【抜毛症の経過、予後、治療】

【抜毛症とは】

抜毛症は繰り返し毛髪を抜き、その結果、他人からも分かるような様々な程度の脱毛状態に至る慢性疾患です。

抜毛症はフランスの皮膚科医が1889年に報告したものが最初と言われています。抜毛症は稀な病気と考えられていたため、記述もあまりありませんでした。

現在では、抜毛症それほど珍しくないと考えられています。

強迫症や衝動制御の障害と類似しており、抜毛を抜くまでの緊張感の高まりと、抜毛後の開放感と満足感が特徴です。

【抜毛症の疫学】

抜毛症の有病率は、患者さんが隠したがることもあり、実際より少なく評価されている可能性があると言われています。

抜毛症の診断は発生率、重症度、発症年齢、男女比によって大きく2つのカテゴリーに分けられますが、その他のカテゴリーも存在します。

  • 青年期の抜毛症

最も重症化、慢性化しやすいタイプは、青年期初期から中期に発症する型です。

生涯有病率は一般人口の0.6〜3.4%で、男女比は1:10で女性の割合が多いといわれています。しかし、男性は女性より抜毛を隠すことが多く、実際は男性ももっと多い可能性があります。

抜毛症一人っ子や、長子(兄弟、姉妹で1番上)に多いとされています。

  • 小児期の抜毛症

小児期の抜毛症は男女ともに同じ割合で見られます。また、青年期や成人期にみられる抜毛症に比べ発生率は高いですが、心理学的にも皮膚科学的にも軽症が多いといわれています。

  • 飲み込む抜毛症

抜毛症の35〜40%の人が引き抜いた抜毛を噛んだり、飲み込んだりします。このような行為が見られる約3分の1の方は、胃や腸などの消化管に毛玉が蓄積して危険な結石になります。

【抜毛症の併存症】

抜毛症の併存症としては強迫症、不安症、トゥレット症、うつ病、摂食障害、パーソナリティ障害があります。

物質依存との併存は少なく、病的賭博、窃盗症や他の衝動制御症との併存に比べても少ないといわれています。

【抜毛症の原因】

抜毛症には様々な要因が関わっていると考えられ、4分の1以上はストレス状況と関係しています。

  • 母子関係の障害
  • 1人で残される恐怖
  • 対象の喪失

などが発症のきっかけになる事が多いです。

抜毛症の家族にはしばしばチック、衝動制御障害、強迫症状が認められ、遺伝的素因を存在する可能性が示唆されています。

抜毛症と神経生物学的、遺伝学的研究】

抜毛症では左側被殻と左側レンズ核領域体積減少が指摘されています。

遺伝学的研究では抜毛症とセロトニン2A受容体遺伝子多型との関連が指摘されています。

【抜毛症の臨床像】

抜毛症の臨床像には2つの型があります。

  • 1つは、衝動や身体の感覚、あるいは思考を制御するために意図的に行われる無意識の脱毛です。
  • もう1つは、上記とは対照的に、座って何かをしている時などに行われる無意識の抜毛です。

抜毛症の方のほとんどは、この2つが組み合わさっています。

抜毛症の経過と予後】

抜毛症の平均発症年齢は10代前半で、しばしば17歳以前ですが、より年長での発症も報告されています。

慢性化するタイプと寛解するタイプがあります。

6歳以前の早期の発症例は指示や援助、行動療法に反応しやすく、寛解に至ることが多いといわれています。

13歳以降の遅い発症では慢性化の経過をとりやすく、早期発症例に比べて予後は良くないといわれています。

【抜毛症の治療】

実は医学的に抜毛症の最も良い治療法に関しての意見は一致していません。治療に関しては、精神科医と皮膚科医の連携が必要となる事も多いです。

精神薬理学的治療法としては、局所のステロイド、水酸化塩酸塩、抗ヒスタミン特性をもつ抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬があります。

抜毛症の初期の症例報告では、選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI)が有効であったとの報告があります。

SSSRIに反応が乏しい場合にはピモジド(オーラップ)などのドパミン受容体拮抗薬の追加で改善する可能性があります。

有効性が報告されている薬物は、フルボキサミン(ルボックス)、シタロプラム(Celexa)、ベンラファキシン(イフェクサーSR)、リチウム(リーマス)、クロナゼパム(リボトリール)、トラゾドン(デジレル)などがあります。

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