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【アスペルガー】発達障害について知っておきたいこと【ADHD】②【病気の特徴編②】

大人で受診することの多い発達障害【ADHD】

ADHDとはattention-deficit/hyperactivity disorderの略で注意欠如・多動症と訳されてます。

ADHDの歴史

ADHDについての記録は、スコットランドのアレクサンダー・クライトンが1798年に出版した本の記述に表記されているとの説があります。

そわそわと落ち着かないこと、小さいころからみられる特徴であること、学業に影響がでることなど、不注意優勢型の子供についての記述がみられます。

1845年に、ハインリヒ・ホフマンが自分の息子に読み聞かせるために書いた絵と文が、絵本として出版され、その中に、椅子をガタガタとゆすってとうとう後ろにひっくり返る、テーブルクロスを引っ張って夕食を台無しにする子供が登場するが、まさに多動・衝動優勢型のADHDの子供の典型例と思われます。

このように200年近く前から、ADHDと思われる子供は普遍的に存在いていたのでしょう。

学術論文としては1902年に英国の小児科教授となったジョージ・スティルが発表した報告が最初と考えられます。

その後、多動傾向について、なんらかの脳損傷が影響しているのではないかとの考えが広まり、複数の研究者が微細脳損傷と多動についての関係性についての研究、報告がみられたが、微細な脳損傷が実際に発見されず、微細脳損傷という用語は次第に使用されなくなりました。

1980年にDSM-IIIで「注意欠陥障害(attention deficit disorder:ADD」という用語が採用されました。

1987年DSM-III-Rでは「注意欠陥多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)という用語となりました。

1994年DSM-IVではそのまま「注意欠陥t同姓障害(ADHD)」というカテゴリで、不注意優勢型、多動・衝動優勢型、混合型の3つの下位分類が設定されました。

日本では2008年日本精神神経学会の用語集で「注意欠如・多動性障害」という訳が使用され、広まっていきました。

2014年DSM-5の訳として「注意欠如・多動症」という言葉が用いられました。

DSM-IV-TR 注意欠如・多動性障害の基準

A.(1)か(2)のどちらか

(1)以下の不注意の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月以上続いたことがあり、その程度は不適応的で、発達の水準に相応しないもの:

<不注意>

(a)学業、仕事、またはその他の活動において、しばしば綿密に注意することができない、または不注意な間違いをする

(b)課題または遊びの活動で注意を持続することがしばしば困難である

(c)直接話しかけられたときにしばしば聞いていないように見える

(d)しばしば指示に従えず、学業、用事、または職場での義務をやり遂げることができない(反抗的な行動、または支持を理解できないためではなく)

(e)課題や活動を順序立てることがしばしば困難である。

(f)(学業や宿題のような)精神的努力の持続を要する課題に従事することをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う。

(g)課題や活動に必要なもの(例えばおもちゃ、学校の宿題、鉛筆、本、または道具)をしばしばなくす。

(h)しばしば外からの刺激によってすぐ気が散ってしまう。

(i)しばしば日々の活動で忘れっぽい。

(2)以下の多動性-衝動性の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月以上持続したことがあり、その程度は不適応的で、発達水準に相応しない:

<多動性>

(a)しばしば手足をそわそわと動かし、または椅子の上でもじもじする。

(b)しばしば教室や、その他、座っていることを要求される状況で席を離れる。

(c)しばしば、不適応な状況で、余計に走り回ったり高い所へ登ったりする(青年または成人では落ち着かない感じの自覚のみに限られるかもしれない)

(d)しばしば静かに遊んだり余暇活動につくことができない。

(e)しばしばじっとできない、またはまるでエンジンで動かされるように行動する。

(f)しばしばしゃべりすぎる

<衝動性>

(g)しばしば質問が終わる前にだし抜けに答え始めてしまう

(h)しばしば順番を待つことが困難である

(i)しばしば人の話をさえぎったり、割り込んだりする(会話やゲーム、遊びなど)

B.多動性-衝動性または不注意の症状のいくつかが7歳未満に存在し、障害を引き起こしている。

C.これらの症状による障害が2つ以上の状況(例えば学校または職場と家庭など)において存在する

D.社会的、学業的または職業的機能において、臨床的に著しい障害が存在するという明確な証拠が存在しなければならない。

E.その症状は広汎性発達障害、統合失調症、またはその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではなく、他の精神疾患(例えば気分障害、不安障害、解離性障害、またはパーソナリテイ障害)ではうまく説明されない

DSM-IV-TRからDSM-5での変更点として

・「7歳以前に」症状が存在する必要性が、「12歳以前に」という記述に変更されています。

・不注意、多動性と衝動性の診断基準となる必要項目数が、「6項目以上該当」が、「5項目以上該当」が必要となっており、1つ減って、診断されやすくなっています。

・広汎性発達障害などの自閉スペクトラム症と、ADHDの併存が認められるようになっています。

・部分寛解が認められるようになり、重症度を3段階で評価するようになっています。

(その他細かい変更点も多々ありますが、割愛します。)

このようにDSM-5になり、青年期・成人期のADHDの診断ができやすいようになっています。

ADHDの症状の一部である「感情のコントロールの困難さ」

衝動性から、ADHDでは感情のコントロールがきかずに、他者とのトラブルが生じる場合があります。

そのため、幼少期には「反抗挑戦性障害」や「素行障害」として問題視されたり、成人してからは「反社会性パーソナリティ障害」や「境界性パーソナリティ障害」と診断されるケースもあります。

またADHDと双極性障害(躁うつ病)との関連性はよく指摘されており、幼少時にはADHDと診断されていた方が、成長して、双極性障害と診断されているケースもあります。

では、実際の幼児期・児童期と成人期のADHDの特徴をみてみましょう。

幼児期・児童期の特徴

(不注意)

・学校の勉強で不注意ミスが多い

・授業中や実習中、注意の持続が困難になる

・人の話を聞いていないと、親や、先生に注意される

・課題、宿題が最後まで達成できない

・いくつかの課題の優先順位を考え、段取りを決めるのが苦手

・課題、宿題を先延ばしにする

・教科書や鉛筆その他の道具をなくす

・授業中でも気が散りやすく、先生の話に集中できていない

・友達の約束を忘れてしまう。

(多動性)

・授業中もじもじ、そわそわしている

・授業中でも席を離れる

・ひどく走り回ったり、高い所によじ登ったりする

・遊びの時、騒ぎすぎる

・動きた多く、落ち着きがない

・しゃべりすぎる

(衝動性)

・先生が話し終える前に答える

・列に並んだり、ゲームなどの順番を待つのが苦手

・他の子供の勉強の邪魔をする。

(感情のコントロールの苦手さ)

・かっとして暴れる、暴力的になる

・突然泣き出す

・親や先生に強く反発する

・非行行為がみられる。

成人期の特徴

(不注意)

・仕事や家事や用事など、日常生活や社会生活で不注意ミスが多い

・仕事での注意・集中の持続が困難である

・「上の空」「話をきいていない」と注意から指摘される

・仕事が最後まで達成できない

・仕事や家事の優先順位を考え、段取りを決めるのが苦手。

・計画を立てるのが苦手。

・しなければいけないことを先延ばしにする

・書類、財布、鍵など大事なものをなくす

・気が散りやすい

・スケジュール管理ができない

(多動性)

・座っている時も、顔や体を触ったりして落ち着かず、貧乏ゆすりなど体を動かす

・仕事中も頻回に席を離れる

・落ち着かない感じで、静かにすごすことができない

・いつも動き回っている。

・おしゃべりといわれる

(衝動性)

・相手が話し終える前に話始める

・順番待ちや、その他待つことが苦手

・よく考えずに発言または行動する。

・他人が傷つくことをつい言ってしまう。

(感情のコントロールの苦手さ)

・怒りっぽい、イライラしやすい傾向

・好訴的傾向

・反社会的行為

・ひどい落ち込みや、強い不安の出現しやすさ

では次回③では診断の流れについて説明します。

事項はこちらです。→【アスペルガー】発達障害について知っておきたいこと【ADHD】③【診断編】

【アスペルガー】発達障害について知っておきたいこと【ADHD】①【病気の特徴編①】

大人でも受診することの多い発達障害

大人になり、社会人となり、人付き合いの苦手さや、生活や仕事での失敗、うまくいかないことが繰り返され、

「どうしてみんなのようにできないんだろう」「普通にすごせない」「自分はみんなと何かが違う」

と感じたことがありませんか。

インターネットをはじめとする様々な情報をもとに発達障害というものを発見し、自分も発達障害ではないかという思いから受診される方が増えているように思います。

もちろん、発達障害の診断にならない方もいらっしゃいますが、広汎性発達障害、アスペルガー症候群、自閉スペクトラム症、注意欠陥・多動性障害など見た目ではわからない、生きづらさを抱えた方がいらっしゃいます。

発達障害について詳しく説明していきます。

診断の歴史

レオ・カナーが「情緒的交流の自閉的障害」という論文で報告をしたのが、1943年でした。

「代名詞の取り違え」「いつもと違う変化によって取り乱す」「何時間も同じ遊びに没頭する傾向」「物をくるくると回して遊ぶ」など現在でもいわれている自閉症の特徴がすでに報告されています。

発達障害、自閉症は最近出てきた病気ではなく、100年近くの過去にも、ひょっとしたらそれ以前から存在しているものなのです。

1944年にハンス・アスペルガーが報告した論文を再評価し、1981年にローナ・ウィングたちが「アスペルガー症候群」の報告後、自閉症スペクトラム症という概念を提唱し、”社会性の障害”、”コミュニケーションの障害”、”想像力の障害”の特徴をまとめています。

また、これらの症状とともに、聴覚、触覚などの間隔の過敏さや鈍麻の問題や、運動の問題など、生活における様々な困難をもっていることも報告しています。

さらに、ウィングは社会性の障害を「孤立型」「受け身型」「積極奇異型」の3タイプに分けています。

自閉スペクトラム症の特徴

1.社会性の障害

・他者との社会的相互関係を構築したり維持したりすることが困難

・自分のルールと社会のルールがずれてしまう。人が意識せずに習得している一般的な「暗黙のルール」が分からない。

・他社に対して無関心で、自分から他者とかかわりを持ちたがらない。【孤立型】

・他社の言いなりの状態で、人の言うことを何でも聞いてしまう。【受け身型】

・他社の気持ちや感覚を考えず、一方的に話をする。【積極奇異型】

2.コミュニケーションの障害

・話し言葉の遅れや異常:幼少期の反響言語(オウム返し)、人称代名詞の混乱。成人期の過度な丁寧で、繰り返しの多い一方的な会話。

・話し言葉の理解の問題:2つの意味を持つ単語の理解の困難さ。言葉を文字通りにとらえる傾向。冗談やからかいへの理解の難しさ、ずれ。

・口調と音量調節の異常。

・非言語的コミュニケーションの問題:仕草、表情の適切な表出や理解が困難

3.想像力の障害/反復した常同的動作

・柔軟で創造的な思考ができない。ごっこ遊びができない

・思考の柔軟性がない。応用が困難。

・行動の前に結果を予想するのが困難。

・変化への抵抗。幼児期:単純な反復的な動作。成人期:日常の決まり事がきっちりしすぎている。特定の対象への興味の集中。

自閉スペクトラム症の原因

以前は母子関係が自閉症の最大の原因という人もいたが、アスペルガーは「強い遺伝要因を背景にもつ、パーソナリティーの極端なかたより」と報告していた。

現在では中核症状においては神経発達過程の問題が指摘されており、子育てスキルの要因は否定的です。

DSM-5における自閉スペクトラム症の診断基準

A.社会的コミュニケーションの障害

複数の状況での社会的コミュニケーションと社会的相互交流が持続的に著しく不十分な状態が、過去または現在に存在していること。

1.社会的情緒的相互性が著しく不十分な状態

社会的接近(相手との距離感)が異常である状態。

正常な会話のやり取りがうまくいかない状態。

興味や情動、感情の共有が少ない状態。

社会的相互関係を始めたり、それに応じたりすることがうまくいかない状態。

2.社会的相互交流のために使用される非言語的コミュニケーション行動が著しく不十分な状態

言語、非言語的コミュニケーションの統合が乏しい状態。

アイ・コンタクトとボディ・ランゲージの異常またはジェスチャーの理解や使用が著しく不十分な状態。

表情による表現と非言語的コミュニケーションの全般的欠如

3.人間関係の発展・維持・理解が著しく不十分な状態

様々な社会的状況に適した行動をとることが困難

想像力を使った遊びを共同で行うこと、または友人を作ることの困難さ

同年代の人に対する興味の欠落

B.限定的反復的な行動パターン

制限され、繰り返し行われる行動・興味・活動のパターンが、以下の4つのうち最低2つ現在あるいは過去に存在する

1.常同的または反復的な動き、物の使用、または会話

単純な常同的運動、おもちゃを並べて遊ぶことなく、あるいは何かをめくったりひっくり返したりする動き、反響言語、風変わりな言い回しを繰り返すこと

2.同一性へのこだわり

ルーチンを守ることへの頑なさ、言語的あるいは非言語的行動における儀式的パターン

小さな変化に対する極端な苦悩、環境の変化に伴う困難、硬直した考えのパターン、挨拶を儀式的に繰り返すこと、毎日同じ道を通ったり同じものを食べたりすること

3.高度に制限され固定化された興味

その興味は異常に強いか、あるいは異常に焦点がずれている

変わった物に対する強い愛着るいは没頭、極端に限局したあるいは固執した興味

4.感覚入力についての過剰あるいは過小反応

環境の感覚面についての異常な興味

痛み、厚さ、寒さに対する明らかな無頓着、特定の音や素材に対する通常とは逆の反応、過度に物のにおいを嗅ぐまたは触ること、光や回転するものへ魅了されることなど

C.症状は発達の早期から存在しなければならない。しかし、社会的な要求が本人の能力の限界を超えるまでは、明らかにならないかもしれない。あるいは成長してからも対処法を学ぶことで表面にでないことがあるかもしれない。

D.症状は社会的、職業的、または他の重要な領域における現在の機能に臨床的に著しい障害を引き起こしている。

E.これらの障害は知的能力障害(知的発達症)または全般的発達遅延ではうまく説明されない。知的能力障害と自閉スペクトラム症とはしばしば併存する。自閉スペクトラム症と知的能力障害が併存する際には、社会的コミュニケーションは一般的な発達レベルを下回るものと思われる。

発達障害と社会生活

成人期の自閉スペクトラム症は他者との社会的関係を築くことが困難で、情緒的な交流ができないため、社会的に孤立していることが多いです。

学力が高ければ、大学に進学したり、就職できていますが、周囲から「空気が読めない人」「天然だよね」「変人」などとみられていることがあります。

もしくは、「指示待ち族」「イエスマン」と言われながらもなんとか適応してることもあるかもしれません。

また、会議などの場面では、聴覚的認知の苦手さから、内容が頭に入りにくく、話については「まわりくどく、分かりにくい」「一方的で話のキャッチボールができない」などと言われたりしているかもしれません。

また、体調不良がしばしばみられますが、体調不良になりやすいのは、自分の状態を適切にモニタリングできないこと、例えば疲れのたまり具合が分かりにくかったり、時間的感覚が苦手でペース配分が苦手であったり、ストレスの自覚をしにくいことなどが影響している場合が多いでしょう。

では発達障害の方は日常的にどんな特徴がみられるのでしょうか。

幼児期・児童期の子供の頃見られやすい特徴

・想像力を使ったごっこ遊びができない。

・特定のものへのこだわりや、限定された興味が強い。

・同じような行動を繰り返す

・環境の変化にすぐにパニックになる。

・家族や、先生と情緒的な交流がうまくできない。喜びや悲しみなどの気持ちを共有できない。

・自分のルール、独特の正義感のため、周囲とトラブルやケンカになりやすい。

・対人関係がうまくいかず、いじめにあったり、無視されたり、けんかになりやすい。

・一人遊びが多く、孤立している。

・丁寧すぎる言葉や、大人びた話し方、専門的な言葉を使うなどがみられる。

・字義通りにうけとり、皮肉がわからない。

・おとなしく、自分の主張がなく、人の言いなりになっている。

・人との接し方が独特で、人と関わろうとするが避けられる。

・運動会のピストルの音や、子供の泣き声に敏感で、パニックになる(聴覚過敏)

・タグのついた服が気持ち悪くて嫌がる。人に触られることを嫌がる(触覚過敏)

・偏食がひどく同じものばかり食べる(味覚・口腔感覚の問題)

・体調管理が苦手で、疲れやすかったり、朝起きれなくなり、学校を休みがちになる

成人期になり、社会生活のなかで見られやすい特徴

・他人と感情や興味の共有ができず、情緒的な交流がうまくできない。

・社会的な常識感覚がずれている。

・対人関係がうまくいかず、孤立しがちで、休日はほとんど一人で過ごすが、予定のない時間の使い方が分からず苦痛になる。

・言いなりになり、誰の言う事にも従う、

・話のキャッチボールができず、一方通行で、かかわり方が独特で、周囲から変な人と思われたり、避けられたりする。

・人の話がすんなり理解できない。

・相手がどういう意図で話しているのか、怒っているのか、困っているのかなど読み取れず、想像できない。

・丁寧すぎる話し言葉や、専門的すぎる言葉を使う傾向にある。

・字義通りにうけとり、皮肉がわからない。

・会議など情報が多い状況で混乱しやすく、複数での話し合いについていけない。

・自分独自のルールがあり、ルーチンへのこだわりが強い。

・興味が著しく偏り、限定的である

・常同的で反復的な行動がある。

・環境の変化が苦手で、パニックになる。

・先読みが苦手で、未来を想像しにくい。

・音に敏感で、仕事に集中できない。

・他者との接触、交流が苦手。

・味覚・口腔内感覚の問題で、偏食になりやすく、食事会など集団での食事が苦手。

・自分の体調を認識・管理しにくく、体調不良から欠勤、遅刻が目立つ。

次回②では、ADHDについて、③では治療・支援についてまとめます。

事項はこちらです。→【アスペルガー】発達障害について知っておきたいこと【ADHD】②【病気の特徴編②】

睡眠薬のやめ方。ベンゾジアゼピン系薬剤の副作用

睡眠薬の中止の仕方。ベンゾジアゼピン系薬剤の副作用について

不眠症になり、受診し睡眠薬を内服し、不眠症が改善したのであれば、次は必要最低用量にまで睡眠薬を減薬し、最終的には中止していくことも必要です。

急激な減薬は退薬症候や反跳性不眠を引き起こす原因となります。

減薬に際しては、徐々に減らしてやめていく漸減が原則です。

睡眠薬のやめ方

具体的には2~4週間かけて、内服している量の1/4量ずつ減量し、最終的に中止します。

ただし、不眠症が難治性である一定量以下にできないときは無理な減量は試みず、維持療法を選択することもあります。

ベンゾジアゼピン系薬剤の高齢者への使用

高齢者ではベンゾジアゼピン受容体の感受性が亢進し、肝クリアランスが低下することから、最高血中濃度の上昇と消失半減期の延長がみられます。

そのため、作用、副作用とも強く出て、ふらつきなどの運動失調等がみられやすく、転倒や骨折の原因となります。

したがって、少量から開始するなど慎重に始める必要があります。

ベンゾジアゼピン系薬剤の睡眠時の副作用

服薬後に、もうろう状態、夢遊症状(睡眠随伴症状)が現れることがあります。

また、入眠までの、あるいは中途覚醒時の出来事を記憶していないことがある「健忘」が出現することがあるので注意が必要です。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、最高血中濃度付近で起きていると、その時のことを健忘していることがあるので、服薬したらすぐに就寝すること、睡眠途中で一時的に覚醒して仕事等を行う可能性がある時は服薬しないことが大切です。

ベンゾジアゼピン系薬剤と妊娠、授乳

ベンゾジアゼピン系薬剤は、妊娠している可能性がある場合は、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にだけ使用します。

新生児に、哺乳困難、筋緊張低下、嗜眠、黄疸の増強等の症状を起こすことが報告されています。

母乳中への移行がみられ、新生児に嗜眠、体重減少等を起こす可能性があり、授乳されている方が内服する場合は、授乳を避ける方が望ましいでしょう。

その他副作用

薬物依存、離脱症状

大量連用により薬物依存を生じることがあります。

また、大量内服または連用中における内服量の急激な減少ないし中止により、けいれん発作、せん妄、振戦、不眠、不安、その他幻覚や妄想などの離脱症状が現れることもあります。

急に中止したり、内服量を自分の判断で減らしたり、増やしたりせずに、定期通院しながら主治医と相談して調整する必要があります。

精神症状

興奮や攻撃性、刺激に反応しやすくなる、酔ったような脱抑制した言動、もうろうとした夢遊状態などの精神症状が出現することがあります。

使用に際しては注意深い経過観察が必要です。

まとめ

ベンゾジアゼピン系薬剤は使い方を間違えなければ、困っている不安や不眠を中心に非常に効果の高い薬剤です。

しかし、使い方を間違えば、依存や耐性をはじめ様々な副作用の出現の危険性がでてきます。

主治医にしっかり相談しながら、自分に合った薬剤の必要最低限の用量を調整してもらうことが大切です。

【効果・持続時間】睡眠薬の選び方【依存・耐性】

睡眠薬の選び方

不眠症治療の薬物療法には睡眠薬が使用されます。

現在日本で用いられている睡眠薬は、バルビツール酸系睡眠薬、非バルビツール酸系睡眠薬、ベンゾピアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、その他の作用機序による睡眠薬(メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬)に分けられます。

その他に、抗精神病薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬などを不眠症治療に用いることもあります。

バルビツール酸系睡眠薬

バルビツール酸系睡眠薬は脳全体を抑制し、強力な催眠作用をもたらしますが、高用量になると呼吸中枢をも抑制してしまう危険性があります。しかも、耐性が早く形成され、お薬を飲み忘れたりなどの退薬するとせん妄、けいれん発作などが起こることがあります。

非バルビツール酸系睡眠薬

バルビツール酸系睡眠薬の危険性、欠点を克服すべく開発された非バルビツール酸系睡眠薬でしたが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬が登場してからは、ブロムワレリル尿素以外は臨床からほとんど姿を消してしまいました。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は1960年頃より使用されるようになった睡眠薬で、バルビツール系酸睡眠薬や非バルビツール系睡眠薬の副作用の問題から、安全性の高い睡眠薬が期待されて開発されました。

効果面だけでいえばバルビツール系酸睡眠薬、非バルビツール系睡眠薬には劣りますが、副作用は大きく軽減し、依存・耐性の問題が完全に解決できたわけではないにしても安全性に関してはかなりの改善がみられています。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

ベンゾジアゼピン系睡眠薬を更に改良した睡眠薬になります。

1980年頃より発売されるようになりました。

ベンゾジアゼピン系で問題となっていた筋弛緩作用・ふらつきを軽減しています。

耐性・依存性も若干軽減されている可能性があります。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の分類

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は薬物動態的特徴から次の4つに分けられます。

①長短時間作用型

消失半減期(血中の薬の全体量が半分になる時間)が2~4時間ときわめて短い超短時間作用型は、すばやく血中濃度が上昇することで寝つきの悪さ、入眠障害に対して催眠効果をもたらします。

翌朝には残薬感を残さずに、目覚めの良さを自覚させます。

機会性不眠、一過性の睡眠・覚醒スケジュール障害、身体疾患による不眠、熟眠感の乏しい不眠症などに有効です。

しかし、早朝に覚醒してしまうことがあり、反跳性不眠(内服をやめた際に生じる不眠)も起こりやすいため、使い方は主治医と相談しながら調整する必要があります。

また、アルコールとの併用で内服してから寝るまでに行動したこと(例えばメールや過食)を忘れている健忘を呈しやすいことにも注意が必要です。

②短時間作用型

消失半減期が6~10時間の短時間作用型も超短時間作用型と同様で、覚醒時の気分は良好です。適応も超短時間作用型と同様です。

③中間作用型

消失半減期が20~30時間の中間作用型では、中途覚醒や早朝覚醒などの睡眠維持に問題のある不眠症に有効です。

しかし、翌日の就眠時にはまだある程度の血中濃度が維持されており、連用するうちに蓄積が生じ、4,5日のうちに定常状態に達します。したがって、朝の覚醒時に眠気などの持ち越し効果をきたす可能性があります。

ただ、日中もある程度の血中濃度が維持されているため、不眠・緊張を呈しやすい病態である不安神経症やうつ病などにも有効です。

④長時間作用型

消失半減期が50~100時間の長時間作用型では、持ち越し効果をきたす可能性や日中の精神運動機能への影響はさらに強くなります。

反面、服薬を急に中断しても反跳性不眠や退薬症状は出にくいため、各種の不眠症に有効です。

まとめ

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、それぞれの睡眠薬の特徴をふまえ、不眠症のタイプによって使い分けます。

超短時間作用型は入眠障害への効果、長時間作用型は中途覚醒や早朝覚醒などの睡眠維持の問題のある不眠症に効果を発揮しやすいのですが、効果・副作用には個人差があります。

効果や、副作用、反跳性不眠、持ち越しをしっかり評価しながら、それぞれの人にあった薬剤を選択してもらうことが大切です。

子供の虐待と精神疾患

子供の虐待に関して精神医療的な側面からまとめています。

子供の虐待に関する要因

子供の虐待に関する要因としては、次のことが影響していると考えられています。

親が発達障害や精神疾患を有すること

親が虐待を受けていたりなど、親の幼児期に母性体験や家庭教育など、人格形成の過程における問題があること

親の人格的な成熟に未熟さがあること

子供に発達障害や情緒的な問題があること

他にも家庭内の不和や経済的問題、親が若年であることや地域における支援体制の不足など、家庭内や地域の問題まで幅広い要因が関与していると考えられます。

虐待に関する要因としての精神疾患の中で、みられやすい精神疾患

知的障害、発達障害、自閉症、注意欠如・多動性障害、パーソナリティ障害、統合失調症、うつ病、依存症、躁うつ病、摂食障害、PTSDなどが虐待に関する要因として多く見られます。

それは親がそうである場合、子供がそうである場合、両方そうである場合もあります。

虐待されている子供に見られやすい症状

抑うつ気分、引きこもり、不登校、対人緊張、社会不安、自傷行為、自殺企図、逸脱行動、反社会的行動などが見られやすい症状です。

虐待体験のある大人にみられやすい症状

抑うつ症状、対人緊張・対人不安、自傷行為、自殺企図などが見られやすいです。

虐待体験をもたれる大人の方で精神疾患を持たれている場合、非常に複雑な病像を呈すること多く、おそらく、どの側面から診るかによって診断名が異なったり、複数の診断名がついたりすることも多いと思われます。

虐待の世代間連鎖について

虐待の世代間連鎖はよくみられますが、虐待体験を持つ方々が皆さん虐待体験されるわけではないので、虐待の連鎖を強調しるぎることは望ましくないと思われます。

ただ、虐待体験された方々が、養育に際して困難さを抱えやすいのは事実ですので、そこを理解しておくことは大切です。

最後に

児童福祉法が改正されて、要支援児童等を市区町村に情報提供することが努力義務とされたことで、今後は医療と地域行政機関での地域連携が促され、虐待する方、虐待される子供、どちらの苦しさにも介入がなされ、虐待が減ることを望みます。

妄想を話されたときはどうすればいいのか【妄想への対応】

身近な人が、事実と異なる思い込みを話しだしたらどうしましょうか。

しばらくは、そのことが事実か妄想か分からないことも多いと思います。

では、話していることが事実と異なる本人の思い込みや妄想である場合はどういう対応をとったらいいのでしょうか。

妄想を話されたときの対応について説明します。

妄想を話されたときの対応の仕方

では、具体的な内容をみてみましょう。

20代後半の男性会社員の方です。

「5年前にあるマンションに引っ越しました。なれない職場の仕事で、当時は結構ストレスが多い日々でした。」

「しばらくして、私の留守中に誰かが部屋に侵入して、盗聴器を仕掛けたようでした。

そしていつも私のことを盗聴します。

そのうち、職場でも同僚がひそひそと私のこと噂するようになり会社の外部の人までもが私の悪口を言うようになりました。

私しか知らないはずのことまで言われます。

私が考えていることを言葉にして言ってくることもあります。

また数人で私のことをあれこれ話し合ったりしています。

ときには電波を送ってきて体をしびれさせたりもします。

これはきっと誰かに狙われている・・・・と思いました。」

「上司にいくら訴えても、「そんなことはあり得ないよ」と信じてもらえません。」

「私は仕方なくメンタルクリニックを受診したのですが、そこで”統合失調症の可能性が考えられる”と言われました。

その時はショックで愕然としましたが、医師の「きちんと薬を飲めば、よくなります」という言葉を信じて、通院しています。」

「薬を飲み始めてから、勝手に頭に聞こえてくる声、幻聴が聞こえるということもなくなってきました。」

思考と妄想

思考(thinking)とは、近く、記憶された材料を統合して、判断や推理を行う精神活動ですが、妄想とは考えの中身、思考内容の異常を言います。

認知症や知識・教育不足から生じた誤解、偏見、特定の文化・思想・宗教集団における迷信や判断の誤りは妄想とは呼びません。

例えば「内容の薄い書物でも立派な表紙をつければ売れるだろう」という出版社社長のアイデアや、はるか昔に「海の端は滝になっていて落ちていく」という考えは妄想とは言いません。

妄想とは(delusion)

妄想は、「異常な確信に支えられた訂正不能の考え」と定義されています。

妄想は以下の4つの特徴を持っています。

1)自己関係付け

自分に結びいていること

2)内容の不合理

事実無根の内容であること

3)主観的な確信

ひとりで思い込んでしまうこと

4)訂正不能

どのような反証にも決して屈しないこと

妄想の種類

一次妄想と二次妄想

一次妄想とは「原発性」で発生機序が心理学的背景から了解不能な妄想です。

分かりやすく言うと、どうしてそういう思考になるのかさっぱりわからない、勝手に発生した根拠のない妄想です。

一次妄想には妄想気分や、妄想知覚、妄想着想などが含まれます。

妄想気分

「とてつもなく大きな事件がおこりそうだ」というような妄想です。

「光や音が強くなる、タバコの匂いが気になり、音が耳に突き刺さる」といった聴覚過敏、「外界がきな臭く、空気の密度が濃くなる」といった知覚変容、「地球が破壊される」「戦争が勃発し原子爆弾がおちる」といった世界没落体験といった状態も見られることが多いです。

具体例をみてみましょう。

30代後半の男性。

「妻との離婚問題や、仕事の多忙さなどから緊張感や過敏な状態にありました。

旅先の駅で、騒がしく吠える野良犬が、自分が近づくと急におとなしくなりました。

その時この犬は、自分がよそ者であることを本能的に伝えようとしたのだと感じました。

牧場で跳ね回っていた野生の子馬が、すぐに慣れて近寄ってきたので、自分には動物を鎮める力があることに気がついて感動しました。

腰の曲がった老夫婦に出会った時、たちまち直感で相手の性格をつかむことができ、その人柄に感銘を受け、いつの日かドライブをする約束をしました。

いまいる場所に故郷をしのばせる雰囲気が広がり、人々は純真、親切で自然に親しみ、まるで故郷にいるかのような幸福感にみたされました。

歩きながら両親との暮らしや、若いころの思い出が蘇った。

空腹にも関わらず、昼食のサンドイッチを小川に投げ込み、自然に捧げ物をしたことに喜びを覚えました。」

妄想知覚

机の消しゴムを見て「出版社の社長が自分を殺しに来る」という妄想が出現するような、知覚刺激から出現する妄想。

妄想着想

「自分は悪魔の生まれ変わりだ」というような妄想

二次妄想

二次妄想とは「続発性」で発生機序を心理学的背景から了解可能なことが多い妄想です。

例えば、アルコール依存症の方が、妻に嫌われているという感情と、アルコール性性機能障害から「妻が浮気をしている」と嫉妬妄想が出現するというような妄想です。

妄想の主題、内容

妄想はその主題、内容からいくつかの群に分けられます。

1)被害妄想群

他人から危害を加えられると確信する妄想です。

被害(迫害)妄想:「他人から嫌がらせをされる」

追跡妄想:「行く先々で変な人につきまとわれる」

被毒妄想:「食べ物に毒を入れられる」

注察妄想:「周囲から監視されている」

嫉妬妄想:「配偶者が浮気をしている」

もの盗られ妄想:「持ち物を盗まれる」

2)微小妄想群

自己の価値や能力を低いと確信する妄想です

貧困妄想:「財産を失った。明日食べていくお金もない」

罪業妄想:「重大な過失を犯してしまった」

心気妄想:「もう健康な身体じゃない」

疾病妄想:「不治の病にかかってしまった」

虚無妄想:「自分の心臓がない」

3)誇大妄想群

自分の能力や価値を過大評価する妄想です。

血統妄想:「高貴な家柄の子孫である」

恋愛妄想:「あの有名芸能人から愛されている」

発明妄想:「世界的な発見・発明をした」

啓示妄想:「神のお告げを聞いた、天啓をさずかった」

預言者妄想、選民妄想:「私は選ばれし預言者である」

4)被影響妄想

外から干渉され支配されているという妄想です。

物理的被害妄想:「体に電気を流されている」

性的被影響体験:「恥部をさわられている」

憑依妄想:「憑りつかれている」

変身妄想:「自分が他の何かにかわる」

生まれ変わり妄想:「自分は誰かの生まれ変わりだ」

妄想が出現しやすい病気

妄想が出現しやすい病気としては、統合失調症、うつ病、躁うつ病、認知症、妄想性障害、心気障害、身体醜形障害等があげられます。

妄想出現しやすい病気と有病率、性差

精神疾患 一般人口有病率 性差
統合失調症 1~1.5% 性差無し
うつ病 女:10~25%、男:5~12% 女>男
躁うつ病 0.4~1.6% 性差無し
認知症 65歳以上:5%、85歳以上:15~20% 女(2倍)>男
妄想性障害 0.7~3% やや女性
心気症、身体醜形障害 0.1~0.5% 女(5倍)>男

妄想への対応

幻覚、妄想、その他の病的体験には否定も肯定もしない態度で臨むことが大切です。

現実の出来事として体験しているため、彼らにとっては症状としての”事実”なので、これを否定することは、不信感や絶縁につながり、関係を断ってしまうことになりかねません。

相談されて「どう思うか」と意見や真偽のほどを尋ねられることもあるでしょうが、この場合でも慎重に言葉を選び、結論はだせなければ出さずに、受診につなげる誘導をしていくことが大切です。

例えば統合失調症の方の妄想で「狙われている、盗聴器を仕掛けられている。」といって部屋から出てこない状態がつづいているとします。

ここで、放置したり、何を言ってるんだと責してはいけないのです。

「眠れていないようだから、せめて眠れるように受診して先生に相談してみましょう」

「頭が痛いなら心配だから検査だけでもしておいた方がいいよ」

「そんなに不思議なことばかり起きて、あなた一人でなんとかしようとしていたらノイローゼになってしまうじゃない。ゆっくり眠ることや、気持ちを休めることに関してだけでもいいから相談に行ってみましょう。」

など、本人の気持ちに寄り添い、困っている事柄から受診へつなげる誘導を試みましょう。

それでもどうしていいか分からない場合は、保健所に電話して、精神保健相談員に相談してみてください。

暴力をふるったり、家族でも危害を加えるなど、自傷や他害の危険性がみられる時は警察に通報しましょう。

 

PTSD【心的外傷後ストレス障害】への治療アプローチ

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは

阪神・淡路大震災以後、PTSDという病気が注目されるようになりました。

PTSD、すなわちPost-Traumatic Stress Disorder(心的外傷後ストレス障害)とは、戦争や大災害など生命の脅威にさらされた人に、のちのち起こってくるストレス障害です。

心的外傷体験は、抑うつ状態、不安障害、人格乖離、乖離的同一性障害(いわゆる多重人格)や心身症状の起因にもなります。

PTSDは、1980年に改訂されたDSM-IIIから、独立した精神科疾患となりました。

ベトナム帰還兵の戦争神経症に対する保険診療の必要性が社会的に高まったことが契機となり、ホロウィッツのストレス反応症候群に関する先行研究を下敷きに概念化されたものです。

1994年に発表されたDSM-IVは、PTSDの診断基準として以下の5領域をあげました。

PTSD診断基準

A.生命に危険をもたらすような予測不能・コントロール不能な災害体験

B.外傷的な出来事の再体験反応

C.外傷的な出来事の持続的否認や心的マヒ症状

D.身体的覚醒亢進

E.上記の症状が1ヶ月以上続くこと

F.心理的苦痛や社会的・職業的機能障害の持続

の以上5点です。

PTSDの方は、往々にして感情障害、気分変調、アルコールや薬物依存、不安障害、人格障害などとも診断されることがあります。

このような診断名がついた方々のなかに含まれるPTSD層も考慮にいれた、全米規模の罹患率調査(1996年)によれば、PTSD発症率は通常の災害事故の場合に男性で5%、女性で10%であると推定されています。

しかしながらレイプなどの性的犯罪被害者で、その後事情聴取や喚問など、非受容的・非治療的な環境で体験の陳述を強制された場合には、出現頻度が23%にも高まったといいます。

また、災害事態の予測不能性とコントロール不能性が極度に高まった場合(例えば、戦争、強制収容所、拷問、人質など)、ほとんどの被災者に発症するという報告もあります。

PTSD発症のメカニズムについては、心理社会的・疫学的・神経生理学的アプローチがあります。

心理社会的アプローチは、PTSD症状を「異常な事態に対する身体の正常な反応」と見なします。

1970年代後半から顕在化し始めたベトナム帰還兵の適応障害を、アメリカ社会の中でノーマライズするうえで心理社会的陣営が果たした役割は大きいといえます。

しかし、1980年代以降の疫学的研究により、PTSDが必ずしも生命の脅威にさらされたものすべてに生じるわけではなく、とりわけ3年以上も症状が持続する慢性PTSDはきわめて低率であることが明らかになりました。

さらに1990年代には、PTSD特有の感覚の鋭敏化現象が、「なぜある特定の人たちだけに生じるのか」を大脳生理学的に解明する研究が盛んになりました。

疫学的・神経生理学的陣営は、犯罪や事故、災害などの民事訴訟において、補償額をつりあげるための安易な口実としてPTSDが利用されかねない現実に歯止めをかける役割を果たしています。

日本でも、雲仙普賢岳・北海道南西沖地震での実践が先行的研究として知られていますが、実践的な研究が本格化したのは阪神・淡路大震災以降です。

その成果としてストレスケアモデルが生まれ、1997年初夏に起こった須磨区児童殺害事件では、同区内の小学校における児童保護者やケア提供者に対するディブリーフィング活動として組織的な活用が試みられました。

心的外傷後ストレス支援の原則

大災害に出合ったものが全員PTSDになるわけではありません。

しかし、被災者の方ほぼ全員に、体験・否認あるいは心的マヒ・覚醒亢進という災害特有の心的外傷後ストレス反応が起きます。

被災者の方のなかには、被災体験から1ヶ月以上たっても、再体験と否認や心的マヒという二相症状を交互に繰り返し、さらに覚醒亢進が持続するために、正常な社会生活に支障をきたす方がみられます。

これが精神科疾患としてのPTSDですが、対策は予防・教育が基本になります。

PTSD対策:予防・教育に関しての3原則

1)症状のノーマライゼーションの原則

心的外傷後に生じる特有のストレス症状により、災害被害者の方は「自分は普通ではなくなった」という強い不安感をもつようになります。

この場合支援者は「生命が脅かされるほどショッキングな事件に遭遇したときに、生物としてのヒトはもっとも原始的な適応反応を示します。それが今あなたに起こっていることです。こうしたストレス反応のおかげで、人類は現在まで種を保存することができたのです」と伝えます。

ストレス反応が今ここで生じている事実こそ、正常な癒やしのプロセスがすでに始まっている証拠であるむねを伝え、現在の状況の意味や今後の展開について見通しを与えることが大切です。

2)協働とエンパワーメントの原則

心的外傷後ストレスからの回復の過程で被災者の方は、再体験、回避、覚醒亢進、罪障感といった特有の反応を示します。

この最良の癒やし手は、被災者自らであり、さらには被災者と日常接する非専門的な支援者たちです。

一方、専門家は症状を明快に記述し、説明し、癒やしへと至る時間の流れのなかに現在を位置づけます。

両者はそれぞれの役割を自覚し、被災者自らの力を高め、尊厳や有能感を回復するという共通の課題のために協働することが大切なのです。

3)個別化の原則

心的外傷から回復する過程は個人により千差万別であることをあらかじめ知っておくことが重要です。

それと同時に、他者との違いは価値あることとして認める態度が必要です。

支援者は、一般的な方向や起こしやすい間違いについては意識するものの、被災者個人の固有の道筋をとともに歩みながら、常に新しい改善の変化を発見する姿勢が大切なのです。

その他のさまざまなアプローチ

心的外傷を負ったものは、自らを病んだものと見なす専門治療的関係を望みません。

被災地域の住民に、悩みや心配事はどのような人に相談したのかをたずねた大規模サンプリング調査の結果では、精神科医やカウンセラーに相談したと答えた住民は、回答者の3%程度という報告があります。

大多数の被災者の方々は、家族、親せき、友人といった支援者に自然に悩みを相談していたのです。

支援者と被災者との関係は、個人の精神内界の限界や病理性に目を向ける医師・患者型のセラピー(カウンセリング)モデルではなく、被災者の自我の健康な部分に依拠する協働型のストレスケアモデルに基づくべきなのです。

ストレスケアの代表的な技法であるディブリーフィング(Debriefing)

ディブリーフィングは個人でも小集団でも実施できますが、受容的・共感的な場のなかで事実・思考・感情と順をおって体験を聴取し、続けてストレスマネジメントをテーマとした心理教育を行います。

ディブリーフィングの目的は、自身の尊厳や世界に対する信頼や安全感を失った被災者の方が、

(1)症状をノーマライズし、

(2)内外の対処資源に気づき、状況に対して打てる手だてがあると力づけし、

(3)それぞれの道筋を通りながら状況を意味あるものと再評価し、見通しを持てるようにすることにあります。

被災者が活力を取り戻すことができるストレス対処資源として、次に述べる6つの領域を想定し、それぞれの頭文字をとってBASIC-Phモデルというものがあります。

心的外傷後ストレス反応や障害へのさまざまな支援法は、これら6つの領域のどこをより重視するかによって分類することが可能になります。

BASIC-Phモデル

1)信念(Belief)

広島の被爆者やホロコーストの生存者への面接調査から、災害被災者は自らの被災体験の意味について実存的な問いを発することが分かりました。

自らもホロコースト体験者であるビクトール・フランクルは、実存的な意味の希求にもがく生存者に向けてこう語っています。

「私たちが人生に何を求めるのか、それは大した問題ではありません。むしろ人生が私たちに何を求めるか、それが問題なのです。人生の意味について考えるのは止めましょう。その代わりに、毎日、毎時間、人生から絶えず問われている存在として自らを考えることにしましょう。生きるということが究極的に意味するのは、人生が私たちに何を求めているのかについて正しい答えを見つけ、人生が私たち一人一人に対して課し続ける課題を満たしてゆく、そのことに責任を取ることなのです。」と。

この言葉は、信念や被災体験の実存的な意味づけが被災者を力づけることを雄弁に物語っています。

2)感情(Affect)

非指示的・受容的・許容的な雰囲気の中で、内面の感情を表出することにより被災者は力を取り戻していきます。

支援者は、被災者の感情が妥当であり、自然のものであると保証する姿勢が求められます。

この場合に支援者に求められるのは来談者中心的な、傾聴するカウンセリング・マインドです。

3)社会的サポート(Social Support)

心的外傷後ストレスに対して、被災者は家族や親せき、知人・友人の支援ネットワークを活用します。

これらとの密接なつながりによって自らを守ろうとするのです。

先述の調査が示すように、大震災時でもこの資源性がほとんどの被災者によって活用されていました。

社会的ネットワークの活性化のためにはソーシャルワーク的介入が有効です。

4)想像力(Imagination)

ストレスが高じたときに、楽しかった旅行の風景をイメージしたり、音楽や読書に没頭したり、遊びやユーモアによりエンパワーされる被災者も多いのです。

大震災の体験は、多くの被災者自らの手になる音楽や文学、絵画作品を生みだします。

これらは、想像力を羽ばたかせるアートの持つ癒やしの力を物語るものです。

5)認知(Cognition)

現在の状況に対する見通しや打てる手だてに関する情報により、被災者のストレスは低減されます。

心理教育的なアプローチが重視するのが、この被災者の認知的側面です。

ディブリーフィング活動にくわえて、マスメディアでの広報やパンフレットなども貴重なストレス対処資源となります。

6)身体・生理反応(Physical)

適度な運動や入浴によりリラクセーションが得られます。

また、仕事や家事に打ち込むこともストレスの緩和策になります。

あるいは、栄養指導やアルコール制限なども有効な身体・生理レベルの対処策です。

一方、系統的脱感作(Systematic Desensitization)やEMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)などの技法もこのカテゴリーに入れられます。

強迫性障害の治療の実際【認知行動療法】

強迫性障害は完治が難しく、良くなったり悪くなったり、治療がなかなかうまくいかないことが多い病気です。

実際の良くなる人はどのような治療や経過をとっているかを見て、そこからあなたが利用できる良くなる可能性を見出してみてはいかがでしょうか。

「こんな風に良くなることができるのか」というイメージを持つことは、治療において非常に大切です。

では、実際の治療経過の一例からあなたが良くなるヒントを見つけましょう。

(症例に関しては個人が特定できないように改変されてあります。)

強迫性障害の治療経過の実際

「私は30代の女性です。夫と幼稚園に通う長女と3人暮らしです。

専門学校を卒業し、スーパーに正社員として勤務していました。

勤務して数年ほどたったのち結婚し、そのまま退職しました。その後は主婦として生活し、長女を出産しました。

小さいころから心配性で、忘れ物がないか何回も確認することはよくありました。」

「最初に症状がでたのは25歳の時でした。」

「きっかけはインフルエンザにかかってしまい、みんなにうつしてはいけないと心配していたのですが、自分がインフルエンザのウイルスをばらまいているんじゃないかと思うようになって、その考えがどんどん膨らんで不安になりました。

自分がウイルスをばらまいている不安を打ち消すために、両手を10回ずつ洗うというルールができたというか、そうしないと気が済まなくなりました。

次第に、泥棒が入ったら困るという不安から、戸締りを何回も確認するようになり、火事になったらどうしようという不安から、ガスの元栓や家電製品のスイッチがちゃんとoffになっているかどうか何回も確認するようになりました。

車を運転していても、誰かひいたんじゃないかとずっと考えてしまい、来た道をまた引き返して確認しにいかないと気が済まなくなりました。

駐車場では自分の持っていたバックが、他の人の車を傷つけてしまい、その車の持ち主が怖い人で、付きまとわれるかもと、勝手に怖い物語を想像するようになりました。

そんな生活のせいで、身も心も疲れて、外出するのも嫌になって、ずっと寝ていたいと思うようになりました。

家事もできなくなりました。でも確認はしてしまうんです。

目が覚めるとまた、やりたくないけど、不安だから確認しなきゃいけないんです。

食欲もなくなって、半年で10㎏ほど体重が減りました。

夫も両親もそんな私を心配し、診療内科に受診することになりました。」

強迫性障害とは

強迫性障害とは、反復する強迫観念(強迫思考)と強迫行為が基本的病像となります。

強迫観念とは

強迫観念とは、反復的、持続的な思考、衝動、または心像であり、侵入的で不適切なものとして体験され、強い不安や苦痛を引き起こすものです。

強迫行為とは

強迫行為とは、反復的な行動または心の中の行為であり、その目的は不安や苦痛を防いだり、軽減したりすることにあります。

強迫性障害とは

強迫性障害は、繰り返し生じる「強迫観念」と、無意味だと気付いても止めることのできない「強迫行為」によって日常生活に支障をきたす病気です。

強迫性障害の有病率

一般人口における強迫性障害の生涯有病率は2~3%といわれています。

発症好発年齢は、男性が6~15歳、女性が20~29歳くらいといわれています。

強迫観念の内容

強迫観念の内容については以下の内容とその出現割合が報告されています。

・汚染や感染に関するもの(37.8%)

・暴力に関するもの(23.6%)

・秩序やシンメトリー(対称性)に関するもの(10.0%)

・宗教(あるいは良心)に関係したもの(5.9%)

・性的な事柄に関するもの(5.5%)

・貯蔵・所蔵に関するもの(4.8%)

・反復儀式に関するもの

・無意味な疑いとしての強迫観念

・迷信に対する不安

強迫行為の内容

強迫行為の内容については以下の内容とその出現割合が報告されています

・確認行為(28.2%)

・洗浄や清掃に関する強迫行為(26.6%)

・儀式的行為(11.1%)

・心の中で行われる強迫行為(10.9%)

・整理整頓行為(5.7%)

・貯蔵や収集行為(3.5%)

・ものを数える行為(2.1%)

強迫観念が獲得される段階

ocd

「外出先でバイ菌がついたという侵入思考を経験して不安になる」ことと「帰宅する」ことが同時に体験され、レスポンデント条件付けされ、帰宅とばい菌がついたという侵入思考からの不安が結びつき、帰宅するとばい菌への不安が強迫観念として出現するようになります。

強迫観念から強迫行為の悪循環

ocd2上記に強迫観念と強迫行為の悪循環の図を示します。

では、実際に強迫性障害の認知行動療法をはじめましょう

エクスポージャー法に加え、強迫行為を止めるという反応妨害を加えた暴露反応妨害法が有効です。

暴露妨害反応法を行うと、60~80%で大幅な強迫症状の改善が認められています。

脳機能画像の所見なども変化・改善することが確認されています。

治療するために明確にすること

治療を始めるにあたり、次の項目を明確にする必要があります。

1)強迫行為の明確化(うつ病やその他の合併症も評価します)

2)自動思考の明確化

3)強迫観念の明確化

4)強迫スキーマの明確化

ひとつづず細かく見ていきましょう。

1)強迫行為の明確化

あなたの困っている行動について整理しましょう。

・「人とすれ違った後ぶつかっていなかったか不安になり、その人の容貌や状況を一生懸命思い出し、再現しようとします」

・「車の駐車や乗降車の時、他の車を傷つけていないか確認します。後で絵にかいたりして大丈夫だったか何回も確認します」

・「玄関や窓の戸締りに1時間、ガスの元栓に30分、その他電化製品のスイッチにそれぞれ20回づつくらい確認行為をしてしまいます」

(この段階でうつ状態、うつ病の合併があれば、先にうつ状態、うつ病の治療を開始します。)

2)自動思考の明確化

あなたのおっしゃる困ったことになるとは具体的にどうなってしまうことでしょう。

・「人にぶつかってたら、その人が後でつけまわしてきて、家を調べられるかもしれない」

・「車を傷つけたかもしれないし、もし傷つけていたら調べられて、多額のお金を請求されるかもしれない」

・「誰かが泥棒に入ってきてしまうかもしれない」

・「ガス漏れや漏電して火事になってしまう。家族だけでなく、隣や近所の人にまで迷惑をかけてしまう。」

3)強迫観念の明確化

どう思ったとき、どのような時に、困ったことになると思うのでしょう。

・「人相の怖い人や、雰囲気の怖そうな人を見たときに、事件になっていくイメージが出てきます」

・「車の傷を、持ち主が見つけて、怒って犯人を捜しているイメージがでてきます」

・「泥棒が入ってくるイメージや、家事になるイメージがでてきます」

4)強迫スキーマの明確化

その考えが度を過ぎていると思うのに、なぜ何回も確認するのでしょう。

・「今いろいろな事件があって怖いじゃないですか。人相や雰囲気とかもそうですけど、予感ってあるじゃないですか。」

・「チリやほこりからでも簡単に火事になってしまうし、泥棒が入って殺害れてしまう事件も多いですよね」

*強迫スキーマ

今回の場合、強迫スキーマは以下のようになります。

*この物騒な世の中では、簡単に事件に巻き込まれてしまう

*ちょっとした不注意で泥棒に入られたり、火事になってしまう

強迫観念と強迫行為の整理

ocd3図式に、整理された内容を当てはめてみましょう。

ocd4強迫観念、強迫行為が続くと、回避するようになり、生活における苦痛や障害が強まります。場合によってはうつ状態が出現することもあります。

治療目標を設定します

本人の希望に沿って、現実的な目標を話し合います。

短期目標:長女の幼稚園の送り迎えを、気楽にできるようにする

中期目標:日常生活が以前の心配性のレベルの生活に戻るようにする。ちょっと遠くのスーパーまで買い物に行く。

長期目標:家族で旅行に行く。

アセスメント、リベースライン

実際の臨床場面では、ここで病名告知、病気の説明、治療の見通し、希望づけ、動機づけが行われます。

大切なのは「治りそうな気がする。治療を頑張ってやってみたい」と思えることです。

薬物療法、認知行動療法を開始すること、及びそれに伴うノート等の記録するための道具、宿題等があることの説明を受けます。

(*実際の臨床現場では認知行動療法を診察だけで行うのは困難であり、ごくまれで、薬物療法を主体とした治療を診察で行い、認知行動療法についてはカウンセリングを利用することが一般的です。しかし、強迫性障害の専門外来をもっている病院や、クリニックでは診療場面で、薬物療法も、認知行動療法も行っているところもあります。)

治療の流れ

次のような流れで治療が進みます。

1)セルフ・モニタリング(自己観察記録)

2)自動思考変容

3)スキーマワーク

4)不安階層表の作成

5)暴露反応妨害法

1)セルフ・モニタリング(自己観察記録)

ノートにどのような場面でどのような強迫観念と強迫行為が出現したのかを記録してもらいます。

2)自動思考変容のための根拠探し表

問題となる自動思考:ガスの元栓を閉め忘れたらガス漏れする
この自動思考を支持する根拠 この自動思考を支持しない根拠
・ガスが漏れてしまうような気がするから ・ガスの元栓を閉め忘れても、コンロを使っていなければ簡単にガス漏れしない

・ガス漏れしても探知機が知らせてくれる

合理的なスキーマ:ガスは簡単には漏れないし、漏れても警報がなる

スキーマの得する面と、損する面を書き出すスキーマワーク

問題となるスキーマ:自分の不注意で簡単にトラブルや事件に巻き込まれる
そう考えた場合に得すること そう考えた場合に損すること
・トラブルや事件に巻き込まれないように気を付けることができる。 ・些細なことでもすぐに事件になっていまうのではないかと心配し、疲れる

・心配しすぎて歩く場所や、行くところも限定されて悲しくなる

・その考えが浮かんでくると不安になり、落ち込んでしまう

いつもびくびくしてストレスがたまる

合理的なスキーマ:家族や警察に相談したり、話し合うことで解決できることも多く、みんながそんなに極悪人じゃない

不安階層表をつくる

主観的障害単位(SUD:subjective units of disturbance)を使って不安を数値化します。

100が最も不安、苦痛を感じる状態を示します。

1.外出先の駐車場で車を停め、降りてくる(SUD 100)

2.寝る前の戸締りの回数を2回までにする(SUD 80)

3.ガスの元栓の確認を2回までにする(SUD60)

4.お米の水の量の確認を2回までにする(SUD 20)

などとなります。

ホームワークでの暴露反応妨害法の記録

下記の暴露反応妨害法の記録表を利用します。

ocd5

不安階層表でSUDが低いものから、強迫観念が出現する状況をつくりだし、その後の強迫行為を我慢します。

そこで出現した不安が時間とともに減っていくか確認します。

例えば0分後不安が100%であったとして、10分後、20分後と時間がたつにつれて、不安が80%や60%と減ってくるはずです。

治療経過

半年間治療を続けた彼女の声を聴いてみましょう。

「これまでは外出するのに確認行為で1時間以上かかっていたんですけど、今は10分で済んでます。近くのショッピングモールにも行けるようになりました。今度はもう少し遠出できるように頑張りたいです。」

「初めの頃の日記を読み返すと、可哀想な私だなと思います。」

おわりに

強迫性障害の認知行動療法の治療プロトコルを実施すると、強迫性障害の方の86%において十分な治療効果が得られたという報告があります。

強迫性障害の方は、きちんとトレーニングした治療者から認知行動療法が受けられる機会は乏しく、治療期間、薬物療法の効果、本人の治療意欲等でも予後が大きく変わり、かなりの割合で症状が改善せず、生活上の障害が残ることが指摘されています。

お困りの方は、まずは強迫性障害の専門外来への受診をご検討下さい。

 

不眠症になる前に、不眠対策を

不眠症になる前に、不眠対策について具体的な方法をお伝えします

不眠の多くは不適切な生活習慣によって引き起こされます。

不適切な生活習慣とは

・就寝前のカフェイン摂取

・就寝前の喫煙

・アルコール摂取

・眠りを妨げる寝室環境(騒音や周囲の生活音、気温、湿度、照明器具、寝具など)

・パソコン操作などの交感神経活動を亢進させる要因や行為

・長時間の昼寝

・夕方の過眠

・眠くならないうちから床に就く

このような睡眠衛生が関係している不眠には、薬物療法だけではうまくいきません。

「不眠」と「不眠症」について

「不眠」は症状で、「不眠症」は治療すべき睡眠障害となります。

不眠と睡眠量は無関係です

長時間睡眠をとっても寝た気がしない人、短時間睡眠でも不眠を自覚しない人、睡眠ポリグラフという検査で客観的な睡眠指標の悪化がなくても不眠を訴える人、人によって様々です。

「不眠」とは

「不眠」とは主観的な症状で、眠りたいのに眠れず苦痛を感じている場合、日常の睡眠で休養できていないと感じている場合を不眠と呼びます。

頭痛や、湿疹と同じように、原因を検討せずにむやみにお薬を使い始めるのは危険です。

「不眠症」とは

不眠症とは主観的な不眠に、不眠による日中の倦怠感、意欲低下、集中困難、不安、社会的機能の低下などの生活機能障害が加わったものです。

不適切な睡眠習慣が慢性不眠症につながります。

不適切な睡眠習慣とは

長すぎる床上時間(ショウジョウジカン)

睡眠時間を上回って眠ることは不可能です。それにも関わらず、もっと寝たいという気持ちで布団の上で過ごし、それを眠れない、不眠と勘違いするのです。

必要な睡眠時間、床上時間は

10代後半から壮年期(40~65歳ころまで)の必要な床上時間は7~7.5時間です。

高齢者は6~7時間程度ですが、中途覚醒(夜中途中で起きること)が増えるため、床上時間は7~7.5時間になります。

加齢によって短縮します。また、睡眠不足によって増加します。

早すぎる入床時間・服薬時刻

一般的に、普段入眠している時間の2~4時間前は1日の中でもっとも入眠しにくい時間です。

そのため、その時間に寝付くのは困難ですが、その寝付けないことを不眠だと勘違いするのです。

床上時間が伸びたり、入床時刻・服薬時刻が早まる原因は

以下のことが原因で床上時間が伸びたり、入床時刻、服薬時刻が早まります。

・子供の独立や退職により、時間的余裕の発生

・健康のため、不眠への関心・気になりの増加

・入院や施設入所での消灯時間が早い生活リズムへの変化

睡眠衛生改善のために気を付けること

・アルコール、カフェイン、喫煙の三大嗜好品はすべて不眠の原因になります。寝酒や多量の晩酌はやめましょう。

・夕方以降のカフェイン摂取はやめましょう。

・夜遅くになってからの喫煙や、夜中途中起きた時の喫煙はやめましょう。

・寝室環境は自分が快適と思う環境にしましょう。

・冷暖房を適切に使用しましょう。

・夜遅くなってからの激しい運動や、熱いお風呂、ゲーム、インターネットなど、交感神経の亢進を刺激するようなことは控えましょう。

・不眠を自覚する場合は床上時間を最大7.5時間と設定し、これ以上長くしないようにしましょう。

・早くからお布団に入るのはやめましょう。だいたい決まった眠くなる時間に入床するようにしましょう。

・日々の適度な運動、運動習慣は不眠の改善に効果的です。

まとめ

睡眠衛生の改善をしないまま、睡眠薬に頼りすぎると、不眠に薬物乱用、薬物依存の問題まで加わる可能性があります。

正しい睡眠衛生の知識と、環境調整があって、初めて睡眠薬が適切に効果を発揮し、不眠が改善するのです。

ギャンブル依存症、病的賭博の治療とは

ギャンブル依存症、病的賭博とは

世界保健機関(WHO)が定める国際疾病分類(ICD)において、ギャンブル依存症とは、「習慣および衝動の障害」というカテゴリーの中の、「病的賭博」という項目に当てはまる病気です。

ギャンブル依存、病的賭博の評価:SOGS

SOGS(South Oaks Gambling Screen)にて評価します。以下の質問に答えて下さい。

1)ギャンブルで負けたとき、負けた分を取り返そうとして別の日にまたギャンブルをしたか。

a)しない、b.)回に1回はする、c)たいていそうする、d)いつもそうする

(cまたはdを選択すると1点)

2)ギャンブルで負けたときも、勝っていると嘘をついたことがあるか。

a)ない、b)半分はそうする、c)たいていそうする

(bまたはcを選択すると1点)

3)ギャンブルのために何か問題が生じたことがあるか。

a)ない、b)以前はあったが今はない、c)ある

(bまたはcを選択すると1点)

4)自分がしようと思った以上にギャンブルにはまったことがあるか。

a)ある、b)ない

(aを選択すると1点)

5)ギャンブルのために人から非難を受けたことがあるか。

a)ある、b)ない

(aを選択すると1点)

6)自分のギャンブル癖やその結果生じた事柄に対して、悪いなと感じたことがあるか。

a)ある、b)ない

(aを選択すると1点)

7)ギャンブルをやめようと思っても、不可能だと感じたことがあるか。

a)ある、b)ない

(aを選択すると1点)

8)ギャンブルの証拠となる券などを、家族の目に触れぬように隠したことがあるか。

a)ある、b)ない

(aを選択すると1点)

9)ギャンブルに使う金に関して、家族と口論になったことがあるか。

a)ある、b)ない

(aを選択すると1点)

10)借りた金をギャンブルに使ってしまい、返せなくなったことがあるか。

a)ある、b)ない

(aを選択すると1点)

11)ギャンブルのために、仕事や学業をさぼったことがあるか。

a)ある、b)ない

(aを選択すると1点)

12)ギャンブルに使う金はどのようにして作ったか。またどのようにして借金をしたか。

当てはまるものに何個でも○をつける。

a)生活費を削って、b)配偶者から、c)親類、知人から、d)銀行から、e)定期預金の解約、f)保険の解約、g)家財を売ったり質に入れて、).消費者金融から、i)ヤミ金融から

(○1個につき1点)

※5点以上を病的賭博、3~4点を問題賭博とみなします。

ギャンブル依存症、病的賭博は不治の病。だが回復は可能。

ギャンブル依存症、病的賭博は自然治癒がなく、治療しなければ限りなく進行します。

不治の病ではありますが、回復は可能です。

ギャンブル依存症、病的賭博は言い換えれば脳腫瘍のようなものです。

手術も出来ない深部に巣食う脳腫瘍だから、治療しなければ限りなく拡大し、もちろん意志の力では縮小しません。

ただし、脳腫瘍と違うのは命を落とすことはないことと、治療による回復が可能ということです。

病的賭博の二大症状は虚言と借金です。

それに加えて否認が多くみられます。自分は「依存症になんかなっていない」と思っています。

ギャンブル依存症、病的賭博の治療

本人がしぶしぶでもいいので、受診に同意した場合は専門の医療機関に受診させましょう。

精神科、心療内科、メンタルクリニック等で依存症治療を専門にしているところで自宅から通院可能な範囲の病院、クリニックを探してください。家族同伴で受診する必要があるでしょう。

本人がしぶしぶ来院した場合でも、専門外来の医師は家族に向かって話を進めて下さることが多く、最初は聞く耳を持たない本人に何を言っても無駄ですので、むしろ本人に関する重大な話を傾聞させたほうが効果的です。

しかし、つらいことかもしれませんが、家族のできる対応はほぼ皆無です。

家族ができること

①借金の尻拭いは病気を悪化させるだけなので絶対してはいけません。

②本人の収入は家族が管理し、毎日決まった金額(例えば300円から500円、もしくは毎週3000円)しか渡してはいけません。

③退社時など、こまめに家に携帯電話をいれさせて、行動予定を報告させて下さい。

借金に対しては

本人に返させて下さい。返す能力がなければ潔く自己破産を検討することもあります。

本人に収入があり、借金が巨額出ない場合は特定調停(調停委員会が仲介にはいり5年以内に分割返済)や任意整理(弁護士や司法書士に依頼して債務圧縮をはかって返済)、個人再生(再生計画によって減額させれた債務を3年間の分割払いで返済)を検討します。

家族、周りの人の心構え

病的賭博のご両親は、自分達の育て方が悪かったのではと思うかもしれませんが、先ほども述べたように脳腫瘍と同じようなもので、親の育て方は全く関係ありません。

ご両親の罪悪感は百害あって一利なしです。

配偶者の罪悪感はもっと深刻です。

関係者のうつ病の発症率が高く、本人に治療する気が全くないときは、配偶者の方の意向を汲んで離婚も検討します。

配偶者にとって、病的賭博者との生活は、苦労が徒労に終わってしまうことが多く、離婚という選択肢をとり、その後自分のために歯をくいしばって苦労する方がよっぽど実を結ぶ可能性があります。

配偶者が離婚を決意してようやく本人の尻に火がつき、治療のルートにのった例も少なくありません。

治療

週1回以上の自助グループ参加と、月1回の通院をして下さい。

専門の外来通院をしっかり開始することから全てが始まります。

保健所、精神保健福祉センター、自助グループ・リハビリ施設、家族会・家族の自助グループなどへ積極的に相談して、利用可能な支援を選択することが大切です。