【チックの拮抗反応トレーニング】

チックを治療するにあたり、まず本人が気付いて認識する必要があります。

チックに気付き、記述して、先行する感覚や行動を認識して、チックの出現を認識出来るようにします。

拮抗反応は、チックの前駆衝動が出現するか、または、チックが始まった直後に患者さんが取り入れる一つの動作です。チックや前駆衝動が起きたらすぐに実施します。

【拮抗反応のトレーニングの効果仮説】

  • チックと大脳基底核の回路における顕在化の競合
  • 拮抗反応による患者さんの前駆衝動への慣れの発生

【拮抗反応のトレーニング】

拮抗反応はそれぞれのチックの前駆症状に基づいて行い、最低1分か、前駆症状が消えるまでか、いずれか長い方の時間保持します。

拮抗反応を選択し、拮抗反応と正しい実施をデモンストレーションし、練習します。

拮抗反応として使用する動作は下記を目安に選択します。

  • 標的とするチックと物理的に両立できないもの
  • もとのチックよりリラックスした、自然で品があるもの
  • 最低1分間、または前駆症状が明らかに減少するまで、保持できる最適化されたもの
  • 社会的に目立たないもの

【運動チックの拮抗反応の例】

  • [瞬き]意識して瞬きする。真っ直ぐ前を見る。物体に焦点をあてる。
  • [顔をしかめる]優しく唇を結ぶ。
  • [眉の動き]ゆっくりコントロールした瞬きをする。
  • [首を回す]顎を軽く下に引きながら首の筋肉を緊張させる。
  • [唾を吐く]唇を強く閉じ、腹式呼吸をする。
  • [舌打ち]舌を口の中で上顎に押し付け、口を閉じて、息をする。

【抜毛症の経過、予後、治療】

【抜毛症とは】

抜毛症は繰り返し毛髪を抜き、その結果、他人からも分かるような様々な程度の脱毛状態に至る慢性疾患です。

抜毛症はフランスの皮膚科医が1889年に報告したものが最初と言われています。抜毛症は稀な病気と考えられていたため、記述もあまりありませんでした。

現在では、抜毛症それほど珍しくないと考えられています。

強迫症や衝動制御の障害と類似しており、抜毛を抜くまでの緊張感の高まりと、抜毛後の開放感と満足感が特徴です。

【抜毛症の疫学】

抜毛症の有病率は、患者さんが隠したがることもあり、実際より少なく評価されている可能性があると言われています。

抜毛症の診断は発生率、重症度、発症年齢、男女比によって大きく2つのカテゴリーに分けられますが、その他のカテゴリーも存在します。

  • 青年期の抜毛症

最も重症化、慢性化しやすいタイプは、青年期初期から中期に発症する型です。

生涯有病率は一般人口の0.6〜3.4%で、男女比は1:10で女性の割合が多いといわれています。しかし、男性は女性より抜毛を隠すことが多く、実際は男性ももっと多い可能性があります。

抜毛症一人っ子や、長子(兄弟、姉妹で1番上)に多いとされています。

  • 小児期の抜毛症

小児期の抜毛症は男女ともに同じ割合で見られます。また、青年期や成人期にみられる抜毛症に比べ発生率は高いですが、心理学的にも皮膚科学的にも軽症が多いといわれています。

  • 飲み込む抜毛症

抜毛症の35〜40%の人が引き抜いた抜毛を噛んだり、飲み込んだりします。このような行為が見られる約3分の1の方は、胃や腸などの消化管に毛玉が蓄積して危険な結石になります。

【抜毛症の併存症】

抜毛症の併存症としては強迫症、不安症、トゥレット症、うつ病、摂食障害、パーソナリティ障害があります。

物質依存との併存は少なく、病的賭博、窃盗症や他の衝動制御症との併存に比べても少ないといわれています。

【抜毛症の原因】

抜毛症には様々な要因が関わっていると考えられ、4分の1以上はストレス状況と関係しています。

  • 母子関係の障害
  • 1人で残される恐怖
  • 対象の喪失

などが発症のきっかけになる事が多いです。

抜毛症の家族にはしばしばチック、衝動制御障害、強迫症状が認められ、遺伝的素因を存在する可能性が示唆されています。

抜毛症と神経生物学的、遺伝学的研究】

抜毛症では左側被殻と左側レンズ核領域体積減少が指摘されています。

遺伝学的研究では抜毛症とセロトニン2A受容体遺伝子多型との関連が指摘されています。

【抜毛症の臨床像】

抜毛症の臨床像には2つの型があります。

  • 1つは、衝動や身体の感覚、あるいは思考を制御するために意図的に行われる無意識の脱毛です。
  • もう1つは、上記とは対照的に、座って何かをしている時などに行われる無意識の抜毛です。

抜毛症の方のほとんどは、この2つが組み合わさっています。

抜毛症の経過と予後】

抜毛症の平均発症年齢は10代前半で、しばしば17歳以前ですが、より年長での発症も報告されています。

慢性化するタイプと寛解するタイプがあります。

6歳以前の早期の発症例は指示や援助、行動療法に反応しやすく、寛解に至ることが多いといわれています。

13歳以降の遅い発症では慢性化の経過をとりやすく、早期発症例に比べて予後は良くないといわれています。

【抜毛症の治療】

実は医学的に抜毛症の最も良い治療法に関しての意見は一致していません。治療に関しては、精神科医と皮膚科医の連携が必要となる事も多いです。

精神薬理学的治療法としては、局所のステロイド、水酸化塩酸塩、抗ヒスタミン特性をもつ抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬があります。

抜毛症の初期の症例報告では、選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI)が有効であったとの報告があります。

SSSRIに反応が乏しい場合にはピモジド(オーラップ)などのドパミン受容体拮抗薬の追加で改善する可能性があります。

有効性が報告されている薬物は、フルボキサミン(ルボックス)、シタロプラム(Celexa)、ベンラファキシン(イフェクサーSR)、リチウム(リーマス)、クロナゼパム(リボトリール)、トラゾドン(デジレル)などがあります。

【日照時間とうつ病、躁うつ病の関係】

最近は、日中に屋外で日光を浴びることが少なく、夜間はスマートフォンやPCなどの使用で遅くまでブルーライトの光に暴露されるような環境で過ごす人が増えています。日中の光を浴びる量(光暴露量)の低下と夜間の光暴露量の増加は、人体にどのような影響を及ぼすのか説明します。

【光暴露環境の影響力】

光暴露環境はうつ症状、メラトニン分泌異常、肥満、動脈硬化などに影響を及ぼしていると言われています。

【うつ症状への高照度光療法】

光暴露とうつ症状の研究は多く、日中光暴露の増加はうつ症状を改善すると言われています。

高照度光療法は、通常午前中に30分から1時間程度、5,000から10,000ルクスの光をあびる治療法です。

【夜間光暴露の増加の健康への影響】

夜間光暴露量の増加は、メラトニン分泌を抑制し、睡眠の質の悪化、体内時計(概日リズム)の乱れを引き起こします。特に、躁うつ病の方は躁状態を悪化させる可能性があります。

【日照時間と自殺の関係】

夏と冬の間の日照時間の差が大きいことが、躁うつ病の方の自殺未遂の頻度と関係しているという報告があります。

【うつ状態の時は日中の日光浴は大切】

このように、日光浴がうつ状態を改善する報告がありますので、朝、日光を浴びるのはとても大切です。

私は飼っている犬に毎朝起こされて、朝5時半に散歩に連れて行きますが、冬はまだ暗いですね。

【摂食障害の治療〜心理的アプローチ〜】

「私は吐くということが恐ろしいから、食べることも恐怖なのです。それはもう保育園の頃からです。でも弱音は吐けません。誰にも心配させたくないからです」

「体重は40kgですが、このお腹の贅肉を手術してでもとりたい」

「食べ出したら止まらなくなり、あるもの全部食べても満足しません」

「毎日下剤を60錠くらい飲まないと気が済みません」

「一日中食べ吐きのことばかり考えてます。食べる前から吐くことを考えてます」

摂食障害の方は、それぞれ症状も違います。

【摂食障害には幼少期の体験が影響している事が多い】

摂食障害の治療においては、まず生育歴が重要になることが多いと考えます。実際、親子の関係が改善して良くなる方がいますし、患者さんが中壮年になって直接親子関係に介入できない場合は、過去の、特に幼少期の傷ついたインナーチャイルド、現在まで続いている子供の頃の思考パターンや習慣を癒し、克服することで改善することが多いのです。

【摂食障害の人に吐くなと言っても意味がない?】

「食事を制限して運動しましょう」

「吐いてはいけない」「下剤は使ってはいけない」

「もっと食べましょう」

摂食障害の方に、こういう事はあまり話しません。摂食障害の方は、食べること、吐くこと、体形、容姿、体重のことにとらわれて、それらの事は熱心に話をしますが、「大事なこと」は、話しません。話しませんというより、本人も気づいていないこともよくあります。これまでの不安感、恐怖心や羞恥心を隠しておることが多いのです。

【摂食障害の治療】

摂食障害の治療とは、患者さんの拒食、過食の原因となっているイライラや不安、恐怖、不満、寂しさ、羞恥心を改善することが大切になります。その心理的な葛藤は過去に隠されています。

【摂食障害を防ぐ子育ての大切さ】

子育てが非常に難しいことは、我が身をもって実感しています。自立の強調、強制や処罰のしつけが全て悪いとは思いませんが、もっと自由に愛して、ほめて育てることを大切にしてほしいと思います。

【パニック障害とカフェイン】

電車やバスなどの公共交通機関、歯医者や美容室や映画館などで息苦しさや動悸、冷や汗などの軽いパニック症状が出ている方は、カフェイン(コーヒーや紅茶、エナジードリンクなど)をやめるだけで症状が軽減する人が多いです。不安感と不眠が見られる方に、カフェイン摂取が多い方がしばしば見られます。夜中に過呼吸が起きて目覚めるようなら早めに精神科、心療内科の受診をお勧めします。

【芸能人の適応障害について】

深田恭子氏が適応障害との報道がありましたが、きちんと治療すれば完全に回復する可能性の高い病気ですので、治療に専念されて無理せず回復される事を祈ります。

【適応障害とうつ病の診断

実は臨床現場でも、適応障害、うつ状態、うつ病と診察する医師により診断名が異なる場合があります。正式な診断名というのは、国際疾病分類(ICD)という、異なる国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録、分析、解釈及び比較を行うため、世界保健機関憲章に基づき、世界保健機関(WHO)が作成した分類基準に基づいて医師が診察し診断します。

【臨床現場ではどういう判断をしている】

適応障害でもうつ状態は見られますし、その後、うつ病の診断に変わることもあります。では、どの様に適応障害とうつ病の診断をつけているのでしょうか。先程出てきたICDや米国精神医学会(APA)より刊行されたDSMという診断基準のチェックリススト様なものや、うつ状態を評価する心理検査があり、それらを参考にして、最終的には診察によって総合的に判断します。しかし、適応障害でもうつ状態が見られるとうつ病の診断基準を満たしてしまう事があり、そのため医師によって診断が変わる事があるのです。例えば、極端な話ですが、失恋して落ち込み、死にたい気持ちが続き、2週間以上仕事にも行けなくなって受診した場合、適応障害、うつ状態、うつ病かその他病名について医師によって判断が異なる場合があるという事です。

【診断名と症状名】

適応障害とうつ病は診断名で、うつ状態は状態を表現している症状名です。例えば、今、血圧を測定して高血圧の数値が出ても、それだけでは高血圧症という診断名がつくわけではありません。脳梗塞を発症して高血圧なのか、ただ緊張してて一時的に高血圧なのか、実際高血圧症という病気なのか調べて診断する必要があります。このように「うつ状態」、「高血圧の状態」とは、あくまでその時の状態で、原因となる診断名がすぐに分からない事も多く検査するなどして調べた結果、診断名が決まっていきます。うつ病の人はほぼうつ状態が見られますが、反対に「うつ状態」がある人が全てうつ病の診断になるわけではないという事です。

適応障害、うつ病の違い〜私はどう判断しているか

適応障害とうつ病の鑑別の判断基準として、個人的にはその時点での、発症要因と生活歴、家族歴を含めたその人の基質的素因、これまでの経過と現在の症状から内因的脳内伝達物質の機能障害の重症度を診察で評価して、検査も含め総合的に判断しています。それにより、そに人にとって薬物療法や精神療法、環境調整のどの治療法の有効性が高いかを予測し、どのくらいの経過でどの様に良くなっていくかを見通して本人に説明します。そう考えると、適応障害とうつ病は全く別な病気というより境目が曖昧な部分もあり、適応障害の方のうつ病への変化には注意が必要だと思います。今後医学の進歩とともに、脳画像検査や採血で適応障害とうつ病を見分ける検査が登場する時が来るかも知れません。

ラツーダ®錠/ルラシドン塩酸塩とはどんな薬か【統合失調症治療薬】

ラツーダ®錠(ルラシドン塩酸塩)とはどんな薬か

【商品名】ラツーダ®錠/Latuda®tablets

【一般名】ルラシドン塩酸塩

【剤型】錠剤 20mg/40mg/60mg/80mg

【適応疾患】

1)統合失調症

2)双極性障害におけるうつ症状の改善

【用法及び用量】

1)統合失調症

通常、成人にはルラシドン塩酸塩として40㎎を1日1回食後経口投与する。

なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日量は80㎎を超えないこと。

2)双極性障害におけるうつ症状の改善

通常、成人にはルラシドン塩酸塩として20~60㎎を1日1回食後経口投与する。

なお、開始用量は20㎎、増量幅は1日量として20㎎とし、年齢、症状により適宜増減するが、1日量60㎎を超えないこと。

【特徴】

ラツーダ®錠(ルラシドン塩酸塩)は2019年10月の時点では、統合失調症に対しては45の国と地域、また、双極性感情障害におけるうつ症状の改善に対しては6の国と地域で承認されている抗精神病薬になります。

国際双極性障害学会(ISBD:International Society for Bipolar Disorder)とCANMAT(The Canadian Network for Mood and AnxietyTretments)が2018年に出したガイドラインでは、双極性感情障害におけるうつ症状の改善のための薬物療法において第1選択の一つとして推奨されています。

【禁忌】

1)昏睡状態の患者(昏睡状態が悪化するおそれがある)

2)バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者(中枢神経抑制作用が増強される)

3)CYP3A4を強く阻害する薬剤{アゾール系抗真菌薬(イトラコナゾール、ボリコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール、ホスフルコナゾール、ポサコナゾール)、HIVプロテアーゼ阻害薬(リトナビル、ロピナビル、リトナビル配合剤、ネルフィナビル、ダルナビル、アタザナビル、ホスアンプレナビル)コビシスタットを含む製剤、クラリスロマイシン)を投与中の患者}

4)CYP3A4 を強く誘導する薬剤(リファンピシン、フェニトイン)を投与中の患者。

5)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

6)アドレナリンを投与中の患者(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)

【妊婦への投与】

ヒトでの影響が懸念される非臨床試験成績はありませんが、国内外を問わず、妊婦または妊娠している可能性のある患者を対象とした臨床試験は実施されておらず、ヒトでの影響は不明であることから、「妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。妊娠後期に抗精神病薬が投与されている場合、新生児に哺乳障害、傾眠、呼吸障害、振戦、筋緊張低下、易刺激性等の離脱症状や錐体外路症状が現れたとの報告がある。」という設定にされています。妊娠後期に投与された場合の新生児の離脱症状及び錐体外路症状につきましては抗精神病薬に共通の注意喚起として設定されています。

【授乳婦への投与】

非臨床試験で乳汁への移行が認められていますが、薬理作用や暴露量等からはヒトでの哺乳中の児における影響が不明であることから、「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。動物実験(ラット)で乳汁中への移行が認められている。と設定されています。

「死にたい」と相談された時どうすればいいのか

人から「死にたいと相談された時、どうすればいいのか

あなたは「死にたい」と思ったことがありますか。

そして、それを口に出して相談したことがありますか。

今回は人が「死にたい」ということについてまとめています。

ただ、今回は「死にたいということを、相談された人に読んで頂くことを想定した内容になっています。

「死にたい」と言っている人は、きっと辛い状態ですが、それを相談された方も同じくらい辛くなってしまうことも多く、少しでもこの記事が皆様の手助けになればと思います。

「死にたいという言葉の意味合いは、人によって大きく違う

「死にたい」という言葉は、非常に強い情動への影響力をもったフレーズです。

そのため、「死にたい」と言われた場合、その相手が大切な人や身近な人であればある程、言われた方も不安になり、どうすればいいか分からず混乱してしまいます。

「死にたい」と言われたとき、一番大切なことは、可能な限り落ち着いて“なぜ死にたくなっているのか”を聞き出せるかどうかということです。

「死にたい」と相談されたとき、「そんなこと言わないで」、「死なないと約束して」などと、つい言いたくなります。

もちろん、それらの言葉が相手の救いになる場合もありますが、“相談しなければよかった”と思わせることもあります。

まずは、“なぜ死にたいか”を聞いてあげられるかどうか”が大切だということを忘れないで下さい。

また、自分の気持ちを言葉にして人に話せるだけで、気持ちが楽になり、気持ちを整理できて落ち着けることもありますので、気の利いた返事やアドバイスはできなくてもいいのです。

誰が、なぜ「死にたい」と言っているのか。「死にたい」の種類について

「死にたい」と言っている相手の年齢、相手との関係、状況などから、「死にたい」理由が分かると、対応の仕方の方向性もみえてきます。

死にたいの奥に隠れている気持ち

臨床場面では「子どもが最近死にたいというが、どう対応すればいいか」という相談もしばしばみられます。

子どもと言っても、小学校低学年と、高学年、中学生、高校生でも大きく意味合いが違います。

子どもの精神的成長は数か月でも随分変わることがありますが、子どもは自分の気持ちを整理して、表現することが未熟です。

そのため、「死にたい」という言葉が出やすいことも多く、切迫性を評価する事が重要です。

ある子どもは、嫌な事、苦しいこと、投げ出したいことなど負の感情がでると、容易に「死にたい」という表現になることがあります。

本人は本当に”死にたいくらいつらい”気持ちなのですが、数日先に具体的な自殺を考えるくらいの”死にたい”とは意味合いが少し違います。

反対に、死にたいくらいつらくても、我慢して全く表現しようとしない子どももいます。

また、どうしていいか分からないことが辛くて“死んだ方が楽だ”と考える子供もいます。

親に心配かけたくないから言えない子供もいれば、誰に言っても聞いてもらえないと自分から相談することを諦めている子供もいます。

そこには、子供の特性、性格、それまでの経験、親との関係などいろいろなことが関係しています。

言葉に出来る子どもも、できない、もしくはしない子どもも、たいていは日常生活に変化が現れます。

元気がなくなる、赤ちゃん返りする、やけに怖がったり甘えたりする、お腹や頭が痛いという、食欲がなくなる、朝起きられなくなるなどの状態がしばしばみられます。

また、万引きなどの非行、リストカットや、大量服薬などの行動化がみられることもあります。

たいていは、子どもは親に心配をかけまいと隠そうとしますが、そういったサインを見逃さずに、寄り添って話をきいてあげることが大切です。

人によって苦しさへの耐性、対処できる力は違う。

子どもは、ストレスへの対処が苦手であるため、死にたいという表現を使いやすい傾向はあります。

また、情報過多な現代社会で、過激な表現に接することが多ければ、「死にたい」という表現への抵抗が少なくなっている人もいます。

ただし、自殺も考えるくらいの状態でも「死にたい」という表現になるため、安易にいつものことだからと考えるのは危険で、話を聞いて、理由と切迫性を評価することが大切です。

「死にたい」と表現している時点で、苦しさを処理できていないので、「死にたい」は「助けて」と同じ意味をもっていることを忘れないでおくといいでしょう。

何が原因で、どうすればいいかを少しでも一緒に考えてあげることが必要なのです。

しかしながら、「毎日死にたいと言われると、こっちもどうしていいか分からない」と相談される方もいます。その場合は、早めに専門的に評価、対策のための精神科、心療内科への受診をおすすめします。

「死にたい」が本人の利得を含む場面で使われてしまう場合

時に「死にたい」というフレーズが、相手を自分の思い通りに動かす手段の一つとして、意識的にでも無意識的にでも使われてしまう場面があります。

例えば、恋愛関係で別れ話になった時、別れを回避したいがために「死にたい」「死んでやる」という言葉による駆け引きが生じるような場面です。

実際、男女の問題で自殺される方がいるのも事実ですので、本当に死にたいくらいつらくなるのも分かります。

但し、「死にたい」でつなぎ止められる関係は健全ではなく、そう長くは続かないことが多いのが現実です。

そういう時はどうすればいいかという絶対的な正解はないため、話し合ったり、相談したりしながら、それぞれが落ち着くところに行き着くでしょう。

どうすればいいか分からず、精神科、心療内科に受診され、治療が必要になる方もいれば、カップルもしくは夫婦でカウンセリングをうけて、お互いに向き合いながら関係を改善、維持できる場合もあれば、結局別れる方もいます。

ただし、そこにうつ病などの精神的な病気が隠れている場合には、決断は先延ばしにして治療に専念するのが理想です。

身近な人からの「死にたい」の相談を受けた場合

親、親族、パートナー、友人などから「死にたい」と打ち明けられた場合は、その人との関係性にもよりますが、本当に切羽詰まっていることが多いと思います。

  1. うつ病などの病気の症状としての「死にたい」、希死念慮という症状

うつ病などの精神的な病気の状態の場合は、症状としての希死念慮という「死にたい」が出現します。

うつ状態、うつ病では脳内の働きのバランスが乱れており、死にたいとう感情がコントロールできなくなっています。そのような場合には専門的な治療が必要となります。薬物療法や精神療法、場合によっては入院治療が望ましい時もありますので、早めに精神科、心療内科に相談されることをお勧めします。

  1. 生への執着が乏しく、いつ死んでもいいというような「死にたい」感情が日常的に持続している

幼少期の虐待された体験やいじめられる体験、親からの愛情を感じにくい場合など、ストレス環境下で自己肯定感や自尊心がはぐくまれない状態が続くと、生きる事への執着が乏しく、「生きる意味が分からない」「いつ死んでも良い」という感情をずっと持ち続けてしまう場合があります。発達障害の方で、生きづらさをずっと抱えているような場合でもしばしばみられます。

「死にたい」と言っている相手が、実際に自殺してしまう可能性、死への切迫性を考える

もし、「死にたい」という相談を受けていて、具体的な死ぬ計画がなされている場合は、入院も視野にいれた受診が必要になります。

目の前でいまにも刃物を指そうとしている、飛び降りようとしている場合には説得しながら警察に連絡する必要があります。

精神的な病気が疑われれば、警察から入院治療につながる可能性があります。

また、お薬を大量に内服したり、刃物で自分傷つけるなど、すでに自殺未遂している場合には、救急車を呼んでまずは体の治療をすることになります。そこから必要であれば、精神科に紹介されるでしょう。

どうすればいいか分からないときは信頼できる人や専門機関に相談しましょう

「死にたい」という人に対応するのは本当に大変なエネルギーと覚悟が必要になります。

専門家がすべて解決してくれるわけではありませんが、どうしていいか分からない時は、まずは相談してみることが重要です。相談することで、自分の気持ちや現状が整理できる、すべきこと、出来ることがみえてきます。

人間は生まれながらに死にたいと思っている人は、ほぼいません。

つまり、死にたい気持ちがでているのは結果なのです。そこには必ず原因、理由、経過があります。

それが、病気の症状である場合もあれば、性格や考え方や、体験など様々要因が重なってる場合もあります。それらの結果死にたくなっているのです。

その理由がどうしようもない場面もあります。しかし、何かしらの「死にたい」気持ちが減らせる選択肢を提案できる場面もあります。

そこから先は本人次第にもなりますが、まずは自分の今を知ることからでいいので相談してみませんか。

広場恐怖、パニック障害とは【原因、症状、治療について】

広場恐怖とは

広場恐怖とは、スーパーマーケットや高速道路、新幹線や飛行機、美容室、歯医者、映画館など、その人にとって体調不良が出現した際に、そこからすばやく出られないような場所にいることに対する不安、恐怖です。

広場恐怖はしばしばパニック障害を伴いますし、パニック障害の人はほぼ確実に広場恐怖を生じると言われています。

つまり、すぐに逃げられない場所でパニック発作が起こる事への恐怖から広場恐怖が生じると考えられています。しかし、パニック発作のない広場恐怖の方もいます。

広場恐怖は仕事の能力や家の外での社会的状況で著しい支障をきたします。

広場恐怖、パニック障害の発症頻度

広場恐怖の疫学

広場恐怖の生涯有病率は0.6%~6%の範囲で報告されています。

このばらつきは、診断基準と評価法がさまざまであることが原因として考えられます。

広場恐怖の人の75%はパニック障害を伴うとされています。

多くの場合、広場恐怖は外傷的な出来事の後に発症すると言われています。

パニック障害の疫学

パニック障害の生涯有病率は1.5~5%と言われています。

女性は男性に比べて2~3

パニック障害を起こしやすいと言われていますが、男性では見逃されていることが多いとも言われています。

パニック障害を引き起こす社会的要因として、離婚や別離が確認されていますが、大きなストレス因があることもあれば、ストレス因がなくても発症することもあります。

一般的には若年成人期に発症するとされ、発症平均年齢は約25歳と言われています。

しかし、パニック障害も広場恐怖もあらゆる年齢で発症します。

パニック障害、広場恐怖の病因

パニック障害は病態生理学的には末梢と中枢神経系の両方の調節障害が関与していると言われています。つまり、パニック障害の方は、自律神経の交感神経系の緊張が亢進しており、繰り返される刺激に対する順応が遅く、中程度の刺激に対しても過剰に反応するということが報告されています。

パニック障害と関連する、主な神経伝達節質は、ノルエピネフリン系、セロトニン系、γアミノ酪酸(GABA)系と言われており、特にセロトニン系機能障害はかなり明白と言われています。

パニック誘発物質

パニックを誘発する物質はパニコーゲンと呼ばれ、パニックを引き起こします。日常生活で気をつけるべきパニコーゲンはカフェインです。

遺伝要因

パニック障害と広場恐怖については遺伝的要素を有するという結論が支持されています。

しかし、現時点で、特定の染色体の位置や遺伝子様式とパニック障害との関連を示唆するような情報はまだないようです。

心理社会的要因

認知行動理論

行動理論によれば、不安は両親の行動を模倣するか、古典的条件づけの過程を踏んで学習された反応であるといわれています。

古典的条件付けによりパニック障害と広場恐怖を説明すると、パニック発作のような不快な刺激が電車に乗るというようなごくありきたりの刺激と同時に起こると、電車にのるというありきたりな刺激を避けるようになります。

他の行動理論では、動悸のような軽微な身体症状と完全なパニック発作の出現とが結びついてしまうのではないかという仮説が立てられています。

但し、初回のパニック発作の原因の説明にはならないと指摘されています。

精神分析理論

精神分析理論では、パニック発作は不安を喚起するような刺激に対する防衛が失敗した結果生じると考えられています。

以前は軽度の信号的不安であった者が圧倒的は強い不安になり、これに身体症状が加わって完成されるとされています。

特に広場恐怖については、小児期における親の喪失と分離不安の既往が原因という指摘もあります。公の場所に一人でいることが、子供の頃の見捨てられるのではないかという不安を呼び起こすとされています。

パニック発作に関して、多くの方は心理的要因が全くないように述べられますが、精神力動的に考えると、しばしばパニック発作の心理的引き金を認識されていないだけで、明確になることがあります。

パニック発作の発症は一般的には環境因子ないしは心理的因子と関連しています。

パニック発作を発症するときには、特に喪失のようなストレスに満ちた生活上の出来事を数か月前に高い確率で体験し、大きな苦痛を体験していることが多いといわれています。

パニック障害において、ストレスからなる心理的出来事が、神経生理的変化をもたらすという仮説は、女性の双生児研究の結果から支持されています。この研究では、パニック障害は、17歳以前に体験された親との離別や親の死と強く関係していることが分かっています。

特に早期に母親と離別した場合には、父親と離別した場合よりも明らかにパニック障害の発症する頻度が多いとされています。

成人女性のパニック障害におけるもう1つの病因学的な因子として、小児期の身体的または性的虐待が指摘されています。

パニック障害、広場恐怖の症状

パニック障害の症状

最初のパニック発作は、しばしば自然発生的ですが、興奮や身体的運動、性行為や中程度の情動的外傷後(心理的なショックな出来事)の後に生じることもあります。

つまり、最初のパニック発作は予期できません。

さかのぼって確認するとパニック発作には先行する習慣や状況がみられます。そのような習慣としては、カフェイン、アルコール、ニコチン、その他の物質使用があります。

また、食事の睡眠が通常の状態でない時や、仕事中の照明が強すぎるなどの特異な環境設定などにも注意をしなければなりません。

パニック発作が始まると、10分ほどで急速に症状が増悪することが多いです。

主な症状は

極度の恐怖及び切迫した“死んでしまうのではないか”という感覚

頻脈、動悸、呼吸困難、しびれおよび発汗等の身体症状

動悸と胸部圧迫感から切迫した死を感じて、パニック発作中に失神する場合もあります。

発作は通常20~30分続きますが、1時間以上続くことはほとんどありません。

救急車を呼んだ場合、救急隊が就く頃には落ち着いている人もいます。

広場恐怖の症状

広場恐怖の人は助けが求められないような状況をかたくなに避けるようになります。

車や人通りの多い道、長い一本道、高速道路、混雑した場所、トンネルや地下、橋、エレベーター、バス、飛行機、電車、新幹線、等の乗り物などを避けます。

人によっては、歯科や美容室、映画館、高所を避ける人もいます。

また、外出時に家族や友人と一緒に行動したがります。

経過と予後

パニック障害の予後

パニック障害は通常、青年期後期、成人早期に発症しますが、小児期や青年期早期あるいは中年期に発症することもあります。

パニック障害は一般的には慢性に経過しますが、その経過は人によって異なり、同一の人でも変化が見られます。

約30~40%の方は長期間無症状で経過し、約50%の方は症状が軽度で生活がひどく妨げられることなく経過するといわれています。しかし、約10~20%の方は著明な症状が持続することがあるといわれています。

初回から2回目くらいまではパニック発作がああっても、比較的無関心でいる方も多いのですが、発作が繰り返されると、そのことばかり考えるようになります。

パニック発作は1日に数回起こることもあれば、月に1度も起こらないこともあります。

カフェインやニコチンを摂取しすぎると発作の症状は増悪します。

広場恐怖の予後

広場恐怖のほとんどの方は、パニック障害によると考えられています。

パニック障害が治療されれば、広場恐怖も時間とともに改善されることが多いとされています。

広場恐怖を早くかつ完全に消失させるために、行動療法が有効である場合があります。

うつ状態やアルコール依存症が合併すると広場恐怖の経過を複雑化するといわれています。

パニック障害、広場恐怖の治療

治療によってパニック障害と広場恐怖の症状は、ほとんどの方で劇的に改善します。

最も有効な治療法は薬物療法と認知行動療法です。

パニック障害、広場恐怖は治療が非常に有効で改善できる疾患であるため、我慢せずに早めに受診されることをお勧めします。

【いとこ婚】いとこ同士での結婚のリスク【精神疾患】

世界における近親婚

両親の血縁関係が、はとこよりも近い近親婚は世界の出生において10件中1件の頻度でみられるといわれています。

米国、韓国、中国では、いとこ同士の結婚を違法としています。

しかし、これらの国々でも近親婚が子をもうけることはありますし、近親婚による子供が米国に移住することもあり得ます。

では米国、韓国、中国では禁止されている、いとこ婚はによる出生は、精神科的にみるとどんなリスクをもっているのでしょうか。

いとこ婚におけるリスク

いとこ婚の子供の精神疾患のリスクを、非血縁者婚の場合と比較検討した研究があります。

北アイルランドでの15年間の約36例の後ろ向き全母集団コホート研究です。

全体の0.2%の両親がいとこまたは、はとこでした。

不良なメンタルヘルスの関連因子で補正した解析で、いとこ婚の子供は非血縁者婚の子供と比較して、気分障害(うつ病や躁うつ病)の薬剤を処方される割合が3倍高く、抗精神病薬(統合失調症などの治療薬)を処方される割合が2倍高かったとの結果でした。

はとこ婚の子供もこのような薬剤を処方される割合は高いものの、差は有意でなかったようです。

いとこ婚と精神疾患との関係

複数の遺伝子が気分障害や精神疾患などの精神障害のリスクに関係しており、両親からそれぞれの遺伝子を受け継ぎます。同様な形質を持つ人同士が結婚しやすいという指摘があります。

いとこ婚では、病気と関係する遺伝子がそろいやすいため(リスクアレルを有しやすい)、近縁者同士の結婚・出産は多因子遺伝(ポリジーン)の負荷の増加に影響する可能性が高いと考えられ、それらが精神疾患の発症率に関係しているのかもしれません。

まとめ

日本ではいとこ同士の結婚は禁止されていませんし、結婚相手はそれぞれの意志が尊重されるべきです。

しかし、いとこ同士の結婚、出産におけるリスクを知っておくことは、人生の選択肢を慎重に決定できる要素になると思われます。

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