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うつ病の治療と抗うつ薬の選び方

うつ病性障害の治療適応と目標

うつ病エピソード(ICD-10)、または大うつ病エピソード(DSM-IV)の診断基準を満たす方は、抗うつ剤による治療が必要になります。

軽症のうつ病の場合には、個人の特質や、その人の希望によって抗うつ薬による治療が選択されるかもしれませんが、心理社会療法的なアプローチのみで十分な場合もあるでしょう。

どちらにせよ、うつ病が疑わしい場合やそれに近い体調不良がある場合は状態の評価とその治療のための受診をお勧めします。

受診してうつ病という診断になった場合、どのように抗うつ薬が選ばれるかを説明します。

抗うつ薬の選択の仕方

抗うつ薬の開発が、大うつ病の治療に貢献していますが、1957年の最初の三環系抗うつ薬(TCA)以来、多くの異なるタイプの抗うつ薬が開発されており、抗うつ薬の使い方が非常に重要となります。

より新しい抗うつ薬は、副作用を減らすこおを主な目的として開発されていますが、作用機序の異なるお薬の登場が、これまで効果が乏しかった方にも効くことも見られます。

但し全体的な抗うつ薬の効果を総合的にみると、どの抗うつ薬も抗うつ効果は同じくらいであり、治療反応率は50~75%となります。

そのため、それぞれの特定の抗うつ薬の選択は、下記のようなことを考慮したうえで、選択することになります。

・過去の薬物の使用歴

これまでに使用して、良い反応をした薬物とそうでない薬物から判断します。

・選択された抗うつ薬によって悪化する可能性のある身体合併症

たとえば肥満や、糖尿病などの方には太りやすいお薬を避けるということなどです。

・好ましくない、潜在的に有害な薬物相互作用に至りうる薬の併用

ワーファリンや抗不整脈薬、高血圧の薬などさまざまな薬との相互作用を考える必要があります。

・薬剤による短・長期の副作用

健康の質に影響を及ぼす副作用は、内服する人の満足度と継続率を低下させます。

たとえば、内服開始時の吐き気や、長期てきな性機能障害などです。

・医師の経験

処方する医師の経験が薬剤の選択肢に影響します。

・内服する人のこれまでの服薬管理の経歴

飲み忘れが多い人は1日1回で済む薬剤を選択することなどを考えます。

・薬物に反応した第一度近親者(親、子、兄弟姉妹)の家族歴

近親者に効果のあった薬剤は、同じように効果が出現しやすいでしょう。

・コスト

薬剤での薬価、値段が違います。

世界基準、ガイドライン

WFSBP(生物学的精神医学会世界連合)は下記のような推奨をしています。

・軽症のうつ病に対していは、中東症から重症のうつ病に対して有効な心理教育または精神療法が、抗うつ薬に代わる治療選択肢となる。

・薬剤は用いられる(患者の希望/好みによる、以前に薬剤に反応した正の治療歴がある、過去に中等症から重症のエピソードがある、初期に非薬理学的治療に反応しなかった)場合には、SSRIとその他のより新しい抗うつ薬が第一選択薬となりなす。

・中等症のうつ病ではSSRIとその他のより新しい抗うつ薬が第一選択薬となります。

・重症のうつ病では、TCA、SSRI、SNRIが推奨されます。

適切な治療による有益性の程度は、うつ病が重症になればなるほど高まります。

軽症のうつ病では、薬物療法に頼りすぎず、教育、支持、問題解決も抗うつ薬に代わる治療効果を期待できるということです。

しかし、重症度が増すにつれて、抗うつ薬の使用がより適切となります。

うつ病の種類とその治療

うつ病と一言でいっても、様々な異なるサブタイプがあり、それぞれのクラスの抗うつ薬に対して異なる反応をします。

メランコリー型うつ病の特徴と入院適応となるうつ病

メランコリー型うつ病の特徴は、ほとんどすべての活動における喜びの喪失、ふだん快適である刺激に対する反応の消失、早朝覚醒、朝に悪化すること、有意な体重減少、精神運動遅滞、焦燥感、抑うつ気分などがあります。

入院治療が必要な方はメランコリー型の特徴を呈していることが多いです。

SSRIはプラセボよりも効果的であり、三環系抗うつ薬と同等の効果を期待できます。

精神病性うつ病

大うつ病性障害では、時に妄想や幻覚の出現も見られます。そういった精神病性うつ病の方には抗うつ薬と抗精神病薬を併用することで、いずれか単独の治療よりも、かなり高い反応率を示す場合があります。

ここで注意するのは、うつ病に投与される抗精神病薬の用量は、統合失調症に用いられる用量よりも少ない量で有効であることが多いことです。

非定型の特徴を伴ううつ病

非定型の特徴とは、イベントに反応して気分が明るくなる、過眠、体重増加、強い疲労感、四肢の鉛様の麻痺、パーソナリティ特性としての拒絶に対する敏感性などです。

特に非定型の特徴を伴ううつ病の方に対しては、薬物療法の効果が乏しい事も多く、精神療法などの心理的アプローチや環境調整が奏功することがあります。

双極性感情障害(躁うつ病)のうつ病

双極性感情障害のうつ病では情動調整薬と呼ばれる薬剤(ラモトリギン、炭酸リチウム、バルプロ酸など)や少量の抗精神病薬(アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピンなど)が使用されます。抗うつ剤単剤での治療は推奨されておらず、使用するとしても情動調整薬や抗精神病薬と併用することが多いでしょう。

これまで、躁状態がみられていなくても、うつ病として抗うつ薬を内服し始めて、気分が高まり、浪費、多弁、過活動が出現するようなときは躁うつ病を疑います。

うつ病と自殺

自殺は、大うつ病ではリスクとして考えておかなければならず、希死念慮が急激に高まった時は、入院での治療が必要です。

自殺のリスクが高まりやすい因子としては、

・気分の波が激しい

・衝動制御性が乏しい

・落胆と絶望感が強い

・年齢と性別(男性では20歳~30歳と50歳以上、女性では40~60歳)

・自殺未遂の既往歴

・自殺企図の家族歴

・早期発症の感情障害の家族歴

・アルコールなどの物質乱用

・婚姻状況(独身、離婚など)

・社会経済状況の急激な変化(失業、経済的問題、望まない退職)

・支持者の欠如

などがあげられます。

うつ病の治療目標

うつ病の治療を行う際には、急性期、中期、長期の目標をたて、それぞれの時期での急性期治療、継続期治療、維持期治療を行っていきます。

急性期治療

急性期治療は、治療開始から寛解までの期間を網羅するものであり、治療の第1ゴールです。寛解の基準は2つの条件、つまり1つ目の無症状(障害の診断基準を満たさず、残遺症状がないか、あったとしても最低限であること)であることとと、2つ目に心理社会的にも職業的にも機能が改善することです。

継続期治療

継続期の治療は、寛解を維持し、安定するために、急性期に続けて行う、うつ病の再発予防のための治療延長期間です。

継続治療の期間中に抑うつ性の症状群が再発した場合は、同一エピソードの再発が起きたと考えます。残念ながら、治療中の状態では、再発と反復(新しいエピソード)とを区別できません。

それゆえ、実際にどこまでが継続期治療なのかを正しく定義することが難しいのです。

原理的に、回復は、薬剤中止後の抑うつ性症状の持続的な欠如によって確かめられます。

回復は、病気の個々のエピソードのみに適応されるものであり、今後も再発しないということを意味するものではありません。

維持期治療

維持期(予防)治療は、うつ病の反復および自殺を防止するとともに、機能を全面的、持続的に回復させることを目的とします。

まとめ

このようにうつ病といっても個々人により様々な病態を示すため、それぞれの人にあった治療を経過に合わせて調整していくことが必要となります。

かかりつけの信頼できる医師と連携をとっていくことがとても大切です。

【不安・うつ】SSRIどれがいいのか?【抗うつ薬比較】

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)はどれがいいのか?

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)としては日本初のお薬であるルボックス®、デプロメール®/フルボキサミンマレイン酸が1999年に承認され、それ以降、パキシル®/パロキセチン、ジェイゾロフト®/セルトラリン、レクサプロ®/エスシタロプラムと使用できるSSRIの選択肢が増えています。

SSRIという作用機序から同じ分類になっているルボックス®、デプロメール®、パキシル®、ジェイゾロフト®、レクサプロ®ですが、では一番いいSSRIはどれなのかという疑問がでますよね。

SSRIの有効性と忍容性のランク付け

抗うつ薬の強さを比較する一つの目安となる試験に、Manga Studyというものがあります。

Manga Studyでは抗うつ薬の有効性(効果の強さ)、と忍容性(副作用が少なく内服継続しやすさ)でそれぞれの抗うつ薬が評価されています。

SSRIの有効性のランキング(日本で発売されている薬剤のみ記載)

1位 レクサプロ®

2位 ジェイゾロフト®

3位 パキシル®

4位 ルボックス®、デプロメール®

という結果でした。

SSRIの忍容性ランキング(日本で発売されている薬剤のみ記載)

1位 レクサプロ®

2位 ジェイゾロフト®

3位 パキシル®

4位 ルボックス®、デプロメール®

という結果です。

有効性と忍容性の順位がそのまま同じですね。

但し、海外で使用できる薬剤の上限は日本と異なる薬剤もあり、この結果がそのまま皆様に当てはまるかどうかは分かりません。

ではこの試験結果のように、レクサプロ®が一番いいSSRIかというと、そうとも限りません。

もちろんレクサプロ®は有効性、忍容性に優れているのは確かでしょう。

では一番いいSSRIとは。

一番いいSSRIは人それぞれ違う

「症状や相性により、一番いいSSRIは人それぞれ違う」ということです。

一番いいSSRIということをもっと医学的に表現すると、「その人にとって、症状を改善するのに最も効果的で、副作用が極力少なく、長期的に飲みやすく、適切な量で使用されているSSRI」ということになります。

あなたにとって症状を改善するのに最も効果的であること

うつ病の治療アルゴリズムにおいて第一選択の1つとして効果を発揮するSSRIですが、うつ病だけでなく、セロトニン神経系の機能異常が関係する抑うつ気分、全般的な不安、強迫性の不安、パニック症状、さらには摂食障害やアルコール依存症など様々な病態への効果が期待できます。

症状や年齢、性別、経過など様々な要素から相性のよいSSRIを選択します。

あなたにとって副作用が極力少ないこと

基本的には飲み始めの吐き気や、眠気、体重増加、性機能障害等ある程度共通した副作用が報告されていますが、それぞれのSSRIでも副作用の出現する度合いが異なり、個人差もあります。

あなたにとって長期的に飲みやすいこと

1日2回内服するタイプや、1日1回内服する違いや、口の中で溶けるタイプの錠剤があるものもあります。

長期的に飲みやすいということは、継続するうえで大切なことです。

あなたにとって適切な量であること

開始用量や維持用量、最大用量は添付文書で明記されていますが、効果が出る用量、維持する用量、副作用の目立つ用量は個人差があり、あなたにとって適切な用量を設定してもらう必要があります。

漢方でいうところの実証、虚証というものがありますが、SSRIの使用用量については虚証の人であれば、嘔気などの消化器症状や眠気が出現しやすく、初回開始容量の1/2か1/4かでいい場合もあります。

また経過によっても適切な量は変わってきます。

症状が減り、回復してきて逆に眠気や性機能障害などの副作用が目立つときは減量します。

経験と知識を持ち合わせた専門の医師は、診察によって、その人にとって最も相性の良いであろうSSRIを最も適切な時期に、最も適切な量で処方できうると思われます。

それではそれぞれのSSRIの特徴をみてみましょう。

ルボックス®、デプロメール®/フルボキサミンマレイン酸塩

【剤型】

25㎎、50㎎、75㎎

【適応】

うつ病、うつ状態、強迫性障害、社会不安障害

【用法用量】

通常成人には1日50㎎を初期用量とし、1日150㎎まで増量し、1日2回に分割して経口投与します。

フルボキサミンの特徴

フルボキサミンはオランダの会社により開発され、日本では1999年SSRIとして初めて承認されたお薬です。

ノルアドレナリン再取り込み阻害作用に比較して、格段にセロトニン再取り込み阻害作用が強いのが特徴です。

フルボキサミンは他の神経伝達物質受容体に対する親和性が低く、そのため、有害副作用が少なく安全性の比較的高い薬物です。

薬理作用、薬理動態

神経終末からシナプス間隙へ放出されたセロトニンは主として神経終末に存在するセロトニントランスポーターを介して速やかに取り込まれ再利用されます。

フルボキサミンはセロトニンの再取り込みを選択的に阻害する作用をもちますが、各種神経伝達物質受容体にはほとんど親和性を示さず、モノアミン酸化酵素阻害作用も示しません。

再取り込み阻害作用は投与後に比較的短時間に引き起こされますが、実際の臨床での治療効果発現には10日前後必要です。

Tmax(最高血中濃度到達時間)は約4~5時間、半減期約9~14時間、約3日でほぼ定常状態となります。

肝臓で酸化的に脱メチル化されて薬理活性を持たない代謝物となり、尿中に排泄されます。

効果

実験動物を用いた薬効薬理試験では抗うつ作用や強迫行動の抑制が確認されています。

うつ病及びうつ状態における臨床症状改善率は約60%といわれています。

うつ病だけでなく、社会不安障害、強迫性障害、摂食障害、月経前不快気分障害、アルコール依存症の抑うつ状態等への効果が期待できます。

注意点、副作用

服用開始後に効果の出現に先行して、様々な副作用がでることがあります。副作用の出現が、内服への抵抗感や拒否感につながり、症状を遷延させてしまうことにつながる可能性があります。

そのために、治療効果発現までの見通しや服薬開始後に出現することが予測される副作用について、知識を持っておくことが大切です。

投与量の急激な減少や内服中止により、頭痛、嘔気、めまい、不安感、不眠、集中困難等がみられる離脱症状がみられることがありますので、投与を中止する場合には徐々に減量する慎重な調整が必要です。

フルボキサミンはかみ砕くと苦みがあり、舌のしびれが出現することがありますので、水とともに服用し、噛まないようにしましょう。

自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事しないこと、飲酒を避けることが必要です。

高齢者では肝機能が低下していることが多く、高い血中濃度が持続する可能性がありますので、増量に際しては、用量等に注意する必要があります。

妊娠の可能性がある場合には主治医と相談し、可能であれば中止することが望ましいでしょう。

母乳中への移行のため、授乳婦は内服を避けることが望ましいですが、やむを得ず内服する場合は授乳をやめ、ミルクにしましょう。

嘔気、悪心、口渇、便秘等の消化管の症状が出現することがありますが、服用の中止または減量を必要とせずに、副作用が消失することが多く、吐き気止めを併用することで、副作用症状を軽減できる可能性があります。

フルボキサミンを過量内服した場合の急性中毒症状は、悪心、嘔吐、下痢等の胃腸症状、眠気及びめまいが多く、時に不整脈や低血圧等の循環器症状、肝機能障害、けいれんや意識障害が出現することがあります。

また、投与初期には抑うつ症状や不安焦燥感、不眠が増えることがあるので、安定剤などを少量併用することが助けになることがあります。

フルボキサミンは動物試験で身体依存性及び精神依存性は認められなかったようです。

薬物相互作用

フルボキサミンは、主に肝薬物代謝酵素CYP3A4阻害作用を有し、他にもCYP1A2、CYP2C19、CYP2D6の阻害作用も有するので、抗てんかん薬や、三環系抗うつ薬、ベンゾピアゼピン系薬物、βー遮断薬、キサンチン系気管支拡張薬、クマリン系抗血液凝固薬の代謝を阻害し、血中濃度を上昇させ、血中半減期を延長させます。

他にお薬を飲んでいる場合は主治医に相談しておくといいでしょう。

炭酸リチウムとフルボキサミンの併用で、両薬剤の作用増強の報告があります。

パキシル®、パキシル®CR/パロキセチン塩酸塩水和物

【剤型】

パキシル® 5mg、10mg、20mg

パキシル®CR 12.5mg、25mg

【適応】

①うつ病・うつ状態、②パニック障害、③強迫性障害、④社会不安障害、⑤外傷後ストレス障害

【用法用量】

①1日1回10~20㎎夕食後で開始し、1日40㎎まで。

②1日1回30㎎夕食後から開始し、1日30㎎まで。

③1日1回20㎎より開始し、1日50㎎まで。

④1日1回10㎎より開始し、1日40㎎まで。

⑤1日1回10~20mgより開始し、1日40㎎まで。

(*パキシルCRの場合、パキシル®10㎎=パキシル®CR12.5㎎と換算して計算します)

パロキセチンの特徴

パロキセチンはデンマークの会社により1975年に開発され、1990年に抗うつ薬として初めてイギリスで承認され、抗うつ薬として世界110か国以上、、パニック障害および強迫性障害の治療薬として80か国以上で承認されています。

外傷後ストレス障害の治療薬としては60か国以上で承認されています。

パロキセチンは、日本においてうつ病及びうつ状態、パニック障害への適応で、2000年に承認されたお薬です。

日本においてはパニック障害への適応が認められた最初のSSRIでした。

2006年に強迫性障害、2009年に社会不安障害、2013年に外傷後ストレス障害の適応を取得しています。

薬理作用・薬理動態

神経終末からシナプス間隙へ放出されたセロトニンは主として神経終末に存在するセロトニントランスポーターを介して速やかに取り込まれ再利用されます。

パロキセチンはセロトニンの再取り込みを選択的に阻害する作用をもちます。

抗コリン作用は三環系抗うつ薬に比較してきわめて弱いものですが、SSRIの中では一番強く、口渇感や便秘が出現する可能性があります。

セロトニン再取り込み阻害作用は投与後に比較的短時間に引き起こされますが、実際の臨床場面においてはパロキセチンの治療効果の発現に概ね10日から2週間が必要となります。

主に肝薬物代謝酵素CYP2D6で代謝され、尿中に排泄されます。

高度の腎・肝障害のある人では血中濃度が上昇することがあります。

Tmax(最高血中濃度到達時間)は約5時間、半減期は約15時間、約7日でほぼ定常状態となります。

効果

パロキセチンの適応症として厚生労働省が正式に認可しているのは、うつ病・うつ状態、パニック障害、強迫性障害、社会不安障害及び外傷後ストレス障害です。

パニック障害、強迫性障害、摂食障害、月経全不快気分障害、アルコール依存症に伴う抑うつ状態などの病態にはノルアドレナリン神経系に作用する薬物より、SSRIが有効でしょう。

IPAP(International Psychopharmacology Algorithm Project)のうつ病治療アルゴリズムでは、大うつ病(中等度以上)の治療において、SSRIが第一に選択されるべき薬物として挙げられています。

パニック障害に対するSSRIの有効性がメタアナライシスにより確かめられています。

日本での臨床試験成績ではパロキセチン投与8週後の最終全般改善度における改善率(中等度改善以上)は約50%であり、プラセボ群の約30%と比べても優位に優れていました。

パロキセチンを強迫性障害の方へ12週間投与し、強迫症状改善度における改善率(著効以上)は、61.1%であり、プラセボ群の24.7%に比べて、優位に優れていました。

注意点、副作用

SSRI投与開始後2週間程度に不安の頻度が増加することがあるため、抗不安薬等の併用が必要な場合があります。

急性有害作用や退薬症状の出現を抑えるために、漸減、漸増することが基本になります。

急激な中止により、めまい、知覚障害、睡眠障害、不安、嘔気、発汗等がみられることがあり、中止する場合は、徐々に減量することが必要です。

内服中の自動車等危険を伴う機会を操作する際には充分注意する必要があり、従事しないようにしましょう。

妊娠の可能性がある場合には主治医と相談し、可能であれば中止することが望ましいでしょう。

母乳中への移行のため、授乳婦は内服を避けることが望ましいですが、やむを得ず内服する場合は授乳をやめ、ミルクにしましょう。

主な副作用として、嘔気、傾眠、口渇、めまい等の報告があります。

衝動性を増悪させる可能性があるので、衝動性が高い併存障害を有する場合だけでなく、開始初期は注意深い観察が必要です。

頻度は少ないのですが、不安感、焦燥感、興奮、パニック症状、不眠、易刺激性、敵意、攻撃性、衝動性、躁状態が出現することがありますので、主治医と相談しながら調整する必要があります。

薬物相互作用

パロキセチンは肝薬物代謝酵素CYP2D6の阻害作用を有することから、抗精神病薬、三環系抗うつ薬、抗不整脈薬、β遮断薬等の血中濃度が上昇し、これらの薬剤の作用が増強することがります。

また、フェニトインやフェノバルビタール等は肝薬物代謝酵素誘導作用を有するため、パロキセチンとの併用によりパロキセチン血中濃度が低下するおそれがあります。

ジェイゾロフト®/塩酸セルトラリン

【剤型】

錠剤/OD錠 25mg、50mg、100mg

【適応】

うつ病・うつ状態、パニック障害、外傷後ストレス障害

【用法用量】

1日25㎎を初期用量とし、1日100㎎まで漸増でき、1日1回内服します

セルトラリンの特徴

セルトラリンはアメリカで開発され、1990年にイギリスで、1991年にアメリカでうつ病の治療薬として承認されました。

世界110か国以上で、うつ病、パニック障害、強迫性障害、社会不安障害、月経全不快気分障害の適応症で承認されています。

外傷後ストレス障害については、海外において90以上の国と地域で承認されており、国際的に外傷後ストレス障害の標準的な治療薬となっています。

本邦では、2006年、うつ病・うつ状態ならびにパニック障害として適応を取得し、2015年に外傷後ストレス障害の適応を取得してます。

セルトラリンは、日本初めて、プラセボを対照とした比較試験によりうつ病・うつ状態の再燃抑制効果が示されたSSRIです。

薬理作用、薬物動態

神経終末からシナプス間隙へ放出されたセロトニンは主として神経終末に存在するセロトニントランスポーターを介して速やかに取り込まれ再利用されます。

セルトラリンはセロトニンの再取り込みを選択的に阻害する作用をもちますが、各種神経伝達物質受容体にはほとんど親和性を示さず、モノアミン酸化酵素阻害作用も示しません。

アドレナリン、ヒスタミン、アセチルコリン等の受容体に対する親和性も低く、従来の抗うつ薬に劣らない抗うつ効果を持ちながら、問題となるような有害な副作用が極めて弱いお薬です。

セロトニン取り込み阻害作用は投与後に比較的短時間に引き起こされますが、実際の臨床場面においてはセルトラリンの治療効果の発現にはおおむね10日から2週間ほど必要になります。

セルトラリンは肝代謝酵素CYP2C19、CYP2C9、CYP2B6、CYP3A4等で代謝されます。

高度の肝障害のある方は血中濃度が上昇することがあるので、増量が必要な場合は、慎重な調整が必要です。

Tmax(最高血中濃度到達時間)は約6~8時間で、半減期は約22~24時間です。約5日でほぼ定常状態に達します。

効果

セルトラリンの適応症として厚生労働省が正式に認可しているのは、うつ病・うつ状態、パニック障害、外傷後ストレス障害です。

諸外国では、強迫性障害、社会不安障害、月経全不快気分障害の適応症で認可されています。

また、摂食障害、アルコール依存症の抑うつ状態などのセロトニン神経系機能不全が想定される疾患にも効果が期待できます。

海外における大うつ病の人に対するプラセボを対照としたいくつかの二重盲検比較試験において、セルトラリンはすべての試験でプラセボに比べてHAM-D合計点(うつ状態を評価する検査、点数が高いほど重度)の減少幅が大きく、統計的に優位な差が認められています。

また、最高用量を増量して実施したランダム化治療中止試験においては、主要評価項目であるセルトラリンの再燃率は8.5%であり、プラセボの19.5%に比べ、統計的に優位に低いことが検証され、再燃抑制効果を含むセルトラリンの抗うつ効果が認められています。

IPAP(International Psychopharmacology Algorithm Project)のうつ病治療アルゴリズムでは、大うつ病(中等度以上)の治療において、SSRIが第一に選択されるべき薬物として挙げられています。

海外におけるパニック障害に対するプラセボを対照とした複数の二重盲検比較試験において、セルトラリンは全ての試験でプラセボに比べて改善が認められ、発作回数や全般改善度でもプラセボに比べて統計的に有意な差が認められました。

国内でのプラセボを対照とした二重盲検比較試験においても、パニック発作の出現頻度の有意な減少が認められています。

注意点、副作用

投与開始後に不安の頻度の増加することがあるため、抗不安薬等の併用が必要な場合があります。

急性有害作用や退薬症状の出現を抑えるために、漸減、漸増することが基本になります。

急激な中止により、めまい、知覚障害、睡眠障害、不安、嘔気、発汗等がみられることがあり、中止する場合は、徐々に減量することが必要です。

内服中の自動車等危険を伴う機会を操作する際には充分注意する必要があり、従事しないようにしましょう。

母乳中への移行のため、授乳婦は内服を避けることが望ましいですが、やむを得ず内服する場合は授乳をやめ、ミルクにしましょう。

主な副作用として、嘔気、傾眠、口渇、めまい等の報告があります。

衝動性を増悪させる可能性があるので、衝動性が高い併存障害を有する場合だけでなく、開始初期は注意深い観察が必要です。

頻度は少ないのですが、不安感、焦燥感、興奮、パニック症状、不眠、易刺激性、敵意、攻撃性、衝動性、躁状態が出現することがありますので、主治医と相談しながら調整する必要があります。

薬物相互作用

セルトラリンは肝代謝酵素(チトクロムP450)に対する影響が比較的少ない薬剤ではあります。

併用してはいけない薬物としては、モノアミン酸化酵素阻害薬があります。モノアミン酸化酵素阻害薬との併用により、セロトニン症候群(錯乱、発熱、見送ろヌス、振戦、協調異常、発汗等がみられる)が現れることがあります。

機序は不明ですが、炭酸リチウムとの併用によってもセロトニン症候群が現れることがあり、注意が必要です。

ワーファリンとの間に薬物相互作用が報告されており、ワーファリン内服中の方は内科の主治医にも伝えて相談してください。

レクサプロ®/エスシタロプラム

【剤型】

10mg

【適応】

うつ病、うつ状態、社会不安障害

【用法用量】

1日1回10㎎、夕食後より開始し、1日20㎎まで増量できます。

下記ご参照下さい。

レクサプロ®/エスシタロプラムを処方された方へ

 

摂食障害での日常の工夫

日常の食生活での注意(刺激統制法)

1.1日3回の食事をきちんとする(穀物、パンなど炭水化物を必ず含めること)

2.お腹が空いた状態で買い物に行かない

3.過食しそうなものを日頃から家に置かない

4.食事は一人で食べないようにする(一人で部屋に閉じこもって食べないようにする)

5.一回の食事に必要な量だけ料理をする

6.料理を小さい皿で盛り、決して大盛りにしない

7.食事の前(10~30分前)にコップ1~2杯の水をゆっくり飲み、空腹感をまぎらわす

8.食事のとき、よくかみ、20分以内に食事を終わらないようにする

9.食事の後、嘔吐をしないようにする。下剤を使わないようにする

10.体重を毎日計らないようにする

11.過食する時間をふさぐため、週末と夜の計画を立てる

過食しそうな状態になったときの対策(代替行動法)

1.何かすっぱいものを口の中に入れる

2.フルーツをゆっくり時間をかけて食べる

3.製氷皿にオレンジジュースなどを凍らせておき、それをゆっくりなめる

4.歯をゆっくり磨く

5.角氷をなめる

6.10分間タイマーをセットし、それが切れたとき、また過食しないかどうか自分で聞いてみる

7.チューインガムをかむ

8.運動をする。散歩する

9.指の爪を磨く

10.新聞、雑誌を読む

11.好きなテレビとかビデオを見る

12.友達に10分間だけ電話する

13.音楽を聴く

14.温かいシャワーを浴びるか、風呂に入る

15.手紙とか日記を書く

摂食障害での体重、食事管理

治療目標体重の決定

目標体重は本人納得のうえで柔軟性をもって決めましょう。

拒食が主体の場合、標準体重(標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22)の-10%くらいにしましょう。

これは月経が正常化する最低の体重とされているからです。

標準体重を多いと感じる人が多いでしょうから、身長(m)×身長(m)×20で設定してもいいでしょう。(男性の場合21)

食事管理

まず正常な食事のパターンの回復を目指して、1日3回(朝、昼、晩)、決まった時刻に食事をする習慣を再獲得しましょう。

1回の食事に腹部膨満などで少量しか食べられない場合は、1日の食事回数を4~6回に増やしましょう。

家族と同じ内容の食事を、家族とは別に食事しましょう。(家族の監視が強い場合緊張して食べられないが多いため。)

「何をどのくらい食べるかについて」は、家族は一切指示せず、本人が医師の指示に従って食べるかどうかも本人に任せましょう。

本人は家族と同じ食物を食べ、ごはんを嫌っていても食べるようにしましょう。

このときごはんは通常の意味でのごはんでなく「薬」であると思って食べましょう。

料理の内容は親に任せましょう。

食べることや体重を指示するのは治療者のみで、家族にはさせないようにしましょう。

家族(特に母親)には、患者が内面的な問題を打ち明けるような雰囲気がつくれるといいでしょう。

これには本人の言うことに批判を加えず、指示せず、ゆったりと傾聴できるといいでしょう。

食事量については、食生活日誌をつけさせ、1週間のパターンを観察して食事管理しましょう。

ご飯を食べていない場合、食べるようにし、その量は一週間を平均して食べている量を100%として、その次の1週間はこれの120%に増やし、これが食べられれば、これを100%として次の週はその120%ということを繰り返しましょう。

そして、体重が1週間に0.5~1kg増加することを目標とします。

通院治療を開始して治療を継続しても、3~6か月間摂食行動が変わらず、体重が増加しない場合、入院治療を検討します。

このようにして食事管理しながら、徐々に本人の内面的な問題を取り扱っていきます。

摂食障害の治療の動機づけの強化

摂食障害の治療にくじけそうな時

人生、七転び八起き、何回挫折してもそれから立ち直ることが重要で、失敗すること自体は問題ありません。

問題なのはそれから立ち直ろうとしないことです。

早く立ち直る練習をしましょう。

努力を重ねているうちに必ず報われます。

変わることができるのです。

今の自分を変えたくて仕方がないと思っているのでしょう。

1日3回の規則正しい食生活の確立を目指して食生活日誌を続けましょう。

それと同時に自己誘発性嘔吐は、過食による体重増加を帳消しにすると信じられ、次回の過食を予約しているようなものですから、まずこれを止めましょう。

そうすれば、回数を減らした分だけ体や心に対する害を減少させると共に経済的にも助かること、この延長線上に過食がゼロ、すなわち過食しない状態を生じること、そうなればこの過食しない状態を持続して可能な限り延長しましょう。

これには食生活日誌で1週間ごとに食生活を検討し、1回でも過食が減っていればしっかり褒めましょう、そうでない場合は、その原因を吟味しましょう。

過食が治った(コントロールできた)状態とは、ある一定期間過食しない状態が続いた後、何かのきっかけで過食してもその翌日から再び過食しない状態が続くことで、どんな状態でも過食しない状態をつくるというのではないことを理解しましょう。

そして過食しそうになったときの代替行動を学習しましょう。

これについては、日頃から注意すべき食生活と、過食しそうになったときの代替行動のリストを渡して毎日実践してく下さい。

ストレスを減らしたり、ストレスに対する対処行動を高めるために、完全主義的思考の打破や、自己主張訓練、問題解決法などを行っていきます。

入院を考慮する場合

以下の場合は主治医に相談して入院を考慮する場合があります。

1.抑うつ気分が強く自殺の危険がある

2.自傷行為や問題行動が生じる

3.治療上厳しい行動制限が必要な場合

4.過食行動が強く、食物を自分で管理できない

5.その他医師が治療上、開放病棟で治療が困難と判断場合

摂食障害の治療【認知行動療法⑥】

摂食障害の治療【認知行動療法⑥】

第3段階の治療

第3段階の治療目標は今までの治療により得られた改善の維持と、将来の再発する可能性に対処するための準備をすることです。

1)改善の維持

これまでの治療で学んだ技能を繰り返し使います。

規則正しい食習慣を続け、過食や嘔吐をしない状態を持続させ、問題解決訓練法や認知再構成法を自ら実施します。

食生活日誌は摂食行動に対して完全にコントロールできるまで続けます。

そして、空腹感、満腹感が回復し、これによって食行動をコントロールし、決してダイエットをしない状態になれば中止します。

2)将来、問題に直面した時の準備

ストレス下において過食が再発しても、それに対処する技能を学習してきたのであり、いつでもその技能を有している。したがって将来過食を生じても、今まで学んできた技能を駆使し、翌日から正常な食生活に戻れば再発ではないとことを理解しましょう。

再発とは翌日からまた毎日連続して過食して嘔吐する生活のことです。

また過食を生じた時、なぜ生じたのか、如何に防げたのかを考えさせることが、将来の再発を防ぐことにもなります。

過食再発防止対策として、再発の危険性がある時または摂食行動が悪化しそうな場合、再発に関係している事柄を見つけ、それを解決するように具体的な計画を立て、これを実施しましょう。

摂食障害の治療【認知行動療法⑤】

摂食障害の治療【認知行動療法⑤】

第2段階の治療

第1段階の治療をしながら第2段階の治療を挿入していきます。

第2段階の治療には具体的には以下のような治療を行います。

①問題解決訓練法

過食は不愉快な出来事や抑うつ気分が引き金になることが多いため、過食になるような状況や契機を明らかにし、これに対処する技能を高める必要があります。

これには問題解決訓練法が有用です。この技能を用いて問題が解決されるようになると、以前過食に導いた出来事が過食しないですむことになります。

問題解決訓練法

1.過食に導いた出来事を取り出してください

例えば、母親と口論したとか

2.解決方法をできるだけ多く列挙してください

例えば、なぜ口論したのか。母親が悪いからか

何が悪かったのか、自分の考えを主張できたのか

そこに居合わせなかったほうがよかったのか

話題をかえられなかったのか

他のことをすればよかったのか

3.それぞれの問題について、その実行可能性、現実性という点で検討してください

4.最上の方法を選んでください

5.具体的な各段階を検討してください

6.これを実行してください

7.実行した全経過を10点満点で評価してください

過食になる時のきっかけになるような出来事や不快な感情を列挙してください

その1つを取り上げて、問題解決を検討していきましょう

そしてこの問題解決法をできるだけ多く使うようにしましょう

②認知再構成法

異常な摂食行動に導いている体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(肥満恐怖、やせ願望、やせていることは美しいなど)や摂食障害を持続させている思考、信念、信条(完全主義的傾向、二分割思考など)を明らかにし、これを変えていくことです。

1)歪んだ自動思考について

日常生活で過食したい衝動に駆られた時、食事を抜こうとしたとき、食事した時、体重測定の時、容姿について何か言われたときに生じた考えを記録してください。(認知療法トリプルカラム法でも良いです:トリプルカラム法

このようにして患者の歪んだ自動思考を意識化します。

例えば「私は食べ物に対する自制心を失っている。一度食べ出すと止まらない。もうどうでもよいとあきらめる。すぐに吐いてしまわないと太る。」などは摂食障害患者によくみられる自動思考です。

その他「私は太っている。体重を減らさねばならない。ダイエットしなければならない。また同じことをしてしまった。明日から過食を止めよう」なども多く認められます。

1-a)自動思考の意味の明確化

例えば「私が太っている」というのは、体重が重いことなのか、他人の目からみて太っているということなのか、などについて明らかにします。

1-b)その自動思考の妥当性を支持している根拠

例えば体重が少し増加して肥満したと考える場合、過去に体重増加により肥満したことがあることなどが支持する根拠となります。

1-c)その自動思考の妥当性を疑わせる根拠

体重が少し増加したのを太っていると思う場合、実際は少し増えただけで、肥満ではないことが反証となります。

この中で患者の二分割思考、選択的抽出、過度の一般化など、認知の歪みが明らかとなります。

1-d)自動思考に代わる現実的で妥当な結論を得る

現実場面で、今までの経過により得られた結論が、有効に機能することを確認すします。

2)歪んだ信念や価値観について

「やせは美しい、成功を意味する」「太ることは醜い、失敗を意味する」などに対してその意味を明確化して、その妥当性を支持する場合、疑わせる場合の真実と論拠を整理し、その信念や価値観を有している時の利害得失を考えさせ、妥当な結論を引き出します。

これらはスリムを礼賛する社会的風潮下ではなかなか変わり難いものがあります。

しかし繰り返して少しでも和らげることが肝要です。

事項はこちらです。→摂食障害の治療【認知行動療法⑥】

摂食障害の治療【認知行動療法④】

摂食障害の治療【認知行動療法④】

毎回、摂食行動と毎日の課題の達成具合を食生活日誌で吟味します。

できないことが生じれば、それについて議論し、新しい戦略を明らかにしていき、時間単位で改めていきます。

日々の成功については小さなことでも自分自身で誉めましょう。

そして失敗から学び更なる前進をするように激励します。

過食や嘔吐の意味の吟味をする

過食の回数が減り間歇的になれば、過食を持続させる要因について明らかにしていきます。

過食が必ずしも悪い面ばかりもっているのではないのです。

それは嫌な考え方の中断、抑うつ気分の一時的解消、時間つぶし、睡眠導入、激しい摂食制限の一時中断、または自分を罰するためにとか、助けようとする人たちを困らせるために役立っています。

これらが過食のプラス面で過食を持続させてしまいます。

一方、嘔吐は過食後の腹部膨満を解消したり、食物の吸収を減らすために行われます。

また少数の人にとっては緊張やストレスの緩和になることがあります。

なぜ過食や嘔吐をするのか、自ら分かるように努めましょう。

またこれらをうまく妨げた時、その方法を食生活日誌に書きましょう。

家族の協力を得る

家族(親や配偶者)に本人の摂食行動という秘密を家族に明らかにさせ、治療内容をオープンにしましょう。

これは秘密にしているとか、欺いていることに伴う罪の意識を減少させてくれます。

家族の協力は本人自身が食生活の改善に向かって努力できる環境を作ることですが、家族を過度に巻き込まないように注意しましょう。あくまでも本人自らが変わらなければならないのです。

以上第1段階の治療になります。

第1段階の治療でうまくいかない場合、例えば過食の頻度は減少しているが、1日1回はしているなどの状態であっても、治療開始時より過食と嘔吐の回数の減少が持続している場合は第2段階の治療も導入します。

第2段階の体型や体重に対する認知の歪みを改める治療を適宜挿入し、第1段階の治療も継続します。

そして本人の日常生活に支障をきたさない程度に減少するまで継続します。

この関わりは数か月~数年に及ぶことも少なくありません。

この間、本人の試行錯誤を許容し、心の発達と成長を温かく見守ってもらえる環境が必要です。

事項はこちらです。→摂食障害の治療【認知行動療法⑤】

摂食障害の治療【認知行動療法③】

摂食障害の治療【認知行動療法③】

食生活日誌を吟味します。

昼食をとばした理由などを詳しく聞いたり、過食を生じた時の情況の記録を見ながら、さらに詳しく振り返ります。

食生活日誌が後日書かず、その直後に正確に書かれることが大切です。食後に正確に記載していきましょう。

小さな達成(成功)を誉める

課題(例えば3回の食事を規則正しくとり、過食を1日2回から1回に減らすなど)をどの程度実施できたかについて食生活日誌にて検討します。

そして1週間に1日でもそれが達成できていれば賞賛しましょう。

この積み重ねが本人の無能感の改善につながります。

毎日の課題達成度を10点満点で評価しましょう。

これは本人の「全か無か」思考を打破するのにも良いでしょう。

というのは本人は1回過食したら2回も3回も同じだと考える傾向があります。

しかし1回でも過食を減らせばその分だけ体に対する害やそれに費やしたお金も節約できます。

この場合これを実感してもらうために、その分を貯金するといいでしょう。

このように食生活日誌にて課題の達成度を検討した後、また次の達成可能な課題を設定しましょう。

目標を高くしすぎると達成できないので、必ず達成可能な課題を与えることが大切です。

そして以下の情報を忘れないようにしましょう。

過食や排泄行動による身体合併症

目標体重は標準体重の85%以上で、極端なダイエットをしないで維持できる範囲にします。

ダイエット、飢餓や低体重が過食の引き金になります。

実際には、規則正しい食生活と過食がある程度コントロールできるまで、維持する体重範囲を決めないでおくのが良いでしょう。

身体合併症については、前回の項をご参照ください。http://lala-mentalclinic.com/kashokusyou/

体重調整としての排泄行動の無効性

嘔吐しても食べた物をすべて出せないこと、下剤や利尿剤の使用は水分を減らすだけで脂肪を減らさないこと、嘔吐は過食の効果を帳消しにし、次の過食の準備段階を形成し、嘔吐をやめない限り過食は止まらないことを理解しましょう。

規則正しい食生活の確立

毎日の生活の中で規則正しい食生活を確立することが最も重要な課題とし、1日3回か4回の食事、間食は1~2回として、決った時刻に食べる習慣をつけます。

時間が来れば空腹感の有無に関係無く食べましょう。

満腹感がないので食物の量はある程度(家族の食べている量を参考)を決めておきましょう。

また1回でも食事を抜くとそれが過食につながることを理解しましょう。

食生活の乱れがひどい場合、例えば1日に1食など、とりあえず2回にするというように段階的に行いやすい条件から規則的な食生活を導入しましょう。

この場合本人は太ると主張するでしょう。しかし過食の回数を減らすことが1日の総摂取カロリーを減らすことにつながることを理解しましょう。

過食しそうな状況や契機を如何に防ぐか

刺激統制法と代替行動に示すように刺激統制法により、過食を引き起こしそうになる食べ物、食事や状況を日頃からコントロールします。

また過食しそうになった時、これを避けるための対策として代替行動を行うようにします。

過食を防ぐ食べ方として、いろいろな工夫があります。

過食を防ぐ食べ方

例えばゆっくり噛んで食べる、噛んでいる間は箸を置く、飲み込むまで次の食べ物に箸をつけない、味を楽しむように食べさせる、食事の間大量の飲み物をとらない、一定の間隔で休ませ、早く食べ終わらない、などです。

嘔吐について、過食の効果を帳消しにするために行われる場合、嘔吐を止めない限り過食は続きます。

このため吐きやすい食べ物を避け、水分摂取を減らします(嘔吐するために大量の飲水をしているからです)。

食後すぐにトイレや洗面所に行かず、10分、20分、30分、1時間と徐々に嘔吐する時間を遅延させましょう。

下剤又は利尿剤については少しずつ減らしていきます。

事項はこちらです。→摂食障害の治療【認知行動療法④】

摂食障害の治療【認知行動療法②】

摂食障害の治療【認知行動療法②】

食生活日誌の記録をつける

食行動の自己観察記録である食生活日誌を毎日記録しましょう。

これは自分自身の食行動の実際を知り、過食に陥りやすい状況を把握するために行います。

実際起こっていることを記録することは問題を明確にし、これを克服していくための第1歩です。

体重測定は週1回行いましょう。

体重測定時の本人の態度で、体重に対する過剰な関心や肥満恐怖の程度が推定できます。

食生活日誌の例

 月 日( )  月 日( )  月 日( )  月 日( )  月 日( )  月 日( )  月 日( )
空腹感
満腹感
間食または
過食の内容
過食の回数(回)
過食の時間
( 時から 分間)
過食前の感情と思考
または過食のきっかけ
嘔吐(回)
下剤(錠)
便回数
睡眠時間
生理
身体のことで
気になること
過食に対する対処
手段と今日1日の
反省

食生活日誌の記載の仕方

これは、あなたの日々の食生活を詳しく知り、治療上役立てるために行うものです。

はじめは面倒に思いますが、すぐに慣れ、役立つことが分かります。

1.最初に食べたり、飲んだりした時刻を記入してください。

2.次に食事や過食中に食べた物や飲んだ物の内容をそのとど記入してください。あとでまとめて書かないようにしてください。

3.摂取カロリーは記載しなくても良いですが、数量についてはおおよそでよいですから記入してください。

4.食べたり飲んだりした場所についても記入して下さい。

5.嘔吐したときや下剤を使用したときには、これを記入してください。

6.あなたの過食のきっかけになったと思うことをできるだけ記入してください。

例えば母親と口論したとか、その他些細なことでもできるだけ記入してください。

そのときの自分の気分についても記入してください。

7.体重を測定したときは、それを記入してください。

事項はこちらです。→摂食障害の治療【認知行動療法③】