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【PTSD】トラウマと精神的な病気との関係、治療【うつ病】

トラウマの認知の広がりと理解不足の現状

(トラウマ)心的外傷という言葉は、日常的にもよく使われるようになりました。

精神医学や心理学とは縁がなくても日常生活の中でもしばしば登場します。

ではトラウマが何なのか、トラウマの結果何が生じるのか、どう対処するのが最も適切かなどということについて正しく理解されているのでしょうか。

精神的なショックのことを体験すると、人は「傷つき」ます。

では、日常に体験する「傷つき」と、様々な症状を引き起こす「トラウマ」の違いは何でしょう。

簡単に説明すれば「衝撃(ストレス)を受けたとき、対処できずにできる心の傷」をトラウマと呼びます。

ですから、同じことを体験しても、その人が対処できるかどうかで、トラウマになるかならないかも変わってきます。

(※但し、対処できなかったから「弱い人間だ」、「私に原因がある」とかそういうことではありません。)

トラウマが引き起こす病気

衝撃に対処できない場合は、トラウマになり様々な病気を引き起こします。

その代表的なものがPTSD(心的外傷後ストレス障害)ですが、うつ病や摂食障害なども引き起こします。

うつ病や摂食障害などの場合には、それがトラウマに関連したものであると気づいていない場合も多く、なかなか治らない状態になっています。

「弱いから」「未熟だから」「性格の問題だから」と周囲からも自分自身にも責められ、人間関係、社会生活状況の悪化からさらなるトラウマを引き起こしている場合もあります。

トラウマの治療の必要性

トラウマは治療しなければQOL(生活の質)が著しく下がります。

しかし、トラウマ自体がつらい体験なので、思い出したくない、あえて忘れるように無意識に避けていることもあり、トラウマが原因と気づかれにくいことも多いです。

トラウマとの向き合い方

トラウマは過去の出来事なので、トラウマをなかったことにはできません。

過去を変えられない以上、きっかけとなった体験の受け止め方を変えることが必要なのです。

トラウマの治療

トラウマの治療には、薬物療法(SSRIなどの抗うつ薬)、精神療法、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)などがあげられます。

認知行動療法などで、トラウマ体験そのものに焦点をあてて、トラウマ記憶に暴露させて、受け止め方を変える方法があります。

対人関係療法で、トラウマそのものではなく、トラウマの影響を受けた現在の対人関係に焦点をあてて、現状の生活のQOLを上げることにより、結果としてトラウマの受け止め方を変える方法などもあります。

認知行動療法はトラウマ体験に焦点をあてるため、怖くて耐えられない場合や、独学でやろうとすると、症状を悪化させる場合もあるので、専門の医師、カウンセラーと行うのがよいでしょう。

対人関係療法はそういった危険性が少なく、現在の対人関係に注目し、トラウマから生じている現状の日常の「生きづらさ」を改善させる治療法です。

トラウマが生じる時

ストレスへの対処の仕方は人それぞれです。

ショックな出来事があった後、そのことをくよくよ考える、気分転換をする、早く寝る、親しい人に相談するなどで対処していることが多いのではないでしょうか。

どれも、状況の整理、普段の自分自身の感覚、いつも通りの自分で問題ないという感覚を取り戻すのに有効でしょう。

このようないつもの方法で、普通の感覚を取り戻せているうちは対処できている状態です。

いつもの方法で対処できない、いつもの方法が使えないようなときにトラウマとなります。

ストレスが大きすぎると、「いつも通り」がわからなくなり、感受性も変化し、いつもは助けになっていた他人の言葉も逆につらく、傷ついてしまうこともあります。

小石につまずいて転んでも立ち上がり、声をかけてもらってもとのように歩き出せます。

しかし、地面が割れて落ちてしまったらどうしていいかわからなくなり、それがトラウマとなります。

とっても大切な「なんとかなる」という感覚

健康的に過ごすために大切な感覚が「なんとかなる」という感覚です。

誰もが未来を予知することはできませんので、次になにが起こるかわかりません。

そのようなことを心配し、不安に思いながら生活していては日常が成り立ちません。

私たちが落ち着いて生活できているのは、「なんとかなるだろう」という感覚、「無意識の信頼感」があるからです。

大きなストレスを受けるとこの「無意識の信頼感」が揺らぎ、不安や絶望感が止められなくなります。

トラウマは消せなくても治すことは可能

無意識の信頼感が崩壊していることでトラウマが生じているので、無意識の信頼感を回復することができれば、トラウマから回復できるのです。

トラウマになりやすい出来事の特徴

・出来事自体が生死にかかわる出来事であるか、ひどく恐ろく、残虐、衝撃的であること。
・予測が不可能で突発的であること。
・自分にも何かしらの責任を感じてしまうような状況を含むとき。

対人トラウマについて

人によってもたらされたトラウマを対人トラウマと呼びます。

例えば身近な信頼していた人からの虐待や性被害などです。

家族、親戚、身近な頼りになる人、社会的地位がしっかりしている人などといった、信頼できる基準が根底から崩れることになり、無意識の信頼感が崩壊します。

他人への信頼感の崩壊から、自分にも非があるのではないかと、自分への信頼感も崩壊していきます。

回復には、安全のルールを再確認し、信頼を少しずつ確立していく長い期間の治療を必要とします。

トラウマとPTSD(トラウマが生じやすい人)

同じ出来事を体験しても、トラウマからPTSDを発症する人としない人がいます。

トラウマの後にPTSDを発症するかどうかを予測する要因として、身近な人による支えの有無が大きいといわれています。

身近に相談できるような、質の良い関係性をもてる人物がいつかどうかということです。

このようにトラウマ体験の影響を決めるのは

・ストレス体験の衝撃の大きさ
・ストレスを受ける側の要因
・トラウマ体験後の経過、支援者の有無

ということになります。

子どもとトラウマ

子どものトラウマは大人よりも症状がわかりにくいといわれています。

ストレス体験の後も何事もなかったかのようにふるまっているように見えることもあります。しかし、子供は「無意識の信頼感」を構築する体験が少ないため、大人よりもトラウマを受けやすいといわれています。

ただし、適切に対処すれば、こどもは回復も早いのです。

子どもも大人と同じように症状として「再体験症状」「回避・麻痺症状」「覚醒亢進症状」などが主体となりますが、現れ方が異なる場合も少なくありません。

例えば、交通事故にあったこともが、おもちゃの自動車で衝突を繰り返し再現したりします。

また、無意識ですが、他人への信頼感を確認するために、赤ちゃん返りをしたりします。

他にも、眠れない、学校で成績が下がる、喧嘩などのトラブルを起こす、反抗的になるなど、いつもとは違う様子がみられます。

そのような場合にはまず、そのことを注意するのではなく、なぜそのようなことが起きているかを考えることが大切です。

対人関係療法について

対人関係療法とは1960年代から米国で開発された精神療法のひとつです。

現在でも治療効果を示す科学的根拠のある精神療法として注目されています。

対人関係療法はPTSDだけではなく、うつ病や摂食障害、双極性感情障害(躁うつ病)でも治療法として利用されます。

対人関係療法では病気の原因には焦点をあてません。

PTSDの場合、発症のきっかけはトラウマ体験ですが、トラウマ体験をどのように対人関係で扱い発症につながっているか、現在どのような対人関係から影響を受けているかが重要なのです。

PTSDと対人関係療法

現在の対人関係に焦点を当てて、無意識の信頼感を取り戻していきます。

発症に影響しているのがどの過程の問題によるものかを評価します

人は身近な人の死などのショックな出来事を体験した場合、だいたい同じような心の反応が起きます。

キューブラー・ロスによる死別の受容モデル

「否認」

「何かの間違いだ」「夢じゃないか」と頭でわかっていても、感情的に事実を否認します。

「怒り」

「なぜ自分がこんなつらい思いをするのか」というような怒りが出現します。

「取引」

「○○をするから、少しでも寿命を延ばしてほしい」というような非現実的な願望を取引しようとします。

「抑うつ」

死が逃れられないことを実感し、抑うつ気分、絶望感が出現します。

「受容」

死を拒絶し、回避することができないことを悟り、死を静かにみつめ、受け入れる体制ができます。

死別体験がトラウマになった場合、この死の受容の過程に影響し、複雑化して長引いてしまう場合があります。

そこに最も影響する感情は、「自責」、「後悔」、「罪悪感」です。

「なぜ私は生き残ったのだろう。」

「なぜあの時○○しなかったのだろう。」

「なぜ△△してしまったのだろう。」

このように後悔し、自分を責め続けると、受容のプロセスが複雑化し、長期化します。

また、仕事や家事に追われたり、関係者の対応に追われたり、受容の過程と向き合う暇がないと受容のプロセスがうまくいかなくなります。

死別した人との関係や、死別したときの状況を、安心できる環境で相談しながら、信頼できる身近な人との関わりを大切にすることで、整理していくことが大切です。

自分の気持ちを否定せずに、現在の自分の状態、状況を把握して、自分の役割、必要とされている事実を実感することによって、自分をいつもの感覚を取り戻すことができます

トラウマからの回復で最終的に目指す状態はエンパワーメント(有力化)

トラウマによって「無意識の信頼感」を喪失し、無力化された状態から、再び信頼感の獲得、自分の力を取り戻すことが最終的な治療目標になります。

まずは、専門家に受診するところからはじめてみてはいかがでしょうか。

【防衛機制とは】防衛機制から自分のことをもっと知る。

防衛機制とは

行動というのは欲求を満たすためのものです。

欲求が満たされると、欲求に伴う緊張状態が解除され行動が終結しますが、欲求がうまく満たされない時、すなわち欲求不満の状態では、緊張状態と強い不快感情が持続し、これは欲求が何らかの形で満足されるまで続きます。

そこで欲求不満状態を解消する為に種々の心的機制が必要になります。

環境からのストレス因子にも対応し、自己の欲求が生じても、はなはだしい葛藤や不安を生じることなく生活することを適応といいます。

そして、欲求不満状態、葛藤に由来する不安などの解消をめざし、適応を可能にするための精神作用を防衛機制(適応機制)といいます。

この機制は不安によって生じる自我の崩壊を防ぐ為のものであり、無意識の心的作用ということになります。

防衛機制の種類

抑圧

自己が承認しにくい欲求や、自己を破局に導く欲求を、無意識のうちに抑えつけ心の底に閉じ込めてしまおうとする心的機制です。

性的欲求、攻撃傾向、子供っぽい幼稚な欲求などが抑圧されやすいですが、欲求のエネルギーは解消されないまま抑えつけられるので不安の原因にやりやすいのです。

もっとも単純な適応機制ですが、効率はよくありません。

欲求を意識的に抑えること、がまんすることは禁圧といいます。

補償

劣等意識を克服するため、それとは反対方向の価値を実現したり、弱点そのものを克服したりすることです。

前者はたとえば病弱という弱点を学問で成果を上げることによって克服するものです。

後者は病弱を身体鍛錬によって直接に克服する場合などです。

置き換え

自分自身や他者に承認されにくい感情を、対象を別のものに移すことによって解消することです。

たとえば隣家の人を攻撃したいがそれができないので、攻撃しやすい対象である隣家のネコをいじめる(八つ当たり)といった例です。

昇華

性欲、権勢欲などの基本的欲求を、スポーツ、芸術、宗教など社会的に容認される方向に転化させて解消することです。

神経症の治癒過程や正常者でも見られます。

投射(投影)

自己の感情や欲求を他人や物に向けかえる心的機制です。

自己の弱点、欠点などを他人の中に見出して、その人を非難、攻撃する場合や、自分が他人に敵意を持っているとき、相手が自分に敵意を持っているように考えて、相手を憎み、警戒し、攻撃する場合などがあり、これによって自分の劣等感や罪責感を防衛します。

反動形成

欲求が満たせない時、その欲求と正反対の欲求を発展させ、心的平衡を保つことです。

たとえば「負け犬の遠吠え」といわれるように、小心な者がかえって虚勢を張る場合などです。

合理化

欲求が満たされないとき、耐え難い感情を理屈付けして理知的に処理し、自己を正当化することによって解消しようとすることです。

例えば、大学入試に失敗した時、「あれはつまらない大学だから合格しないでよかった」と自己を正当化する場合などで、やせがまん、自己満足ともいわれる状態です。

空想(幻想)

現実には満たされない欲求を空想のなかで満足することです。

白昼夢なども含まれます。

退行

低い発達段階に戻って未分化、未発達な行動をとることにより当面の困難を回避するものです。

子供返りなどが含まれます。

取り入れ、同一化(同一視)

自分にとって好ましい人、理想とする人の特性、たとえば、思考、態度、行動、筆跡、くせなどを自分に取り入れてまね、それによって自己の欲求の満足を図る無意識の心的機制です。

自我の発達に大きな役割を果たします。

ある人(A)のなかにほかの特定の人(B)の特性と同一のものを見出し、特定の人(B)に対する愛情や憎しみなどを前者(A)に対して抱くことを同一化といいます。

例えば精神療法の過程で主治医を父親と同一化し、主治医に対して依存や攻撃を向ける場合などです。

分離

本来は強い情動を伴った観念や行動から感情だけが切り離されて、観念や行動が実感を伴わぬものになることです。

強迫神経症の強迫観念、強迫行動がこれに相当します。

否認

自己が容認したくない欲求、体験、現実などを実際に存在しなかったものと考え、そのようにふるまうものです。

打ち消し(復元)

現実的あるいは空想の中で行われた行為や思考に伴う情動、とくに反道徳的行為・思考などに伴う罪悪感や恥などの情動を、これと正反対の情動的意味を持つ行為や思考を行うことによって打ち消そうとすることです。

償い、やり直しなどに相当します。

例えば宗教的戒律に反した行為をして、あとで償いの祈りや苦行をする場合などです。

強迫神経症の強迫行為(洗浄強迫、儀礼行為など)も打ち消し行為とされます。

反動形成もこれに似ていますが、人間の全体的態度をさし、打消しは個々の行為について表します。

知性化

自分を直視することを避け、知性の世界や、観念的な世界に逃避してしまうことです。

専門用語を乱発したり、やたらに難しい言葉を使ったり、言い訳的な言説に終始したりします。一見ものごとを理解しているように見えたりしますが、本質的なことは理解していないことも多いです。

 最後に

行動に駆り立てる衝動とは、実に卑近な感情でしかなのです。

自己分析においては、この卑近な感情を見つめる必要があります。

そして、語るべき言葉は、心の底から絞り出された、感情によって裏打ちされたものでなければなりません。

悲しみや、怒り、嫉妬、羨望、食い意地、独占欲、軽蔑、陰険な復讐願望など心の底にはこういった諸々の感情が眠っています。

こういう感情を見つめ、知的な言葉ではなく、自分自身の言葉で語らなければなりません。

そういう自分が許し難い自己と向き合うことが自己統制をしていくための最初の一歩になります。

強迫性障害の治療の実際【認知行動療法】

強迫性障害は完治が難しく、良くなったり悪くなったり、治療がなかなかうまくいかないことが多い病気です。

実際の良くなる人はどのような治療や経過をとっているかを見て、そこからあなたが利用できる良くなる可能性を見出してみてはいかがでしょうか。

「こんな風に良くなることができるのか」というイメージを持つことは、治療において非常に大切です。

では、実際の治療経過の一例からあなたが良くなるヒントを見つけましょう。

(症例に関しては個人が特定できないように改変されてあります。)

強迫性障害の治療経過の実際

「私は30代の女性です。夫と幼稚園に通う長女と3人暮らしです。

専門学校を卒業し、スーパーに正社員として勤務していました。

勤務して数年ほどたったのち結婚し、そのまま退職しました。その後は主婦として生活し、長女を出産しました。

小さいころから心配性で、忘れ物がないか何回も確認することはよくありました。」

「最初に症状がでたのは25歳の時でした。」

「きっかけはインフルエンザにかかってしまい、みんなにうつしてはいけないと心配していたのですが、自分がインフルエンザのウイルスをばらまいているんじゃないかと思うようになって、その考えがどんどん膨らんで不安になりました。

自分がウイルスをばらまいている不安を打ち消すために、両手を10回ずつ洗うというルールができたというか、そうしないと気が済まなくなりました。

次第に、泥棒が入ったら困るという不安から、戸締りを何回も確認するようになり、火事になったらどうしようという不安から、ガスの元栓や家電製品のスイッチがちゃんとoffになっているかどうか何回も確認するようになりました。

車を運転していても、誰かひいたんじゃないかとずっと考えてしまい、来た道をまた引き返して確認しにいかないと気が済まなくなりました。

駐車場では自分の持っていたバックが、他の人の車を傷つけてしまい、その車の持ち主が怖い人で、付きまとわれるかもと、勝手に怖い物語を想像するようになりました。

そんな生活のせいで、身も心も疲れて、外出するのも嫌になって、ずっと寝ていたいと思うようになりました。

家事もできなくなりました。でも確認はしてしまうんです。

目が覚めるとまた、やりたくないけど、不安だから確認しなきゃいけないんです。

食欲もなくなって、半年で10㎏ほど体重が減りました。

夫も両親もそんな私を心配し、診療内科に受診することになりました。」

強迫性障害とは

強迫性障害とは、反復する強迫観念(強迫思考)と強迫行為が基本的病像となります。

強迫観念とは

強迫観念とは、反復的、持続的な思考、衝動、または心像であり、侵入的で不適切なものとして体験され、強い不安や苦痛を引き起こすものです。

強迫行為とは

強迫行為とは、反復的な行動または心の中の行為であり、その目的は不安や苦痛を防いだり、軽減したりすることにあります。

強迫性障害とは

強迫性障害は、繰り返し生じる「強迫観念」と、無意味だと気付いても止めることのできない「強迫行為」によって日常生活に支障をきたす病気です。

強迫性障害の有病率

一般人口における強迫性障害の生涯有病率は2~3%といわれています。

発症好発年齢は、男性が6~15歳、女性が20~29歳くらいといわれています。

強迫観念の内容

強迫観念の内容については以下の内容とその出現割合が報告されています。

・汚染や感染に関するもの(37.8%)

・暴力に関するもの(23.6%)

・秩序やシンメトリー(対称性)に関するもの(10.0%)

・宗教(あるいは良心)に関係したもの(5.9%)

・性的な事柄に関するもの(5.5%)

・貯蔵・所蔵に関するもの(4.8%)

・反復儀式に関するもの

・無意味な疑いとしての強迫観念

・迷信に対する不安

強迫行為の内容

強迫行為の内容については以下の内容とその出現割合が報告されています

・確認行為(28.2%)

・洗浄や清掃に関する強迫行為(26.6%)

・儀式的行為(11.1%)

・心の中で行われる強迫行為(10.9%)

・整理整頓行為(5.7%)

・貯蔵や収集行為(3.5%)

・ものを数える行為(2.1%)

強迫観念が獲得される段階

ocd

「外出先でバイ菌がついたという侵入思考を経験して不安になる」ことと「帰宅する」ことが同時に体験され、レスポンデント条件付けされ、帰宅とばい菌がついたという侵入思考からの不安が結びつき、帰宅するとばい菌への不安が強迫観念として出現するようになります。

強迫観念から強迫行為の悪循環

ocd2上記に強迫観念と強迫行為の悪循環の図を示します。

では、実際に強迫性障害の認知行動療法をはじめましょう

エクスポージャー法に加え、強迫行為を止めるという反応妨害を加えた暴露反応妨害法が有効です。

暴露妨害反応法を行うと、60~80%で大幅な強迫症状の改善が認められています。

脳機能画像の所見なども変化・改善することが確認されています。

治療するために明確にすること

治療を始めるにあたり、次の項目を明確にする必要があります。

1)強迫行為の明確化(うつ病やその他の合併症も評価します)

2)自動思考の明確化

3)強迫観念の明確化

4)強迫スキーマの明確化

ひとつづず細かく見ていきましょう。

1)強迫行為の明確化

あなたの困っている行動について整理しましょう。

・「人とすれ違った後ぶつかっていなかったか不安になり、その人の容貌や状況を一生懸命思い出し、再現しようとします」

・「車の駐車や乗降車の時、他の車を傷つけていないか確認します。後で絵にかいたりして大丈夫だったか何回も確認します」

・「玄関や窓の戸締りに1時間、ガスの元栓に30分、その他電化製品のスイッチにそれぞれ20回づつくらい確認行為をしてしまいます」

(この段階でうつ状態、うつ病の合併があれば、先にうつ状態、うつ病の治療を開始します。)

2)自動思考の明確化

あなたのおっしゃる困ったことになるとは具体的にどうなってしまうことでしょう。

・「人にぶつかってたら、その人が後でつけまわしてきて、家を調べられるかもしれない」

・「車を傷つけたかもしれないし、もし傷つけていたら調べられて、多額のお金を請求されるかもしれない」

・「誰かが泥棒に入ってきてしまうかもしれない」

・「ガス漏れや漏電して火事になってしまう。家族だけでなく、隣や近所の人にまで迷惑をかけてしまう。」

3)強迫観念の明確化

どう思ったとき、どのような時に、困ったことになると思うのでしょう。

・「人相の怖い人や、雰囲気の怖そうな人を見たときに、事件になっていくイメージが出てきます」

・「車の傷を、持ち主が見つけて、怒って犯人を捜しているイメージがでてきます」

・「泥棒が入ってくるイメージや、家事になるイメージがでてきます」

4)強迫スキーマの明確化

その考えが度を過ぎていると思うのに、なぜ何回も確認するのでしょう。

・「今いろいろな事件があって怖いじゃないですか。人相や雰囲気とかもそうですけど、予感ってあるじゃないですか。」

・「チリやほこりからでも簡単に火事になってしまうし、泥棒が入って殺害れてしまう事件も多いですよね」

*強迫スキーマ

今回の場合、強迫スキーマは以下のようになります。

*この物騒な世の中では、簡単に事件に巻き込まれてしまう

*ちょっとした不注意で泥棒に入られたり、火事になってしまう

強迫観念と強迫行為の整理

ocd3図式に、整理された内容を当てはめてみましょう。

ocd4強迫観念、強迫行為が続くと、回避するようになり、生活における苦痛や障害が強まります。場合によってはうつ状態が出現することもあります。

治療目標を設定します

本人の希望に沿って、現実的な目標を話し合います。

短期目標:長女の幼稚園の送り迎えを、気楽にできるようにする

中期目標:日常生活が以前の心配性のレベルの生活に戻るようにする。ちょっと遠くのスーパーまで買い物に行く。

長期目標:家族で旅行に行く。

アセスメント、リベースライン

実際の臨床場面では、ここで病名告知、病気の説明、治療の見通し、希望づけ、動機づけが行われます。

大切なのは「治りそうな気がする。治療を頑張ってやってみたい」と思えることです。

薬物療法、認知行動療法を開始すること、及びそれに伴うノート等の記録するための道具、宿題等があることの説明を受けます。

(*実際の臨床現場では認知行動療法を診察だけで行うのは困難であり、ごくまれで、薬物療法を主体とした治療を診察で行い、認知行動療法についてはカウンセリングを利用することが一般的です。しかし、強迫性障害の専門外来をもっている病院や、クリニックでは診療場面で、薬物療法も、認知行動療法も行っているところもあります。)

治療の流れ

次のような流れで治療が進みます。

1)セルフ・モニタリング(自己観察記録)

2)自動思考変容

3)スキーマワーク

4)不安階層表の作成

5)暴露反応妨害法

1)セルフ・モニタリング(自己観察記録)

ノートにどのような場面でどのような強迫観念と強迫行為が出現したのかを記録してもらいます。

2)自動思考変容のための根拠探し表

問題となる自動思考:ガスの元栓を閉め忘れたらガス漏れする
この自動思考を支持する根拠 この自動思考を支持しない根拠
・ガスが漏れてしまうような気がするから ・ガスの元栓を閉め忘れても、コンロを使っていなければ簡単にガス漏れしない

・ガス漏れしても探知機が知らせてくれる

合理的なスキーマ:ガスは簡単には漏れないし、漏れても警報がなる

スキーマの得する面と、損する面を書き出すスキーマワーク

問題となるスキーマ:自分の不注意で簡単にトラブルや事件に巻き込まれる
そう考えた場合に得すること そう考えた場合に損すること
・トラブルや事件に巻き込まれないように気を付けることができる。 ・些細なことでもすぐに事件になっていまうのではないかと心配し、疲れる

・心配しすぎて歩く場所や、行くところも限定されて悲しくなる

・その考えが浮かんでくると不安になり、落ち込んでしまう

いつもびくびくしてストレスがたまる

合理的なスキーマ:家族や警察に相談したり、話し合うことで解決できることも多く、みんながそんなに極悪人じゃない

不安階層表をつくる

主観的障害単位(SUD:subjective units of disturbance)を使って不安を数値化します。

100が最も不安、苦痛を感じる状態を示します。

1.外出先の駐車場で車を停め、降りてくる(SUD 100)

2.寝る前の戸締りの回数を2回までにする(SUD 80)

3.ガスの元栓の確認を2回までにする(SUD60)

4.お米の水の量の確認を2回までにする(SUD 20)

などとなります。

ホームワークでの暴露反応妨害法の記録

下記の暴露反応妨害法の記録表を利用します。

ocd5

不安階層表でSUDが低いものから、強迫観念が出現する状況をつくりだし、その後の強迫行為を我慢します。

そこで出現した不安が時間とともに減っていくか確認します。

例えば0分後不安が100%であったとして、10分後、20分後と時間がたつにつれて、不安が80%や60%と減ってくるはずです。

治療経過

半年間治療を続けた彼女の声を聴いてみましょう。

「これまでは外出するのに確認行為で1時間以上かかっていたんですけど、今は10分で済んでます。近くのショッピングモールにも行けるようになりました。今度はもう少し遠出できるように頑張りたいです。」

「初めの頃の日記を読み返すと、可哀想な私だなと思います。」

おわりに

強迫性障害の認知行動療法の治療プロトコルを実施すると、強迫性障害の方の86%において十分な治療効果が得られたという報告があります。

強迫性障害の方は、きちんとトレーニングした治療者から認知行動療法が受けられる機会は乏しく、治療期間、薬物療法の効果、本人の治療意欲等でも予後が大きく変わり、かなりの割合で症状が改善せず、生活上の障害が残ることが指摘されています。

お困りの方は、まずは強迫性障害の専門外来への受診をご検討下さい。

 

摂食障害の治療【認知行動療法⑥】

摂食障害の治療【認知行動療法⑥】

第3段階の治療

第3段階の治療目標は今までの治療により得られた改善の維持と、将来の再発する可能性に対処するための準備をすることです。

1)改善の維持

これまでの治療で学んだ技能を繰り返し使います。

規則正しい食習慣を続け、過食や嘔吐をしない状態を持続させ、問題解決訓練法や認知再構成法を自ら実施します。

食生活日誌は摂食行動に対して完全にコントロールできるまで続けます。

そして、空腹感、満腹感が回復し、これによって食行動をコントロールし、決してダイエットをしない状態になれば中止します。

2)将来、問題に直面した時の準備

ストレス下において過食が再発しても、それに対処する技能を学習してきたのであり、いつでもその技能を有している。したがって将来過食を生じても、今まで学んできた技能を駆使し、翌日から正常な食生活に戻れば再発ではないとことを理解しましょう。

再発とは翌日からまた毎日連続して過食して嘔吐する生活のことです。

また過食を生じた時、なぜ生じたのか、如何に防げたのかを考えさせることが、将来の再発を防ぐことにもなります。

過食再発防止対策として、再発の危険性がある時または摂食行動が悪化しそうな場合、再発に関係している事柄を見つけ、それを解決するように具体的な計画を立て、これを実施しましょう。

摂食障害の治療【認知行動療法⑤】

摂食障害の治療【認知行動療法⑤】

第2段階の治療

第1段階の治療をしながら第2段階の治療を挿入していきます。

第2段階の治療には具体的には以下のような治療を行います。

①問題解決訓練法

過食は不愉快な出来事や抑うつ気分が引き金になることが多いため、過食になるような状況や契機を明らかにし、これに対処する技能を高める必要があります。

これには問題解決訓練法が有用です。この技能を用いて問題が解決されるようになると、以前過食に導いた出来事が過食しないですむことになります。

問題解決訓練法

1.過食に導いた出来事を取り出してください

例えば、母親と口論したとか

2.解決方法をできるだけ多く列挙してください

例えば、なぜ口論したのか。母親が悪いからか

何が悪かったのか、自分の考えを主張できたのか

そこに居合わせなかったほうがよかったのか

話題をかえられなかったのか

他のことをすればよかったのか

3.それぞれの問題について、その実行可能性、現実性という点で検討してください

4.最上の方法を選んでください

5.具体的な各段階を検討してください

6.これを実行してください

7.実行した全経過を10点満点で評価してください

過食になる時のきっかけになるような出来事や不快な感情を列挙してください

その1つを取り上げて、問題解決を検討していきましょう

そしてこの問題解決法をできるだけ多く使うようにしましょう

②認知再構成法

異常な摂食行動に導いている体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(肥満恐怖、やせ願望、やせていることは美しいなど)や摂食障害を持続させている思考、信念、信条(完全主義的傾向、二分割思考など)を明らかにし、これを変えていくことです。

1)歪んだ自動思考について

日常生活で過食したい衝動に駆られた時、食事を抜こうとしたとき、食事した時、体重測定の時、容姿について何か言われたときに生じた考えを記録してください。(認知療法トリプルカラム法でも良いです:トリプルカラム法

このようにして患者の歪んだ自動思考を意識化します。

例えば「私は食べ物に対する自制心を失っている。一度食べ出すと止まらない。もうどうでもよいとあきらめる。すぐに吐いてしまわないと太る。」などは摂食障害患者によくみられる自動思考です。

その他「私は太っている。体重を減らさねばならない。ダイエットしなければならない。また同じことをしてしまった。明日から過食を止めよう」なども多く認められます。

1-a)自動思考の意味の明確化

例えば「私が太っている」というのは、体重が重いことなのか、他人の目からみて太っているということなのか、などについて明らかにします。

1-b)その自動思考の妥当性を支持している根拠

例えば体重が少し増加して肥満したと考える場合、過去に体重増加により肥満したことがあることなどが支持する根拠となります。

1-c)その自動思考の妥当性を疑わせる根拠

体重が少し増加したのを太っていると思う場合、実際は少し増えただけで、肥満ではないことが反証となります。

この中で患者の二分割思考、選択的抽出、過度の一般化など、認知の歪みが明らかとなります。

1-d)自動思考に代わる現実的で妥当な結論を得る

現実場面で、今までの経過により得られた結論が、有効に機能することを確認すします。

2)歪んだ信念や価値観について

「やせは美しい、成功を意味する」「太ることは醜い、失敗を意味する」などに対してその意味を明確化して、その妥当性を支持する場合、疑わせる場合の真実と論拠を整理し、その信念や価値観を有している時の利害得失を考えさせ、妥当な結論を引き出します。

これらはスリムを礼賛する社会的風潮下ではなかなか変わり難いものがあります。

しかし繰り返して少しでも和らげることが肝要です。

事項はこちらです。→摂食障害の治療【認知行動療法⑥】

摂食障害の治療【認知行動療法④】

摂食障害の治療【認知行動療法④】

毎回、摂食行動と毎日の課題の達成具合を食生活日誌で吟味します。

できないことが生じれば、それについて議論し、新しい戦略を明らかにしていき、時間単位で改めていきます。

日々の成功については小さなことでも自分自身で誉めましょう。

そして失敗から学び更なる前進をするように激励します。

過食や嘔吐の意味の吟味をする

過食の回数が減り間歇的になれば、過食を持続させる要因について明らかにしていきます。

過食が必ずしも悪い面ばかりもっているのではないのです。

それは嫌な考え方の中断、抑うつ気分の一時的解消、時間つぶし、睡眠導入、激しい摂食制限の一時中断、または自分を罰するためにとか、助けようとする人たちを困らせるために役立っています。

これらが過食のプラス面で過食を持続させてしまいます。

一方、嘔吐は過食後の腹部膨満を解消したり、食物の吸収を減らすために行われます。

また少数の人にとっては緊張やストレスの緩和になることがあります。

なぜ過食や嘔吐をするのか、自ら分かるように努めましょう。

またこれらをうまく妨げた時、その方法を食生活日誌に書きましょう。

家族の協力を得る

家族(親や配偶者)に本人の摂食行動という秘密を家族に明らかにさせ、治療内容をオープンにしましょう。

これは秘密にしているとか、欺いていることに伴う罪の意識を減少させてくれます。

家族の協力は本人自身が食生活の改善に向かって努力できる環境を作ることですが、家族を過度に巻き込まないように注意しましょう。あくまでも本人自らが変わらなければならないのです。

以上第1段階の治療になります。

第1段階の治療でうまくいかない場合、例えば過食の頻度は減少しているが、1日1回はしているなどの状態であっても、治療開始時より過食と嘔吐の回数の減少が持続している場合は第2段階の治療も導入します。

第2段階の体型や体重に対する認知の歪みを改める治療を適宜挿入し、第1段階の治療も継続します。

そして本人の日常生活に支障をきたさない程度に減少するまで継続します。

この関わりは数か月~数年に及ぶことも少なくありません。

この間、本人の試行錯誤を許容し、心の発達と成長を温かく見守ってもらえる環境が必要です。

事項はこちらです。→摂食障害の治療【認知行動療法⑤】

摂食障害の治療【認知行動療法③】

摂食障害の治療【認知行動療法③】

食生活日誌を吟味します。

昼食をとばした理由などを詳しく聞いたり、過食を生じた時の情況の記録を見ながら、さらに詳しく振り返ります。

食生活日誌が後日書かず、その直後に正確に書かれることが大切です。食後に正確に記載していきましょう。

小さな達成(成功)を誉める

課題(例えば3回の食事を規則正しくとり、過食を1日2回から1回に減らすなど)をどの程度実施できたかについて食生活日誌にて検討します。

そして1週間に1日でもそれが達成できていれば賞賛しましょう。

この積み重ねが本人の無能感の改善につながります。

毎日の課題達成度を10点満点で評価しましょう。

これは本人の「全か無か」思考を打破するのにも良いでしょう。

というのは本人は1回過食したら2回も3回も同じだと考える傾向があります。

しかし1回でも過食を減らせばその分だけ体に対する害やそれに費やしたお金も節約できます。

この場合これを実感してもらうために、その分を貯金するといいでしょう。

このように食生活日誌にて課題の達成度を検討した後、また次の達成可能な課題を設定しましょう。

目標を高くしすぎると達成できないので、必ず達成可能な課題を与えることが大切です。

そして以下の情報を忘れないようにしましょう。

過食や排泄行動による身体合併症

目標体重は標準体重の85%以上で、極端なダイエットをしないで維持できる範囲にします。

ダイエット、飢餓や低体重が過食の引き金になります。

実際には、規則正しい食生活と過食がある程度コントロールできるまで、維持する体重範囲を決めないでおくのが良いでしょう。

身体合併症については、前回の項をご参照ください。http://lala-mentalclinic.com/kashokusyou/

体重調整としての排泄行動の無効性

嘔吐しても食べた物をすべて出せないこと、下剤や利尿剤の使用は水分を減らすだけで脂肪を減らさないこと、嘔吐は過食の効果を帳消しにし、次の過食の準備段階を形成し、嘔吐をやめない限り過食は止まらないことを理解しましょう。

規則正しい食生活の確立

毎日の生活の中で規則正しい食生活を確立することが最も重要な課題とし、1日3回か4回の食事、間食は1~2回として、決った時刻に食べる習慣をつけます。

時間が来れば空腹感の有無に関係無く食べましょう。

満腹感がないので食物の量はある程度(家族の食べている量を参考)を決めておきましょう。

また1回でも食事を抜くとそれが過食につながることを理解しましょう。

食生活の乱れがひどい場合、例えば1日に1食など、とりあえず2回にするというように段階的に行いやすい条件から規則的な食生活を導入しましょう。

この場合本人は太ると主張するでしょう。しかし過食の回数を減らすことが1日の総摂取カロリーを減らすことにつながることを理解しましょう。

過食しそうな状況や契機を如何に防ぐか

刺激統制法と代替行動に示すように刺激統制法により、過食を引き起こしそうになる食べ物、食事や状況を日頃からコントロールします。

また過食しそうになった時、これを避けるための対策として代替行動を行うようにします。

過食を防ぐ食べ方として、いろいろな工夫があります。

過食を防ぐ食べ方

例えばゆっくり噛んで食べる、噛んでいる間は箸を置く、飲み込むまで次の食べ物に箸をつけない、味を楽しむように食べさせる、食事の間大量の飲み物をとらない、一定の間隔で休ませ、早く食べ終わらない、などです。

嘔吐について、過食の効果を帳消しにするために行われる場合、嘔吐を止めない限り過食は続きます。

このため吐きやすい食べ物を避け、水分摂取を減らします(嘔吐するために大量の飲水をしているからです)。

食後すぐにトイレや洗面所に行かず、10分、20分、30分、1時間と徐々に嘔吐する時間を遅延させましょう。

下剤又は利尿剤については少しずつ減らしていきます。

事項はこちらです。→摂食障害の治療【認知行動療法④】

摂食障害の治療【認知行動療法②】

摂食障害の治療【認知行動療法②】

食生活日誌の記録をつける

食行動の自己観察記録である食生活日誌を毎日記録しましょう。

これは自分自身の食行動の実際を知り、過食に陥りやすい状況を把握するために行います。

実際起こっていることを記録することは問題を明確にし、これを克服していくための第1歩です。

体重測定は週1回行いましょう。

体重測定時の本人の態度で、体重に対する過剰な関心や肥満恐怖の程度が推定できます。

食生活日誌の例

 月 日( )  月 日( )  月 日( )  月 日( )  月 日( )  月 日( )  月 日( )
空腹感
満腹感
間食または
過食の内容
過食の回数(回)
過食の時間
( 時から 分間)
過食前の感情と思考
または過食のきっかけ
嘔吐(回)
下剤(錠)
便回数
睡眠時間
生理
身体のことで
気になること
過食に対する対処
手段と今日1日の
反省

食生活日誌の記載の仕方

これは、あなたの日々の食生活を詳しく知り、治療上役立てるために行うものです。

はじめは面倒に思いますが、すぐに慣れ、役立つことが分かります。

1.最初に食べたり、飲んだりした時刻を記入してください。

2.次に食事や過食中に食べた物や飲んだ物の内容をそのとど記入してください。あとでまとめて書かないようにしてください。

3.摂取カロリーは記載しなくても良いですが、数量についてはおおよそでよいですから記入してください。

4.食べたり飲んだりした場所についても記入して下さい。

5.嘔吐したときや下剤を使用したときには、これを記入してください。

6.あなたの過食のきっかけになったと思うことをできるだけ記入してください。

例えば母親と口論したとか、その他些細なことでもできるだけ記入してください。

そのときの自分の気分についても記入してください。

7.体重を測定したときは、それを記入してください。

事項はこちらです。→摂食障害の治療【認知行動療法③】

摂食障害の治療【認知行動療法①】

摂食障害の治療【認知行動療法①】

最初に断っておきますが、この摂食障害の認知行動療法を行うのは、過食症の人が対象となります。

(過食症と拒食症で対応が異なるので、今回は過食症の人が対象となります。)

まずは第1段階である「摂食行動の正常化」を行い、過食と嘔吐の改善を目指します。

しかし、摂食障害患者の体型や体重に関する過剰な関心や認知の歪みを変えることは容易ではなく、これらは心の発達や成長と密接に絡む為、治療には長期間(年単位)を必要とすることが多いです。

そのため、第1段階の「食行動の正常化」の治療を中心に長期間にわたり実施しながら、その間第2段階の体型や体重に関する歪んだ信念や価値観の修正を行う治療を適宜挿入していくこととなります。

認知行動療法の考え方

神経性過食症の人は、低い自己評価により体型や体重に関して過剰な関心や歪んだ信念や価値観(認知の歪み)を有し、これが肥満恐怖や痩せ願望となり、その結果極端なダイエット、自己誘発性嘔吐、下剤や利尿剤の乱用に至るという「認知行動モデル」仮説に基づいています。

そして過食は極端な食事制限の反動として生じると考えられています。

したがって体型や体重に関する過剰な関心や歪んだ信念や価値観の修正を行うことが、摂食行動異常を改善することになります。

治療目標と構造

治療目標は、摂食行動の正常化と体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(認知の歪み)を改めることにあります。

治療構造は3段階からなり、第1段階は過食や嘔吐などの摂食行動異常の正常化を、第2段階は体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(認知の歪み)の修正を、第3段階はこれらの変化を持続、強化することを目標として施行されます。

治療を行っていく際に信頼できる主治医の存在は治療経過に大きく作用します。

主治医との信頼関係を基盤として、本人と治療者が過食に打ち勝って正常な食生活を回復するという共通の目的に向かって、共同戦線を張る必要があります。

そして本人が努力して自分自身を変革していく過程において、主治医が情報を与え、提案し、支持を与え、くじけそうになっても激励、勇気づけてもらえる環境があると予後が良くなります。

治療の手順

1)第1段階

病気についての教育と治療に対する動機付けを行い、過食と自己誘発性嘔吐、下剤乱用などの摂食行動異常の改善が目標となります。

本人の症状や徴候を明らかにし、現在の症状を評価します。

そして「治った状態とは」通常の意味での治癒(根治)ではなく、長い間過食がとまっていても、ストレス状況下で再び過食を生じる可能性があること、しかしその場合翌日から正常な食生活に戻れば「治った状態」であることを理解しましょう。この段階で納得しない場合は、この治療法には適していないと判断した方がいいかもしれません。

具体的な摂食行動上の問題を、本人と協力して解決していくというスタイルをとり、達成可能な課題を設定する(例えば1日3回の過食を2回に減らそう、毎日1回なら週に1回過食をしない日をつくるなど)。

そして本人が課題を達成したら、それを誉めましょう。

認知行動療法は、本人が治療に主体的に参加し、その努力の程度に応じてその成果も得られること、全力を傾注すれば必ずよくなることを保証されるとうまくいきます。

また「何度も失敗してしまう。分かっているけどやめられない。」といった心理状態にある場合、「『人生、七転び八起き』、何回挫折してもそれから立ち直ることが重要であること。失敗すること自体は問題ではなく、問題なのはそれから立ち直ろうとしないことであること。立ち直る練習をし、そうする努力を重ねているうちに必ず報われ、自己変革できること。」を理解していきましょう。

くじけそうな本人を常に励まし、勇気づけていく、そして本人は選手で治療者はコーチ、親は応援者のような存在であることもよく理解しておきましょう。

事項はこちらです。→摂食障害の治療【認知行動療法②】

自己評価を確立するための特別な方法【認知療法⑥】

自己評価を確立するための特別な方法【トリプルカラム法】

1.内面の批判的な声に反発する。

自己価値観の低さ、価値がないという気持ちはあなたの内面の自己批判的な声から作られます。「自分はだめだ」「自分は劣っている」などと自分を卑下する声が、絶望的な感情を作り出したり、自尊心を傷つけます。これを克服するためには次のこをとやっていく必要があります。

1)自分の内面に、自己批判的な声が浮かぶとき、それをはっきり記録する

2)考えをみつめて、どのように歪んでいるかを考える

3)もっと合理的な自己評価になるように、具体的にその声に反発する

具体的なやりかたとしては下にある<認知修正シート>を使います。

【トリプルカラム法】下の図のようにまず三つのスペースを使います。

自動思考 認知の歪み 合理的な反応・修正
 

 

例えば、朝寝坊して、会社にどうやっても遅刻することになりました。

あなたはどう考えるのでしょう。

「自分はのろまでくずだ」「いつも遅刻している」「皆が自分を軽蔑するに違いない」「出世はないな」

このような自動思考は不安や焦りを引き起こし、動悸や息苦しさ等の身体症状を引き起こすでしょう。

まずは、でてきた自動思考を書き出してください。

自動思考 認知の歪み 合理的な反応・修正
1.自分はのろまでくずだ

2.いつも遅刻ばかりしている

3.皆が自分を軽蔑するに違いない

4.もう出世はないな

次に以前の認知の歪み10の定義を当てはめてみます。多少間違ってても構いませんので、当てはまるだろうと思うものを当てはめてみて下さい。

自動思考 認知の歪み 合理的な反応・修正
1.自分はのろまでくずだ

2.いつも遅刻ばかりしている

3.皆が自分を軽蔑するに違いない

4.もう出世はないな

1.レッテル貼り

2.一般化のしすぎ

3.心の読みすぎ

先読みの誤り

4.先読みの誤り

では、次に一番重要な認知の修正作業を行います。右側に合理的な反応を書き込みます。思いつかない場合は自分の家族や友人が一番左の自動思考のような相談を持ち掛けてきた時に、どのように答えてあげるかを考えてみて下さい。

自動思考 認知の歪み 合理的な反応・修正
1.自分はのろまでくずだ

2.いつも遅刻ばかりしている

3.皆が自分を軽蔑するに違いない

4.もう出世はないな

1.レッテル貼り

2.一般化のしすぎ

3.心の読みすぎ

先読みの誤り

4.先読みの誤り

1.のろまで、くずは言い過ぎだ。人間なんだから寝坊することもある

2.この1年で実際遅刻ばかりしている訳ない

3.皆、他人のことをそんなに考えていない

4.遅刻したから出世しないなんて聞いたことがない、出世の評価はもっと別なことの影響が大きい

また、この作業を行って、最初の自動思考の時に出現した感情を「不安」や「怒り」や「落ち込み」等の言葉で表現してみましょう。その感情が100%からどのくらい減ったかを考えてみて下さい。

元々でていた負の感情が、実際少しでも軽減できたことを実感できれば成功です。

自動思考 認知の歪み 合理的な反応・修正 感情
1.自分はのろまでくずだ

2.いつも遅刻ばかりしている

3.皆が自分を軽蔑するに違いない

4.もう出世はないな

1.レッテル貼り

2.一般化のしすぎ

3.心の読みすぎ

先読みの誤り

4.先読みの誤り

1.のろまで、くずは言い過ぎだ。ここまで成し遂げたこともあった

2.この1年で実際遅刻ばかりしている訳ない

3.皆、他人のことをそんなに考えていない

4.遅刻したから出世しないなんて聞いたことがない、出世の評価はもっと別なことの影響が大きい

落ち込み

100→80

悲しみ

60→40

不安

100→70

絶望感

90→60

毎日10分でもいいので、2週間程続けてみてください。必ず自分の認知に変化が訪れるでしょう。