを見通して本人に説明します。そう考えると、適応障害とうつ病は全く別な病気というより境目が曖昧な部分もあり、適応障害の方のうつ病への変化には注意が必要だと思います。今後医学の進歩とともに、脳画像検査や採血で適応障害とうつ病を見分ける検査が登場する時が来るかも知れません。

広場恐怖、パニック障害とは【原因、症状、治療について】

広場恐怖とは

広場恐怖とは、スーパーマーケットや高速道路、新幹線や飛行機、美容室、歯医者、映画館など、その人にとって体調不良が出現した際に、そこからすばやく出られないような場所にいることに対する不安、恐怖です。

広場恐怖はしばしばパニック障害を伴いますし、パニック障害の人はほぼ確実に広場恐怖を生じると言われています。

つまり、すぐに逃げられない場所でパニック発作が起こる事への恐怖から広場恐怖が生じると考えられています。しかし、パニック発作のない広場恐怖の方もいます。

広場恐怖は仕事の能力や家の外での社会的状況で著しい支障をきたします。

広場恐怖、パニック障害の発症頻度

広場恐怖の疫学

広場恐怖の生涯有病率は0.6%~6%の範囲で報告されています。

このばらつきは、診断基準と評価法がさまざまであることが原因として考えられます。

広場恐怖の人の75%はパニック障害を伴うとされています。

多くの場合、広場恐怖は外傷的な出来事の後に発症すると言われています。

パニック障害の疫学

パニック障害の生涯有病率は1.5~5%と言われています。

女性は男性に比べて2~3

パニック障害を起こしやすいと言われていますが、男性では見逃されていることが多いとも言われています。

パニック障害を引き起こす社会的要因として、離婚や別離が確認されていますが、大きなストレス因があることもあれば、ストレス因がなくても発症することもあります。

一般的には若年成人期に発症するとされ、発症平均年齢は約25歳と言われています。

しかし、パニック障害も広場恐怖もあらゆる年齢で発症します。

パニック障害、広場恐怖の病因

パニック障害は病態生理学的には末梢と中枢神経系の両方の調節障害が関与していると言われています。つまり、パニック障害の方は、自律神経の交感神経系の緊張が亢進しており、繰り返される刺激に対する順応が遅く、中程度の刺激に対しても過剰に反応するということが報告されています。

パニック障害と関連する、主な神経伝達節質は、ノルエピネフリン系、セロトニン系、γアミノ酪酸(GABA)系と言われており、特にセロトニン系機能障害はかなり明白と言われています。

パニック誘発物質

パニックを誘発する物質はパニコーゲンと呼ばれ、パニックを引き起こします。日常生活で気をつけるべきパニコーゲンはカフェインです。

遺伝要因

パニック障害と広場恐怖については遺伝的要素を有するという結論が支持されています。

しかし、現時点で、特定の染色体の位置や遺伝子様式とパニック障害との関連を示唆するような情報はまだないようです。

心理社会的要因

認知行動理論

行動理論によれば、不安は両親の行動を模倣するか、古典的条件づけの過程を踏んで学習された反応であるといわれています。

古典的条件付けによりパニック障害と広場恐怖を説明すると、パニック発作のような不快な刺激が電車に乗るというようなごくありきたりの刺激と同時に起こると、電車にのるというありきたりな刺激を避けるようになります。

他の行動理論では、動悸のような軽微な身体症状と完全なパニック発作の出現とが結びついてしまうのではないかという仮説が立てられています。

但し、初回のパニック発作の原因の説明にはならないと指摘されています。

精神分析理論

精神分析理論では、パニック発作は不安を喚起するような刺激に対する防衛が失敗した結果生じると考えられています。

以前は軽度の信号的不安であった者が圧倒的は強い不安になり、これに身体症状が加わって完成されるとされています。

特に広場恐怖については、小児期における親の喪失と分離不安の既往が原因という指摘もあります。公の場所に一人でいることが、子供の頃の見捨てられるのではないかという不安を呼び起こすとされています。

パニック発作に関して、多くの方は心理的要因が全くないように述べられますが、精神力動的に考えると、しばしばパニック発作の心理的引き金を認識されていないだけで、明確になることがあります。

パニック発作の発症は一般的には環境因子ないしは心理的因子と関連しています。

パニック発作を発症するときには、特に喪失のようなストレスに満ちた生活上の出来事を数か月前に高い確率で体験し、大きな苦痛を体験していることが多いといわれています。

パニック障害において、ストレスからなる心理的出来事が、神経生理的変化をもたらすという仮説は、女性の双生児研究の結果から支持されています。この研究では、パニック障害は、17歳以前に体験された親との離別や親の死と強く関係していることが分かっています。

特に早期に母親と離別した場合には、父親と離別した場合よりも明らかにパニック障害の発症する頻度が多いとされています。

成人女性のパニック障害におけるもう1つの病因学的な因子として、小児期の身体的または性的虐待が指摘されています。

パニック障害、広場恐怖の症状

パニック障害の症状

最初のパニック発作は、しばしば自然発生的ですが、興奮や身体的運動、性行為や中程度の情動的外傷後(心理的なショックな出来事)の後に生じることもあります。

つまり、最初のパニック発作は予期できません。

さかのぼって確認するとパニック発作には先行する習慣や状況がみられます。そのような習慣としては、カフェイン、アルコール、ニコチン、その他の物質使用があります。

また、食事の睡眠が通常の状態でない時や、仕事中の照明が強すぎるなどの特異な環境設定などにも注意をしなければなりません。

パニック発作が始まると、10分ほどで急速に症状が増悪することが多いです。

主な症状は

極度の恐怖及び切迫した“死んでしまうのではないか”という感覚

頻脈、動悸、呼吸困難、しびれおよび発汗等の身体症状

動悸と胸部圧迫感から切迫した死を感じて、パニック発作中に失神する場合もあります。

発作は通常20~30分続きますが、1時間以上続くことはほとんどありません。

救急車を呼んだ場合、救急隊が就く頃には落ち着いている人もいます。

広場恐怖の症状

広場恐怖の人は助けが求められないような状況をかたくなに避けるようになります。

車や人通りの多い道、長い一本道、高速道路、混雑した場所、トンネルや地下、橋、エレベーター、バス、飛行機、電車、新幹線、等の乗り物などを避けます。

人によっては、歯科や美容室、映画館、高所を避ける人もいます。

また、外出時に家族や友人と一緒に行動したがります。

経過と予後

パニック障害の予後

パニック障害は通常、青年期後期、成人早期に発症しますが、小児期や青年期早期あるいは中年期に発症することもあります。

パニック障害は一般的には慢性に経過しますが、その経過は人によって異なり、同一の人でも変化が見られます。

約30~40%の方は長期間無症状で経過し、約50%の方は症状が軽度で生活がひどく妨げられることなく経過するといわれています。しかし、約10~20%の方は著明な症状が持続することがあるといわれています。

初回から2回目くらいまではパニック発作がああっても、比較的無関心でいる方も多いのですが、発作が繰り返されると、そのことばかり考えるようになります。

パニック発作は1日に数回起こることもあれば、月に1度も起こらないこともあります。

カフェインやニコチンを摂取しすぎると発作の症状は増悪します。

広場恐怖の予後

広場恐怖のほとんどの方は、パニック障害によると考えられています。

パニック障害が治療されれば、広場恐怖も時間とともに改善されることが多いとされています。

広場恐怖を早くかつ完全に消失させるために、行動療法が有効である場合があります。

うつ状態やアルコール依存症が合併すると広場恐怖の経過を複雑化するといわれています。

パニック障害、広場恐怖の治療

治療によってパニック障害と広場恐怖の症状は、ほとんどの方で劇的に改善します。

最も有効な治療法は薬物療法と認知行動療法です。

パニック障害、広場恐怖は治療が非常に有効で改善できる疾患であるため、我慢せずに早めに受診されることをお勧めします。

【キレる】衝動制御の障害【病気?】

すぐキレる、暴れる人たち、子供たち。

些細なことで、キレてしまう、暴れてしまう人たちがいます。

その中には、すぐキレてしまう、暴れてしまうことを凄く後悔し、会社、家庭内などの人間関係がうまくいかず、そのことに苦しんでいる人たちもいます。

ではすぐキレることや暴れることに関して、精神医学的にはどのような見方をするのでしょうか。

病気としての位置づけ~間欠性爆発性障害~

攻撃的衝動に抵抗できずに、ひどい暴力行為または所有物を破壊してしまうという病態がみられます。

実際の外来診療では「ダメだと分かっているのに怒りを抑えられない。その後凄く後悔する。」ということがお困りで受診される方がいます。

攻撃性は、その病態を引き出す誘因になったであろうストレスと比較しても、はなはだしく不釣り合いに突出していることが多いのです。

間欠性爆発性障害の方が発作または突然の発症と述べる症状は、数分または数時間のうちに現れて、持続時間に関係なく自然にまたは速やかに軽減します。

それぞれの問題行動の後に、心から後悔して自責の念を示し、表面化した衝動性や攻撃性の徴候は、この間には消失します。

ただし、統合失調症や反社会性または境界性人格障害、ADHD、行為障害、物質中毒による制御不能の人たちには間欠性爆発性障害の診断はつかないことになっています。

原因

衝動制御の障害においては、精神力動的因子、心理社会的因子、そして生物学的因子のすべてが重要な役割を果たしています。

疲労や、ストレス、心的外傷は衝動制御に対する耐性を低下させます

爆発の噴出については、自己愛が傷つけられる出来事に対する防衛であるといわれています。

激怒を噴出させることで対人関係に距離ができ、それ以上に自己愛が傷つくことから守られるのです。

子供の衝動的な、または逸脱した行動は、根源的な母子関係を獲得しなおそうとする試みである場合があります。

子供の衝動行為は母親の愛情を得ようとするのをやめる行為と言うよりも、逆に母親の肯定や愛情を求める希望のようなものなのです。

衝動行為をする人は不安や罪の意識、抑うつ、他の苦痛となる感情を、行動によって抑制しようと試みますが、その行動によって一時的でも開放を得られることは難しく、うまくいきません。

心理社会的因子

衝動がコントロールできないことに因果関係のある心理社会的因子は、人生の早期の出来事と関係しています。

成長期の子供は、例えば衝動制御の困難な親のような不適切な手本に同一化することがあります。

他には、家庭内暴力、アルコールの乱用、反社会的行為にさらされることなどが指摘されています。

生物学的因子

幼少期にADHD(注意欠陥/多動性障害)と診断された人の中には、青年期になっても衝動制御の症状が続く人がいると指摘されています。その場合は衝動制御の問題はADHDの症状の一つととらえられるでしょう。

精神遅滞、てんかん、脳器質性疾患などが、衝動制御が困難な症状に関係していることがあります。

経過と予後

間欠性爆発性障害は人生のどの時期でも起こりますが、青年期後期と成人期初期の間で生じることが多いとされています。

発症は突然であることも、潜行性であることもあり、経過は一時的であることも慢性的であることもある。

多くの場合、中年になるとその激しさは減ることが多いと言われていますが、脳梗塞やてんかん、認知症などの合併で、さらに激しい状態になることがあります。

治療

薬物療法と精神療法を組み合わせた取り組みが、効果的とされています。

しかし、間欠性爆発性障害の方に対する精神療法は、怒りの爆発性を引き起こし難しくなることもあります。

特に思春期や青年期の間欠性爆発性障害の方には、集団療法や家族療法が有効である場合があります。

治療の目標は、衝動がどのようにして爆発に至るのかその思考や感情を認識させ、行動を起こす代わりに言語で表現させることです。

薬物療法としては、抗てんかん薬が長く使用されてきましたが、結果は一定しません。

リチウム(リーマス)は一般に攻撃的行動を低下させるのに有効です。

また、カルバマゼピン(テグレトール)、バルプロ酸(デパケン)、フェニトイン(アレビアチン)も有効と言われています。

ベンゾジアゼピン系(安定剤など)は時に使用されますが、制御不能の奇異反応を生じることがあります。

抗精神病薬や三環系抗うつ薬が有効な場合もありますが、そのような時は、統合失調症や気分障害を疑うことも大切です。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やトラゾドン(デジレル)なども衝動性や攻撃性を低下させるのに有効なこともあります。

プロプラノロール(インデラル)やその他βアドレナリン受容体拮抗薬、カルシウムチャネル阻害薬も時に有効な場合があります。

子供の爆発性について

子供は傷つけられることに対応する防衛反応として爆発性がみられることがあります。

子供は否定される場面が多かったり、理不尽に怒られたり、傷つけられる言葉が続くと爆発性が見られるようになる事があります。

子供へ対応する際に自分自身の自己愛の問題が隠れていないのか考えてみると良いかもしれません。

子育てという親子の相互作用において、子供を愛する「対象愛」よりもあなた自身への「自己愛」に偏重し、自分の必要や情緒的ニーズを満たすことが優先されてはいると、子供を怒鳴ったり、責める場面が増えていきます。

もし、思い当たることがあれば、カウンセリングでも良いですので、早めに受診して相談してみてはいかがでしょうか。

チックとは。家族が知っておくこと【チック症】

チック症とは

チック障害とは、本人の意志とは関係なく、突然体が動いたり、声が出たりすることが一定期間続く障害です。

多くは、児童期から青年期に発症します。自分で症状をコントロールすることは難しいものの、意識的に抑えられる場合もあります。

わざとやっている訳ではありません。しかし、いくらかコントロールできるようになる可能性があります。

チックの種類

チックには「運動性チック」と「音声チック」があります。

さらに持続時間の長さによって「単純型」と「複雑型」に分けられます。

単純運動チック

まばたや、首をふる、肩をすくめる、しかめ顔など

単純音声チック

せきばらい、吠える、鼻をすする、シューなど特殊な音を出す、寄生をあげる

複雑運動チック

自分を叩いたり、飛んだり跳ねたりする、顔の表情をかえる、触る、臭いをかぐ

複雑音声チック

状況に合わない言葉、汚言症など(わいせつな言葉、社会に受け入れらない言葉)、特定の言葉や、自分の発した音や単語を繰り返す(同語反復)

トゥレット症候群

運動チックと音声チックの両方が慢性的にみられます

チック症の疫学

チック障害は児童期から青年期の子供に多くみられますが、多くは一過性です。

トゥレット症候群の推定有病率は、学童期の子供で1000人あたり3~8人と言われています。

男性のほうが女性より多く、男性は女性の約2~4倍と言われています。

チック症の経過

チック障害は、通常4~6歳の間に発症し、10~12歳の頃に症状が重くなり、青年期になると症状が軽くなるという経過をとることが多いです。

少数ですが、大人になっても重度のまま続いたり、悪化する場合があります。

チック症の原因

気質要因

チック障害の症状は不安、興奮、疲労によって悪化しやすく、落着いているときや集中しているときは改善します。

学校や仕事では意識的に我慢していることも多く、集中している時であり、症状は少なく、放課後や帰宅後に症状が増えることは多く見られます。

生理前、テストや発表の時や、行事に参加するときなどは、しばしば悪化します。

遺伝要因

チック障害の遺伝的な要因は様々な研究から可能性を示唆されています。

出産時の合併症、父親の高年齢、低出生体重、妊娠中の母親の喫煙がチックの重症度の悪化に関連していると言われています。

チック症の予後

自然の経過として、部位、種類、頻度が変動したり、軽快や憎悪を繰り返したりします。

併発しやすい疾患

強迫性障害、ADHD(注意欠陥多動性障害)、学習障害を併発することがあります。

また、吃音症、抜毛症、身体醜形障害、摂食障害、自閉症スペクトラム障害併存していることもあります。

不安やパニック症状、うつ状態、不眠もしばしば見られます。

チック症の治療

精神療法

精神療法は、チックによって二次的に引き起こされる情緒的な問題の治療に効果が期待できます。

行動療法

特に習慣反転治療が効果的とされています。

薬物療法

よほど重度で生活に支障を来していない限り、薬物療法はすすめられませんが、一般的には抗精神病薬が使用されます。

家族が知っておくこと

チックは運動を調整する脳機能の特性やなりやすさが基盤にあり、親の育て方や本人の性格に問題があって起こるのではありません。

チックの変動性や経過の特徴を理解し、些細な変化で一喜一憂しないようにしましょう。

チックを悪化させる可能性のある状況や要因があれば、その対応を整理、検討しましょう。

チック自体を本人の特性の一つとして受け入れられるといいでしょう。

チックのみにとらわれず、長所も含めた本人全体を考えて対応しましょう。

チックや併発症及びそれに伴う困難を抱えつつも本人ができそうな目標を立て、それに向かって努力することを勧め、サポートしましょう。

【あがり症】社会不安障害(SAD)とはどんな病気?【社会恐怖】

社会不安障害とはどんな病気か

社会不安障害は社会恐怖ともいわれますが、そもそも恐怖症とはどういうもでしょうか。

恐怖症という言葉は、特定の物や環境や状況に対する過度の恐怖をさします。

その中でも社会恐怖というのは、当惑させられるような状況への強い持続的な恐怖です。

例えば、大勢の人の前で話すこと、公衆トイレで小水をすること、デートで会話することなどの場面で、屈辱的なことや当惑させられるようなことが起こるのではないかという過剰な恐怖を抱きます。

社会恐怖が全般化すると、不安から意欲が低下して、何をするのも億劫になり、外出することすら避けるような状態が見られることもあります。

引きこもりの方で、実は重度の社会不安障害が見られていることもあります。

社会不安障害の疫学

社会不安障害の生涯有病率は3~13%と報告されています。

男性より女性に多く発症すると言われていますが、実際の臨床では男性の方が多く受診されています。その理由ははっきりしていませんが、状況反応性に支障を来す場面が男性の方が多いのかもしれません。

社会不安障害の発症の好発年齢は10代ですが、多くは5~35歳で発症します。

社会不安障害の病因

社会不安障害にはさまざまなタイプがあり、それらの詳細な原因はそれぞれ異なると考えられています。

生物学的要因と遺伝的要因、さらには環境における出来事相互作用によるものなどさまざまな要因が影響しあい発症の要因になります。

ある研究によれば、パニック障害の親をもつ子供において、成長とともに人前に出ることを酷く躊躇するようになる素因を持つ子供がいるという報告があります。

社会不安障害の子供の親は、他の親よりも子供に対して無頓着で拒否的で、かつ過保護になりやすいという傾向がみられますが、小児期に行動抑制をしめしやすい要因になっている可能性が指摘されます。

神経科学的要因についても指摘されており、アドレナリン仮説、ドパミン系の活動が関与した仮説が示されています。

つまり、社会不安障害の方は、刺激に対して中枢性及び末梢性にノルエピネフリンやエピネフリンが過剰に分泌されやすい傾向、アドレナリン刺激に過敏である傾向があるということです。また、ドパミン系の機能障害が起こっているということです。

遺伝的要因

社会不安障害の人の第1親族は、健常な人の第1親族の約3

、社会不安障害になりやすいとされています。

また、一卵性双生児では二卵性双生児より一致率が高いという報告もあります。

社会不安障害の診断

下記の項目に多く当てはまるようなら受診を検討してみてはいかがでしょうか。

・よく知らない人たちの前で、他人の注目を浴びるかもしれない状況がとても苦手である。

・そのような状況で、恥をかいたり、恥ずかしい思いをすることがすごく不安である。

・そのような人前や注目を浴びる状況になると、不安が誘発され、強い不安・緊張感、動悸、震え、発汗、パニック発作、泣く、かんしゃく、立ちすくむなどの症状がでる。

・そのような状況から逃げるために、ずる休みや、欠勤したり、嘘をつくことがある。

社会不安障害の経過と予後

社会不安障害は、小児期後半または青年期早期に発症することが多いとされおり、他の不安障害と同様に慢性の経過をとることが多いです。そのため、症状の特性をしり、治療しながらうまく付き合っていくことが大切です。

社会不安障害の治療

社会不安障害の治療には精神療法も薬物療法も有効であるといわれており、精神療法と薬物療法を併用するとどちらか一方だけの治療よりも良い結果がでるという報告があります。有効な薬物療法

1)選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI:selective serotonin reuptake inhibitor)

2)ベンゾジアゼピン系薬物

多くの医師はSSRIが第一選択薬であると考えています。ベンゾジアゼピン系のお薬ではアルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)、クロナゼパム(リボトリール)の有効性が報告されています。

状況反応性に不安が強まる場合には、人前や苦手な場面に出る前にアテノロール(テノーミン)25~50mg、やプロプラノロール(インデラル)10~20mgを1時間前に内服します。

認知行動療法、暴露的技法も有効であるとされています。

治療することで随分生活が楽になる方が多く、苦しみ続けている方は早めに受診されることをお勧めします。